米国株を売却したら、税金はどうなる?
米国株で売却益が出た、または損失が出た時、日本でどのように税金がかかるのか、確定申告は必要なのか、不安に感じる投資家は多いでしょう。特定口座(源泉徴収あり)なら確定申告は不要と聞くけれど、損失が出た場合や、他の株式との損益通算はどうすればいいのか、為替差損益の扱いも気になります。
この記事では、米国株売却時の税金の仕組み、確定申告の要否、損益通算と繰越控除の方法、節税対策を2025年最新の税制に基づいて詳しく解説します。
この記事のポイント:
- 米国非居住者(日本居住者)は米国で売却益非課税、日本でのみ20.315%課税
- 特定口座(源泉徴収あり)なら確定申告不要、ただし損失繰越控除には確定申告が必要
- 損益通算で同一年内の他の株式譲渡損益と相殺可能
- 損失は3年間繰り越して控除できる
- NISA口座なら売却益非課税、ただし損失は損益通算不可
1. 米国株売却時の税金が気になる理由
(1) 売却益が出た場合の税金の扱い
米国株を売却して利益が出た場合、日本の譲渡所得税がかかります。税率は20.315%(所得税15.315%、住民税5%)です。
売却益の計算方法:
売却益 = 売却代金 - 取得費用 - 手数料等
例えば、1株100ドルで買った米国株を150ドルで売却した場合、50ドル(為替レート換算後の円建て金額)が売却益となり、これに20.315%が課税されます。
(2) 為替差損益も課税対象になる
米国株はドル建てで取引されるため、売却時の為替レート(ドル円レート)により、為替差損益が発生します。
為替差損益の例:
- 購入時: 1ドル=140円、1株100ドル = 14,000円
- 売却時: 1ドル=150円、1株100ドル = 15,000円
- 株価は変わっていないが、円安により1,000円の利益(為替差益)
重要: 為替差損益は「雑所得」ではなく、「譲渡所得」に含まれます。株価変動による損益と為替差損益を合算した額が、課税対象となる譲渡所得です。
2. 米国株売却の税金の仕組み(日本での課税のみ)
(1) 米国非居住者は米国で売却益非課税
重要なポイント: 日本居住者(米国非居住者)が米国株を売却した場合、米国では売却益に対する課税はありません。
IRS(米国内国歳入庁)のルールでは、Nonresident Alien(非居住外国人)は米国株の売却益に対して米国での課税が免除されます。配当には米国で10%の源泉徴収がありますが、売却益は米国では非課税です。
(2) 日本での譲渡所得税20.315%
日本居住者が米国株を売却して得た利益は、日本の所得税法に基づき、譲渡所得として課税されます。
税率:
- 所得税: 15.315%(復興特別所得税を含む)
- 住民税: 5%
- 合計: 20.315%
国税庁の「株式等の譲渡所得等の申告のしかた」によると、上場株式等の譲渡所得には申告分離課税が適用され、他の所得(給与所得等)とは分けて計算されます。
(3) 為替差損益は譲渡所得に含まれる
為替差損益は、株価変動による損益と合算して譲渡所得として計算されます。
計算例:
項目 | 購入時 | 売却時 |
---|---|---|
株価 | 100ドル | 120ドル |
為替レート | 1ドル=140円 | 1ドル=150円 |
円建て価格 | 14,000円 | 18,000円 |
譲渡所得:
- 売却代金18,000円 - 取得費用14,000円 = 4,000円(株価上昇+為替差益を含む)
- 課税額: 4,000円 × 20.315% = 812円(概算)
3. 確定申告の要否(特定口座・一般口座・NISA口座別)
(1) 特定口座(源泉徴収あり)の場合
特定口座(源泉徴収あり)とは: 証券会社が売却益に対して自動的に20.315%の税金を源泉徴収し、納税も代行してくれる口座。
確定申告の要否:
- 原則不要: 証券会社が納税を代行するため、確定申告は不要です。
- 確定申告した方が有利な場合:
- 損失が出て、繰越控除を受けたい場合
- 他の証券口座との損益通算をしたい場合
- 配当との損益通算をしたい場合
SBI証券などの証券会社の公式サイトでも、「特定口座(源泉徴収あり)でも、損失の繰越控除を受けるには確定申告が必要」と記載されています。
(2) 特定口座(源泉徴収なし)の場合
特定口座(源泉徴収なし)とは: 証券会社が年間取引報告書を作成してくれるが、納税は自分で行う口座。
確定申告の要否:
- 原則必要: 売却益が出た場合、確定申告が必要です。
- 例外: 年間の給与所得以外の所得(株式譲渡所得を含む)が20万円以下なら、確定申告不要(ただし住民税の申告は必要なケースあり)。
(3) 一般口座の場合
一般口座とは: 証券会社が年間取引報告書を作成しない口座。取得費用や売却益を自分で計算する必要があります。
確定申告の要否:
- 原則必要: 売却益が出た場合、確定申告が必要です。
- 自分で取得費用、売却代金、為替レートを記録し、譲渡所得を計算します。
(4) NISA口座の場合
NISA口座とは: 少額投資非課税制度を利用した口座。売却益や配当が非課税になります。
確定申告の要否:
- 不要: 売却益は非課税なので、確定申告は不要です。
注意点:
- NISA口座で損失が出た場合、損益通算や繰越控除はできません。
- 金融庁のNISA特設サイトでも、この点が明記されています。
4. 損益通算と繰越控除で税負担を軽減
(1) 損益通算の仕組みと方法
損益通算とは: 同一年内の株式譲渡益と損失を相殺すること。
具体例:
- A証券会社の特定口座で米国株を売却し、+50万円の利益
- B証券会社の特定口座で日本株を売却し、-30万円の損失
- 損益通算: 50万円 - 30万円 = 20万円(課税対象)
- 税額: 20万円 × 20.315% = 約4万円
方法:
確定申告で「申告分離課税」を選択し、複数の口座の損益を合算して申告します。国税庁の「上場株式等の譲渡損失の損益通算及び繰越控除」のページで詳細が確認できます。
(2) 3年間の繰越控除の活用法
繰越控除とは: 損失が出た年に、その損失を翌年以降3年間繰り越して、将来の利益と相殺できる制度。
具体例:
- 2025年: -100万円の損失
- 2026年: +50万円の利益 → 繰越損失と相殺して課税対象ゼロ
- 2027年: +60万円の利益 → 残り50万円の繰越損失と相殺して、課税対象10万円
方法:
- 損失が出た年に確定申告し、「上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除」を申請
- 翌年以降3年間、毎年確定申告を継続して繰越控除を適用
楽天証券の確定申告ガイドでも、繰越控除の具体的な手順が説明されています。
5. 米国株売却の節税対策
(1) 特定口座でも確定申告が有利なケース
特定口座(源泉徴収あり)でも、以下の場合は確定申告をした方が税負担が減ります:
ケース1: 損失の繰越控除
- 損失が出た年に確定申告すれば、翌年以降3年間、利益と相殺できる
ケース2: 複数口座の損益通算
- A証券会社で利益、B証券会社で損失が出た場合、確定申告で相殺できる
ケース3: 配当との損益通算
- 株式譲渡損失と配当所得を相殺できる(確定申告が必要)
(2) NISA口座の活用で売却益非課税
新NISA(2024年以降)の活用:
- 成長投資枠: 年240万円まで投資可能、売却益・配当が非課税
- つみたて投資枠: 年120万円まで投資可能、売却益・配当が非課税
NISA口座で米国株を購入すれば、売却益に対する20.315%の税金が非課税になります。ただし、米国での配当源泉徴収10%は避けられません。
(3) 損失が出た年の繰越控除の活用
損失が出た年は、必ず確定申告して繰越控除を申請しましょう。将来の利益と相殺できるため、長期的な税負担を軽減できます。
手順:
- 確定申告書に「上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除」を記載
- 証券会社の年間取引報告書を添付
- 翌年以降3年間、毎年確定申告を継続
6. まとめ:米国株売却の税金を理解して賢く投資
米国株を売却した場合、米国では売却益非課税、日本でのみ20.315%の譲渡所得税が課税されます。為替差損益も譲渡所得に含まれるため、株価変動だけでなく、為替レートの影響も考慮する必要があります。
米国株売却の税金のポイント:
- 米国での課税: 売却益は非課税(配当のみ10%源泉徴収)
- 日本での課税: 譲渡所得税20.315%
- 確定申告: 特定口座(源泉徴収あり)なら原則不要、ただし損失繰越控除には必要
- 損益通算: 同一年内の他の株式譲渡損益と相殺可能
- 繰越控除: 損失を3年間繰り越して控除可能
- NISA: 売却益非課税、ただし損失は損益通算不可
次のアクション:
- 証券口座の種類(特定口座・一般口座・NISA口座)を確認
- 年間取引報告書で売却益・損失を確認
- 損失が出た場合、確定申告で繰越控除を申請
- NISA口座を活用して、売却益を非課税に
- 不明点は税理士や税務署に相談
税制は改正される可能性があるため、最新の情報は国税庁のウェブサイトや、税理士に確認することをおすすめします。投資判断と税務対応は自己責任で行い、必要に応じて専門家のアドバイスを受けましょう。