米国株を保有しているけれど、株主としての権利はどうなっているの?
米国株の個別銘柄を長期保有している日本人投資家の中には、「議決権は行使できるのか?」「株主総会の案内は届くのか?」といった疑問を持つ方が少なくありません。
日本の証券会社を通じて米国株を購入した場合、株主名簿に直接記載されず、証券会社名義(ノミニー保有)で保有されることが一般的です。このため、株主権利の行使には特別な手続きが必要な場合があります。
この記事では、個別株主通知の仕組み、米国株の株主権利、議決権行使の方法を、日本人投資家の視点で詳しく解説します。
この記事のポイント:
- 個別株主通知は実質株主が企業に自分の保有を通知する制度。日本の証券会社経由の米国株はノミニー保有が一般的
- 米国株の株主権利は議決権・配当受取権・残余財産分配権の3つ。SECが法的枠組みを定めている
- ノミニー保有では証券会社名義で保有され、実質所有者は投資家。企業からの直接通知は届かない
- 議決権行使はプロキシー投票で可能。証券会社が議決権行使書を提供し、オンライン・郵送で投票
- SBI・楽天・マネックス証券はサービス対応。手数料・申請方法・対象銘柄が異なるため事前確認が必要
1. 個別株主通知とは何か
個別株主通知は、実質株主が企業に対して自分の株式保有を通知する制度です。
(1) 個別株主通知の定義と目的
日本株を保有している場合、株主名簿に直接記載されるため、企業から株主総会の招集通知や配当金の通知が自動的に届きます。
一方、日本の証券会社を通じて米国株を購入した場合、通常は証券会社名義(ノミニー)で保有されます。このため、実質的な所有者である投資家の名前は、企業の株主名簿に直接記載されません。
個別株主通知は、実質株主が企業に対して「自分がこの株式を保有している」と通知することで、企業から直接情報を受け取れるようにする制度です。
(2) 日本株と米国株での違い
日本株の場合、証券会社を通じて購入しても、ほふり(証券保管振替機構)を通じて実質株主として登録されます。このため、株主総会の招集通知や配当金の案内が自動的に届きます。
米国株の場合、日本の証券会社を通じて購入すると、DTC(米国証券保管振替機構)を通じて証券会社名義で保有されることが一般的です。実質株主は投資家ですが、名義上は証券会社となります。
このため、企業からの直接的な株主通知を受け取るには、個別株主通知の申請が必要になる場合があります。
2. 米国株における株主権利の仕組み
米国株の株主には、法律で定められた権利があります。
(1) 株主が持つ基本的な権利(議決権・配当受取権・残余財産分配権)
米国株の株主は、以下の3つの基本的な権利を持っています。
| 権利 | 内容 |
|---|---|
| 議決権 | 株主総会で経営方針、取締役選任、重要事項について投票する権利 |
| 配当受取権 | 企業が配当金を支払う際に受け取る権利 |
| 残余財産分配権 | 企業が解散した際に、残余財産の分配を受ける権利 |
これらの権利は、株式を保有していれば原則として保有できます。ただし、ノミニー保有の場合、議決権の行使には証券会社を通じた手続きが必要です。
(2) SECによる株主権利の法的枠組み
SEC(米国証券取引委員会)は、株主権利に関する法的枠組みを定めています。
企業は、株主総会の前に委任状勧誘資料(Proxy Statement、Form DEF 14A)を株主に送付する義務があります。この資料には、株主総会の議案、取締役の報酬、監査報告などが記載されています。
SECの規制により、企業は株主の権利を尊重し、適切な情報開示を行う必要があります。
※出典: SEC - Shareholder Rights and Responsibilities https://www.sec.gov/spotlight/proxymatters.shtml
(3) 委任状勧誘資料(DEF 14A)の読み方
委任状勧誘資料(DEF 14A)には、以下の情報が記載されています。
- 株主総会の日時・場所: いつ、どこで開催されるか
- 議案: 取締役の選任、報酬制度の承認、定款変更など
- 取締役の報酬: CEO、役員の報酬額と内訳
- 監査報告: 会計監査人の報告
- 株主提案: 株主が提出した議案(ある場合)
この資料は、SECのEDGARデータベースで無料で閲覧できます。議決権を行使する際は、この資料を読んで判断することが推奨されます。
3. ノミニー保有と実質所有者の違い
ノミニー保有とは、証券会社名義で株式を保有する方式です。
(1) ノミニー口座とは
ノミニー口座(Nominee Account)は、証券会社名義で株式を保有する口座です。実質的な所有者は投資家ですが、株主名簿には証券会社の名前が記載されます。
日本の証券会社を通じて米国株を購入すると、通常この方式で保有されます。証券会社が投資家の代わりに株式を保管し、配当金の受取や株式の売買を代行します。
(2) 実質所有者(Beneficial Owner)の定義
実質所有者(Beneficial Owner)は、名義上は証券会社ですが、実際に株式を保有している投資家を指します。
米国の法律では、実質所有者にも株主権利が認められています。ただし、議決権を行使するには、証券会社を通じた手続きが必要です。
(3) 日本の証券会社を通じた米国株保有の仕組み
日本の証券会社で米国株を購入すると、以下のような流れで保有されます。
- 投資家が証券会社に米国株の買付注文を出す
- 証券会社が米国市場で株式を購入
- 株式はDTC(米国証券保管振替機構)を通じて証券会社名義で保管される
- 証券会社が投資家の口座に「実質的な保有」として記録
このため、企業の株主名簿には証券会社の名前が記載され、投資家の名前は直接記載されません。
※出典: JASDEC(証券保管振替機構) - 外国株式の保管と決済 https://www.jasdec.com/system/foreign/index.html
4. 議決権行使(プロキシー投票)の方法
ノミニー保有でも、議決権を行使することは可能です。
(1) プロキシー投票の仕組み
プロキシー投票(Proxy Voting)は、株主総会に出席せずに、委任状を提出して議決権を行使する方法です。
米国企業の株主総会は、通常、米国内で開催されます。日本在住の投資家が現地に出席することは困難なため、プロキシー投票が主な議決権行使の手段となります。
証券会社が提供する議決権行使サービスを利用すると、オンラインまたは郵送で議決権行使書を提出できます。
(2) 議決権行使書の受取と提出方法
議決権行使書(Proxy Statement)は、株主総会の2〜3週間前に証券会社から送付されます。
受取方法は証券会社によって異なりますが、一般的には以下の方法があります。
- オンライン: 証券会社のウェブサイトで閲覧・投票
- 郵送: 紙の議決権行使書が自宅に届く
- メール: PDFで議決権行使書が送られてくる
投票方法は、オンライン投票システムに賛成・反対を入力するか、紙の議決権行使書に記入して郵送します。
(3) 投票期限と注意点
議決権行使には期限があります。通常、株主総会の2〜3日前までに投票を完了する必要があります。期限を過ぎると、議決権を行使できません。
また、議決権行使サービスを利用するには、事前に証券会社への申請が必要な場合があります。株主総会の直前に申請しても間に合わないことがあるため、早めに手続きすることが推奨されます。
5. 証券会社別の議決権行使サービス比較
日本の主要証券会社は、米国株の議決権行使サービスを提供しています。
(1) SBI証券の議決権行使サービス
SBI証券は、米国株の議決権行使サービスを提供しています。
- 対象銘柄: 米国主要取引所上場の株式
- 手数料: 1回あたり数百円(詳細は公式サイトで確認)
- 申請方法: オンラインで申請、議決権行使書はオンラインで受取
- 投票方法: オンライン投票システムで投票
※出典: SBI証券 - 米国株の議決権行使サービス https://search.sbisec.co.jp/v2/popwin/info/home/pop6040_voting.html
(2) 楽天証券の議決権行使サービス
楽天証券も、米国株の議決権行使サービスを提供しています。
- 対象銘柄: 米国主要取引所上場の株式
- 手数料: 1回あたり数百円(詳細は公式サイトで確認)
- 申請方法: オンラインで申請
- 投票方法: オンライン投票システムまたは郵送
※出典: 楽天証券 - 外国株式の株主権利と議決権行使 https://www.rakuten-sec.co.jp/web/foreign/us/voting.html
(3) マネックス証券の議決権行使サービス
マネックス証券は、米国株の議決権行使に積極的に対応しています。
- 対象銘柄: 米国主要取引所上場の株式
- 手数料: 一部無料、一部有料(詳細は公式サイトで確認)
- 申請方法: オンラインで申請
- 投票方法: オンライン投票システムで投票
※出典: マネックス証券 - 米国株の株主総会と議決権行使 https://info.monex.co.jp/us-stock/voting-rights.html
(4) 手数料と申請方法の違い
証券会社によって、手数料、申請方法、対象銘柄が異なります。
| 証券会社 | 手数料 | 申請方法 | 対象銘柄 |
|---|---|---|---|
| SBI証券 | 有料(数百円) | オンライン | 米国主要取引所上場株式 |
| 楽天証券 | 有料(数百円) | オンライン | 米国主要取引所上場株式 |
| マネックス証券 | 一部無料、一部有料 | オンライン | 米国主要取引所上場株式 |
※2025年10月時点の情報です。最新情報は各証券会社の公式サイトをご確認ください。
少額保有の場合、議決権行使サービスを利用できない証券会社もあります。また、手数料がかかる場合、コストを考慮して利用を判断することが推奨されます。
6. まとめ:米国株投資家が知るべき株主権利
米国株を日本の証券会社を通じて保有している場合、株主名簿には証券会社名義で記載され、実質所有者は投資家となります。
株主権利には、議決権、配当受取権、残余財産分配権の3つがあります。配当金は自動的に受け取れますが、議決権を行使するには、証券会社を通じたプロキシー投票が必要です。
SBI証券、楽天証券、マネックス証券は、米国株の議決権行使サービスを提供しています。手数料、申請方法、対象銘柄が異なるため、事前に確認することが推奨されます。
次のアクション:
- 保有している米国株の株主総会スケジュールを確認する
- 証券会社の議決権行使サービスの内容を確認する
- 議決権を行使したい場合、事前に証券会社に申請する
- 委任状勧誘資料(DEF 14A)をSECのEDGARで確認する
株主としての権利を理解し、必要に応じて議決権を行使することで、長期投資家としての責任を果たすことができます。
