Amazon(AMZN)の10-K情報で何が分かるのか
Amazon株に投資している、またはこれから投資を検討している方の中には、「AWS(Amazon Web Services)の業績を詳しく知りたい」「Amazonのセグメント別売上構成を理解したい」と考えている方も多いのではないでしょうか。
Amazonが米国証券取引委員会(SEC)に提出する10-K(年次報告書)には、AWSをはじめとする各事業セグメントの詳細な財務情報が記載されています。しかし、10-Kは英語で150ページ以上もあり、すべてを読み解くのは困難です。
この記事では、Amazonの10-KからAWSセグメントの財務情報を効率的に読み取る方法を解説します。
この記事のポイント:
- 10-KはSECのEDGARシステムで無料で入手できる米国企業の年次報告書
- 重要なのは150ページのうち30-40ページのみ(Item 1、1A、7、8)
- AWSの財務情報はItem 8のNote 10「Segment Information」に記載
- 2024年度、AWS売上は19%増の1,080億ドル、営業利益は62%増の398億ドルに到達
- キャッシュフロー計算書とリスク要因の確認が投資判断の鍵
10-Kの基礎知識(米国企業の年次報告書とは)
(1) 10-Kとは何か(日本の有価証券報告書との違い)
10-K(Form 10-K)は、米国企業がSECに提出する年次報告書です。日本企業が金融庁に提出する「有価証券報告書」に相当します。
10-Kには以下の情報が含まれます:
- 事業内容(ビジネスモデル、競合環境)
- リスク要因(企業が直面する課題)
- 財務諸表(貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書)
- 経営者による分析(MD&A: Management's Discussion and Analysis)
- セグメント情報(事業部門別の売上・利益)
Amazonのような大企業の10-Kは150-300ページに及びますが、投資判断に必要な情報は30-40ページ程度に集約されています。
(2) EDGARシステムでの10-K取得方法
10-KはSECのEDGARシステム(https://www.sec.gov/edgar)で無料で取得できます。検索方法は以下の通りです:
- EDGARサイトにアクセス
- 企業名(「Amazon.com Inc」)またはティッカーシンボル(AMZN)で検索
- Filing Type欄で「10-K」を選択
- 最新の10-Kをクリックして閲覧
Amazon公式IRサイト(https://ir.aboutamazon.com/)からもPDF版の年次報告書をダウンロードできます。
(3) 10-Q(四半期報告書)・8-K(臨時報告書)との違い
SEC提出書類には10-K以外にも以下があります:
- 10-Q(四半期報告書): 3ヶ月ごとの財務状況を報告。10-Kより簡素
- 8-K(臨時報告書): M&A、経営陣交代などの重要イベント発生時に提出
10-Kは年に1回、会計年度末後90日以内に提出され、最も詳細な情報を含みます。
10-Kの重要セクションと効率的な読み方
150ページすべてを読む必要はありません。ウォーレン・バフェットをはじめとするプロ投資家は、以下のセクションに絞って読んでいると言われています。
(1) Item 1(事業内容):ビジネスモデルの理解
Item 1では企業の事業内容、ビジネスモデル、競合環境が説明されています。Amazonの場合、North America、International、AWSの3つの主要セグメントの概要が記載されています。
(2) Item 1A(リスク要因):企業が直面する課題
Item 1Aには企業が直面する重大なリスクが重要度順に記載されています。
バフェットは「まずリスク要因を読む」と述べており、このセクションから企業の経営課題を理解することが投資判断の第一歩です。リスク要因の記載順序の変化は、経営方針の変更を示す兆候となることもあります。
(3) Item 7(MD&A):経営者による分析
MD&A(Management's Discussion and Analysis)では、経営者が財務状況や業績を分析・説明しています。「なぜ売上が増えたのか」「今後の戦略は何か」といった定性情報が得られます。
(4) Item 8(財務諸表):セグメント情報の確認
Item 8には監査済みの財務諸表が記載されています。貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書に加え、注記(Notes)が含まれます。
AWSの財務情報は、**Note 10「Segment Information」**に記載されています。
AWSセグメントの財務情報の見方
(1) Note 10(セグメント情報)の所在
Amazonの10-KのItem 8(財務諸表)内、財務諸表注記のNote 10「Segment Information」にAWSセグメントの詳細が記載されています。
(2) AWS売上・営業利益の確認方法
Note 10には以下の情報があります:
- Net sales(売上高): 各セグメント別の売上
- Operating income(営業利益): 各セグメント別の営業利益
Amazonは2015年から、AWSを独立セグメントとして報告開始しました。それ以前はAWS単体の財務情報が開示されていませんでした。
(3) 営業利益率の比較(North America・International)
AWSの営業利益率を他のセグメント(North America、International)と比較することで、AWSの収益性の高さが分かります。
2024年度の例(10-KのNote 10より計算):
- AWS: 営業利益率 約37%(営業利益398億ドル ÷ 売上1,080億ドル)
- North America: 営業利益率 約6-7%
- International: 営業損失(赤字)
AWSが全社の利益を支えている構造が明確です。
(4) 2024年度のAWS実績(売上19%増・営業利益62%増)
2025年2月に提出された2024年度10-Kによると:
- AWS売上: 1,080億ドル(前年比+19%)
- AWS営業利益: 398億ドル(前年246億ドル、+62%)
AWSは成長を続けており、クラウド市場でのシェア拡大が確認できます。
10-Kを活用した投資判断のポイント
(1) キャッシュフロー計算書の確認(収益と現金流入の一致)
損益計算書で利益が出ていても、キャッシュフローがマイナスであれば資金繰りに問題がある可能性があります。キャッシュフロー計算書(営業CF、投資CF、財務CF)を必ず確認しましょう。
(2) リスク要因(Item 1A)の記載順序変化に注目
リスク要因の記載順序が前年と変わっている場合、企業が重視するリスクが変化した可能性があります。経営方針の転換を示す兆候として注意が必要です。
(3) 過去数年分の10-Kで成長率を追う
単年度の10-Kだけでなく、過去3-5年分を比較することで、AWSの成長トレンド(売上成長率、利益率の推移)を把握できます。EDGARで過去の10-Kも無料で閲覧可能です。
まとめ:10-Kから読み取るべき情報
Amazonの10-KからAWSセグメントの財務情報を読み取るには、以下のステップが効率的です:
まとめのポイント:
- SECのEDGARシステムで最新の10-Kを無料取得
- Item 1(事業内容)、Item 1A(リスク要因)、Item 7(MD&A)、Item 8(財務諸表)の30-40ページに絞って読む
- AWS財務情報はNote 10「Segment Information」で確認
- キャッシュフロー計算書とリスク要因の変化に注目
- 過去数年分の10-Kを比較して成長トレンドを把握
次のアクション:
- EDGARでAmazonの最新10-Kを検索してみる
- Note 10のセグメント情報でAWSの営業利益率を確認する
- Item 1Aのリスク要因を読み、Amazonが直面する課題を理解する
10-Kは初心者にはハードルが高く感じられますが、重要セクションに絞れば十分に読み解けます。米国株投資では企業の財務情報を自分で確認する習慣をつけることが、長期的な成功につながります。
