量子コンピューター関連米国株への投資を検討する理由
量子コンピューターは「次世代の革命的技術」として注目を集めています。しかし、実際に投資するとなると「どの企業が有望なのか」「いつ実用化されるのか」といった疑問が次々に浮かんできます。
2024年12月にGoogleが量子エラー訂正で世界最高水準を達成し、2025年に入ってもIonQやRigettiなどの企業が技術進展を発表していることから、量子コンピューター関連企業への関心が高まっています。一方で、2025年1月にはNVIDIA CEOが「実用化は15-30年先」と発言したことで関連株が急落するなど、期待と不安が交錯する状況です。
この記事では、量子コンピューター関連の米国株について、市場の現状、主要企業の特徴、投資方法、そして注意すべきリスクを日本の投資家向けに解説します。
この記事のポイント:
- 量子コンピューター市場は2025年16億ドル→2030年73億ドル(年平均成長率34.6%)と予測されている
- 純粋プレイ企業(IonQ、Rigetti、D-Wave)は高リスク高リターン、ビッグテック(Alphabet、IBM、Microsoft)は安定性が高い
- Defiance Quantum ETF(QTUM)で約80銘柄に分散投資することも可能
- 実用化時期は専門家でも15-30年の幅があり、長期投資前提で価格変動に耐える必要がある
- 技術的不確実性と株価ボラティリティの高さを理解した上で、慎重に投資判断を行うことが重要
(1) 次世代技術としての期待
量子コンピューターは、従来のコンピューターでは実現できない計算能力を持つとされています。暗号解読、創薬、金融モデリング、気候変動シミュレーションなど、幅広い分野での応用が期待されており、2025年の市場規模は16億ドル、2030年には73億ドルに達すると予測されています(年平均成長率34.6%)。
Googleは2024年12月にWillowチップで量子エラー訂正の画期的な成果を発表し、5分で従来のスーパーコンピューターが10^25年かかる計算を完了しました。Rigettiも2025年初頭にAnkaa-3チップで84量子ビット・99.5%の精度を達成するなど、技術進展が続いています。
(2) 投資判断の難しさと慎重な姿勢
しかし、量子コンピューターへの投資は容易ではありません。技術的な理解が難しい上に、実用化の時期や収益化の見通しが不透明だからです。
2025年1月、NVIDIA CEOジェンスン・フアン氏が「量子コンピューターの実用化は15-30年先」と発言したことで、IonQやRigettiなどの関連株が急落しました。このように、専門家の見解ひとつで株価が大きく変動するボラティリティの高さは、投資家にとって大きなリスクとなります。
量子コンピューター市場の現状と将来性
(1) 市場規模予測(2025年16億ドル→2030年73億ドル)
量子コンピューター市場は急速に拡大しています。市場調査会社の予測によれば、2025年の市場規模は16億ドル、2030年には73億ドルに達する見込みです(年平均成長率34.6%)。さらに長期的には、2040年までに1,730億ドル市場に成長するとの予測もあります。
この成長を支えるのは、金融機関、製薬会社、エネルギー企業などの商用利用です。現在はまだ研究開発段階ですが、実用化が進めば市場規模は飛躍的に拡大すると期待されています。
(2) 2024年の技術進展(Google Willow、Rigetti Ankaa-3等)
2024年は量子コンピューター技術にとって重要な年でした。主な進展は以下の通りです。
- Google Willow(2024年12月): 量子エラー訂正で世界最高水準を達成。5分で従来のスーパーコンピューターが10^25年かかる計算を完了。
- Rigetti Ankaa-3(2025年初頭): 84量子ビット・99.5%の精度を達成。商用化に向けた大きな一歩。
- Microsoft Majorana 1(2025年2月): エラー訂正を大幅改善。
- Amazon Ocelot(2025年2月): エラー訂正を90%削減。
これらの技術進展により、量子コンピューターの実用化に向けた期待が高まっています。
(3) 実用化時期の見通し(2029-2030年頃の商用化予測)
実用化時期については専門家の間でも意見が分かれています。楽観的な予測では2029-2030年頃の商用化が見込まれていますが、NVIDIA CEOは「15-30年先」と慎重な見方を示しています。
この不確実性が、量子コンピューター関連株の大きなボラティリティの要因となっています。投資家は、実用化が遅れるリスクを十分に考慮する必要があります。
主要な量子コンピューター関連企業の特徴
(1) 純粋プレイ企業(IonQ、Rigetti、D-Wave)
量子コンピューター事業に特化した「純粋プレイ」企業は、高リスク高リターンの投資対象です。
IonQ(アイオンキュー)
- 時価総額が純粋プレイ企業の中で最大
- イオントラップ方式を採用し、室温動作が可能
- 2024年の売上は102%成長、2025年の収益予想は7,500-9,500万ドル
- AWS、Azureとの統合で商用化を加速
Rigetti Computing(リゲッティ・コンピューティング)
- 超伝導量子ビットを採用
- 2024年に株価が3,100%上昇(ボラティリティの高さを象徴)
- Ankaa-3チップで84量子ビット・99.5%精度を達成
D-Wave Quantum(ディーウェーブ・クアンタム)
- アニーリング方式(最適化問題に特化)を採用
- 2024年に株価が2,878%上昇
- 他社とは異なる技術路線で独自の市場を開拓
これらの企業は、SPAC(特別買収目的会社)を通じて上場しており、年間売上は1,000万ドル未満と小規模です。収入源は研究助成金や実験利用料が中心で、収益化はまだ不透明です。
(2) ビッグテック(Alphabet、IBM、Microsoft)
大手IT企業は、安定した収益基盤を持ちながら量子コンピューター研究を進めています。
Alphabet(Google Quantum AI)
- Willowチップで量子エラー訂正の世界最高水準を達成
- 長年の研究開発で主導的地位を確立
- 安定した広告収益があり、量子事業のリスクを吸収可能
IBM
- 量子コンピューター研究の先駆者
- IBM Quantum Networkで企業向けクラウドサービスを提供
- 金融、製薬などの分野で実証実験を推進
Microsoft
- Majorana 1チップでエラー訂正を改善
- Azureクラウドと統合し、商用サービスを展開
ビッグテックは純粋プレイ企業と比べてリスクが低く、長期保有に適しています。
(3) 各企業の技術方式と事業化状況
量子コンピューターには複数の技術方式があり、企業ごとに異なるアプローチを採用しています。
- イオントラップ方式(IonQ): 室温動作が可能で、スケーラビリティが高い
- 超伝導量子ビット(Rigetti、IBM、Google): 低温動作が必要だが、高精度
- アニーリング方式(D-Wave): 最適化問題に特化、汎用性は低い
それぞれの技術方式には一長一短があり、どの方式が主流になるかは現時点では不明です。
量子コンピューター投資の選択肢(個別株・ETF)
(1) 個別株のメリット・デメリット
個別株への投資は、特定企業の成長を直接享受できる一方で、リスクも高くなります。
メリット:
- 技術進展や商用化成功時のリターンが大きい
- 自分の判断で投資先を選べる
デメリット:
- 技術的失敗や経営破綻のリスク
- 株価のボラティリティが極めて高い
- 企業の技術評価が難しい
(2) Defiance Quantum ETF(QTUM)で分散投資
リスクを抑えたい投資家には、Defiance Quantum ETF(QTUM)が選択肢となります。
QTUMの特徴:
- 約80銘柄に分散投資
- 経費率0.40%
- 純粋プレイ企業とビッグテックの両方を含む
- 個別銘柄リスクを抑えつつ、量子コンピューターセクター全体の成長を享受
ETFは、個別企業の技術評価が難しい投資家や、分散投資を重視する投資家に適しています。
(3) リスク許容度に応じた組み合わせ
投資戦略は、リスク許容度に応じて組み合わせることが推奨されます。
保守的な投資家:
- ビッグテック中心(Alphabet、IBM、Microsoft)
- ETF(QTUM)で分散投資
リスク許容度が高い投資家:
- 純粋プレイ企業とビッグテックを組み合わせ
- ポートフォリオの一部(5-10%程度)に限定
量子コンピューター投資のリスクと注意点
(1) 技術的不確実性と実用化の遅れリスク
量子コンピューター技術はまだ研究開発段階であり、実用化の時期や成功の可否は不透明です。
- エラー訂正: 量子ビットは非常に不安定で、エラー訂正技術の確立が最大の課題
- スケーラビリティ: 量子ビット数を増やすことで性能は向上するが、エラー率も上昇
- 商用化: 技術的に成功しても、商用化に失敗する可能性もある
(2) 純粋プレイ企業の収益基盤の脆弱性
純粋プレイ企業は、年間売上が1,000万ドル未満と小規模で、収入源は研究助成金や実験利用料が中心です。実用化が遅れれば資金繰りに行き詰まり、破綻するリスクもあります。
(3) 株価ボラティリティの高さ(NVIDIA CEO発言で急落)
2025年1月、NVIDIA CEOの「実用化は15-30年先」という発言で、量子コンピューター関連株が急落しました。このように、期待先行の状況では、専門家の一言で株価が大きく変動します。
D-Waveが1年で2,878%上昇、Rigettiが3,100%上昇した一方で、急落リスクも常に存在します。
(4) 長期投資前提での忍耐力
量子コンピューター投資は、短期的な利益を狙うものではありません。実用化まで10年以上かかる可能性を考慮し、価格変動に耐える忍耐力が求められます。
まとめ:長期視点でリスク分散を重視する
量子コンピューター関連の米国株は、次世代技術への投資として大きな可能性を秘めていますが、同時に高いリスクも伴います。
投資のポイント:
- 純粋プレイ企業(IonQ、Rigetti、D-Wave)は高リスク高リターン
- ビッグテック(Alphabet、IBM、Microsoft)は安定性が高い
- ETF(QTUM)で約80銘柄に分散投資する選択肢もある
- 実用化時期は15-30年の幅があり、長期投資前提で考える
- ポートフォリオの一部(5-10%程度)に限定し、リスクを管理する
次のアクション:
- 各企業の四半期決算や技術発表を定期的に確認する
- 量子ビット数、エラー訂正率、商用パートナーシップなどの指標で進捗を評価する
- 少額から始め、技術進展や企業業績を見ながら投資額を調整する
量子コンピューターは「未来の技術」であり、投資判断は自己責任で慎重に行う必要があります。技術的不確実性と株価ボラティリティの高さを理解した上で、長期視点でリスク分散を重視することが重要です。
