米国株下がる月は?9月・10月の季節性アノマリー検証

公開日: 2025/10/20

米国株に季節性はあるのか―アノマリーの基礎知識

「9月は米国株が下がりやすい」「夏は株式市場が低調になる」——こうした季節性に関する話を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。米国株市場には、特定の月や時期に株価が上昇・下落しやすいという統計的傾向が存在すると言われています。

この記事のポイント:

  • 米国株には季節性アノマリー(特定月の統計的傾向)が存在する
  • 9月は過去50年の平均リターンが-1.1%で、最もパフォーマンスが悪い月
  • 10月は1929年・1987年の大暴落があり、ボラティリティが高い傾向
  • 11月-4月は5月-10月より平均リターンが高い(Sell in May and Go Away)
  • 過去のパターンは将来を保証せず、マーケットタイミング戦略はリスクが高い
  • ドルコスト平均法で季節性の影響を平準化する方が長期投資には有利

この記事では、米国株の季節性アノマリーについて、過去データの検証、下がりやすい月の統計と背景、投資判断への活用可否について解説します。

(1) 季節性アノマリーとは

季節性アノマリーとは、特定の月や時期に株価が上昇または下落しやすいという統計的傾向のことです。効率的市場仮説では、すべての情報が株価に織り込まれているため、こうしたパターンは存在しないはずですが、実際には歴史的に一定の傾向が観察されています。

アノマリーの特徴:

  • 統計的に観察される傾向(必ず起こる法則ではない)
  • 理論的な因果関係は不明確なことが多い
  • 投資家心理や市場の構造的要因が影響している可能性

(2) 代表的なアノマリー(Sell in May、September Effect等)

米国株市場には、以下のような季節性アノマリーが知られています:

主な季節性アノマリー:

  • Sell in May and Go Away: 5月に売却して9月まで休む。5月-10月は11月-4月に比べてリターンが低い傾向
  • September Effect: 9月は歴史的に最もパフォーマンスが悪い月(平均リターン-1.1%)
  • October Crash History: 1929年、1987年の大暴落が10月に発生。心理的に弱気になりやすい
  • Santa Claus Rally: 12月下旬から1月初旬にかけての上昇傾向。年末の買い需要が要因
  • January Effect: 1月は小型株が上昇しやすい。年末の税金対策売りの反動

(3) 統計的傾向と因果関係の違い

重要なのは、「統計的傾向」と「確実な法則」は異なるということです。過去50年のデータで9月の平均リターンが-1.1%だったとしても、毎年必ず9月に下落するわけではありません。統計は過去のパターンを示すだけで、将来を保証するものではないことを理解しておく必要があります。

過去データで見る米国株の月別パフォーマンス

実際の統計データを見てみましょう。

(1) S&P500の過去50年間の月別平均リターン

S&P Dow Jones IndicesやStock Trader's Almanacのデータによると、S&P500指数の月別平均リターンは以下のような傾向があります:

月別平均リターン(過去50年):

平均リターン 傾向
1月 +1.0% 上昇傾向
2月 +0.1% 中立
3月 +1.0% 上昇傾向
4月 +1.5% 強い上昇傾向
5月 +0.1% 中立
6月 +0.0% 中立
7月 +1.0% 上昇傾向
8月 +0.1% 中立
9月 -1.1% 最も弱い
10月 +0.5% ボラティリティ高
11月 +1.5% 強い上昇傾向
12月 +1.4% 強い上昇傾向

※過去のデータは将来のリターンを保証するものではありません。

(2) 最もパフォーマンスが良い月・悪い月

過去の統計では、以下の月が特に特徴的です:

パフォーマンスが良い月:

  • 4月: 平均リターン+1.5%。税還付金の投資や企業決算への期待
  • 11月: 平均リターン+1.5%。感謝祭後のホリデーシーズン買い需要
  • 12月: 平均リターン+1.4%。Santa Claus Rallyと年末の楽観ムード

パフォーマンスが悪い月:

  • 9月: 平均リターン-1.1%。夏休み明けの売り圧力、ポートフォリオ調整
  • 6月: 平均リターン±0%前後。夏場の閑散期

(3) Stock Trader's AlmanacとS&P Dow Jones Indicesのデータ

これらのデータは、Stock Trader's Almanac(季節性アノマリーの権威ある情報源)やS&P Dow Jones Indices(S&P500指数の公式データ提供元)などから得られています。長期的な統計として信頼性は高いですが、毎年同じパターンが繰り返されるわけではないことに注意が必要です。

下がりやすい月【9月・10月】の統計と背景

9月と10月は、歴史的に米国株市場が弱い傾向があります。

(1) 9月効果:平均リターン-1.1%の統計的事実

9月は過去50年の統計で平均リターンが-1.1%と、唯一マイナスリターンの月です。この傾向は「September Effect」と呼ばれています。

9月が弱い理由(推測):

  • 夏休み明けの売り圧力: 機関投資家やファンドマネージャーが夏休みから戻り、ポートフォリオを調整する
  • 決算期の調整: 多くのファンドの決算期が9月末であり、損失確定や利益確定の売りが出やすい
  • 心理的要因: 夏場の楽観ムードが終わり、慎重な姿勢に戻る

ただし、9月に必ず下落するわけではなく、上昇した年も多数存在します。

(2) 10月の高ボラティリティ(1929年・1987年の大暴落)

10月の平均リターン自体は+0.5%程度ですが、ボラティリティ(価格変動の大きさ)が高い月として知られています。

歴史的な10月の大暴落:

  • 1929年10月: ブラックチューズデー(世界恐慌のきっかけ)
  • 1987年10月: ブラックマンデー(史上最大の1日下落率-22.6%)
  • 2008年10月: リーマンショックによる急落

これらの歴史的事件により、投資家は10月に対して心理的に慎重になる傾向があります。

(3) 夏休み明けの売り圧力と決算期要因

9月-10月は、以下のような構造的要因が重なります:

  • ファンドの決算期調整(損失確定、リバランス)
  • 夏休み(7-8月)の閑散期から取引が活発化
  • 第3四半期決算発表に向けた不安

これらの要因が重なることで、売り圧力が高まりやすいと考えられています。

上がりやすい月と季節性アノマリーの検証

一方、上がりやすい月にも明確な傾向があります。

(1) 11月-4月の強さ(Sell in Mayの根拠)

「Sell in May and Go Away(5月に売って9月まで休む)」という格言は、統計的に裏付けられています。

期間別平均リターン:

  • 11月-4月(6ヶ月): 平均リターン約+7%
  • 5月-10月(6ヶ月): 平均リターン約+2%

11月-4月の6ヶ月間は、5月-10月の6ヶ月間に比べて明らかに高いリターンを示しています。

(2) Santa Claus Rally(12月下旬-1月初旬)

12月の最終週から1月初旬にかけて、株価が上昇しやすい傾向があります。

Santa Claus Rallyの要因:

  • 年末のボーナス・賞与の投資
  • 年末の楽観ムード
  • 税金対策の買い戻し(1月効果の前兆)
  • 機関投資家のポジション調整

(3) January Effect(1月の小型株上昇)

1月は特に小型株が上昇しやすい傾向があります。

January Effectの要因:

  • 年末の税金対策売り(損失確定)の反動買い
  • 新年の楽観的な投資マインド
  • ファンドの新規資金流入

ただし、近年ではこの効果は弱まっているという指摘もあります。

季節性を投資判断に活用できるか―実践的な考察

季節性アノマリーを実際の投資判断に活用できるのでしょうか?

(1) 過去のパターンは将来を保証しない

最も重要なのは、「過去の統計的傾向は将来を保証しない」ということです。

リスク:

  • 毎年同じパターンが繰り返されるわけではない
  • 9月に上昇した年も多数存在する(例: 2013年+3.1%、2017年+2.0%)
  • 統計的傾向と実際の投資判断は別物

(2) マーケットタイミング戦略のリスク

季節性を利用して売買タイミングを図る「マーケットタイミング戦略」は、統計的に長期投資に劣ると言われています。

マーケットタイミングのリスク:

  • 売買コスト・税金の負担
  • 配当金を受け取る機会の損失
  • 最も上昇する数日間を逃すリスク(市場に居続けないと大きなリターンを逃す)
  • 感情的な判断ミス

(3) ドルコスト平均法による季節性の平準化

季節性を気にせず、毎月定額を積み立てる「ドルコスト平均法」が、長期投資家には推奨されます。

ドルコスト平均法のメリット:

  • 季節性の影響を平準化できる
  • 高値掴みのリスクを軽減
  • 感情的な売買を避けられる
  • 長期的には市場平均に近いリターンを得られる

(4) 日本の投資家特有の為替変動要因

日本の投資家は、株価の季節性だけでなく、為替変動も考慮する必要があります。

為替の影響:

  • 9月に株価が下落しても、円安であれば円ベースでは損失が軽減される
  • 逆に株価が上昇しても、円高であれば利益が減少する
  • 為替も季節性があるため、株価の季節性だけでは判断できない

まとめ:アノマリーに頼らない長期投資の重要性

米国株には9月・10月の弱さや11月-4月の強さといった季節性アノマリーが統計的に観察されますが、これらは過去のパターンであり、将来を保証するものではありません。

この記事のまとめ:

  • 9月は過去50年の平均リターンが-1.1%で、最もパフォーマンスが悪い月
  • 10月は大暴落の歴史がありボラティリティが高い傾向
  • 11月-4月は5月-10月より平均リターンが高い(Sell in May and Go Away)
  • 過去のパターンは必ず繰り返されるわけではない
  • マーケットタイミング戦略は売買コスト・税金・機会損失のリスクが高い
  • ドルコスト平均法で季節性を平準化し、長期投資を継続する方が有利

次のアクション:

  • 季節性アノマリーは参考程度に留め、投資判断の中心にしない
  • 毎月定額を積み立てるドルコスト平均法を実践する
  • 長期的な企業成長と配当再投資に焦点を当てる
  • 為替変動も考慮したポートフォリオ管理を行う

季節性アノマリーは興味深い統計的傾向ですが、それに依存せず、長期的な視点で分散投資を続けることが、資産形成の王道と言えます。短期的な市場のパターンに一喜一憂せず、着実に投資を積み重ねていきましょう。

※本記事は2025年1月時点の情報です。過去の統計データは将来のリターンを保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。

よくある質問

Q19月は本当に米国株が下がるのですか?

A1過去50年の統計では、9月の平均リターンは-1.1%で、12ヶ月の中で最もパフォーマンスが悪い月です。ただし必ず下がるわけではなく、上昇した年も多数あります(例: 2013年+3.1%、2017年+2.0%)。統計的傾向であり、確実な法則ではないことを理解しておく必要があります。

Q2「Sell in May and Go Away」は本当に有効ですか?

A2統計的には、11月-4月の6ヶ月間は5月-10月の6ヶ月間に比べて平均リターンが高い傾向があります(約7% vs 約2%)。しかし、売買コスト・税金・配当機会の損失を考慮すると、長期投資家には実践的ではないとされています。市場に居続ける方が長期的には有利です。

Q3季節性を考えて投資タイミングを調整すべきですか?

A3推奨されません。マーケットタイミングを図る戦略は、売買コストや感情的な判断ミスにより、統計的に長期投資(buy-and-hold)に劣ることが知られています。毎月定額を積み立てるドルコスト平均法で季節性の影響を平準化する方が、長期的には有利です。

Q4日本人投資家は為替変動も考慮すべきですか?

A4はい。9月に株価が下落しても円安であれば円ベースでは損失が軽減されることがあります。逆に株価が上昇しても円高なら利益が減少します。為替も独自の変動パターンがあるため、株価の季節性だけでは投資判断できません。為替リスクも含めた総合的な視点が必要です。

Q510月に大暴落が多いのは本当ですか?

A51929年のブラックチューズデー、1987年のブラックマンデー、2008年のリーマンショックなど、歴史的な大暴落が10月に発生しています。そのため投資家は10月に対して心理的に慎重になる傾向があります。ただし10月の平均リターン自体は+0.5%程度で、必ず暴落するわけではありません。

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