米国株の税金、特定口座なら確定申告不要と聞いたけれど...
米国株を始める際、多くの日本人投資家が「特定口座(源泉徴収あり)なら確定申告不要」と聞いて安心します。しかし、配当金に関しては「二重課税」の問題があり、外国税額控除を受けるには確定申告が必要です。
この記事では、特定口座で米国株を取引する際の税金の仕組み、譲渡益と配当金の課税方法、外国税額控除の申告手順を詳しく解説します。
この記事のポイント:
- 特定口座(源泉徴収あり)なら譲渡益の確定申告は原則不要
- 配当金は米国で10%、日本で20.315%の二重課税
- 外国税額控除を受けるには確定申告が必須
- 配当が少額なら申告しない選択肢もある
- 年間取引報告書を元に確定申告すれば還付を受けられる
特定口座で米国株を取引するメリット
特定口座は、税金計算を証券会社が代行してくれる便利な仕組みです。
(1) 税金計算を証券会社が自動で行う
特定口座では、株式の売買による譲渡益や配当金に対する税金を、証券会社が自動的に計算してくれます。投資家は複雑な税金計算をする必要がなく、確定申告の手間を大幅に減らせます。
一般口座の場合、自分で全ての取引を記録し、譲渡益を計算して確定申告する必要がありますが、特定口座ならその手間が不要です。
(2) 年間取引報告書の自動発行
特定口座では、年間の取引内容をまとめた「年間取引報告書」が証券会社から自動的に発行されます。この報告書には、譲渡益、配当金、外国税額などが記載されており、確定申告が必要な場合に利用できます。
年間取引報告書は、通常、翌年1月中旬〜下旬に証券会社のWebサイトからダウンロードできます。
(3) 一般口座との違い
項目 | 特定口座(源泉徴収あり) | 特定口座(源泉徴収なし) | 一般口座 |
---|---|---|---|
税金計算 | 証券会社が自動 | 証券会社が自動 | 自分で計算 |
確定申告 | 原則不要 | 必要 | 必要 |
年間取引報告書 | 自動発行 | 自動発行 | 発行されない |
特定口座(源泉徴収あり)が最も手間が少ないため、初心者におすすめです。
特定口座の種類(源泉徴収あり・なし)
特定口座には「源泉徴収あり」と「源泉徴収なし」の2種類があります。
(1) 源泉徴収ありの特徴(確定申告原則不要)
特定口座(源泉徴収あり)では、譲渡益や配当金が発生するたびに、証券会社が自動的に税金を差し引いて税務署に納付します。
メリット:
- 確定申告が原則不要
- 会社員の場合、副業所得として扱われず、年末調整だけで完結
- 税金の納付漏れがない
デメリット:
- 外国税額控除を受けるには確定申告が必要
- 複数口座の損益通算も確定申告が必要
(2) 源泉徴収なしの特徴(確定申告必要)
特定口座(源泉徴収なし)では、証券会社が税金を源泉徴収しません。投資家自身が確定申告して税金を納付します。
メリット:
- 年間の譲渡益が20万円以下なら確定申告不要(会社員の場合)
- 確定申告で外国税額控除や損益通算を自由に行える
デメリット:
- 確定申告が必須
- 自分で税金を納付する手間がかかる
(3) どちらを選ぶべきか
源泉徴収ありがおすすめの人:
- 会社員で確定申告をしたくない人
- 投資額が大きく、譲渡益が20万円を超える可能性がある人
源泉徴収なしがおすすめの人:
- 年間譲渡益が20万円以下で確定申告不要の人
- 外国税額控除や損益通算を積極的に活用したい人
多くの投資家は、手間を減らすため「源泉徴収あり」を選択しています。
特定口座での譲渡益の税金処理
米国株の売却益(譲渡益)には、日本で税金がかかります。
(1) 申告分離課税20.315%の自動徴収
米国株の譲渡益には、申告分離課税として20.315%(所得税15.315%、住民税5%)が課税されます。特定口座(源泉徴収あり)では、売却時に自動的にこの税金が差し引かれます。
例(譲渡益100万円の場合):
- 税金: 100万円 × 20.315% = 203,150円
- 手取り: 100万円 - 203,150円 = 796,850円
(2) 損益通算の仕組み
同じ年に複数の取引で利益と損失が発生した場合、自動的に損益通算されます。
例:
- A株で50万円の利益
- B株で30万円の損失
- 課税対象額: 50万円 - 30万円 = 20万円
- 税金: 20万円 × 20.315% = 40,630円
特定口座(源泉徴収あり)では、この損益通算が自動的に行われます。
(3) 譲渡損失の繰越控除
年間で譲渡損失が出た場合、確定申告をすれば、翌年以降3年間にわたって損失を繰り越せます。
例:
- 2025年: -100万円の損失 → 確定申告で繰越控除を申請
- 2026年: +50万円の利益 → 前年の損失-100万円と通算して課税なし
- 2027年: +60万円の利益 → 残りの損失-50万円と通算して課税対象は10万円
ただし、繰越控除を受けるには、損失が出た年も含めて毎年確定申告が必要です。
特定口座での配当金の税金と二重課税
米国株の配当金には、米国と日本の両方で税金がかかります。
(1) 米国での源泉徴収10%
米国企業が配当を支払う際、米国で自動的に10%が源泉徴収されます。これは、日米租税条約に基づく税率です。
W-8BENフォームの提出: この10%税率を適用するには、証券会社を通じて「W-8BENフォーム」を米国当局に提出する必要があります。未提出の場合、税率が30%になるため注意が必要です。
主要ネット証券(SBI証券・楽天証券・マネックス証券等)では、口座開設時に自動的にW-8BENを提出してくれます。
(2) 日本での課税20.315%
米国で10%源泉徴収された後、日本でさらに20.315%が課税されます。特定口座(源泉徴収あり)では、この税金も自動的に差し引かれます。
例(配当金100ドル、為替レート150円/ドルの場合):
- 米国で10ドル源泉徴収 → 手取り90ドル(13,500円)
- 日本で20.315%課税 → 約2,742円
- 最終的な手取り: 約10,758円
(3) 特定口座では外国税額控除が自動適用されない
二重課税を解消する「外国税額控除」は、特定口座(源泉徴収あり)では自動適用されません。外国税額控除を受けるには、年間取引報告書を元に自分で確定申告する必要があります。
これが、特定口座でも確定申告が必要になる主なケースです。
外国税額控除を受けるための確定申告
外国税額控除を受けることで、米国で課税された10%の一部を取り戻せます。
(1) 年間取引報告書の確認方法
証券会社から発行される「年間取引報告書」には、以下の情報が記載されています。
- 譲渡益・損失: 売却益の合計
- 配当金: 受け取った配当金の合計
- 外国税額: 米国で源泉徴収された税額
外国税額控除を申告する際は、この「外国税額」の欄を確認します。
(2) 確定申告書の記入手順
外国税額控除を受けるには、確定申告書に以下を記入します。
- 確定申告書B(第一表・第二表): 配当所得を記入
- 外国税額控除に関する明細書: 外国で課税された税額を記入
- 年間取引報告書(添付): 証券会社発行の報告書を添付
e-Tax(電子申告)を利用すれば、自宅からオンラインで申告できます。
(3) 申告すべきケース・しないケース
外国税額控除を受けるには確定申告が必要ですが、配当が少額の場合は申告しない選択肢もあります。
申告すべきケース:
- 年間配当金が10万円以上(還付額が数千円〜数万円見込める)
- 複数の証券口座で損益通算したい
- 譲渡損失を繰越控除したい
申告しなくても良いケース:
- 年間配当金が数万円程度(還付額が数百円〜千円程度)
- 確定申告の手間を避けたい
還付額と確定申告の手間を比較して、判断しましょう。
まとめ:特定口座で米国株の税金を最適化
特定口座(源泉徴収あり)なら、譲渡益の確定申告は原則不要です。しかし、配当金の二重課税を解消する外国税額控除を受けるには、確定申告が必要になります。
次のアクション:
- 特定口座(源泉徴収あり)で米国株取引を始める
- 年間取引報告書を確認して、外国税額を把握する
- 配当が一定額以上なら、確定申告で外国税額控除を受ける
- e-Taxを利用してオンラインで申告する
重要なポイント:
- 譲渡益は確定申告不要: 特定口座(源泉徴収あり)なら自動納税
- 配当の二重課税: 米国10%、日本20.315%
- 外国税額控除は手動: 確定申告が必要
- 少額配当なら申告不要も選択肢: 手間と還付額を比較
米国株投資では、税金の仕組みを理解することが重要です。特定口座を活用すれば、税金計算の手間を大幅に減らせます。配当が増えてきたら、確定申告で外国税額控除を受けることで、税負担を最適化しましょう。