米国株で利益が出たのに、為替で損をした...
米国株で株価が上昇しても、「円高になって結局損をした」という経験をした投資家は少なくありません。外国株投資では、株価の変動だけでなく為替の変動も損益に大きく影響します。
この記事では、米国株の為替差益・差損の仕組み、税金の計算方法、為替リスクの管理方法まで、日本人投資家が知っておくべき為替の基礎知識を解説します。
この記事のポイント:
- 外国株の損益=株価変動+為替変動の2つの要素で決まる
- 為替差益は特定口座なら譲渡益と一体で20.315%源泉徴収される
- 一般口座では雑所得として総合課税され、最高55%の税率になる可能性
- 為替ヘッジ付き投信なら為替リスクを抑制できるがコストがかかる
- 長期保有とドルコスト平均法で為替変動の影響を平準化できる
米国株投資で為替差益が重要な理由
米国株はドル建てで取引されるため、購入時と売却時の為替レートによって円換算の損益が変わります。
例えば、100ドルの株を購入し、株価が110ドルに上昇したとします。株価は10%上昇していますが、為替レートが以下のように変動した場合:
- 円安時(1ドル=140円→150円): 円換算で14,000円→16,500円(+17.9%)
- 円高時(1ドル=150円→140円): 円換算で15,000円→15,400円(+2.7%)
株価が同じ10%上昇しても、為替の影響で最終的な利益率が大きく変わることがわかります。
為替差益・差損の仕組み
(1) 外国株の損益=株価変動+為替変動
外国株投資の損益は、以下の2つの要素で決まります:
- 株価変動:購入時と売却時の株価の差
- 為替変動:購入時と売却時の為替レートの差
この2つが組み合わさって、最終的な円換算の損益が決まります。
(2) 為替差益の発生パターン
為替差益が発生するのは、主に以下のケースです:
- 円安時に売却:購入時より円安になると、ドル資産の円換算価値が上がる
- 株価横ばいでも円安なら利益:株価が変わらなくても為替差益が発生
(3) 為替差損の発生パターン
逆に、為替差損が発生するのは:
- 円高時に売却:購入時より円高になると、ドル資産の円換算価値が下がる
- 株価上昇でも円高なら損失:株価が上がっても為替差損で相殺される可能性
(4) 具体的な計算例
ケース1: 株価上昇+円安(理想的)
- 購入:1株100ドル、1ドル=140円 → 14,000円
- 売却:1株120ドル、1ドル=150円 → 18,000円
- 利益:4,000円(株価+20%、為替+7.1%)
ケース2: 株価上昇+円高(為替差損)
- 購入:1株100ドル、1ドル=150円 → 15,000円
- 売却:1株120ドル、1ドル=140円 → 16,800円
- 利益:1,800円(株価+20%だが、為替-6.7%で利益が減少)
ケース3: 株価下落+円高(最悪)
- 購入:1株100ドル、1ドル=150円 → 15,000円
- 売却:1株90ドル、1ドル=140円 → 12,600円
- 損失:2,400円(株価-10%、為替-6.7%)
為替差益にかかる税金
(1) 雑所得としての課税
為替差益は原則として「雑所得」として扱われ、総合課税の対象になります。総合課税では、他の所得と合算して税率が決まるため:
- 所得税:5%〜45%(累進課税)
- 住民税:10%
- 合計:最高55%
(2) 特定口座での源泉徴収
ただし、**特定口座(源泉徴収あり)**で米国株を取引している場合、為替差益も含めて株式譲渡益として扱われ、20.315%が源泉徴収されます。
| 項目 | 税率 |
|---|---|
| 所得税 | 15.315% |
| 住民税 | 5% |
| 合計 | 20.315% |
特定口座なら、為替差益を雑所得として申告する必要がなく、確定申告も不要です。
(3) 確定申告の要否
- 特定口座(源泉徴収あり): 確定申告不要
- 一般口座: 確定申告必要(為替差益は雑所得)
- NISA口座: 非課税(為替差益も含む)
(4) 税率の比較(雑所得vs譲渡所得)
| 口座タイプ | 税率 | 備考 |
|---|---|---|
| 特定口座(源泉徴収あり) | 20.315% | 確定申告不要 |
| 一般口座 | 最高55% | 総合課税、確定申告必要 |
| NISA口座 | 0% | 非課税 |
特定口座を利用することで、税率を一律20.315%に抑えられます。
為替ヘッジ付き投資信託の選択肢
(1) 為替ヘッジの仕組み
為替ヘッジとは、デリバティブ(為替予約など)を使って為替変動の影響を抑制する手法です。為替ヘッジ付き投資信託を選ぶと、為替レートが変動しても基準価額への影響が小さくなります。
(2) ヘッジ付き投信のメリット
- 為替リスクを気にせず投資できる
- 株式市場のパフォーマンスに集中できる
- 円高時の損失を回避できる
(3) ヘッジコストの考慮
為替ヘッジには年率1-3%程度のコストがかかります。また、円安時の為替差益も得られないため、長期的には為替ヘッジなしの方が有利になる可能性もあります。
ヘッジ付き投信は、短期的な為替変動を避けたい投資家や、円高リスクを重視する投資家に向いています。
為替リスクの管理方法
(1) 為替手数料の比較
証券会社により、円をドルに換える際の為替手数料が異なります:
| 証券会社 | 為替手数料(片道) |
|---|---|
| SBI証券 | 25銭/ドル |
| 楽天証券 | 25銭/ドル |
| マネックス証券 | 25銭/ドル(買付時無料キャンペーン中) |
※2025年10月時点の情報です。最新情報は各証券会社の公式サイトをご確認ください。
為替手数料が低い証券会社を選ぶことで、コストを抑えられます。
(2) 長期保有による為替変動の平準化
為替レートは短期的には大きく変動しますが、長期的には一定範囲内で推移する傾向があります。10年、20年といった長期保有を前提とすれば、為替変動の影響は平準化されます。
(3) ドルコスト平均法の活用
毎月一定額を積立投資するドルコスト平均法を活用すると、購入時の為替レートが平準化され、為替リスクを軽減できます。
- 円高時:多くのドルを購入
- 円安時:少ないドルを購入
これにより、極端な為替レートでの一括購入を避けられます。
まとめ:為替と上手に付き合う投資戦略
米国株投資では、為替変動が損益に大きく影響しますが、適切な管理方法を知っておけば過度に恐れる必要はありません。
為替リスクを管理するポイント:
- 特定口座(源泉徴収あり)を利用して税負担を一律20.315%に抑える
- 為替ヘッジ付き投信は短期的な為替リスク回避に有効(コストに注意)
- 長期保有とドルコスト平均法で為替変動の影響を平準化する
- 為替手数料の低い証券会社を選ぶ
為替は完全にコントロールできませんが、長期的な視点で投資を続けることで、為替変動の影響を抑えられます。
