レバレッジETFとは:2倍・3倍のリターンを狙う仕組み
「S&P500が1%上昇したら3%のリターンが得られる」「短期間で大きな利益を狙える」という話を聞き、レバレッジETFに興味を持った方は多いのではないでしょうか。
レバレッジETFは、S&P500やNASDAQ100などの指数の日次リターンを2倍・3倍にすることを目指すETFです。上昇相場では大きなリターンを狙えますが、**減価リスク(ボラティリティドラッグ)**により、長期保有では元指数のパフォーマンスと大きく乖離する可能性があります。
この記事では、レバレッジETFの仕組み・減価リスク・長期保有の適否を初心者向けに解説します。
この記事のポイント:
- レバレッジETFは日次リターンを2倍・3倍にする商品(長期リターンではない)
- 日次リバランスにより、長期では元指数と乖離する
- ボラティリティドラッグで横ばい相場でも損失が発生
- 短期トレード(デイトレード・スイングトレード)向けで、長期投資には不向き
- 初心者は通常のインデックスETF(VOO・VTI)から始めるべき
レバレッジETFの仕組み:日次リバランスと先物活用
(1) 日次リターンを2倍・3倍にする(長期リターンではない)
レバレッジETFは、対象指数の日次リターンを2倍・3倍にすることを目指します。重要なのは、「日次」リターンであり、「長期」リターンではないことです。
具体例:
- S&P500が1日で+1%上昇 → SPXL(3倍レバレッジ)は+3%上昇
- S&P500が1日で-1%下落 → SPXLは-3%下落
しかし、複数日にわたる複利効果により、長期では元指数のリターンと大きく乖離します。これが減価リスク(ボラティリティドラッグ)です。
(2) 先物・スワップを活用したレバレッジ
レバレッジETFは、先物取引やスワップ契約を活用して、少ない資金で大きなポジションを持ちます。
レバレッジの仕組み:
- 先物取引:現物を保有せず、将来の売買契約で価格変動に投資
- スワップ契約:金融機関と契約し、指数の2倍・3倍のリターンを交換
- 証拠金:少額の証拠金で大きなポジションを持つ
例えば、SPXL(S&P500 3倍ブル)は、S&P500先物を活用し、元資金の3倍のポジションを持ちます。
(3) 毎日リバランスするため複利効果が複雑
レバレッジETFは、**毎日リバランス(レバレッジ比率の調整)**を行います。これにより、1日単位では設計通りのリターンが得られますが、長期では複利効果が複雑に作用します。
日次リバランスの影響:
- 上昇日は利益を確定し、下落日は損失を確定する
- 複利効果により、長期では元指数と乖離する
- ボラティリティ(価格変動)が大きいほど乖離が大きくなる
減価リスク(ボラティリティドラッグ)の理解
(1) ボラティリティが高いと元指数より下回る
ボラティリティドラッグとは、価格変動(ボラティリティ)が大きいと、元指数のリターンより下回る現象です。
具体例(横ばい相場):
日 | S&P500の変動 | S&P500の価格 | SPXL(3倍)の変動 | SPXLの価格 |
---|---|---|---|---|
0日目 | - | 100 | - | 100 |
1日目 | +10% | 110 | +30% | 130 |
2日目 | -9.09% | 100 | -27.27% | 94.5 |
S&P500は2日後に元の100に戻りましたが、SPXLは94.5に下落しています。これが減価リスクです。
(2) 横ばい相場でも損失が発生する仕組み
上記の例のように、元指数が横ばいでも、レバレッジETFは損失が発生します。これは、日次リバランスにより、上昇日と下落日の複利効果が非対称になるためです。
計算の仕組み:
- 1日目:100 × 1.3 = 130(+30%)
- 2日目:130 × 0.7273 = 94.5(-27.27%)
上昇率30%と下落率27.27%は非対称であり、結果的に元本を下回ります。
(3) 具体例:S&P500が+10%/-10%を繰り返すケース
S&P500が+10%と-10%を交互に繰り返す場合、長期ではSPXL(3倍レバレッジ)は大幅に下落します。
10日間のシミュレーション:
日 | S&P500 | SPXL(3倍) |
---|---|---|
0日目 | 100 | 100 |
5日目(+10%/-10% × 2.5回) | 約97.5 | 約75 |
10日目(+10%/-10% × 5回) | 約95 | 約56 |
S&P500が5%下落する間に、SPXLは44%下落します。これがボラティリティドラッグの恐ろしさです。
長期保有に向かない理由と短期トレード用途
(1) 長期保有で元指数と大きく乖離
レバレッジETFは、日次リターンを2倍・3倍にする設計であり、長期リターンは元指数の2倍・3倍にはなりません。
2020年~2024年の実績例(参考値):
指数・ETF | 5年リターン(年率) |
---|---|
S&P500 | 約+15% |
VOO(S&P500 ETF) | 約+15% |
SPXL(S&P500 3倍ブル) | 約+35%(3倍の+45%に届かず) |
※数値は参考値です。実際のリターンは市場環境により異なります。
上昇相場でも、ボラティリティドラッグにより、元指数の3倍には届きません。下落相場では、さらに大きく乖離します。
(2) 短期トレード(デイトレード・スイングトレード)向け
レバレッジETFは、1日~数週間の短期トレードに適しています。
適切な用途:
- デイトレード:1日で売買を完結させる
- スイングトレード:数日~数週間で利益を確定させる
- 短期的な相場予測:FOMCや決算発表など、短期的なイベントに投資
長期投資(数ヶ月~数年)には不向きです。
(3) 金融庁・証券会社の注意喚起
金融庁や証券会社は、レバレッジETFのリスクについて注意喚起しています。
金融庁の警告:
- レバレッジ型投資信託は、短期的な投資成果を目指すものであり、長期保有に適さない
- 日々の値動きにより、中長期的には大幅な損失が発生する可能性がある
証券会社の注意事項:
- SBI証券・楽天証券・マネックス証券では、レバレッジETF購入時にリスク説明が表示される
- 初心者には推奨せず、短期トレード経験者のみ検討すべき
主要レバレッジETF:SPXL・TQQQ・SOXL
(1) SPXL:S&P500 3倍ブル
基本情報:
- ティッカー:SPXL
- 運用会社:Direxion
- 対象指数:S&P500の3倍
- 経費率:年0.89%
- 純資産総額:約20億ドル(2025年時点)
特徴:
- S&P500の日次リターンを3倍にする
- 上昇相場では大きなリターンが期待できるが、下落相場では損失が拡大
(2) TQQQ:NASDAQ100 3倍ブル
基本情報:
- ティッカー:TQQQ
- 運用会社:ProShares
- 対象指数:NASDAQ100の3倍
- 経費率:年0.86%
- 純資産総額:約150億ドル(2025年時点)
特徴:
- NASDAQ100(ハイテク大型株)の日次リターンを3倍にする
- Apple、Microsoft、Amazonなどの主要ハイテク株に集中投資
- ボラティリティが非常に高く、1日で10%以上変動することもある
(3) SOXL:半導体指数 3倍ブル
基本情報:
- ティッカー:SOXL
- 運用会社:Direxion
- 対象指数:フィラデルフィア半導体指数(SOX)の3倍
- 経費率:年0.91%
- 純資産総額:約50億ドル(2025年時点)
特徴:
- 半導体関連銘柄(NVIDIA、Intel、AMD等)の日次リターンを3倍にする
- セクター集中投資のため、ボラティリティが極めて高い
- AI・半導体ブーム時は大きく上昇するが、調整局面では大幅下落
主要レバレッジETF比較表:
ティッカー | 対象指数 | レバレッジ倍率 | 経費率 | ボラティリティ |
---|---|---|---|---|
SPXL | S&P500 | 3倍 | 0.89% | 高 |
TQQQ | NASDAQ100 | 3倍 | 0.86% | 非常に高 |
SOXL | 半導体指数 | 3倍 | 0.91% | 極めて高 |
※情報提供のみ。個別商品の推奨ではありません。
まとめ:レバレッジETFは上級者向けの短期商品
レバレッジETFは、日次リターンを2倍・3倍にする商品であり、短期トレードに適しています。しかし、日次リバランスとボラティリティドラッグにより、長期保有では元指数と大きく乖離します。
レバレッジETFが向いている人:
- 短期トレード経験者(デイトレード・スイングトレード)
- 相場の短期的な方向性を予測できる上級者
- リスク許容度が高く、損失を受け入れられる投資家
レバレッジETFが向いていない人:
- 投資初心者
- 長期投資(数ヶ月~数年)を考えている人
- リスクを抑えたい人
次のアクション:
- 初心者は通常のインデックスETF(VOO・VTI)から始める
- レバレッジETFは短期トレード用途のみ検討する
- 長期投資にはeMAXIS Slim米国株式(S&P500)等のインデックスファンドを選ぶ
- 金融庁や証券会社のリスク説明を必ず読む
レバレッジETFは高リスク・高リターンの商品です。仕組みとリスクを十分に理解した上で、慎重に判断しましょう。