インペックス(INPEX)ADR、米国市場で日本最大の石油・ガス会社に投資できる?
「インペックス(INPEX)のADRって何?」「米国市場で日本のエネルギー株に投資できるって本当?」と疑問を持つ投資家の方は多いのではないでしょうか。INPEX(インペックス、旧国際石油開発帝石、証券コード1605)は、日本最大の石油・天然ガス開発会社であり、米国OTC市場でADR(米国預託証券)として取引されています。しかし、ADRの仕組みや配当の税金、原油価格変動リスクを理解しないまま投資を始めると、想定外の損失を被る可能性があります。
この記事では、INPEX ADRの仕組み、企業概要、取引方法、投資判断のポイントを、日本人投資家にも分かりやすく解説します。
この記事のポイント:
- INPEX ADR(ティッカーIPXHY)はOTC市場で米ドル建て取引、日本最大の石油・天然ガス開発会社の米国預託証券
- 主要事業はオーストラリアのイクシスLNGプロジェクト、原油・天然ガス価格に業績が大きく影響
- 半期ごとに配当支払(2024年86円/株、2025年予想100円/株に増配)
- メリット:米ドル建て資産として保有可能、米国市場の取引時間で売買可能
- デメリット:配当の二重課税(米国10% + 日本20.315%)、ADR管理費用、原油・天然ガス価格の変動リスク
1. INPEX(インペックス)ADRとは:日本最大の石油・天然ガス開発会社の米国預託証券
(1) INPEX(インペックス、旧国際石油開発帝石)の基本情報
INPEX株式会社(インペックス)は、日本最大の石油・天然ガス開発会社です。旧社名は「国際石油開発帝石株式会社」で、2021年に現社名に変更しました。
1966年に設立され、日本および国際的に石油・天然ガスの研究、探査、開発、生産、販売を行っています。従業員は約3,679人(2025年時点)です。
(2) 東証上場銘柄(証券コード1605)
INPEXは東京証券取引所プライム市場に上場しており、証券コード は1605です。日本の投資家は通常、東証でこの株式を円建てで購入します。
(3) ADR(米国預託証券)の概要
ADR(American Depositary Receipt、米国預託証券)は、外国企業の株式を米国市場で取引できるようにした証券です。預託銀行が外国株を保有し、その見返りとして米国市場でADRを発行します。
INPEXのADRは、米国市場でINPEX株を米ドル建てで取引できる仕組みです。
(4) ADRティッカーシンボル「IPXHY」
INPEXのADRティッカーシンボルはIPXHYです。このティッカーでOTC(店頭)市場において取引されています。
2. ADRの基本的な仕組みとOTC市場での取引
(1) ADR(American Depositary Receipt)の定義
ADRは、米国市場で取引される外国企業の株式代替証券です。預託銀行が外国株の現物を保有し、その見返りとして米国市場でADRを発行します。
ADRは米ドル建てで取引され、米国の証券会社を通じて購入できます。日本株ADRとしては、トヨタ自動車、ソニーグループ、INPEXなど、多くの大手企業が米国市場に上場しています。
(2) OTC市場(店頭市場)とは
OTC(Over-The-Counter、店頭市場)は、ニューヨーク証券取引所(NYSE)やナスダック(NASDAQ)などの主要取引所ではなく、店頭で取引される市場です。
INPEXのADRはOTC市場で取引されるため、主要取引所に上場している銘柄と比べて、流動性が低い場合があります。
(3) 預託銀行の役割
預託銀行(Depositary Bank)は、以下の役割を果たします:
- 日本株の現物保有: 預託銀行が東京証券取引所で1605株を購入し、保管します
- ADRの発行: 保有株式を裏付けとして、米国市場でADRを発行します
- 配当の受け取りと分配: 日本株の配当金を受け取り、米ドルに換算してADR保有者に分配します(管理費用を差し引いた額)
- 株式分割・併合への対応: 日本株の株式分割や併合があった場合、ADRの発行数を調整します
この仕組みにより、投資家は日本株を直接保有することなく、米国市場で間接的にINPEXに投資できます。
(4) 東証上場株との違い
ADRと東京証券取引所で取引される現物株(1605)には、以下のような違いがあります:
| 項目 | ADR(IPXHY) | 現物株(1605) |
|---|---|---|
| 取引市場 | OTC市場(米国) | 東京証券取引所 |
| 通貨 | 米ドル | 日本円 |
| 取引時間 | 米国市場時間 | 東京市場時間 |
| 配当課税 | 二重課税(米国10%、日本20.315%) | 日本のみ課税 |
| 管理費用 | あり(配当時に差し引かれる) | なし |
| 為替リスク | あり | なし |
| 流動性 | OTC市場のため低め | 東証プライム市場のため高い |
3. INPEX(インペックス)の企業概要と事業内容
(1) 企業概要(1966年設立、従業員3,679人)
INPEX株式会社は、1966年に設立された石油・天然ガス開発の日本最大手企業です。東京本社を置き、約3,679人の従業員を擁しています(2025年時点)。
同社は、日本のエネルギー安全保障に重要な役割を果たしており、国内外で石油・天然ガスの探査・開発・生産を行っています。
(2) 主要事業:石油・天然ガスの研究、探査、開発、生産、販売
INPEXの主要事業は以下の通りです:
- 探査: 石油・天然ガスの埋蔵地を調査・探索
- 開発: 発見した資源を商業生産できるよう設備を建設
- 生産: 石油・天然ガスを採掘・生産
- 販売: 生産した資源を国内外の市場に販売
これらの事業により、INPEXは日本のエネルギー供給の一翼を担っています。
(3) イクシスLNGプロジェクト(オーストラリア)
INPEXの主力事業は、オーストラリア北西部沖合のイクシスLNGプロジェクトです。これは、大規模な天然ガス田を開発し、液化天然ガス(LNG)を生産・輸出するプロジェクトです。
イクシスLNGプロジェクトの特徴:
- INPEXがオペレーター(主導企業)として運営
- 年間約890万トンのLNG生産能力
- 日本をはじめとするアジア太平洋地域に供給
このプロジェクトは、INPEXの収益の大部分を占めており、同社の業績を大きく左右します。
(4) 原油・天然ガス価格の影響
INPEXの業績は、原油・天然ガス価格の変動に大きく影響されます。
- 価格上昇時: 売上・利益が増加
- 価格下落時: 売上・利益が減少
2025年上半期は、原油・天然ガス価格の下落により売上が前年同期比-11.9%となりましたが、コスト削減により利益は増加しました。
エネルギー価格の動向を定期的にチェックすることが、INPEX株への投資判断において重要です。
4. INPEX ADRの取引方法と購入できる証券会社
(1) OTC市場アクセス可能な証券会社(moomoo証券等)
INPEX ADR(ティッカーIPXHY)を購入するには、OTC市場にアクセス可能な証券会社で口座を開設する必要があります。日本では、以下の証券会社が対応しています:
- moomoo証券: OTC市場の米国株取引に対応、リアルタイムチャート・掲示板・決算情報を提供
その他の証券会社でも、OTC市場取引に対応している場合があります。各証券会社の公式サイトで確認してください。
(2) 米国株口座の開設手順
購入手順は以下の通りです:
- 証券会社で米国株取引口座を開設する
- 円から米ドルに両替する(または外貨建MMFで米ドルを保有)
- ティッカーシンボル「IPXHY」で検索し、購入注文を出す
(3) 取引時間とリアルタイム株価の確認方法
OTC市場の取引時間は、米国市場の取引時間と同じです(日本時間23:30~翌6:00、夏時間は22:30~翌5:00)。
リアルタイム株価は、以下のサイトで確認できます:
- Nasdaq公式サイト: https://www.nasdaq.com/market-activity/stocks/ipxhy
- moomoo証券: INPEX ADRのリアルタイムチャート、掲示板
- MONEY BOX: ADR株価とPTS株価の複合チャート、円換算値
5. INPEX ADR投資のメリット・デメリット
(1) メリット:米国市場でドル建て取引が可能
INPEX ADRに投資するメリットは以下の通りです:
- 米ドル建て資産として保有できる: 円安時に為替差益を得られる可能性があります。資産の通貨分散にも有効です
- 米国市場の取引時間で売買可能: 東京市場の取引時間外でも売買できるため、機動的な投資が可能です
- 米国株ポートフォリオに組み込みやすい: 米国株口座で一元管理できます
(2) メリット:半期ごとの配当支払(2025年予想100円/株)
INPEXは、半期ごとに配当を支払います:
- 2024年配当: 86円/株(中間配当43円、期末配当43円)
- 2025年配当予想: 100円/株(中間配当50円、期末配当50円に増配)
配当は米ドルで受け取るため、為替レートにより円換算額が変動します。
(3) デメリット:ADR管理費用が配当時に差し引かれる
ADRには、管理費用がかかります。預託銀行がADRを管理するための手数料であり、配当支払時に差し引かれます。
管理費用は預託銀行により異なりますが、一般的に年間数セント/株程度です。長期保有では、この費用が累積します。
(4) デメリット:配当の二重課税(米国10% + 日本20.315%)
INPEX ADRの配当には、二重課税が適用されます:
- 米国での源泉徴収: 配当の**10%**が米国で差し引かれます
- 日本での課税: 残りの90%に対して、日本でさらに20.315%(所得税15.315%+住民税5%)が課税されます
この二重課税を軽減するため、外国税額控除の手続きを行うことで、米国で支払った税金の一部を日本の税金から差し引くことができます。詳細は税理士や国税庁のウェブサイト(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1240.htm)を参照してください。
(5) デメリット:原油・天然ガス価格の変動リスク
INPEXの業績は、原油・天然ガス価格に大きく左右されます。
- 価格上昇時: 業績改善、株価上昇、配当増加の可能性
- 価格下落時: 業績悪化、株価下落、配当減少の可能性
2025年上半期は、価格下落により売上が前年同期比-11.9%となりましたが、コスト削減により利益は増加しました。ただし、価格変動リスクは常に存在します。
6. INPEX ADRの株価動向と配当情報(2024-2025年)
(1) 2025年上半期業績(売上減少も利益増加)
2025年上半期(2025年1-6月)のINPEXの業績は以下の通りです:
- 売上: 1兆500億円(前年同期比**-11.9%**)
- 利益: 増加(詳細な数値は決算資料を参照)
原油・天然ガス価格の下落により売上は減少しましたが、コスト削減やイクシスLNGプロジェクトの安定稼働により、利益は増加しました。
(2) 配当増額(2024年86円 → 2025年予想100円)
INPEXは、2025年の配当を増額する予定です:
- 2024年配当: 86円/株(中間43円、期末43円)
- 2025年配当予想: 100円/株(中間50円、期末50円に増配)
この増配は、業績改善と株主還元の強化を示しています。
(3) 2025年通期業績予想の上方修正
INPEXは、2025年通期の業績予想を上方修正しました:
- 修正前: 売上1兆8220億円
- 修正後: 売上1兆9950億円
この上方修正は、イクシスLNGプロジェクトの安定稼働とコスト削減効果を反映しています。
(4) 株価レンジ(52週レンジ$11.27-$18.85)
2025年時点で、INPEX ADRの52週レンジは以下の通りです(Nasdaqより):
- 52週最高値: $18.85
- 52週最安値: $11.27
株価は原油・天然ガス価格の変動に敏感に反応します。エネルギー価格の動向を定期的にチェックすることが重要です。
まとめ:INPEX ADRへの投資判断
INPEX ADR(ティッカーIPXHY)は、日本最大の石油・天然ガス開発会社のINPEXに米ドル建てで投資できる仕組みです。米ドル建て資産としてのメリットがある一方で、配当の二重課税やADR管理費用、原油・天然ガス価格の変動リスクも存在します。
投資判断のポイント:
- 米ドル建て資産として保有したい場合に有効
- 半期ごとの配当支払(2025年予想100円/株に増配)
- 配当の二重課税(米国10% + 日本20.315%)と外国税額控除を理解する
- 原油・天然ガス価格の変動リスクを許容できるか検討する
- ADR管理費用が長期保有で累積する点を考慮する
次のアクション:
- OTC市場アクセス可能な証券会社(moomoo証券等)で口座を開設する
- INPEX ADRの株価と原油・天然ガス価格の動向を定期的に確認する
- 為替レートの動向を定期的に確認する
- 外国税額控除の手続きについて税理士や国税庁に相談する
投資判断は最終的に自己責任となります。ADRの仕組みとエネルギー価格変動リスクを十分に理解した上で、慎重に判断してください。
