NISA米国株配当と確定申告|外国税額控除の可否を解説

公開日: 2025/10/20

NISA口座の米国株配当金で確定申告は必要か

NISA口座で米国株を保有し配当金を受け取っている投資家の多くが、「米国で10%源泉徴収されている分を外国税額控除で取り戻せるのか?」「確定申告は必要なのか?」という疑問を抱えています。

この記事では、NISA口座での米国株配当金と確定申告の関係、外国税額控除の適用可否について、国税庁・金融庁の公式情報をもとに徹底解説します。

この記事のポイント:

  • NISA口座での米国株配当金は確定申告不要
  • 外国税額控除はNISA口座では使えない(米国10%は取り戻せない)
  • 日本の税金20.315%が非課税になるため、トータルでは有利なケースが多い
  • 特定口座と比較すると、配当重視でもNISA口座が優位
  • 正しい制度理解で税負担を最小化できる

(1) よくある誤解と正しい理解

「NISA口座でも外国税額控除できる」「確定申告すれば米国10%を取り戻せる」といった誤解が広まっていますが、これは誤りです。

正しい理解:

  • NISA口座での米国株配当は確定申告不要
  • 外国税額控除はNISA口座では適用されない
  • 米国で源泉徴収された10%は取り戻せない
  • それでも日本の20.315%が非課税になるため有利

(2) 結論:確定申告は不要

NISA口座での取引はすべて確定申告の対象外です。配当金を受け取っても、証券会社が自動的に処理するため、投資家自身が申告する必要はありません。

NISA口座での配当課税の仕組み

(1) 日本での課税:20.315%が非課税

通常、日本で株式配当を受け取ると、所得税15.315%と住民税5%の合計20.315%が課税されます。しかしNISA口座では、この日本の税金が全額非課税になります。

(2) 米国での源泉徴収:10%が自動徴収

米国株の配当金は、米国企業が支払う際に米国で自動的に10%が源泉徴収されます。これは日米租税条約に基づく軽減税率です。

配当受取の流れ(100ドル配当の場合):

  1. 米国企業が配当100ドルを支払い
  2. 米国で10ドル(10%)を源泉徴収
  3. 手元に届くのは90ドル
  4. 日本での税金20.315%は非課税(NISA口座のため)

(3) 日米租税条約による軽減税率

日米租税条約により、米国株配当の源泉徴収税率は30%から10%に軽減されています。これは自動的に適用されるため、投資家が手続きする必要はありません。

(4) 配当受取の実務フロー

証券会社(SBI証券・楽天証券など)が自動的に処理します。配当金は米国で10%源泉徴収された後、証券口座に入金されます。配当再投資設定をしている場合は、そのまま再投資されます。

外国税額控除はNISA口座では使えない

(1) 外国税額控除とは何か

外国税額控除は、「外国で課税された税金」を「日本の所得税・住民税」から差し引ける制度です。これにより二重課税を調整します。

通常の適用例(特定口座の場合):

  • 米国で10%課税
  • 日本で20.315%課税
  • 外国税額控除で米国10%分を日本の税金から控除
  • 実質的な税負担は約28%(日本20.315% + 米国10% - 控除10% = 約20.315%)

※ただし控除には上限があり、全額控除できない場合もあります。

(2) NISA口座では適用不可の明確な理由

NISA口座では日本の税金(20.315%)が非課税です。外国税額控除は「日本で課税された所得税・住民税」から「外国で課税された分」を控除する制度のため、そもそも日本で課税されていないNISA口座では控除対象がありません

(3) 米国の10%を取り戻す方法は存在しない

NISA口座で米国株を保有する限り、米国で源泉徴収された10%を取り戻す方法は存在しません。これは制度設計上の制約であり、確定申告をしても変わりません。

外国税額控除が使えない理由の詳細

(1) 外国税額控除の仕組み(日本で課税された分から控除)

外国税額控除は、以下の計算式で適用されます。

控除額 = min(外国所得税額, 所得税額 × 外国所得 ÷ 所得総額)

この式から分かるように、控除額は「日本の所得税額」を上限としています。NISA口座では日本の所得税額がゼロのため、控除額もゼロになります。

(2) NISA口座は日本で非課税のため控除対象がない

NISA口座の配当は日本の所得として計上されません。そのため、確定申告書にも記載せず、所得税計算の対象外です。控除の前提となる「日本での課税」が存在しないため、外国税額控除も適用できません。

(3) 国税庁の公式見解

国税庁の「NISA口座と外国税額控除」Q&Aでは、「NISA口座で生じた配当所得は非課税であり、外国税額控除の対象となりません」と明記されています。

(参考: 国税庁「外国税額控除」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1240_qa.htm ※2025年10月時点)

(4) 制度設計上の制約

これはNISA制度の「メリット」と「デメリット」の裏返しです。日本の税金が非課税になる代わりに、外国税額控除が使えないという制約があります。

それでもNISAが有利なケースと特定口座との比較

(1) 配当利回り3%の場合の試算例

100万円投資、配当利回り3%の米国株を保有した場合の税負担を比較します。

項目 NISA口座 特定口座(外国税額控除なし) 特定口座(外国税額控除あり)
配当額(ドル建て) 3万円 3万円 3万円
米国源泉徴収(10%) 3,000円 3,000円 3,000円
日本の税金(20.315%) 0円(非課税) 6,095円 6,095円
外国税額控除 適用不可 なし △3,000円
実質税負担 3,000円(10%) 9,095円(30.3%) 6,095円(20.3%)
手取り配当 27,000円 20,905円 23,905円

(2) NISA口座:実質負担10%(米国源泉のみ)

NISA口座では米国10%のみが負担となります。上記例では3,000円の税負担で、手取りは27,000円です。

(3) 特定口座:実質負担約28%(外国税額控除利用時)

特定口座で外国税額控除を利用しても、実質負担は約20.3%です。上記例では6,095円の税負担で、手取りは23,905円です。

NISAと特定口座の差額: 3,095円(NISA有利)

(4) 損益分岐点と使い分けの判断基準

配当重視の投資でも、多くの場合NISA口座の方が有利です。ただし、以下のケースでは特定口座も検討価値があります。

特定口座を検討すべきケース:

  • 年収が高く、外国税額控除の上限が高い(控除額が大きくなる)
  • 配当以外に多額の所得があり、損益通算したい
  • NISA枠(年360万円)を使い切っており、追加投資したい

NISA口座が有利なケース:

  • 配当利回り3%程度までの米国株
  • 長期保有前提の投資
  • 売却益も含めて非課税メリットを最大化したい

まとめ:NISA口座での米国株配当金の正しい理解

NISA口座で米国株を保有する場合、配当金に関して以下の点を押さえておきましょう。

重要ポイント:

  • 確定申告は不要(証券会社が自動処理)
  • 外国税額控除は使えない(米国10%は取り戻せない)
  • 日本の税金20.315%が非課税になるため、トータルでは有利
  • 特定口座と比較しても、多くの場合NISA口座が優位

次のアクション:

  • NISA口座で米国株を保有し、配当と売却益の両方で非課税メリットを享受する
  • 特定口座との比較試算を行い、自分に合った口座を選択する
  • 制度変更の可能性があるため、金融庁・国税庁の最新情報を定期的に確認する

税制は複雑ですが、正しく理解すれば税負担を最小化できます。投資判断は最終的に自己責任で行う必要があります。ご自身の資産状況・税務状況を踏まえて、慎重に検討してください。

※税務に関する具体的なアドバイスが必要な場合は、税理士にご相談ください。

よくある質問

Q1NISA口座の米国株配当で確定申告は必要ですか?

A1不要です。NISA口座での取引は確定申告の対象外です。米国で10%源泉徴収されますが、日本の税金(20.315%)は非課税です。

Q2NISA口座でも外国税額控除できますか?

A2できません。外国税額控除は「日本で課税された所得税・住民税」から「外国で課税された分」を控除する制度です。NISA口座は日本で非課税のため控除対象がありません。

Q3米国で徴収された10%を取り戻す方法はありますか?

A3ありません。NISA口座では米国源泉税10%は実質的なコストです。ただし日本の20.315%が非課税になるため、トータルでは有利なケースが多いです。

Q4NISA口座と特定口座、どちらが有利ですか?

A4多くの場合NISA口座が有利です。配当利回り3%の場合、NISA口座の実質負担10%に対し、特定口座(外国税額控除利用)は約20.3%です。長期投資ならNISA口座がおすすめです。

Q5NISAの制度は今後変わる可能性がありますか?

A5あります。税制は法改正により変わる可能性があるため、金融庁・国税庁の最新情報を定期的に確認することが重要です。

関連記事