個別株と投資信託、どちらを選ぶべき?
米国株投資を始めようと考えている日本人投資家が最初に直面する疑問が「個別株と投資信託、どっちがいいの?」というものです。AppleやMicrosoftの個別株を買うべきか、それとも米国株投資信託に投資すべきか、迷っている方も多いでしょう。
この記事では、米国株における個別株と投資信託の違い、それぞれのメリット・デメリット、そして自分に合った選び方を解説します。
この記事のポイント:
- 個別株は高リターンの可能性があるが、個別リスクと時間コストが高い
- 投資信託は分散投資でリスクを抑えられるが、信託報酬がかかる
- 税制は基本的に同じだが、NISAでの活用法に違いがある
- 初心者には投資信託が推奨され、経験を積んでから個別株へ挑戦するのが一般的
- コア(投資信託)+サテライト(個別株)の併用戦略が現実的
1. 個別株vs投資信託の基本
個別株と投資信託は、仕組みとリスク・リターンの性質が異なります。
(1) 定義と仕組みの違い
個別株: 特定の企業(例:Apple、Microsoft、Tesla)の株式を1株単位で購入します。その企業の業績に応じて株価が変動し、配当を受け取ることもできます。
投資信託: 複数の株式・債券などに投資する金融商品です。投資信託協会によると、投資家から集めた資金をプロのファンドマネージャーが運用し、その成果を投資家に分配する仕組みです。米国株投資信託の場合、米国企業の株式を複数組み合わせたポートフォリオに投資します。
(2) 運用方法の違い
個別株: 投資家自身が銘柄選択・売買タイミングを判断します。決算書の分析、業界動向の調査など、自己責任での運用が必要です。
投資信託: ファンドマネージャーが銘柄選定や売買を行います(アクティブ運用)。あるいは、S&P500などの指数に連動するように自動的に運用されます(パッシブ運用=インデックス投資)。
(3) コスト構造の違い
個別株: 購入時に売買手数料がかかります(証券会社によって異なるが、米国株は0.45〜0.495%程度)。保有中のコストはゼロです。
投資信託: 購入時手数料(多くの証券会社で無料化)と、保有中に信託報酬(年率0.1〜2%程度)が継続的にかかります。投資信託協会によると、インデックスファンドは0.1%前後、アクティブファンドは0.5〜2%が一般的です。
2. 個別株のメリットとデメリット
個別株投資の特徴を整理します。
(1) メリット:高リターンの可能性
優良企業を早期に見極めて長期保有すれば、市場平均を大きく上回るリターンを得られる可能性があります。例えば、Amazonを10年前に購入していれば資産が数倍になっています。
Morningstarのデータによると、個別株で成功した投資家は、投資信託の平均リターンを大きく上回ることが示されています。
(2) メリット:銘柄選択の自由度
自分の投資方針に合わせて、成長株・高配当株・バリュー株など、好きな銘柄を選べます。配当金を重視したい人は高配当株、成長を狙いたい人はハイテク成長株など、自由な戦略が可能です。
(3) デメリット:個別リスク
特定企業の業績悪化・不祥事で株価が急落するリスクがあります。SECのInvestor.govによると、1銘柄への集中投資は高リスクであり、分散投資が推奨されています。
例えば、Enron(エンロン)やLehman Brothers(リーマン・ブラザーズ)のように、一流企業でも倒産リスクはゼロではありません。
(4) デメリット:時間コスト
個別株投資には、銘柄選定・決算チェック・業界動向フォローなど、月数時間の時間投資が必要です。本業が忙しい人には負担が大きいと言われています。
3. 投資信託のメリットとデメリット
投資信託の特徴を見ていきます。
(1) メリット:分散投資
1つの投資信託で数十〜数百の銘柄に分散投資できます。例えば、S&P500インデックスファンドなら米国の主要500社に一括投資できるため、個別リスクを大幅に軽減できます。
Vanguardの調査によると、分散投資はリスクを下げながらリターンを安定させる効果があるとされています。
(2) メリット:プロの運用
ファンドマネージャー(アクティブ運用の場合)が銘柄選定や売買タイミングを判断してくれるため、投資家は手間をかけずに運用できます。初心者にとっては心理的な負担が軽いと言われています。
※ただし、学術研究では多くのアクティブファンドが市場平均に勝てないことも示されています。
(3) デメリット:信託報酬
保有中は毎日信託報酬が差し引かれます。投資信託協会のデータによると、年率1%の信託報酬でも、30年間では元本の約26%が手数料で消えます。低コストのインデックスファンド(年率0.1%程度)を選ぶことが重要です。
(4) デメリット:銘柄選択の制限
投資信託は組入銘柄が決まっているため、「この銘柄だけは外したい」「あの銘柄を増やしたい」といった細かい調整ができません。自分の投資方針と完全に一致する投資信託を見つけるのは難しい場合があります。
4. 米国株における両者の比較
米国株投資特有の視点で比較します。
(1) 税制の違い
国税庁によると、個別株・投資信託とも譲渡益・配当(分配金)に20.315%の税金がかかります。米国株の場合、配当金は米国で10%源泉徴収された後、日本で20.315%課税されます(投資信託も同様)。
外国税額控除を申請すれば、米国で課税された10%を日本の所得税から控除できます。この点は個別株も投資信託も同じです。
(2) 手数料の比較
項目 | 個別株 | 投資信託 |
---|---|---|
購入時手数料 | 約0.45% | 多くの証券会社で無料 |
保有中コスト | 0% | 年率0.1〜2% |
為替手数料 | 証券会社による | ファンド内で自動処理 |
SBI証券のデータによると、長期投資では信託報酬の影響が大きく、低コストのインデックスファンドが有利とされています。
(3) NISAでの活用法
金融庁のNISA特設サイトによると、新NISA(2024年開始)では以下の違いがあります:
つみたて投資枠(年120万円): 投資信託のみ(金融庁指定の低コストインデックスファンド等)
成長投資枠(年240万円): 個別株・投資信託の両方が対象
初心者はつみたて投資枠で投資信託から始め、経験を積んでから成長投資枠で個別株に挑戦するのが一般的です。
(4) 最低投資額の違い
個別株: 米国株は1株から購入可能。例えば、Apple株が180ドルなら約2.7万円(為替150円/ドル時)から投資できます。
投資信託: 100円から積立可能な証券会社が多く、少額から始められます。楽天証券やSBI証券では月100円から積立設定ができます。
5. 選び方のフローチャート
自分に合った選択をするための基準を示します。
(1) 初期資金別の選択
10万円未満: 投資信託が推奨。100円から積立可能で、分散投資ができます。
10〜100万円: 投資信託をコア資産とし、余裕があれば個別株を少額試す。
100万円以上: 投資信託70〜80%、個別株20〜30%のコア・サテライト戦略。
Vanguardの調査によると、資産規模が大きいほど個別株の比率を高められるとされています。
(2) 時間別の選択
月1時間未満: 投資信託一択。積立設定だけで手間がかかりません。
月3時間以上: 個別株の銘柄研究が可能。決算書を読み、業界動向を追う余裕があります。
(3) 知識レベル別の選択
初心者(投資経験1年未満): 投資信託から始める。分散投資でリスクを抑え、市場の動きに慣れる。
中級者(投資経験1〜3年): 投資信託+個別株の併用。投資信託をベースに、興味のある銘柄を少額試す。
上級者(投資経験3年以上): 個別株の比率を高め、自分の投資戦略を確立。
楽天証券のアドバイスによると、投資スタイルは固定せず、経験に応じて柔軟に変えることが推奨されています。
6. まとめ:併用戦略の提案
個別株と投資信託は、どちらが優れているというものではなく、投資家の状況に応じて使い分けることが重要です。
初心者: まずは投資信託(インデックスファンド)で分散投資から始める
中級者: 投資信託をコア資産(70〜80%)、個別株をサテライト資産(20〜30%)として併用
上級者: 個別株の比率を高め、自分の銘柄選定スキルを活かす
次のアクション:
- つみたてNISAで米国株インデックスファンドの積立を始める
- 興味のある米国企業の決算書を読んでみる(学習として)
- 少額(1〜3万円)で個別株を1株買ってみる(市場の感覚をつかむ)
投資は自己責任です。自分のリスク許容度、時間的余裕、投資目的に応じて、最適な戦略を選びましょう。