国外財産調書制度とは
米国株など外国株式を5,000万円以上保有している方は、国外財産調書の提出義務があります。「提出しなくてもバレないのでは?」と考える方もいますが、CRS制度により海外口座情報は自動的に国税庁に報告されています。未提出には刑事罰もあるため、正しく理解して適切に対応しましょう。
この記事のポイント:
- 12月31日時点で5,000万円超の国外財産保有者は提出義務あり
- 外国株式は年末時点の時価×TTBレートで評価
- 提出期限は翌年3月15日(確定申告と同時期)
- 未提出には1年以下の懲役または50万円以下の罰金
- 適正提出すれば過少申告加算税が5%軽減される
(1) 制度の目的と背景
国外財産調書制度は、2012年に創設された制度です。国外財産の保有状況を税務当局が把握することで、適正な課税を実現することが目的とされています。
この制度が導入された背景には、グローバル化の進展により、日本の居住者が海外に資産を保有するケースが増加したことがあります。税務当局が国外財産の実態を把握しにくく、適切な課税が困難になっていました。
(2) CRS制度(金融口座情報の自動交換)との関係
「海外の口座なら税務署にバレない」という考えは、現在では通用しません。日本を含む約100か国が参加するCRS(共通報告基準)により、金融口座情報は自動的に各国の税務当局間で交換されています。
米国の証券会社に口座を開設している場合、その口座情報(残高、配当金額など)は米国から日本の国税庁に自動報告されます。国外財産調書を提出していない場合、税務調査の対象となるリスクが高まります。
提出義務がある人の条件
(1) 5,000万円超の国外財産保有者
国外財産調書の提出義務があるのは、12月31日時点で5,000万円を超える国外財産を保有している日本の居住者です。
「居住者」とは、日本国内に住所を有する個人、または現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人を指します。短期の海外赴任者などは、通常は日本の居住者として扱われます。
(2) 国外財産の範囲(株式、預金、不動産等)
国外財産には、以下のようなものが含まれます:
財産の種類 | 具体例 |
---|---|
外国株式 | 米国株、中国株など |
預金 | 海外の銀行預金、外貨預金(国内) |
不動産 | 海外の土地、建物 |
その他 | 海外の債券、投資信託など |
重要なのは、「すべての国外財産の合計」で5,000万円超かどうかを判定する点です。米国株が3,000万円、海外預金が2,500万円の場合、合計5,500万円となり提出義務が生じます。
(3) 12月31日時点での評価
提出義務の判定は、毎年12月31日時点の評価額で行います。年の途中で5,000万円を超えていても、12月31日時点で5,000万円以下であれば提出義務はありません。
ただし、意図的に年末だけ国外財産を減らすような行為は、税務調査で問題視される可能性があります。
(4) 財産債務調書との違い
国外財産調書と似た制度に「財産債務調書」があります。両者の違いは以下の通りです:
項目 | 国外財産調書 | 財産債務調書 |
---|---|---|
対象 | 国外財産のみ | 国内外すべての財産 |
提出基準 | 5,000万円超 | 3億円超または有価証券1億円超 |
提出期限 | 翌年3月15日 | 翌年3月15日 |
両方の基準を満たす場合は、両方の調書を提出する必要があります。
外国株式の記載方法と評価額の計算
(1) 記載項目(銘柄名、数量、時価評価額)
外国株式を国外財産調書に記載する際は、以下の情報が必要です:
- 銘柄名(例:Apple Inc.)
- ティッカーシンボル(例:AAPL)
- 保有株数(例:100株)
- 12月31日時点の時価評価額(円建て)
- 所在地(例:アメリカ合衆国)
(2) 年末時点の時価評価方法
評価額は、12月31日時点の終値(現地市場)を使用します。具体的な計算式は以下の通りです:
評価額(円) = 12月31日の株価(ドル) × 保有株数 × TTBレート
例えば、Apple株を100株保有している場合:
- 12月31日の株価: 180ドル
- 保有株数: 100株
- TTBレート: 140円/ドル
- 評価額 = 180 × 100 × 140 = 2,520,000円
(3) 為替レート(TTBレート)の適用
TTBレート(電信買相場)は、外貨を円に換える際の銀行レートです。国外財産調書では、12月31日のTTBレートを使用します。
TTBレートは各金融機関で若干異なりますが、一般的には三菱UFJ銀行や三井住友銀行などの主要銀行が公表するレートを使用します。
(4) 具体的な記載例
証券会社によっては、年末時点の保有資産を記載した報告書を提供しています。SBI証券、楽天証券、マネックス証券などでは、年末の保有明細をダウンロードできるため、この情報を活用すると記載が容易になります。
提出期限と提出方法
(1) 提出期限(翌年3月15日)
国外財産調書の提出期限は、翌年の3月15日です。確定申告の期限(通常3月15日)と同じタイミングなので、まとめて準備すると効率的です。
2024年12月31日時点の国外財産調書は、2025年3月15日までに提出する必要があります。
(2) 提出方法(税務署窓口・e-Tax)
提出方法は以下の2つがあります:
税務署窓口での提出
- 所轄の税務署に直接持参または郵送
- 控えが必要な場合は、返信用封筒を同封
e-Taxでの提出
- マイナンバーカードとカードリーダーが必要
- 自宅から24時間提出可能
- 提出後すぐに受付番号が発行される
e-Taxでの提出が推奨されています。確定申告もe-Taxで行う場合、同時に国外財産調書も提出できます。
(3) 必要書類の準備
提出にあたって準備すべき書類:
- 国外財産調書(国税庁ホームページからダウンロード可能)
- 証券会社の年末保有明細
- 12月31日時点のTTBレート表
- 各銘柄の12月31日終値のデータ
証券会社の年末報告書には、すでに円換算された評価額が記載されている場合もあります。
提出しないとどうなるか(罰則とペナルティ)
(1) 刑事罰(1年以下の懲役または50万円以下の罰金)
国外財産調書を提出しない、または虚偽の記載をした場合、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります(所得税法第242条)。
「正当な理由」がある場合は罰則の対象外とされていますが、「知らなかった」「面倒だった」といった理由は認められません。
(2) 過少申告加算税の加重(5%または10%)
国外財産に関して所得税の申告漏れがあった場合、通常の過少申告加算税に加えて、さらに5%が加算されます。
状況 | 加算税率 |
---|---|
国外財産調書を適正に提出 | 通常の過少申告加算税から5%軽減 |
国外財産調書を未提出 | 通常の過少申告加算税に5%加算 |
つまり、提出の有無で最大10%の差が生じます。
(3) 適正提出時のインセンティブ(加算税5%軽減)
国外財産調書を期限内に適正に提出していれば、国外財産に関する所得の申告漏れがあった場合でも、過少申告加算税が5%軽減されます。
これは「正直者が報われる」仕組みであり、適正な提出を促すインセンティブとなっています。
(4) 税務調査とCRS情報の活用
CRS制度により、海外の金融機関から日本の国税庁に口座情報が自動報告されています。国外財産調書を提出していない場合、この情報と照合され、税務調査の対象となるリスクが高まります。
税務調査で未提出が発覚すると、過去の分もさかのぼって調査される可能性があります。罰則やペナルティのリスクを避けるため、適切に提出することが重要です。
まとめ:国外財産調書の正しい理解と適切な対応
国外財産調書は、5,000万円を超える国外財産を保有する日本の居住者に提出義務がある制度です。外国株式の評価は、12月31日時点の時価×TTBレートで計算します。
CRS制度により海外口座情報は税務当局に自動報告されているため、「バレない」という考えは危険です。未提出には刑事罰や加算税の加重があり、適正に提出すれば加算税の軽減というメリットもあります。
次のアクション:
- 12月31日時点の国外財産の合計額を確認する
- 証券会社の年末報告書を取得する
- 提出義務がある場合、翌年3月15日までに提出する
- e-Taxでの提出を検討する
正しく理解し、適切に対応することで、安心して米国株投資を続けられます。