米国株で信用取引をして、レバレッジ効果を狙いたい…
日本株で信用取引の経験がある方の中には、「米国株でも信用取引ができるのか」と気になっている方も多いでしょう。レバレッジを効かせて大きなリターンを狙いたい一方で、リスクも気になるところです。
この記事では、日本の証券会社での米国株信用取引の対応状況・仕組み・リスク・代替手段を詳しく解説します。
この記事のポイント:
- SBI証券、楽天証券、マネックス証券で米国株信用取引が可能
- 通常は最大2倍のレバレッジ(初期証拠金率50%)
- 元本以上の損失リスクがあり、追証(マージンコール)による強制決済も
- 代替手段としてCFDやオプション取引も検討できる
1. 米国株の信用取引とは
米国株の信用取引は、証拠金を担保に資金を借りて取引する仕組みです。
(1) 信用取引の基本的な仕組み
信用取引とは、証券会社から資金や株式を借りて売買する取引です。
現物取引との違い:
- 現物取引: 自己資金の範囲内で取引
- 信用取引: 証拠金の数倍の取引が可能(レバレッジ効果)
例えば、100万円の証拠金で200万円分の株を購入できます(レバレッジ2倍)。
(2) マージン取引(Margin Trading)
米国では、信用取引を「マージン取引(Margin Trading)」と呼びます。
SECやFINRAによる厳格な規制があり、投資家保護が図られています(SEC "Margin Trading and Short Selling")。
(3) 日本株信用取引との違い
項目 | 日本株信用取引 | 米国株信用取引 |
---|---|---|
最大レバレッジ | 約3.3倍(委託保証金率30%) | 2倍(初期証拠金率50%) |
維持証拠金率 | 約20% | 約25% |
取引期間 | 制度信用は6ヶ月 | 無期限 |
空売り | 可能 | 可能(取扱銘柄は限定的) |
米国株信用取引は、日本株より低いレバレッジですが、無期限で保有できます。
2. 日本の証券会社での米国株信用取引の対応状況
主要ネット証券での対応状況を確認しましょう。
(1) SBI証券の対応状況
SBI証券では、米国株の信用取引(マージン取引)が可能です(SBI証券「米国株信用取引」)。
主な条件:
- 初期証拠金率: 50%
- 維持証拠金率: 25%
- 取扱銘柄: 主要銘柄(約1,000銘柄以上)
- 金利: 年率2-5%程度(変動あり)
SBI証券のウェブサイトで最新の取扱銘柄と条件を確認できます。
(2) 楽天証券の対応状況
楽天証券でも米国株の信用取引が可能です(楽天証券「米国株信用取引ガイド」)。
主な条件:
- 初期証拠金率: 50%
- 維持証拠金率: 25%
- 取扱銘柄: 主要銘柄(SBI証券とほぼ同等)
- 金利: 年率2-5%程度
楽天ポイントを証拠金として利用できる場合もあります。
(3) マネックス証券の対応状況
マネックス証券でも米国株の信用取引に対応しています(マネックス証券「米国株マージン取引」)。
主な条件:
- 初期証拠金率: 50%
- 維持証拠金率: 25-30%(銘柄により異なる)
- 取扱銘柄: 主要銘柄
- 金利: 年率2-5%程度
マネックス証券は時間外取引にも対応しており、デイトレードにも適しています。
(4) その他の証券会社
松井証券: 現時点では米国株の信用取引に未対応 auカブコム証券: 一部銘柄で対応
証券会社により取扱銘柄や条件が異なるため、公式サイトで最新情報を確認してください。
3. 米国株信用取引の仕組みとレバレッジ
信用取引の仕組みを詳しく見てみましょう。
(1) 初期証拠金率(通常50%)
初期証拠金率は、取引開始時に必要な証拠金の割合です。
**米国の規制(Regulation T)により、初期証拠金率は50%**と定められています(Federal Reserve "Regulation T")。
例えば、200万円分の株を購入する場合:
- 必要証拠金: 200万円 × 50% = 100万円
- 借入額: 100万円
(2) 維持証拠金率(通常25%)
維持証拠金率は、取引継続に必要な最低証拠金の割合です。
FINRAの規制により、維持証拠金率は25%以上とされています(FINRA "Understanding Margin Accounts")。
証拠金維持率の計算式: 証拠金維持率(%)= (現在の資産評価額 - 借入額) ÷ 現在の資産評価額 × 100
(3) 追証(マージンコール)の仕組み
証拠金維持率が維持証拠金率を下回ると、追証(マージンコール)が発生します。
追証の例:
- 100万円の証拠金で200万円の株を購入(証拠金維持率50%)
- 株価が20%下落し、資産評価額が160万円に
- 証拠金維持率 = (160万円 - 100万円) ÷ 160万円 × 100 = 37.5%
- まだ追証は発生しない(維持証拠金率25%を上回っている)
さらに株価が下落し、資産評価額が130万円になった場合:
- 証拠金維持率 = (130万円 - 100万円) ÷ 130万円 × 100 = 23%
- 追証発生! 証拠金を追加入金するか、ポジションを縮小する必要がある
追証に応じないと、強制決済(ロスカット)されます。
(4) 金利負担と手数料
信用取引では、資金を借りるための金利がかかります。
主なコスト:
- 金利: 年率2-5%程度(証券会社により異なる)
- 売買手数料: 通常の取引手数料と同じ(約0.495%、上限22ドル)
- 為替手数料: 片道25銭程度
長期保有すると金利負担が大きくなるため、信用取引は短期取引向きです。
4. 信用取引のリスクと注意点
信用取引はハイリスク・ハイリターンの取引です。
(1) 元本以上の損失リスク
信用取引では、元本以上の損失が発生する可能性があります。
最悪のシナリオ:
- 100万円の証拠金で200万円の株を購入
- 株価が50%暴落し、資産評価額が100万円に
- 借入額100万円を返済すると、手元資金はゼロ
- 証拠金100万円が全額消失
さらに株価が下落すれば、元本以上の損失が発生します(金融庁「信用取引のリスクについて」)。
(2) 強制決済(ロスカット)
追証に応じない場合、証券会社が強制的にポジションを決済します。
強制決済のリスク:
- 株価が一時的に下落しただけでも、強制決済される可能性
- 強制決済後に株価が回復しても、損失は確定してしまう
強制決済を避けるため、証拠金に余裕を持つことが重要です。
(3) 為替変動による影響
米国株はドル建て資産のため、為替変動の影響を受けます。
為替リスクの例:
- 株価が横ばいでも、ドル円が10%円高になれば円建て評価額は10%減少
- 証拠金維持率が低下し、追証が発生する可能性
レバレッジをかけた取引では、為替変動のリスクも拡大します。
(4) 金利負担の積み重ね
金利は日割りで発生します。
金利負担の例:
- 借入額: 100万円
- 金利: 年率3%
- 1ヶ月の金利負担: 約2,500円
- 1年の金利負担: 約3万円
長期保有すると、金利負担が利益を圧迫します。
5. 代替手段:CFDやオプション取引
信用取引以外にも、レバレッジを効かせる方法があります。
(1) CFD(差金決済取引)の特徴
CFD(Contract for Difference)は、実際に株式を保有せず、価格差だけを取引する仕組みです。
CFDのメリット:
- 高いレバレッジ: 最大5-10倍(証券会社により異なる)
- 取扱銘柄が豊富: 米国株・欧州株・コモディティ等
- 空売りが容易: 下落相場でも利益を狙える
CFDのデメリット:
- 金利負担: オーバーナイト金利がかかる
- 配当を受け取れない: 配当調整金が発生
- 税制: 総合課税(累進課税)の対象
(2) オプション取引の活用
オプション取引は、将来の一定価格で売買する権利を取引する仕組みです。
オプション取引のメリット:
- リスク限定: 購入したオプションのプレミアム(購入価格)以上の損失はない
- 高いレバレッジ: 少額で大きなポジションを取れる
オプション取引のデメリット:
- 複雑: 仕組みが難しく、初心者には不向き
- 時間価値の減衰: 時間が経過するとオプション価値が減少
(3) 信用取引との比較
項目 | 信用取引 | CFD | オプション取引 |
---|---|---|---|
最大レバレッジ | 2倍 | 5-10倍 | 10倍以上 |
金利負担 | あり | あり(高め) | なし(プレミアムのみ) |
税制 | 申告分離課税20.315% | 総合課税(累進) | 申告分離課税20.315% |
初心者向け | △ | △ | × |
リスク許容度と投資経験に応じて選択しましょう。
6. まとめ:米国株信用取引の向き不向き
米国株の信用取引は、レバレッジを効かせた取引が可能ですが、元本以上の損失リスクもあります。
向いている人:
- 信用取引の経験があり、リスク管理ができる
- 短期的な値動きを予測できる
- 追証に対応できる余裕資金がある
向いていない人:
- 投資経験が浅い
- 長期保有を前提とする(金利負担が大きい)
- 追証のリスクを許容できない
次のアクション:
- まずは現物取引で米国株に慣れる
- 少額で信用取引を体験し、リスクを理解する
- 証拠金に余裕を持ち、追証リスクを抑える
- CFDやオプション取引も選択肢として検討する
信用取引は大きなリターンを狙える反面、大きな損失リスクもあります。リスクを十分に理解した上で、慎重に判断してください。投資判断は最新情報を確認の上、ご自身の責任で行ってください。