米国株暴落の歴史を学ぶ意義
米国株投資を続けていると、いつか必ず暴落に遭遇します。「もう株価は戻らないのでは?」「今すぐ売るべきか?」と不安に駆られ、パニック売りをしてしまった経験はありませんか。
実は、米国株式市場は過去100年間で何度も暴落を経験していますが、すべての暴落から回復し、史上最高値を更新してきました。歴史を知ることで、暴落時の冷静な判断が可能になります。
この記事では、1929年の大恐慌から2020年のコロナショックまで、主要な暴落を時系列で分析し、投資家が学ぶべき教訓を解説します。
この記事のポイント:
- 米国株は過去100年間で5回の大暴落を経験(-22%~-89%の下落)
- すべての暴落は数年以内に回復し、史上最高値を更新
- 暴落の予兆は過度な楽観・バリュエーション高騰・金融政策の転換
- 長期投資家にとって暴落は買い増しの好機
- 分散投資・現金比率の維持・感情に流されない投資ルールが重要
(1) 暴落は周期的に発生する
米国株式市場では、歴史的に**約10年前後の周期で大きな調整局面(弱気相場)**が発生しています。
過去100年の主要暴落:
- 1929年:大恐慌(-89%)
- 1987年:ブラックマンデー(1日で-22%)
- 2000年:ITバブル崩壊(-50%)
- 2008年:リーマンショック(-57%)
- 2020年:コロナショック(-34%)
暴落は例外的な出来事ではなく、市場の正常な調整プロセスの一部です。歴史を知ることで、「また来た」と冷静に対処できます。
(2) 歴史を知れば冷静な判断が可能
暴落時は恐怖に駆られ、「もう株価は戻らない」と感じてしまいます。しかし、過去のデータを見れば、すべての暴落は回復してきたことが分かります。
S&P500の長期リターン(配当再投資含む):
- 過去30年:年率約10%
- 過去50年:年率約11%
- 過去100年:年率約10%
暴落を含めても、長期的には右肩上がりの成長を続けています。歴史を学ぶことで、短期的な変動に惑わされず、長期投資を継続する勇気が得られます。
過去の主要暴落5選【1929年~2020年】
(1) 1929年 大恐慌:-89%の下落
期間:1929年9月~1932年7月(約3年) 下落率:-89%(ダウ平均:381ドル→41ドル) 原因:過剰な信用取引・投機熱・世界的な経済不況 回復期間:約25年(1954年にピーク回復)
1920年代の米国は空前の好景気に沸き、株価は1920年から1929年にかけて約5倍に上昇しました。しかし、過剰な信用取引(借金で株を買う投機)が膨らみ、1929年10月24日(暗黒の木曜日)に株価が急落。その後3年間で株価は89%下落し、世界恐慌へと発展しました。
教訓:過度な信用取引と投機熱は暴落の予兆。レバレッジ(借金)を使った投資はリスクが高い。
(2) 1987年 ブラックマンデー:1日で-22%
期間:1987年10月19日(1日) 下落率:-22.6%(S&P500:1日で-20.5%) 原因:プログラム取引の連鎖・金利上昇懸念・過度な株価上昇 回復期間:約2年(1989年に高値回復)
1987年10月19日(月曜日)、ニューヨーク株式市場は1日で22.6%急落しました。これは史上最大の1日下落率です。原因は、コンピューターによるプログラム取引が売りを加速させたことと、金利上昇懸念が重なったためです。
しかし、FRB(米連邦準備制度理事会)が迅速に流動性を供給し、わずか2年で株価は回復しました。
教訓:1日で20%以上の急落も発生しうる。しかし、政策対応が適切なら回復は早い。
(3) 2000年 ITバブル崩壊:-50%の下落
期間:2000年3月~2002年10月(約2年半) 下落率:-50%(NASDAQ総合指数:-78%) 原因:インターネット関連株の過大評価・収益なき企業への投資 回復期間:約7年(2007年に高値回復)
1990年代後半、インターネットの普及により、多くのIT企業が上場しました。しかし、多くは収益を上げていない「ドットコム企業」で、株価は実態から大きく乖離していました。
2000年3月、ITバブルが崩壊し、NASDAQ総合指数は約78%下落。S&P500も50%下落しました。収益性のない企業の多くは倒産し、投資家は大きな損失を被りました。
教訓:バリュエーション(株価が適正か)を無視した投資は危険。「今回は違う」という楽観は要注意。
(4) 2008年 リーマンショック:-57%の下落
期間:2007年10月~2009年3月(約1年半) 下落率:-57%(S&P500:1,565→676) 原因:サブプライムローン問題・金融機関の破綻・世界的な信用収縮 回復期間:約5年(2013年に高値回復)
2008年9月、米国の大手投資銀行リーマン・ブラザーズが破綻し、世界的な金融危機が発生しました。サブプライムローン(信用力の低い借り手向け住宅ローン)を証券化した金融商品が世界中に拡散しており、リーマン破綻をきっかけに信用収縮が連鎖しました。
S&P500は約57%下落し、失業率は10%に達しました。しかし、FRBの大規模な金融緩和(量的緩和)により、2013年には株価が回復しました。
教訓:金融システムの崩壊リスクは存在する。しかし、政府・中央銀行の政策対応により回復は可能。
(5) 2020年 コロナショック:-34%の急落と回復
期間:2020年2月~2020年3月(約1ヶ月) 下落率:-34%(S&P500:3,386→2,237) 原因:新型コロナウイルスのパンデミック・経済活動の停止 回復期間:約5ヶ月(2020年8月に高値回復)
2020年3月、新型コロナウイルスのパンデミックにより、世界中で経済活動が停止しました。S&P500は約1ヶ月で34%急落し、史上最速の弱気相場入りとなりました。
しかし、FRBの迅速な金融緩和と政府の財政支援により、わずか5ヶ月で株価は回復。2021年には史上最高値を更新しました。これは過去最速の回復です。
教訓:パンデミックのような予測不可能なイベントでも、政策対応が迅速なら回復は早い。
主要暴落の比較表:
暴落イベント | 期間 | 下落率 | 回復期間 | 原因 |
---|---|---|---|---|
1929年 大恐慌 | 約3年 | -89% | 約25年 | 過剰な信用取引・投機熱 |
1987年 ブラックマンデー | 1日 | -22% | 約2年 | プログラム取引・金利上昇懸念 |
2000年 ITバブル崩壊 | 約2年半 | -50% | 約7年 | IT株の過大評価 |
2008年 リーマンショック | 約1年半 | -57% | 約5年 | サブプライムローン問題 |
2020年 コロナショック | 約1ヶ月 | -34% | 約5ヶ月 | パンデミック |
暴落の共通パターンと予兆
(1) 過度な楽観とバリュエーション高騰
すべての暴落前には、過度な楽観とバリュエーション(株価が適正か)の高騰が見られます。
バリュエーション指標:
- PER(株価収益率):株価÷1株あたり利益。S&P500の平均PERは約15~17倍。30倍を超えると割高とされる。
- シラーPER(景気調整後PER):過去10年の平均利益で算出。25倍を超えると割高とされる。
2000年のITバブル時、S&P500のPERは30倍を超えていました。2008年のリーマンショック前も、住宅価格が過度に上昇していました。
(2) 金融緩和から引き締めへの転換
FRBの金融政策転換(利上げ開始)は、暴落の引き金となることがあります。
- 1987年:1986年から利上げが続き、1987年に暴落
- 2000年:1999年から利上げが続き、2000年にITバブル崩壊
金利上昇は企業の借入コストを増やし、株式の魅力を低下させます。
(3) 地政学リスク・パンデミック
予測不可能なイベント(戦争・テロ・パンデミック)も暴落の原因となります。
- 2001年9月11日:同時多発テロ後、S&P500は約12%下落
- 2020年3月:コロナパンデミックで約34%下落
これらは予測困難ですが、常にリスクに備えることが重要です。
暴落時の投資家心理と行動
(1) パニック売りと損切りの連鎖
暴落時、多くの投資家は恐怖に駆られ、パニック売りをしてしまいます。株価が下がれば下がるほど売りが加速し、損切りの連鎖が起きます。
典型的な投資家心理:
- 株価が10%下落:「一時的な調整だろう」
- 株価が20%下落:「そろそろ底だろう」
- 株価が30%下落:「もう戻らないかも…売ろう」
結果的に、底値で売却し、その後の回復局面で利益を逃してしまいます。
(2) 底値での買いチャンスと見極め
一方で、暴落は優良企業を割安で買える絶好の機会でもあります。
ウォーレン・バフェットの名言: 「他人が貪欲なときに恐れ、他人が恐れているときに貪欲であれ」
2008年のリーマンショック時、バフェットは優良企業の株を大量に購入し、その後大きなリターンを得ました。
ただし、底値を完璧に見極めることは不可能です。分散して少しずつ買い増すのが現実的です。
(3) 長期投資家と短期投資家の違い
項目 | 長期投資家 | 短期投資家 |
---|---|---|
暴落時の行動 | 保有継続または買い増し | パニック売り |
投資期間 | 10年以上 | 数ヶ月~数年 |
リターン | 長期で年率10%前後 | 暴落で大損のリスク |
長期投資家は、暴落を含めても長期的なリターンを得られる一方、短期投資家は暴落で大きな損失を被りやすいです。
暴落から学ぶ投資戦略
(1) 分散投資でリスク軽減
分散投資により、個別銘柄の暴落リスクを軽減できます。
分散の3つの軸:
- 銘柄分散:S&P500インデックスファンドなら500社に分散
- 資産分散:株式・債券・現金を組み合わせる
- 地域分散:米国株・日本株・新興国株を組み合わせる
特にインデックスファンドは、数百~数千社に分散投資でき、個別銘柄の倒産リスクを回避できます。
(2) 暴落時は買い増しの好機
長期投資家にとって、暴落は買い増しの絶好の機会です。
ドルコスト平均法の効果:
- 株価が下がったときに多くの株を買える
- 平均取得単価が下がり、回復時のリターンが大きくなる
つみたてNISAで毎月一定額を積み立てている場合、暴落時も自動的に買い増しされるため、感情に左右されずに投資を継続できます。
(3) キャッシュポジションの確保
暴落に備えて、ポートフォリオの10~20%を現金で保有することが推奨されます。
キャッシュポジションのメリット:
- 暴落時に買い増し資金として使える
- 精神的な安心感(暴落時のパニック売りを防ぐ)
すべてを株式に投資すると、暴落時に買い増したくても資金がなく、機会を逃してしまいます。
(4) 感情に流されない投資ルール
暴落時は感情に流されやすいため、事前に投資ルールを決めておくことが重要です。
投資ルールの例:
- 株価が20%下落しても売却しない
- 株価が30%下落したら追加で買い増す
- 毎月一定額を積み立て、暴落時も継続する
ルールを決めておけば、暴落時も冷静に対処できます。
まとめ:歴史から学び、冷静に対処する
米国株は過去100年間で何度も暴落を経験しましたが、すべての暴落から回復し、史上最高値を更新してきました。暴落は市場の正常な調整プロセスであり、長期投資家にとっては買い増しの好機です。
次のアクション:
- 過去の暴落データを確認し、歴史から学ぶ
- 分散投資とキャッシュポジションでリスクに備える
- ドルコスト平均法でつみたて投資を継続する
- 事前に投資ルールを決め、感情に流されない
暴落は必ず訪れます。しかし、歴史を知り、冷静に対処すれば、長期的な資産形成は可能です。今日から暴落に備えた投資戦略を実践しましょう。