ADR（米国預託証券）とは：日本株を米国市場で取引する仕組み
日本たばこ産業（JT）株に投資したいと考える投資家の中には、「米国市場で取引できるADRとは何か」「東証株式とどう違うのか」といった疑問を持つ方が多いでしょう。JTは高配当株として人気がありますが、米国市場でもADR（米国預託証券）として取引されています。
この記事では、JT ADRの仕組み、東証株式との違い、買い方、税金・為替の扱いまで、実務的な観点から詳しく解説します。
この記事のポイント:
- ADRは外国企業の株式を米国市場で取引可能にした証券
- JT ADRはJAPAYティッカーでOTC市場に上場、1ADR = 0.5株
- ADRは米ドル建て、東証株式は円建てで、為替リスクが異なる
- ADRの配当は米国で10%源泉徴収後、日本でも課税される（外国税額控除で軽減可能）
- ADRでは議決権を行使できないため、議決権が重要な場合は東証株式を選択
(1) ADRの定義（外国株式を米国で取引可能にした証券）
ADR（American Depositary Receipt）は、米国預託証券と呼ばれ、外国企業の株式を米国市場で取引可能にするための証券です。JTのような日本企業の株式を、米国の投資家が米ドル建てで購入できるようにした仕組みです。
ADRは、預託銀行が外国企業の株式を保管し、その株式を裏付けとして米国市場で発行されます。投資家はADRを購入することで、間接的に外国企業の株式を保有することになります。
(2) スポンサード型とアンスポンサード型の違い
ADRには「スポンサード型」と「アンスポンサード型」の2種類があります。JT ADRはアンスポンサード型であり、企業の関与なしに預託銀行が発行しています。スポンサード型は企業が積極的に関与し、NYSE（ニューヨーク証券取引所）やNasdaq（ナスダック）に上場しますが、アンスポンサード型はOTC（店頭）市場で取引されます。
(3) ADRのメリット・デメリット
メリット:
- 米国証券口座で他の米国株と一緒に管理できる
- 米国市場の取引時間（日本時間の夜間～早朝）に取引可能
- 米ドル建て資産として保有できる
- 高配当利回り（約4.55%）が魅力
デメリット:
- OTC市場は流動性が低く、スプレッドが広がる可能性がある
- 為替変動により円換算での資産価値が変動する
- 議決権を行使できない
JT ADRの特徴（ティッカー：JAPAY）
(1) JT ADRの基本情報（株価、時価総額、配当利回り4.55%）
JT ADRはJAPAYティッカーで米国OTC市場に上場しています（出典: Nasdaq）。2024年9月時点で時価総額は576億ドル、PER（株価収益率）は15.0と割安水準です（出典: AAII）。52週間レンジは11.91～16.92ドルと報告されています（出典: Investing.com）。
配当利回りは約4.55%と高水準で、安定した配当収入を得られる点が魅力です（出典: Dividend.com）。
(2) 取引市場（OTC市場）と取引時間
JT ADRはOTC（店頭）市場で取引されます。OTC市場は取引所外で取引される市場で、NYSEやNasdaqに比べて流動性が低い傾向があります。
米国市場の取引時間は日本時間で以下の通りです:
- プレマーケット: JST 21:00頃～23:30
- レギュラー: JST 23:30～翌6:00（夏時間は22:30～翌5:00）
- アフターマーケット: JST 翌6:00～9:00頃
日本の投資家にとって、夜間に取引できる点がメリットとなります。
(3) 1ADR = 0.5株の換算比率
JT ADRは1ADR = 0.5株の比率で発行されています。つまり、ADR 2株で東証株式1株に相当します。価格を比較する際には、この換算比率を考慮する必要があります。
(4) JTの事業内容（Winston、Camel、Meviusなどのブランド）
JTは日本および海外でたばこ事業を展開しています。主要ブランドには、Winston、Camel、Mevius、LDなどがあります（出典: Nasdaq）。2024年の四半期売上は前年比14.0%成長を記録しました（出典: AAII）。
リスク低減製品（LogicやPloomなどの電子たばこ・加熱式たばこ）はたばこ売上の5%未満ですが、今後の成長分野として注目されています。
JT ADRと東証株式の違い
ADRと東証株式には、いくつかの重要な違いがあります。
(1) 取引通貨と為替リスク（ADRは米ドル建て、東証は円建て）
JT ADRは米ドル建てで取引されるため、円高ドル安が進むと円換算での資産価値が減少します。一方、東証株式は円建てで取引されるため、為替リスクはありません。
例えば、1ドル=150円の時にADRを購入し、円高が進んで1ドル=130円になった場合、株価が変わらなくても円換算での価値は約13%減少します。
(2) 価格形成の違い（ADRは米国市場の取引時間中に変動）
ADRの価格は米国市場の取引時間中に変動します。ADR価格と東京証券取引所の終値を円換算で比較することで、翌日の日本株市場の動向を予測する材料として活用されることもあります（出典: MONEY BOX）。
(3) 流動性と手数料の違い（OTC市場は流動性が低い）
OTC市場は取引所に比べて流動性が低く、大口取引時にはスプレッド（売買価格の差）が広がる可能性があります。取引手数料も証券会社により異なりますが、外国株取引手数料がかかります。
(4) 議決権の違い（ADRでは議決権を行使できない）
ADRでは、株主総会での議決権を行使できません。議決権が重要な場合は、東証株式を購入する必要があります。
日本の証券会社でのJT ADRの買い方
(1) 主要ネット証券でのADR取扱い（SBI証券、三菱UFJ eスマート証券等）
日本の主要ネット証券（SBI証券、三菱UFJ eスマート証券等）では、米国株取引口座を開設することで、JT ADRを購入できます（出典: ADR 日本株 全銘柄一覧）。各証券会社の米国株取引サービスで外国株口座を開設する必要があります。
(2) 銘柄コード検索方法（JAPAY）
証券会社の米国株取引画面で、ティッカーシンボル「JAPAY」を入力して検索します。JTのADRが表示されるので、株数や注文方法を指定して購入します。
(3) 購入手順（外国株口座の開設、注文方法）
購入手順:
- 証券会社で外国株口座を開設
- 米ドルを準備（日本円から為替取引で両替）
- 銘柄コード「JAPAY」で検索
- 注文方法（成行・指値）、株数を指定して注文
JT ADRの税金・為替の扱い
(1) 配当金の二重課税（米国で10%源泉徴収後、日本でも課税）
JT ADRの配当金は、米国で10%源泉徴収された後、日本でも課税されます。これを「二重課税」と呼びます。例えば、配当金100ドルの場合、米国で10ドルが源泉徴収され、残りの90ドルに日本の税金（約20%）がかかります。
(2) 外国税額控除の仕組み（概要）
二重課税を軽減するため、日本では「外国税額控除」制度があります。確定申告により、米国で課税された税金の一部を日本の所得税から差し引くことができます（出典: 国税庁「外国税額控除」）。詳細は税理士や国税庁のウェブサイトをご確認ください。
(3) 為替変動リスクと対策
ADRは米ドル建てのため、円高ドル安が進むと円換算での資産価値が減少します。為替リスクを抑えたい場合は、東証株式を選択するか、為替ヘッジ商品を併用する方法もあります。
(4) NISAでのADR購入可否
新NISA（2024年開始）では、外国株口座での米国株・ADRの購入も非課税対象となります。ただし、証券会社により対応が異なるため、事前に確認が必要です。
まとめ：ADRと東証株式、どちらを選ぶべきか
JT ADRと東証株式のどちらを選ぶかは、投資家のスタイルにより異なります。
ADRが適している場合:
- 米国証券口座で米国株と一緒に管理したい
- 米ドル建て資産として保有したい
- 米国市場の取引時間に取引したい
- 高配当（約4.55%）を重視し、議決権は不要
東証株式が適している場合:
- 日本円で配当を受け取りたい
- 為替リスクを避けたい
- 議決権を行使したい
- 日本の証券会社で円建て資産として管理したい
次のアクション:
- 自分の投資目的とリスク許容度を明確にする
- ADRと東証株式の手数料・税金を比較する
- 証券会社の米国株取引サービスを確認する
- 投資判断は自己責任で行う
JTは高配当株として人気がありますが、ADRと東証株式のどちらを選ぶかは、あなたの投資スタイルに合わせて判断しましょう。
※本記事は2025年11月時点の情報に基づいています。税制や手数料は変更される可能性があるため、最新情報は各証券会社や国税庁の公式サイトをご確認ください。投資判断はご自身の責任で行ってください。