8035 ADR、米国市場で東京エレクトロンに投資できる?
「東京エレクトロン(8035)のADRって何?」「米国市場で日本株に投資できるって本当?」と疑問に思っている投資家の方は多いのではないでしょうか。ADR(米国預託証券)は、日本株を米ドル建てで米国市場で取引できる仕組みですが、その仕組みやメリット・デメリットを正しく理解しないまま投資を始めると、思わぬリスクに直面する可能性があります。
この記事では、8035(東京エレクトロン)のADRの仕組み、取引方法、投資判断のポイントを、初心者にも分かりやすく解説します。
この記事のポイント:
- 8035は東京エレクトロン、ADRティッカーはTOELY(OTC市場で米ドル建て取引)
- ADR(米国預託証券)は預託銀行が日本株を保有し、米国市場で証券を発行する仕組み
- メリット:米ドル建て資産として保有できる、米国市場の取引時間で売買可能
- デメリット:為替リスク、配当の二重課税(日本10%、米国10%)、OTC市場の流動性問題
- 外国税額控除の手続きで一部の税金は還付可能
1. 8035 ADRとは
(1) 8035は東京エレクトロンの証券コード
「8035」は、東京証券取引所で取引されている東京エレクトロン株式会社の証券コードです。東京エレクトロンは、日本最大・世界4位の半導体製造装置メーカーで、エッチング装置、成膜装置、洗浄装置などを製造しています。
同社の株式は東証プライム市場に上場しており、日本の投資家は通常この市場で円建てで取引します。
(2) ADRティッカーはTOELY(OTC市場)
東京エレクトロンのADR(米国預託証券)は、ティッカーシンボルTOELYとしてOTC(店頭)市場で取引されています。OTC市場は、ニューヨーク証券取引所(NYSE)やナスダック(NASDAQ)などの主要取引所ではなく、店頭で取引される市場です。
ADRとして米国市場で取引されることで、米国の投資家や米ドル建て資産を保有したい日本人投資家にとって、アクセスしやすくなっています。
(3) 預託銀行はJPMorgan Chase Bank
東京エレクトロンのADRは、**JPMorgan Chase Bank, N.A.**が預託銀行として管理しています。預託銀行は、日本株の現物を保有し、その見返りとして米国市場でADRを発行する役割を担います。
この仕組みにより、投資家は日本の証券取引所で直接株を購入することなく、米国市場で東京エレクトロンに投資できるようになります。
2. ADRの仕組みと基礎知識
(1) ADR(米国預託証券)とは
ADR(American Depositary Receipt、米国預託証券)は、外国企業の株式を米国市場で取引できるようにした証券です。預託銀行が外国株を保有し、その見返りとして米国市場でADRを発行します。
ADRは米ドル建てで取引され、米国の証券会社を通じて購入できます。日本株ADRとしては、トヨタ自動車、ソニーグループ、東京エレクトロンなど、多くの大手企業が米国市場に上場しています。
(2) 預託銀行の役割
預託銀行(Depositary Bank)は、以下の役割を果たします:
- 日本株の現物保有: 預託銀行が東京証券取引所で8035株を購入し、保管します
- ADRの発行: 保有株式を裏付けとして、米国市場でADRを発行します
- 配当の受け取りと分配: 日本株の配当金を受け取り、米ドルに換算してADR保有者に分配します
- 株式分割・併合への対応: 日本株の株式分割や併合があった場合、ADRの発行数を調整します
この仕組みにより、投資家は日本株を直接保有することなく、米国市場で間接的に東京エレクトロンに投資できます。
(3) ADRと現物株の違い
ADRと東京証券取引所で取引される現物株(8035)には、以下のような違いがあります:
| 項目 | ADR(TOELY) | 現物株(8035) |
|---|---|---|
| 取引市場 | OTC市場(米国) | 東京証券取引所 |
| 通貨 | 米ドル | 日本円 |
| 取引時間 | 米国市場時間 | 東京市場時間 |
| 配当課税 | 二重課税(日本10%、米国10%) | 日本のみ課税 |
| 為替リスク | あり | なし |
| 流動性 | OTC市場のため低め | 東証プライム市場のため高い |
3. 東京エレクトロンの企業概要
(1) 日本最大・世界4位の半導体製造装置メーカー
東京エレクトロン(Tokyo Electron Limited)は、日本最大、世界第4位の半導体製造装置メーカーです。半導体チップの製造に不可欠なエッチング装置、成膜装置、洗浄装置などを製造・販売しています。
半導体産業は、スマートフォン、データセンター、AI、自動車など、現代社会のあらゆる分野で必要とされる基盤技術であり、東京エレクトロンは世界の半導体サプライチェーンにおいて重要な役割を担っています。
(2) 主要顧客(Samsung、Intel、TSMC等)
東京エレクトロンの主要顧客には、以下のような世界的な半導体メーカーが含まれます:
- Samsung Electronics(韓国): メモリ半導体の世界最大手
- Intel Corporation(米国): プロセッサの世界最大手
- TSMC(台湾積体電路製造、台湾): ファウンドリ(受託製造)の世界最大手
- SK Hynix(韓国): メモリ半導体の大手
これらの企業が新しい半導体工場を建設したり、生産能力を拡大したりする際に、東京エレクトロンの製造装置が採用されることが多く、半導体市場の成長が同社の業績に直結します。
(3) 事業内容(エッチング、成膜、洗浄装置等)
東京エレクトロンの主力製品は以下の通りです:
- エッチング装置: 半導体ウエハー上の不要な部分を削り取る装置
- 成膜装置: 半導体ウエハー上に薄い膜を形成する装置(CVD装置、スパッタ装置など)
- 洗浄装置: 半導体製造工程での汚染を除去する装置
- 塗布・現像装置: フォトレジスト(感光材)を塗布・現像する装置
これらの装置は、半導体チップの微細化(ナノメートル単位の回路形成)に不可欠であり、技術革新が進むほど需要が高まる傾向にあります。
(4) 株価動向とアナリスト評価
2025年11月13日時点で、東京エレクトロンの株価は33,910円です(Investing.comより)。52週レンジは16,560円~37,230円であり、直近の高値(37,230円)から約9%下落しています。
アナリスト評価では、15人が「買い」推奨、1人が「売り」推奨となっており、総合評価は「買い」とされています。半導体製造装置市場は2024-2025年にかけて成長が続くと予測されており、AI需要の拡大が追い風となっています。
ただし、株価予測は不確実性が高く、投資判断は自己責任で行う必要があります。
4. 8035 ADRの取引方法と購入手順
(1) 米国株取引可能な証券会社(SBI、楽天、マネックス等)
8035 ADR(ティッカーTOELY)を購入するには、米国株取引が可能な証券会社で口座を開設する必要があります。日本の主要証券会社では、以下が対応しています:
- SBI証券: 米国株取引手数料が業界最安水準
- 楽天証券: 楽天ポイントが貯まる、使いやすいアプリ
- マネックス証券: 米国株の銘柄数が豊富、情報ツールが充実
これらの証券会社で米国株取引口座を開設し、米ドルを入金(または円から米ドルに両替)すれば、ADRを購入できます。
(2) OTC市場での取引方法
東京エレクトロンのADRはOTC市場で取引されるため、主要取引所(NYSEやNASDAQ)に上場している銘柄と比べて、以下の点に注意が必要です:
- 流動性が低い: 取引量が少ないため、売買スプレッド(買値と売値の差)が広くなる可能性があります
- 取引時間: 米国市場の取引時間内(日本時間23:30~翌6:00、夏時間は22:30~翌5:00)に取引できます
- 注文方法: 成行注文ではなく、指値注文を使うことで、想定外の価格での約定を避けられます
(3) ADR株価の確認方法
8035 ADRの株価は、以下のサイトで確認できます:
- Nasdaq公式サイト (https://www.nasdaq.com/market-activity/stocks/toely): リアルタイム株価、ニュース
- 日経225jp.com (https://nikkei225jp.com/adr/adr.php?a=8035): ADR株価とPTS(私設取引システム)株価の複合チャート
- Investing.com (https://www.investing.com/equities/tokyo-electron-ltd.): 東京証券取引所の8035株価との比較
ADR株価と東京証券取引所の株価を比較することで、翌日の東京市場の動向を予測する材料にすることもできます(ただし、為替変動の影響を考慮する必要があります)。
5. ADR投資のメリット・デメリット
(1) メリット:米ドル建て資産、米国市場での流動性
8035 ADRに投資するメリットは以下の通りです:
- 米ドル建て資産として保有できる: 円安時に為替差益を得られる可能性があります。資産の通貨分散にも有効です
- 米国市場の取引時間で売買可能: 東京市場の取引時間外でも売買できるため、機動的な投資が可能です
- 米国株ポートフォリオに組み込みやすい: 米国株口座で一元管理できます
(2) デメリット:為替リスク、二重課税、流動性の問題
一方で、以下のようなデメリットもあります:
- 為替リスク: 円高時には、米ドル建てリターンが減少します。例えば、ADR株価が上昇していても、円高が進めば円換算の評価額は減少する場合があります
- 配当の二重課税: ADRの配当は日本で10%、米国で10%の税金が差し引かれます(詳細は後述)
- OTC市場の流動性問題: 取引量が少ないため、売買スプレッドが広くなる可能性があります。大口取引では想定外の価格で約定するリスクがあります
- 為替手数料: 円から米ドルへの両替時に為替手数料がかかります(片道25銭程度が一般的)
(3) 外国税額控除の手続き概要
ADRの配当は、日本と米国で二重課税されます:
- 米国での源泉徴収: 配当の10%が米国で差し引かれます
- 日本での課税: 米ドル建ての配当に対して、日本でも税金が課税されます。詳しくは税理士や国税庁のウェブサイトをご確認ください
この二重課税を軽減するため、外国税額控除の制度が用意されています。確定申告時に外国税額控除の手続きを行うことで、米国で支払った税金の一部を日本の税金から差し引くことができます。
ただし、手続きは複雑であり、詳細は税理士や国税庁のウェブサイト(https://www.nta.go.jp/)を参照することをお勧めします。
※配当課税は執筆時点(2025年11月)の制度です。最新情報は国税庁のウェブサイトをご確認ください。
6. まとめ:8035 ADRへの投資判断
8035 ADR(ティッカーTOELY)は、東京エレクトロンに米ドル建てで投資できる仕組みです。米ドル建て資産としてのメリットがある一方で、為替リスクや二重課税などのデメリットも存在します。
投資判断のポイント:
- 米ドル建て資産として保有したい場合に有効
- 為替リスクを許容できるか検討する
- 配当の二重課税と外国税額控除の手続きを理解する
- OTC市場の流動性の低さを考慮し、指値注文を活用する
- 東京証券取引所での現物株(8035)との違いを理解する
次のアクション:
- 米国株取引可能な証券会社で口座を開設する
- ADR株価と東京証券取引所の株価を比較する
- 為替レートの動向を定期的に確認する
- 外国税額控除の手続きについて税理士や国税庁に相談する
投資判断は最終的に自己責任となります。ADRの仕組みとリスクを十分に理解した上で、慎重に判断してください。
