全世界株と米国株、どちらを選ぶべきか迷う理由
つみたてNISAで投資を始めようとする際、多くの方が「全世界株」と「米国株」のどちらを選ぶべきか迷います。両者とも優良なインデックスファンドが揃っており、どちらが正解というわけではありません。
しかし、それぞれの特徴、過去リターン、リスク分散の考え方を理解することで、自分の投資目的やリスク許容度に合った選択ができます。
この記事では、全世界株と米国株を徹底比較し、目的別の選び方とポートフォリオ戦略を解説します。
この記事のポイント:
- 全世界株は米国約60%+欧州・新興国で地域分散
- 米国株は米国市場集中で過去20年のリターンは全世界株より高い傾向
- リスク分散重視なら全世界株、高リターン重視なら米国株
- 両方を併用する戦略も可能
- 信託報酬は両方とも年率0.1%未満の商品あり(eMAXIS Slimシリーズ等)
(1) つみたてNISAでの人気商品
金融庁の「つみたてNISA対象商品」を見ると、全世界株と米国株のインデックスファンドが多数ラインナップされています。代表的な商品として、eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)やeMAXIS Slim米国株式(S&P500)があり、いずれも人気上位です。
楽天証券やSBI証券の投資信託ランキングでも、この2つが常に上位に入っており、日本の投資家の関心の高さがうかがえます。
(出典: 金融庁「つみたてNISA対象商品」、楽天証券「投資信託ランキング」)
(2) 過去リターンは米国が優位
過去20年のパフォーマンスを見ると、米国株(S&P500)が全世界株(MSCI ACWI)を上回る傾向があります。Morningstarの分析によれば、米国市場の大型テック株(Apple、Microsoft、Amazonなど)の成長が主な要因です。
ただし、過去のパフォーマンスが将来を保証するわけではありません。
(3) リスク分散の観点では全世界株
全世界株は米国以外の地域(欧州、新興国など)にも分散投資するため、米国経済が不調な場合でも他の地域でカバーできる可能性があります。一方、米国株は米国市場のみに集中するため、米国経済の影響を強く受けます。
リスク分散を重視するなら、全世界株の方が理にかなっています。
全世界株式インデックスの特徴
(1) MSCI ACWI指数(約60%が米国)
全世界株式インデックスの代表的な指数はMSCI ACWI(All Country World Index)です。この指数は、先進国と新興国を含む約50カ国、約3,000銘柄で構成されています。
地域別構成比率(2025年1月時点、概算):
- 米国: 約60%
- 欧州: 約15%
- 日本: 約5%
- 新興国: 約10%
- その他: 約10%
米国が全体の約60%を占めるため、米国市場の影響は大きいものの、残り40%は他地域に分散されています。
(出典: MSCI "ACWI Index Factsheet")
(2) 新興国・欧州を含む分散投資
全世界株式インデックスは、米国以外の成長市場(中国、インド、ブラジルなど)や成熟市場(英国、フランス、ドイツなど)にも投資します。これにより、米国だけに依存しないポートフォリオを構築できます。
(3) 代表的な商品(VT、eMAXIS Slim全世界株式等)
主な全世界株式インデックスファンド:
- VT(Vanguard Total World Stock ETF): 米国ETF、経費率0.07%
- eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー): 日本の投資信託、信託報酬0.05775%(年率)
- 楽天・全世界株式インデックス・ファンド: 信託報酬0.192%(年率)
eMAXIS Slimシリーズは業界最安水準のコストで人気です。
米国株式インデックスの特徴
(1) S&P500・CRSP US Total Market指数
米国株式インデックスの代表的な指数は、S&P500(米国大型株500銘柄)とCRSP US Total Market Index(米国株式市場全体、約4,000銘柄)です。
S&P500の特徴:
- 米国大型株500社(Apple、Microsoft、Tesla、Amazonなど)
- 時価総額加重平均で構成
- 米国株式市場の時価総額の約80%をカバー
CRSP US Total Marketの特徴:
- 米国株式市場全体(大型・中型・小型株)
- S&P500より広範囲
(2) 米国市場集中のメリット・デメリット
メリット:
- 過去20年のリターンは全世界株より高い傾向
- 大型テック株(GAFAM等)の成長を取り込める
- 米国経済の安定性・成長性への期待
デメリット:
- 米国経済が不調な場合、影響を直撃
- 地域分散ができない(集中リスク)
- 為替リスク(円高時に円換算評価額が下がる)
(3) 代表的な商品(VTI、eMAXIS Slim S&P500等)
主な米国株式インデックスファンド:
- VTI(Vanguard Total Stock Market ETF): 米国ETF、経費率0.03%
- eMAXIS Slim米国株式(S&P500): 信託報酬0.09372%(年率)
- 楽天・全米株式インデックス・ファンド: 信託報酬0.162%(年率)
eMAXIS Slim米国株式(S&P500)は日本のつみたてNISAで最も人気のある商品の一つです。
(出典: SBI証券「全世界株 vs 米国株 徹底比較」)
過去リターンとリスク分散の比較
(1) 過去20年のパフォーマンス比較
Vanguardのデータによれば、過去20年(2005年〜2024年)の年率リターンは以下の通りです(概算)。
| 指数 | 年率リターン(概算) |
|---|---|
| S&P500(米国株) | 約10-11% |
| MSCI ACWI(全世界株) | 約8-9% |
米国株が全世界株を約2%上回っています。20年間では複利効果でこの差は大きくなります。
ただし、過去のパフォーマンスは将来を保証するものではありません。
(出典: Vanguard "VT vs VOO Comparison", Morningstar "Global vs US Equity Analysis")
(2) 地域別リスク分散効果
全世界株式は米国以外の地域にも投資するため、米国市場が不調な時期でも他地域がカバーする可能性があります。例えば、2000年代前半のITバブル崩壊後、新興国市場が高リターンを記録した時期がありました。
一方、米国株は米国市場のみに集中するため、米国経済の影響を強く受けます。過去20年では米国経済が好調だったため米国株が優位でしたが、将来も同じとは限りません。
(3) 為替リスクは両方同じ
全世界株も米国株も、主にドル建て資産に投資するため、為替リスク(円高・円安の影響)は両方とも存在します。円高になると円換算の評価額が下がり、円安になると上がります。
この点では、両者に大きな差はありません。
目的別の選び方とポートフォリオ戦略
(1) リスク分散重視なら全世界株
「米国だけに集中するのは不安」「地域分散でリスクを抑えたい」と考える方には、全世界株が適しています。米国が約60%を占めるため米国の影響は大きいものの、残り40%が他地域に分散されています。
全世界株が向いている人:
- リスク分散を重視したい
- 米国経済の将来に不確実性を感じる
- シンプルに「世界全体の成長」を取りたい
(2) 高リターン重視なら米国株
「過去のリターンを重視したい」「米国経済の成長性に期待している」という方には、米国株が適しています。大型テック株(Apple、Microsoft、Amazonなど)の成長を取り込めます。
米国株が向いている人:
- 過去のリターン実績を重視したい
- 米国経済の成長性に期待している
- リスク許容度が高い(集中リスクを受け入れられる)
(3) 両方を併用する戦略
「全世界株と米国株、どちらか一つに絞る必要はない」という考え方もあります。例えば、全世界株50%+米国株50%のように、両方を組み合わせることで、リスク分散と高リターンの両立を目指す戦略です。
併用例:
- 全世界株70%+米国株30%(分散重視)
- 全世界株50%+米国株50%(バランス型)
- 全世界株30%+米国株70%(米国重視)
自分のリスク許容度に応じて配分を調整できます。
(4) 信託報酬の違いと選び方
eMAXIS Slimシリーズの信託報酬(2025年1月時点):
| 商品名 | 信託報酬(年率) |
|---|---|
| eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー) | 0.05775% |
| eMAXIS Slim米国株式(S&P500) | 0.09372% |
全世界株の方がわずかに信託報酬が低いですが、差は0.03%程度で僅少です。コスト差よりも、投資方針(分散 vs 集中)で選ぶ方が重要です。
まとめ:どちらが自分に合うかの判断基準
全世界株と米国株、どちらが優れているかは一概に言えません。それぞれの特徴を理解し、自分の投資目的やリスク許容度に合わせて選ぶことが大切です。
判断基準:
- リスク分散重視: 全世界株(米国60%+他地域40%)
- 高リターン重視: 米国株(過去20年のリターンは米国が優位)
- 両方を取りたい: 全世界株と米国株を併用
- コスト: eMAXIS Slimシリーズはどちらも業界最安水準
次のアクション:
- 自分のリスク許容度を確認する
- つみたてNISAで全世界株または米国株(もしくは両方)を選ぶ
- 長期投資を前提に、定期的にリバランスを検討する
- 過去のパフォーマンスは参考程度に、将来は不確実と理解する
投資判断は自己責任で行い、長期的な資産形成を目指しましょう。
