夏になると米国株が下がるって本当?
米国株に投資している日本人投資家の間で、「夏枯れ相場」という言葉を耳にしたことがある人も多いでしょう。「5月に売って、9月まで離れよ(Sell in May and Go Away)」というアノマリー(経験則)も有名です。
夏場の株式市場は本当に低迷するのか? 夏枯れ相場は投資判断に活かせるのか? この記事では、米国株の夏枯れ相場について、定義、メカニズム、過去データ検証、投資戦略まで詳しく解説します。
この記事のポイント:
- 夏枯れ相場とは、5月〜9月の取引量減少と株価停滞の傾向
- 機関投資家のバカンス、決算空白期が主な要因
- 過去データでは5-9月のリターンが10-4月より低い傾向
- 「Sell in May」アノマリーは統計的に一定の傾向あり
- 長期投資ならドルコスト平均法を継続すべき
米国株の夏枯れ相場とは何か
(1) 夏枯れ相場の定義
夏枯れ相場(Summer Doldrums)とは、米国株式市場において、5月から9月にかけて取引量が減少し、株価が伸び悩む傾向を指します。
特に、欧米の機関投資家が夏季休暇(バカンス)に入るため、市場参加者が減少し、出来高が低下します。その結果、株価の値動きが鈍くなり、ボラティリティ(価格変動率)が上昇することがあります。
(2) 5月〜9月の市場特性
夏季の米国株式市場には、以下のような特性が見られます:
特性 | 内容 |
---|---|
取引量減少 | 機関投資家の休暇で市場参加者が減る |
ボラティリティ上昇 | 少ない取引量で価格が大きく動く |
リターン低下 | 平均的に10-4月より5-9月のリターンが低い |
決算空白期 | 6-7月は決算発表が少なく、材料不足 |
ただし、これらは平均的な傾向であり、毎年必ず当てはまるわけではありません。
夏枯れ相場が起きる理由とメカニズム
(1) 機関投資家のバカンス(取引参加者減少)
米国やヨーロッパでは、7月〜8月に長期休暇(バカンス)を取る文化があります。機関投資家(ヘッジファンド、投資銀行、年金基金等)のトレーダーやファンドマネージャーも休暇に入るため、市場の取引参加者が減少します。
その結果、出来高が減少し、株価の値動きが鈍くなります。また、大口の機関投資家が不在のため、個人投資家の売買が相対的に影響を与えやすくなり、ボラティリティが上昇することがあります。
(2) 決算発表の空白期
米国企業の多くは、3月・6月・9月・12月に四半期決算を発表します。決算発表が集中するのは4月・7月・10月・1月です。
6月〜7月は決算発表の空白期となるため、株価を動かす材料(業績ニュース)が少なくなります。材料不足により、市場の方向感が定まりにくく、株価が横ばいで推移する傾向があります。
(3) 出来高減少とボラティリティ上昇
出来高が減少すると、少ない取引量で株価が大きく動く可能性があります。これがボラティリティ(価格変動率)の上昇につながります。
出来高減少のリスク:
- 流動性が低下し、売買が成立しにくい
- 少ない注文で価格が大きく動く
- 急落・急騰が起きやすい
長期投資家にとっては、一時的なボラティリティ上昇は大きな問題ではありませんが、短期トレーダーにとってはリスクが高まります。
過去データで検証する夏枯れの実態
(1) S&P500の月別リターン分析
S&P500指数の過去データを分析すると、月別のリターンには一定の傾向が見られます。
S&P500の月別平均リターン(1950-2020年):
月 | 平均リターン | 順位 |
---|---|---|
1月 | +1.0% | 高 |
2月 | +0.1% | 中 |
3月 | +1.1% | 高 |
4月 | +1.5% | 高 |
5月 | +0.2% | 低 |
6月 | +0.0% | 低 |
7月 | +1.0% | 中 |
8月 | +0.1% | 低 |
9月 | -0.5% | 低 |
10月 | +0.9% | 中 |
11月 | +1.5% | 高 |
12月 | +1.4% | 高 |
※過去のパフォーマンスは将来の成果を保証するものではありません。
5月、6月、8月、9月のリターンが低いことがわかります。特に9月は平均でマイナスリターンとなっています。
(2) 過去20年のデータ検証
過去20年(2004-2024年)のS&P500指数のリターンを、夏季(5-9月)と冬季(10-4月)で比較してみましょう。
夏季(5-9月)vs 冬季(10-4月):
- 夏季(5-9月)の平均リターン: 約+2.0%(5ヶ月)
- 冬季(10-4月)の平均リターン: 約+7.0%(7ヶ月)
- 月平均リターン: 夏季+0.4%、冬季+1.0%
冬季の方が平均リターンが高いことがわかります。ただし、年によっては夏季でも高リターンを記録する場合があります。
(3) 夏枯れが起きなかった年の特徴
夏枯れが起きなかった年(夏季に高リターンを記録した年)には、以下のような特徴があります:
- 強気相場が継続している(市場の勢いが強い)
- 経済指標が好調(GDP成長率、雇用統計等)
- FRB(連邦準備制度理事会)の金融緩和政策
- 大型テクノロジー企業の業績好調
例えば、2023年はAIブームによりNVIDIA、Microsoft等が高騰し、夏季でも高リターンを記録しました。
「Sell in May」アノマリーの信頼性
(1) Sell in May and Go Awayとは
「Sell in May and Go Away(5月に売って、9月まで離れよ)」は、米国株式市場で広く知られるアノマリー(経験則)です。
このアノマリーに従うと:
- 5月に保有株を売却
- 9月まで現金で待機
- 10月に再び株を購入
という投資戦略になります。
(2) 統計的な有意性の検証
「Sell in May」アノマリーを統計的に検証すると、一定の有意性が確認されています。
過去70年(1950-2020年)のデータ:
- 10-4月に保有した場合の年率リターン: 約+7.0%
- 5-9月に保有した場合の年率リターン: 約+2.0%
- 差: 約5.0%/年
この差は統計的に有意であり、「Sell in May」に一定の根拠があることがわかります。
ただし、以下の点に注意が必要です:
- 年によって傾向が大きく異なる
- 売買コスト・税金を考慮すると効果が薄れる
- ファンダメンタルズを無視した戦略はリスクが高い
(3) アノマリーに頼る危険性
アノマリーは「経験則」であり、必ず当てはまるわけではありません。アノマリーに頼りすぎると、以下のようなリスクがあります:
- ファンダメンタルズを無視: 業績好調な企業を売却してしまう
- タイミングを逃す: 夏季でも上昇する年がある(2023年等)
- 売買コスト: 頻繁な売買で手数料・税金がかさむ
- 機会損失: 現金で待機している間に配当金を逃す
長期投資家にとっては、アノマリーよりもファンダメンタルズ(企業の業績、経済指標等)を重視すべきです。
夏枯れ相場での投資戦略
(1) 長期投資なら気にする必要はない
長期投資家(5年以上の保有を前提)にとって、夏枯れ相場は大きな問題ではありません。
理由:
- 短期的な値動きは長期リターンに影響しない
- 夏季でも優良企業は成長を続ける
- 配当金を逃すリスクがある
- 売買コスト・税金がかかる
長期投資の基本は、「買って持ち続ける(Buy and Hold)」です。夏枯れ相場を気にして頻繁に売買すると、かえってリターンが低下する可能性があります。
(2) ドルコスト平均法の継続
つみたてNISAやiDeCoで米国株式ファンドに積立投資している場合、ドルコスト平均法を継続すべきです。
ドルコスト平均法のメリット:
- 一定金額を定期的に購入(価格変動リスク分散)
- 下落時には多く購入、上昇時には少なく購入
- 感情に左右されず機械的に投資
- 長期的には平均取得単価が下がる
夏枯れ相場で株価が下がったとしても、ドルコスト平均法なら安く買えるチャンスです。積立投資を止めずに継続しましょう。
(3) 夏場の急落は買い増しチャンス
夏場に株価が急落した場合、長期投資家にとっては買い増しチャンスと考えることもできます。
買い増しの条件:
- 企業のファンダメンタルズが健全(業績好調)
- 一時的な市場の調整による下落
- 分散投資を維持(1銘柄に集中しない)
- 余裕資金で投資(生活資金には手を付けない)
夏枯れ相場は、優良企業を割安で購入できる機会とも言えます。
まとめ:アノマリーに頼らない長期投資の重要性
米国株の夏枯れ相場は、過去データで一定の傾向が確認されるアノマリーです。5月〜9月は取引量が減少し、リターンが低い傾向があります。
しかし、夏枯れ相場は必ず起こるわけではなく、年によって大きく異なります。アノマリーに頼りすぎると、ファンダメンタルズを無視してしまい、かえってリターンが低下するリスクがあります。
夏枯れ相場への対処法:
- 長期投資なら気にしない: Buy and Hold戦略を継続
- ドルコスト平均法を継続: つみたてNISA・iDeCoでの積立投資を止めない
- 下落は買い増しチャンス: 優良企業を割安で購入
- ファンダメンタルズ重視: 業績好調な企業を長期保有
次のアクション:
- 長期投資の目標を明確にする
- 積立投資を継続する
- 夏場の急落に動揺せず、冷静に対処する
過去のパフォーマンスは将来の成果を保証するものではありません。アノマリーを参考にしつつも、ファンダメンタルズを重視した投資判断を行いましょう。投資判断は自己責任で行ってください。
※本記事は2025年10月時点の情報に基づいています。最新の市場動向は各証券会社・メディアの情報をご確認ください。