米国株を貸株に出そうか迷っているけど、デメリットは?
米国株を長期保有している日本人投資家の中には、「貸株サービスで金利収入を得たい」と考える方もいます。証券会社のサイトでは「年利0.1-10%の金利収入!」と宣伝されていますが、デメリットやリスクを理解せずに利用すると思わぬ不利益を被る可能性があります。
この記事では、米国株貸株サービスの主なデメリット(議決権喪失・配当金の税制上の扱い・証券会社破綻リスク・NISA非対象)と、証券会社別の貸株金利比較、利用判断の基準を解説します。
この記事のポイント:
- 貸株サービスは年0.1-10%の金利収入が得られるが、デメリットも大きい
- 主なデメリット: ①議決権喪失、②配当金が雑所得扱い(高所得者は不利)、③証券会社破綻リスク、④NISA口座では利用不可
- SBI証券・楽天証券・マネックス証券で提供されているが、条件が異なる
- 貸株金利(0.1-1%程度)は配当利回り(2-4%)より低いケースが多い
- 議決権を重視しない長期保有前提の場合のみ検討価値あり
米国株貸株サービスとは
貸株サービスとは、保有している株式を証券会社に貸し出すことで、金利収入(貸株料)を得られるサービスです。
証券会社は、貸し出された株式を機関投資家や空売りトレーダーに貸し出し、その手数料の一部を投資家に還元します。
仕組み:
- 投資家が保有株式を証券会社に貸し出す
- 証券会社が機関投資家等に株式を貸し出す
- 証券会社が貸株金利を投資家に支払う
貸株中も株式の名義は投資家のままですが、議決権や配当金の扱いが変わるため注意が必要です。
(出典: Investopedia「Securities Lending」https://www.investopedia.com/terms/s/securitieslending.asp)
貸株の仕組みとメリット
貸株サービスの基本的な仕組みとメリットを理解しましょう。
(1) 貸株の基本的な仕組み
貸株サービスでは、以下の流れで金利収入を得られます:
- 証券口座の設定で貸株サービスを有効化
- 保有株式が自動的に貸し出される
- 毎日金利が計算され、月1回支払われる(証券会社により異なる)
貸株はいつでも解約でき、株式を売却する際は自動的に返還されます。
(2) 貸株金利収入(年0.1-10%)
貸株金利は銘柄により異なり、**年0.1-10%**の範囲です。
金利の決まり方:
- 空売り需要が高い銘柄: 金利が高い(年5-10%)
- 空売り需要が低い銘柄: 金利が低い(年0.1-1%)
多くの大型株(Apple、Microsoftなど)は金利が低く、年0.1-0.5%程度です。
(3) 長期保有との相性
貸株サービスは、長期保有前提で売買しない投資家に向いています。
メリット:
- 保有しているだけで金利収入が得られる
- 売買のタイミングを気にせず、放置できる
ただし、デメリットも大きいため、慎重に判断する必要があります。
米国株貸株の主なデメリット
貸株サービスには、以下の4つの主なデメリットがあります。
(1) 議決権の喪失
貸株中は、株主総会での議決権を行使できません。
米国企業の株主総会では、以下のような重要な議案が決議されます:
- 取締役の選任
- 役員報酬の承認
- 定款変更
長期保有で企業の経営に関心がある投資家にとって、議決権の喪失は大きなデメリットです。
回避策: 証券会社によっては、株主総会の前に貸株を自動的に停止する「優待・配当自動取得サービス」がありますが、米国株では提供されていないケースが多いです。
(2) 配当金が雑所得扱いに(税制上不利)
貸株中に配当が支払われる場合、通常の配当金ではなく配当金相当額として受け取ります。
税制上の違い:
項目 | 通常の配当金 | 配当金相当額(貸株中) |
---|---|---|
税区分 | 配当所得 | 雑所得 |
課税方式 | 申告分離課税(20.315%) | 総合課税(累進課税) |
確定申告 | 不要(特定口座の場合) | 必要 |
高所得者にとっては大幅に不利:
総合課税では、所得が高いほど税率が上がります(最高55%:所得税45%+住民税10%)。
例えば、年収2,000万円の投資家が100万円の配当金相当額を受け取った場合:
- 通常の配当金: 20.315%課税 → 手取り約80万円
- 配当金相当額(雑所得): 最高55%課税 → 手取り約45万円
35万円の差が出ます。
(出典: 国税庁「配当所得の課税」https://www.nta.go.jp/...)
(3) 証券会社破綻リスク(分別管理対象外)
貸株は分別管理の対象外です。
分別管理とは: 証券会社が投資家の資産を証券会社の資産と分けて管理する制度。証券会社が倒産しても、投資家の資産は保護されます。
貸株の場合: 貸株は証券会社に貸し出されているため、分別管理の対象外です。証券会社が倒産した場合、貸株が返還されないリスクがあります。
大手証券会社(SBI証券・楽天証券・マネックス証券)は倒産リスクが低いですが、ゼロではありません。
(4) NISA口座では利用不可
NISA口座では貸株サービスを利用できない証券会社がほとんどです。
NISA口座では配当金・売却益が非課税ですが、貸株サービスを併用すると税制上の優遇が受けられなくなります。
結論: NISA口座で米国株を保有している場合、貸株サービスは利用できません。
証券会社別の貸株サービス比較
主要証券会社の貸株サービスを比較します。
(1) SBI証券(貸株金利0.01-10%)
貸株金利:
- 年0.01-10%(銘柄により異なる)
- 大型株は0.1-0.5%程度
特徴:
- 米国株の貸株サービスを提供
- 配当金相当額は雑所得扱い
- NISA口座では利用不可
(出典: SBI証券「貸株サービス」https://www.sbisec.co.jp/...)
(2) 楽天証券(貸株金利0.1-10%)
貸株金利:
- 年0.1-10%(銘柄により異なる)
特徴:
- 米国株の貸株サービスを提供
- 貸株金利は毎月支払い
- NISA口座では利用不可
(出典: 楽天証券「貸株サービスの注意点」https://www.rakuten-sec.co.jp/...)
(3) マネックス証券(貸株金利0.1-5%)
貸株金利:
- 年0.1-5%(銘柄により異なる)
特徴:
- 米国株の貸株サービスを提供
- 貸株金利は毎月支払い
- NISA口座では利用不可
(出典: マネックス証券「米国株貸株」https://www.monex.co.jp/...)
(4) 手数料・条件の比較
証券会社 | 貸株金利 | 金利支払い | NISA対応 |
---|---|---|---|
SBI証券 | 0.01-10% | 月1回 | 不可 |
楽天証券 | 0.1-10% | 月1回 | 不可 |
マネックス証券 | 0.1-5% | 月1回 | 不可 |
※2025年10月時点の情報です。最新情報は各社公式サイトをご確認ください。
貸株サービス利用の判断基準
貸株サービスを利用すべきか判断する基準を解説します。
(1) 議決権を重視するかどうか
議決権を重視する投資家: 貸株サービスは利用すべきではありません。
議決権を重視しない投資家: 貸株サービスを検討できます。ただし、他のデメリットも考慮してください。
(2) 配当課税の影響(高所得者は不利)
年収1,000万円以上の高所得者: 配当金相当額が雑所得扱いになり、総合課税で最高55%課税されるため、貸株サービスは非推奨です。
年収500万円以下の低所得者: 総合課税でも税率が低いため、貸株サービスの影響は小さいです。
(3) 貸株金利と配当利回りの比較
貸株金利 vs 配当利回り:
多くの大型株では、貸株金利(0.1-0.5%)は配当利回り(2-4%)より大幅に低いです。
例(Apple: AAPL):
- 配当利回り: 約0.5%(Appleは配当が低い)
- 貸株金利: 約0.1%
配当金が雑所得化するデメリットを考慮すると、貸株サービスは割に合わないケースが多いです。
(4) 証券会社の安全性
証券会社の倒産リスクを考慮してください。
SBI証券・楽天証券・マネックス証券は大手であり、倒産リスクは低いですが、ゼロではありません。
結論: 貸株サービスは、以下の条件を満たす場合のみ検討価値があります:
- 議決権を重視しない
- 年収500万円以下(総合課税でも税率が低い)
- 配当利回りが低い銘柄を保有している
- 証券会社の倒産リスクを許容できる
それ以外の場合、貸株サービスは利用すべきではありません。
まとめ:貸株サービスは使うべきか
米国株の貸株サービスは、年0.1-10%の金利収入が得られますが、議決権喪失・配当金が雑所得扱い・証券会社破綻リスク・NISA非対象といったデメリットが大きいです。
次のアクション:
- 議決権を重視する投資家は貸株サービスを利用しない
- 高所得者(年収1,000万円以上)は配当金相当額が雑所得化するデメリットを考慮する
- 貸株金利と配当利回りを比較し、割に合うか確認する
- NISA口座では貸株サービスを利用できないことを理解する
- 証券会社の倒産リスクを許容できるか検討する
多くの場合、貸株サービスは割に合わないため、利用しない方が無難です。長期保有前提で議決権を重視しない、かつ低所得者の場合のみ検討してください。