円安時に外国株を買うか迷う理由
米国株などの外国株投資に興味があるものの、円安局面で「今買うと割高になるのでは?」と躊躇している方は少なくありません。実際、1ドル=150円台の円安水準では、ドル建ての米国株を買う際の円換算コストが高くなります。
一方で「円高になるまで待つべきか」と悩むうちに、投資機会を逃してしまうケースも。為替レートの予測は専門家でも困難であり、タイミングを見計らうことにはリスクが伴います。
この記事では、円安時に外国株を買うメリット・デメリット、そして為替リスクを抑える投資戦略を解説します。
この記事のポイント:
- 円安時は購入コストが高いが、将来円高になれば為替差益の可能性
- 配当金の円換算額は円安時の方が多くなる
- ドルコスト平均法(積立投資)で為替タイミングのリスクを分散できる
- 為替ヘッジ付きファンドも選択肢だがコスト(年率1-2%)がかかる
- 長期投資では為替タイミングより銘柄選定・分散投資が重要
円安が外国株投資に与える影響
(1) 円安とは?基本的な仕組み
円安とは、円の価値が他の通貨(ここでは米ドル)に対して下がることを指します。例えば、1ドル=130円から1ドル=150円になると、同じ1ドルを買うのに必要な円が増えるため「円安」と呼ばれます。
逆に1ドル=150円から130円になると「円高」です。円高になると、同じ米ドルをより少ない円で買えるため、外貨建て資産の購入には有利になります。
(2) 為替レートが外国株の購入コストに与える影響
米国株は米ドル建てで取引されるため、購入時の為替レートが円換算コストに直接影響します。
具体例:
- 株価100ドルの米国株を購入する場合
- 1ドル=130円の場合:13,000円
- 1ドル=150円の場合:15,000円
円安局面(1ドル=150円)では、同じ株を買うのに2,000円多く必要になります。このため「円安時は割高」と感じる投資家が多いのです。
(3) 過去のドル円レート推移
過去10年間のドル円レートは大きく変動してきました。2012年頃は1ドル=80円台の円高、2015年頃は120円台、2022年以降は140-150円台の円安局面が続いています(2025年1月時点)。
為替レートは金利差、経済政策、地政学リスクなど様々な要因で変動するため、ピンポイントで「底」や「天井」を当てるのは困難です。
(出典: 日本銀行「外国為替市場」、財務省「外国為替相場」)
円安時に外国株を買うメリット
(1) 将来円高になった際の為替差益
円安時に外国株を買った場合、将来円高に転換すると為替差益が生じる可能性があります。
例:
- 1ドル=150円で株価100ドル(15,000円)の米国株を購入
- 株価が変わらず100ドルのまま
- 為替が1ドル=130円に円高転換
- 円換算の評価額:13,000円(2,000円の評価損)
一見損に見えますが、逆のケースもあります。
逆のケース:
- 1ドル=150円で購入
- 為替が1ドル=170円に円安進行
- 円換算の評価額:17,000円(2,000円の評価益)
為替の方向は予測困難ですが、長期的には円高・円安のサイクルがあるため、一方的な損失リスクばかりではありません。
(2) 配当金の円換算額が増加
米国株の多くは四半期ごとに配当金を支払います。配当金はドル建てで支払われるため、円安局面では円換算額が増えます。
例:
- 年間配当金: 4ドル
- 1ドル=130円の場合:520円
- 1ドル=150円の場合:600円
円安時には配当金の円換算額が80円増えます。長期保有で配当を再投資する戦略を取る場合、この差は積み重なります。
円安時に外国株を買うデメリット
(1) 購入時の円換算コストが高い
前述の通り、円安局面では同じドル建て資産を買うのに多くの円が必要です。投資元本が限られている場合、購入できる株数が減ります。
(2) 円高転換時の評価損リスク
円安時に購入した外国株が、その後円高に転換すると、円換算の評価額が減少します。
試算例(1ドル=150円→130円に円高転換):
- 株価100ドル(変わらず)
- 購入時: 15,000円
- 円高転換後: 13,000円
- 評価損: 2,000円(約13.3%)
株価自体が上昇していれば損失を相殺できますが、株価が横ばいまたは下落した場合、為替と株価の両面で損失を被る可能性があります。
(3) 為替タイミングを読むのは困難
「円安のピークで買ってしまったらどうしよう」という不安は理解できますが、為替のピークやボトムを正確に予測するのは専門家でも困難です。
タイミングを待ちすぎると、株価自体が上昇して結局購入機会を逃すケースもあります。金融庁の資料でも「外貨建て商品の為替リスク」として、為替タイミングの難しさが指摘されています。
(出典: 金融庁「外貨建て商品の為替リスク」)
円安時の外国株投資戦略
(1) ドルコスト平均法で為替リスクを分散
ドルコスト平均法とは、定期的に一定額を投資する手法です。毎月一定額(例:月3万円)を外国株に投資すると、円高時には多くの株を、円安時には少ない株を買うことになり、平均購入コストが平準化されます。
例(毎月3万円を6ヶ月間投資):
| 月 | 為替レート | 購入額(円) | 購入額(ドル) |
|---|---|---|---|
| 1月 | 150円 | 30,000円 | 200ドル |
| 2月 | 145円 | 30,000円 | 207ドル |
| 3月 | 140円 | 30,000円 | 214ドル |
| 4月 | 135円 | 30,000円 | 222ドル |
| 5月 | 140円 | 30,000円 | 214ドル |
| 6月 | 145円 | 30,000円 | 207ドル |
| 合計 | - | 180,000円 | 1,264ドル |
平均レート: 約142.4円/ドル(180,000÷1,264)
一括で1月に投資した場合は150円/ドルでしたが、分散投資により平均コストを下げることができます。
日本証券業協会の資料でも、円安時の投資判断としてドルコスト平均法の活用が推奨されています。
(出典: 日本証券業協会「円安時の投資戦略」)
(2) 為替ヘッジ付きファンドの選択肢
為替リスクを避けたい場合、為替ヘッジ付きの投資信託やETFを選ぶ方法もあります。為替ヘッジとは、先物取引などを使って為替変動の影響を抑える仕組みです。
為替ヘッジ付きファンドのメリット:
- 為替変動の影響を受けにくい
- 株価のパフォーマンスに集中できる
デメリット:
- ヘッジコストがかかる(年率1-2%程度)
- 円安時の為替差益も享受できない
野村證券など主要証券会社では、為替ヘッジ付き・ヘッジなし両方のファンドを提供しています。
(出典: 野村證券「為替ヘッジ付きファンド」)
(3) 為替ヘッジのコストとメリット
為替ヘッジには、日米の金利差に応じたコストがかかります。米国の金利が日本より高い場合、年率1-2%程度のコストが発生するのが一般的です。
このコストは投資リターンから差し引かれるため、長期投資では無視できない金額になります。為替リスクを完全に避けたい場合や、短期的な為替変動を避けたい場合には有効ですが、長期投資では必ずしも有利とは限りません。
(4) 長期投資では為替は平準化される傾向
Vanguardなどの運用会社の研究によれば、10年以上の長期投資では為替変動の影響は平準化される傾向があります。短期的には為替が大きく動いても、長期的には株価自体のパフォーマンスが投資成果を左右する主要因となります。
つまり、長期投資を前提とするなら、為替タイミングを気にしすぎるより、優良な銘柄を選び、分散投資を心がけることが重要です。
(出典: Vanguard "Currency Risk in International Investing")
まとめ:長期投資なら為替タイミングより分散投資
円安時に外国株を買うことには、購入コストが高いというデメリットがある一方、将来円高に転換すれば為替差益が得られる可能性、配当金の円換算額が多いというメリットもあります。
為替のタイミングを正確に読むのは困難です。むしろ長期投資を前提とするなら、ドルコスト平均法(積立投資)で為替リスクを分散し、銘柄選定と分散投資に注力する方が合理的と言えます。
次のアクション:
- 毎月定額の積立投資(ドルコスト平均法)を検討する
- 為替リスクを避けたい場合は為替ヘッジ付きファンドも選択肢に
- 長期投資の視点で、為替より銘柄・分散を重視
- 証券会社の為替手数料を比較して選ぶ
投資判断は自己責任で行い、為替リスクを理解した上で、長期的な資産形成を目指しましょう。
