米国株配当金の税金が複雑な理由
米国株の配当金を受け取ったとき、「税金がいくら引かれているのか」「確定申告で税金を取り戻せるのか」と疑問に思ったことはありませんか。
米国株の配当金には、米国と日本の両方で税金がかかる「二重課税」の仕組みがあります。外国税額控除を使えば米国で支払った税金の一部を取り戻せますが、確定申告が必要です。また、NISA口座での配当金課税には特殊性があり、誤解している方も多いのが現状です。
この記事では、米国株配当金の二重課税の仕組み、外国税額控除の申請方法、NISA口座での配当金の税金について2025年最新情報を詳しく解説します。
この記事のポイント:
- 米国株配当は米国で10%源泉徴収後、日本で20.315%課税される(二重課税)
- 外国税額控除を使えば米国で支払った税金の一部を取り戻せる(確定申告が必要)
- NISA口座では日本の税金は非課税だが米国の10%源泉徴収は免除されない
- W-8BEN未提出だと米国で30%源泉徴収される
米国株配当の二重課税の仕組み
米国株の配当金には、米国と日本の両方で税金がかかります。
(1) 米国での源泉徴収(10%)
米国株の配当金が支払われる際、米国で自動的に税金が差し引かれます(源泉徴収)。
源泉徴収率:
- 日米租税条約の軽減税率適用時:10%
- W-8BEN未提出の場合:30%
例:100ドルの配当金の場合
- 米国で10ドル源泉徴収 → 手取り90ドル
米国で源泉徴収された後、日本の証券口座に入金されます。
(2) 日米租税条約とW-8BENの提出
日米租税条約とは: 日本とアメリカの間で結ばれた租税条約により、米国株の配当金の源泉徴収率は30%から10%に軽減されます。
W-8BENとは: 米国非居住者(日本人投資家)が米国の証券会社や日本の証券会社経由で米国株を取引する際に提出する税務フォームです。W-8BENを提出することで、日米租税条約の軽減税率(10%)が適用されます。
提出方法: 証券会社の口座開設時や定期的に(通常3年ごと)提出します。SBI証券、楽天証券、マネックス証券など日本の主要証券会社では、オンラインで簡単に提出できます。
重要: W-8BENを提出しないと、米国で30%源泉徴収されるため、必ず提出しましょう。
(3) 日本での配当所得課税(20.315%)
米国で10%源泉徴収された後、日本でさらに配当所得として課税されます。
日本の配当所得税率:
- 所得税:15.315%
- 住民税:5%
- 合計:20.315%
課税ベース: 米国で源泉徴収された後の金額ではなく、配当金の総額(源泉徴収前の金額)が課税ベースになります。
例:100ドルの配当金の場合
- 米国で10ドル源泉徴収 → 手取り90ドル
- 日本では100ドルを課税ベースとして20.315ドル課税
特定口座(源泉徴収あり)の場合: 証券会社が自動的に日本の税金を計算・納税してくれます。
(4) 実質的な税負担は約28%
二重課税の計算例: 100ドルの配当金の場合
- 米国で10ドル源泉徴収
- 日本で20.315ドル課税
- 実質手取り:約69.7ドル(税負担約30.3%)
ただし、外国税額控除を使えば米国で支払った10ドルの一部を取り戻せます。
外国税額控除で税金を取り戻す方法
外国税額控除を使えば、米国で支払った税金の一部を取り戻せます。
(1) 外国税額控除とは
外国税額控除の定義: 外国で課税された税金を、日本の所得税から差し引くことができる制度です。二重課税を調整するための仕組みです。
控除対象: 米国で源泉徴収された10%が控除対象になります。
控除額の上限: 外国税額控除には上限があります。上限は、日本の所得税額のうち「外国所得÷総所得」の割合で計算されます。
(2) 控除額の計算方法
控除額の計算式: 控除限度額 = 日本の所得税額 × (外国所得 ÷ 総所得)
実際の控除額は、米国で支払った税額と控除限度額のうち、少ない方になります。
具体例:
- 米国株配当:年間50万円
- 米国で源泉徴収された税額:5万円(10%)
- 日本の所得税額:30万円
- 総所得:500万円
控除限度額 = 30万円 × (50万円 ÷ 500万円) = 3万円
この場合、5万円支払っているが、控除できるのは3万円までです。
(3) 確定申告の具体的な手順
外国税額控除を受けるには、確定申告が必要です。
必要書類:
- 確定申告書
- 外国税額控除に関する明細書(確定申告書に添付)
- 証券会社の年間取引報告書(外国所得税の額が記載されている)
手順:
- 証券会社から年間取引報告書を取得(通常1月下旬〜2月初旬に郵送またはオンラインで提供)
- 外国所得税の額を確認(米国で源泉徴収された税額)
- 確定申告書に「外国税額控除に関する明細書」を記入
- e-Taxまたは税務署窓口で提出
注意点:
- 特定口座(源泉徴収あり)でも外国税額控除は自動適用されません
- 必ず確定申告が必要です
- 確定申告の期限は翌年3月15日まで
(4) e-Taxでの入力方法
e-Tax(国税電子申告・納税システム)を使えば、オンラインで確定申告できます。
入力手順:
- e-Taxにログイン
- 確定申告書作成コーナーを選択
- 「外国税額控除」の項目を選択
- 証券会社の年間取引報告書を見ながら、外国所得税の額を入力
- システムが自動的に控除額を計算
- 確定申告書を送信
e-Taxを使えば、税務署に行かずに自宅から申告できます。
NISA口座での配当金の税金
NISA口座での配当金には、特殊な課税ルールがあります。
(1) NISA配当は日本では非課税
NISA口座で保有する米国株の配当金は、日本では非課税です。
非課税の範囲:
- 日本の所得税:15.315% → 非課税
- 日本の住民税:5% → 非課税
NISA口座では、日本の税金20.315%がかかりません。
(2) 米国10%源泉徴収は免除されない
重要: NISA口座でも、米国での源泉徴収10%は免除されません。
米国の税制では、日本のNISA制度は認められていないため、米国株の配当金には米国で10%が源泉徴収されます。
NISA口座での実質税負担:
- 米国で10%源泉徴収
- 日本では非課税
- 実質税負担:10%
特定口座で外国税額控除を使う場合と比べて、どちらが有利かは総所得や控除限度額によって異なります。
(3) 外国税額控除は使えない
NISA口座では、外国税額控除は使えません。
理由: NISA口座の配当金は日本では非課税所得のため、外国税額控除の対象外です。
比較:
- 特定口座:米国10% + 日本20.315% - 外国税額控除
- NISA口座:米国10%のみ(外国税額控除なし)
総所得が高く、外国税額控除の上限が十分にある場合は、特定口座の方が税負担が少ない場合があります。
証券会社別の税金処理と確定申告の準備
証券会社での税金処理と確定申告の準備について確認しましょう。
(1) 特定口座(源泉徴収あり)の税金自動計算
特定口座(源泉徴収あり)とは: 証券会社が税金を自動的に計算・納税してくれる口座です。
税金処理:
- 米国で10%源泉徴収(自動)
- 日本で20.315%課税(証券会社が自動計算・納税)
確定申告の要否: 特定口座(源泉徴収あり)なら、原則として確定申告は不要です。ただし、外国税額控除を受ける場合は確定申告が必要です。
(2) 年間取引報告書の見方(SBI証券・楽天証券)
年間取引報告書とは: 証券会社が発行する、1年間の取引内容をまとめた報告書です。確定申告に必要な情報が記載されています。
記載内容:
- 配当所得の金額
- 外国所得税の額(米国で源泉徴収された税額)
- 源泉徴収された日本の税額
入手方法:
- SBI証券:WEBサイトでPDFダウンロード可能(1月下旬)
- 楽天証券:マイページからダウンロード(1月下旬)
- 郵送でも受け取れる(設定による)
年間取引報告書の「外国所得税の額」を確認し、確定申告書に記入します。
(3) 確定申告に必要な書類
外国税額控除の確定申告に必要な書類:
- 確定申告書
- 外国税額控除に関する明細書
- 証券会社の年間取引報告書
- マイナンバーカード(または通知カード + 本人確認書類)
提出方法:
- e-Taxでオンライン提出
- 税務署窓口で提出
- 郵送で提出
e-Taxが最も便利で、控除額の自動計算もしてくれます。
まとめ:米国株配当の税金を正しく理解する
米国株配当金の税金は二重課税の仕組みが複雑ですが、正しく理解すれば節税できます。
米国株配当金の税金まとめ:
- 米国で10%源泉徴収後、日本で20.315%課税される(二重課税)
- 外国税額控除を使えば米国で支払った税金の一部を取り戻せる(確定申告が必要)
- NISA口座では日本の税金は非課税だが米国の10%源泉徴収は免除されない
- W-8BENを提出しないと米国で30%源泉徴収される
- 特定口座(源泉徴収あり)でも外国税額控除は自動適用されない
次のアクション:
- 証券会社でW-8BENが提出済みか確認する(未提出なら即座に提出)
- 年間取引報告書を取得して外国所得税の額を確認する
- 外国税額控除の確定申告をe-Taxで行う(3月15日まで)
- NISA口座と特定口座でどちらが有利か総所得に応じて検討する
米国株配当金の税金を正しく理解し、外国税額控除を活用して節税しましょう。