外国株式配当の仕組み
米国株などの外国株式から配当を受け取ると、「税金はどうなるの?」「確定申告は必要?」といった疑問が生じます。外国株式の配当には、米国と日本の両方で税金がかかる「二重課税」の仕組みがあり、これを理解しておかないと、思わぬ税負担を抱えることになります。
この記事では、外国株式(特に米国株)の配当にかかる税金の仕組み、外国税額控除による二重課税の軽減方法、確定申告の具体的な手順、NISA口座での配当課税について詳しく解説します。
この記事のポイント:
- 米国株の配当には米国で10%、日本で20.315%の税金がかかる
- 外国税額控除を利用すれば、米国で課税された10%を日本の税額から差し引ける
- 確定申告時に申告書第三表と外国税額控除に関する明細書が必要
- NISA口座では日本の税金は非課税だが、米国の10%源泉徴収は免除されない
- 配当の受取は円貨・外貨を選択可能(為替手数料に注意)
(1) 配当の受取方法
外国株式の配当は、証券会社を通じて受け取ります。多くの証券会社では、以下の2つの受取方法を選択できます:
- 円貨受取: 配当金を自動的に円に換えて受け取る
- 外貨受取: 配当金をドルのまま外貨建口座で受け取る
為替手数料を節約したい場合、外貨受取を選択し、必要なタイミングで円に換える方が有利なケースがあります。ただし、証券会社によっては円貨受取のみの場合もあるため、事前に確認しましょう。
(2) 米国株の配当スケジュール
米国企業の多くは、年4回(四半期ごと)配当を支払います。配当を受け取るには、権利落ち日(Ex-Dividend Date)の前日までに株式を保有している必要があります。
配当スケジュールの例:
日付 | 内容 |
---|---|
権利落ち日 | この日以降に購入すると配当を受け取れない |
配当支払日 | 実際に配当が証券口座に入金される日 |
配当カレンダーは、Yahoo FinanceやNasdaqのウェブサイトで確認できます。
(3) 配当利回りの確認方法
配当利回りは、株価に対する年間配当の割合です。
配当利回り(%) = 年間配当金 ÷ 株価 × 100
例えば、株価100ドル、年間配当3ドルの銘柄の配当利回りは3%です。配当利回りは株価の変動に応じて変わるため、投資前に最新の情報を確認することが重要です。
配当にかかる税金(二重課税)
外国株式の配当には、米国と日本の両方で税金がかかります。
(1) 米国での源泉徴収(10%)
米国企業が配当を支払う際、米国の税法により、非居住者(日本人投資家)には**10%**の源泉徴収が適用されます。これは、日米租税条約により軽減された税率です(条約がない場合は30%)。
例えば、100ドルの配当が支払われる場合:
- 米国で10ドル源泉徴収される
- 手元に届くのは90ドル
この源泉徴収は、証券会社が自動的に処理するため、投資家が個別に手続きする必要はありません。
(2) 日本での課税(20.315%)
米国で源泉徴収された後、日本でも**20.315%**の税金が課税されます。内訳は以下の通りです:
税目 | 税率 |
---|---|
所得税 | 15.315% |
住民税 | 5% |
合計 | 20.315% |
特定口座(源泉徴収あり)を利用している場合、証券会社が自動的に日本の税金を源泉徴収します。
(3) 二重課税の仕組み
米国で10%、日本で20.315%の税金がかかるため、配当には「二重課税」が発生します。
具体例(配当100ドル、為替レート150円/ドルの場合):
- 米国で10ドル源泉徴収 → 手取り90ドル(13,500円)
- 日本で20.315%課税 → 約2,743円
- 実質手取り: 約10,757円
- 税負担率: 約28.3%
このままでは税負担が重いため、日本では「外国税額控除」という制度を利用して、二重課税を軽減できます。
外国税額控除の申請方法
外国税額控除を利用すれば、米国で課税された10%を日本の税額から差し引くことができます。
(1) 外国税額控除とは
外国税額控除は、外国で課税された税額を日本の所得税・住民税から控除できる制度です。国税庁の公式サイトに詳細が記載されています。
(参考:国税庁「外国税額控除」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1240.htm)
(2) 控除額の計算方法
外国税額控除には上限があり、以下の式で計算されます:
控除限度額 = 所得税額 × 国外所得 ÷ 全所得
具体例(年収600万円、米国株配当15,000円、外国税1,500円の場合):
- 所得税額: 約40万円
- 国外所得: 15,000円
- 全所得: 600万円
- 控除限度額: 40万円 × 15,000円 ÷ 600万円 = 100円
この場合、外国税1,500円のうち、100円のみが控除されます。控除しきれなかった残り1,400円は、住民税の控除に回せます。
※計算は簡略化しています。詳細は税理士または税務署にご相談ください。
(3) 申請に必要な書類
外国税額控除を受けるには、確定申告時に以下の書類が必要です:
- 確定申告書(第一表・第二表・第三表)
- 外国税額控除に関する明細書
- 証券会社が発行する「年間取引報告書」または「特定口座年間取引報告書」
証券会社の年間取引報告書には、外国税額が記載されているため、これをもとに明細書を記入します。
確定申告の具体的な手順
外国税額控除を受けるには、確定申告が必要です。特定口座(源泉徴収あり)を利用していても、外国税額控除を受けるには申告が必要な点に注意してください。
(1) 申告書の記入方法
確定申告の流れ:
- 証券会社から「年間取引報告書」を取得(多くの証券会社では1月下旬に電子交付)
- 国税庁の確定申告書等作成コーナーで申告書を作成
- 外国税額控除に関する明細書に外国税額を記入
- e-Taxで電子申告、または税務署に郵送
外国税額控除の明細書には、配当の支払国(米国)、外国税額、配当所得などを記入します。
(2) 証券会社の年間取引報告書の見方
年間取引報告書には、以下の情報が記載されています:
- 配当所得の金額
- 外国税額(米国で源泉徴収された金額)
- 日本で源泉徴収された税額
これらの情報をもとに、確定申告書を作成します。
(3) e-Taxでの申告
e-Tax(国税電子申告・納税システム)を利用すれば、自宅から確定申告ができます。マイナンバーカードとカードリーダー(またはマイナンバーカード読み取り対応のスマホ)があれば、オンラインで申告を完了できます。
(参考:国税庁「確定申告書等作成コーナー」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tebiki/index.htm)
NISA口座での配当課税
NISA口座で外国株式を保有している場合、日本の税金は非課税ですが、米国での源泉徴収は免除されません。
(1) NISA口座での税制
新NISA制度(2024年開始)では、成長投資枠で外国株式を購入できます。NISA口座での配当は、日本の税金(20.315%)が非課税となります。
ただし、米国での源泉徴収10%は免除されません。これは、NISA制度が日本の税制であり、米国の税法には影響しないためです。
(2) 米国源泉徴収10%は控除不可
NISA口座では、外国税額控除を利用できません。そのため、米国で源泉徴収された10%は、そのまま税負担となります。
NISA口座での配当(100ドルの場合):
- 米国で10ドル源泉徴収 → 手取り90ドル
- 日本の税金: 非課税
- 実質税負担: 10%
特定口座(外国税額控除あり)の場合:
- 米国で10%、日本で20.315%課税
- 外国税額控除を利用すれば、実質税負担を軽減可能
- 実質税負担: 約20〜25%程度(控除額により変動)
NISA口座の方が税負担が軽いケースが多いですが、配当所得が少額の場合や、外国税額控除を十分に活用できる場合は、特定口座の方が有利なケースもあります。
(3) つみたてNISAとの違い
つみたてNISA(現在は新NISAの「つみたて投資枠」に統合)は、金融庁が定めた条件を満たす投資信託のみが対象です。個別の外国株式は購入できません。
外国株式の配当を受け取りたい場合は、成長投資枠を利用してください。
まとめ:配当課税を理解して賢く投資
外国株式の配当には米国と日本で二重課税がかかりますが、外国税額控除を利用すれば税負担を軽減できます。NISA口座では日本の税金が非課税となるため、配当投資には有効な選択肢です。
次のアクション:
- 証券会社の年間取引報告書を確認し、外国税額をチェックする
- 確定申告で外国税額控除を申請し、二重課税を軽減する
- NISA口座を活用して日本の税金を非課税にする
- 配当の受取方法(円貨・外貨)を検討し、為替コストを抑える
税金の仕組みを理解した上で、長期的な配当投資を進めましょう。投資判断は自己責任で行い、不明点は税理士や税務署にご相談ください。
※2025年10月時点の税制に基づいています。最新情報は国税庁のウェブサイトをご確認ください。