投資信託と個別株、どちらを選ぶべきか迷う理由
投資信託(インデックスファンド)で資産運用を続けてきたものの、信託報酬の負担が気になり、個別株への切り替えを検討している方も多いのではないでしょうか。「投資信託より個別株の方が有利なのでは?」という疑問は、投資中級者なら一度は抱く悩みです。
この記事のポイント:
- 個別株は売買手数料のみで信託報酬不要だが、銘柄選定が難しい
- 投資信託は分散効果とプロ運用があるが、信託報酬が継続的にかかる
- 多くの個人投資家は長期的にインデックスファンドに勝てない現実がある
- 投資経験・時間・リスク許容度により、どちらが適しているかは異なる
- NISA口座でつみたて投資枠(投資信託)と成長投資枠(個別株)を併用する戦略も有効
信託報酬への不満は理解できますが、一概に「個別株が有利」とは言えません。両者のメリット・デメリットを理解した上で、自分に合った選択をすることが大切です。
個別株のメリットとデメリット
個別株投資には、投資信託にはない魅力とリスクがあります。
(1) メリット①:売買手数料のみで信託報酬不要
個別株の最大のメリットは、売買時の手数料(約0.495%、証券会社により異なる)のみで、信託報酬がかからない点です。投資信託の場合、年率0.1〜1%の信託報酬が継続的に発生しますが、個別株なら購入後は保有コストがかかりません。
例えば、100万円を30年間保有した場合、信託報酬0.5%なら累計で約15万円のコストがかかりますが、個別株なら売買時の手数料のみで済みます。
(2) メリット②:銘柄選択の自由度と配当の直接受取
個別株では、自分が成長性を期待する企業を選べます。また、配当金を直接受け取れるため、配当再投資戦略を自分でコントロールできます。米国株では配当貴族銘柄(25年以上連続増配)を選ぶことで、安定した配当収入を得ることも可能です。
(3) デメリット①:銘柄選定の難しさと専門知識の必要性
個別株の最大のデメリットは、銘柄選定に専門知識が必要な点です。決算書の読解、業界動向の分析、競合比較など、相当な時間と知識が求められます。Vanguardの調査によれば、多くの個人投資家は長期的にインデックスファンドのパフォーマンスを下回ると言われています。
(4) デメリット②:分散不足リスクと管理の手間
個別株では、数銘柄に集中投資するケースが多く、企業固有リスク(倒産・業績悪化)が大きくなります。適切な分散投資(20銘柄以上)を行うには、まとまった資金と管理の手間がかかります。
投資信託のメリットとデメリット
投資信託は、分散投資の手軽さが魅力ですが、コスト面での懸念があります。
(1) メリット①:分散投資とプロによる運用
投資信託(特にインデックスファンド)は、1本で数百〜数千銘柄に分散投資できます。例えば、S&P500連動型ファンドなら、米国の主要500社に一括投資できます。プロが運用するため、初心者でも安心して始められます。
(2) メリット②:少額から始められる手軽さ
投資信託は、楽天証券やSBI証券なら100円から購入可能です。個別株では1株数万円〜数十万円必要なケースもあるため、少額からの積立投資には投資信託が適しています。
(3) デメリット①:信託報酬が継続的にかかる
投資信託の最大のデメリットは、保有期間中ずっと信託報酬がかかる点です。年率0.1%でも、30年間で約3%のコストになります(複利効果考慮)。ただし、個別株の銘柄選定の手間と比較する必要があります。
(4) デメリット②:売買タイミングの制約
投資信託は、1日1回の基準価額で取引されるため、リアルタイムでの売買ができません。個別株のように市場の動きに即座に対応することはできません。
コスト比較:手数料と信託報酬の実態
(1) 個別株の売買手数料(約0.495%・1回限り)
米国株の場合、主要証券会社の売買手数料は約0.495%(最大22ドル)です。100万円の購入なら約5,000円の手数料で、以降は保有コストがかかりません。
(2) 投資信託の信託報酬(年0.1〜1%・継続)
代表的なインデックスファンド(eMAXIS Slim米国株式S&P500)の信託報酬は年0.09372%程度です。アクティブファンドでは年1%を超えるものもあります。
(3) 30年保有時のコスト試算
100万円を30年間保有(年率5%リターン想定)した場合:
項目 | 個別株 | 投資信託(信託報酬0.5%) |
---|---|---|
売買手数料 | 約5,000円 | なし |
信託報酬(累計) | なし | 約15万円 |
合計コスト | 約5,000円 | 約15万円 |
※投資信託は信託報酬0.5%の場合。低コストインデックスファンド(0.1%未満)なら約3万円程度。
コスト面では個別株が有利ですが、銘柄選定の失敗による損失リスクも考慮する必要があります。
リスクとリターンの違い:インデックスを上回る難しさ
(1) 多くの個人投資家がインデックスに勝てない現実
金融庁の調査によれば、アクティブ運用(個別株選定によりインデックスを上回ることを目指す)は、長期的にインデックスファンドに勝てないケースが多いとされています。プロのファンドマネージャーでさえ、長期的にS&P500を上回るのは困難です。
(2) 個別株の企業固有リスク
個別株では、企業の業績悪化・不祥事・倒産リスクがあります。2008年のリーマンショックでは、大手金融機関でも破綻しました。分散投資が不十分だと、1銘柄の大幅下落で資産全体に影響が出ます。
(3) NISA口座での使い分け戦略
NISA口座では、つみたて投資枠(年120万円)で投資信託、成長投資枠(年240万円)で個別株を併用する戦略が有効です。リスク分散(投資信託)と高リターンの可能性(個別株)を両立できます。
まとめ:投資経験・目的別の選択基準
(1) 初心者・時間がない人は投資信託
投資の知識が浅い、または銘柄分析の時間が取れない方は、インデックスファンドがおすすめです。信託報酬0.1%未満の低コストファンド(eMAXIS Slim米国株式S&P500など)なら、長期的に市場平均のリターンを得られます。
(2) 中級者・銘柄分析が好きな人は個別株
投資経験があり、企業分析に時間をかけられる方は、個別株で市場平均を上回るリターンを狙えます。ただし、リスク管理(分散投資・ポートフォリオ管理)が不可欠です。
(3) 併用戦略の提案
どちらか一方に絞る必要はありません。以下のような併用戦略が推奨されます:
- コア資産(70%):低コストインデックスファンドで安定運用
- サテライト資産(30%):個別株で高リターンを狙う
NISA口座のつみたて投資枠で投資信託、成長投資枠で個別株を活用すれば、税制優遇を最大限に受けられます。
次のアクション:
- 自分の投資経験・時間・リスク許容度を整理する
- 初心者なら低コストインデックスファンドから始める
- 中級者なら個別株を少額(資産の10-30%)から試す
- NISA口座で投資信託と個別株を併用する
投資信託と個別株、どちらが「正解」ということはありません。自分の状況に合わせて選択し、必要に応じて併用することが、長期的な資産形成の鍵です。