ADR銘柄とは|米国市場で外国企業株に投資できる仕組み
米国株投資に興味があるものの、「日本企業のADRって何?」「普通の株とどう違うの?」と疑問に感じている方は多いのではないでしょうか。ADRは米国市場で外国企業の株式を取引できる仕組みで、日本の証券会社から簡単に購入できます。
この記事では、ADR(米国預託証券)の仕組み、日本企業のADR一覧、メリットとデメリット、買い方まで徹底解説します。
この記事のポイント:
- ADRは米国市場で外国企業株を取引できる預託証券で、日本企業も多数発行している
- トヨタ(TM)、ソニー(SONY)、三菱UFJ(MUFG)など主要企業がADRを発行
- SBI証券・楽天証券など主要ネット証券で通常の米国株と同じ手順で購入可能
- メリットは国際分散投資の利便性、デメリットは為替リスクと管理手数料
- 中国企業ADRは上場廃止リスクがあるため最新情報の確認が重要
ADR銘柄とは|米国市場で取引できる外国企業株
(1) ADR(米国預託証券)の定義
ADR(American Depositary Receipt、米国預託証券)とは、米国の預託銀行が外国企業の株式を保管し、その証書を米国市場で取引できる形にしたものです。投資家はADRを購入することで、米ドル建てで外国企業の株式に投資できます。
通常、外国企業の株式を購入するには、その国の証券取引所で口座を開設し、現地通貨で取引する必要があります。しかしADRを利用すれば、米国市場を通じて外国企業株に投資できるため、日本の投資家にとっても非常に便利です。
※出典: SEC(米国証券取引委員会)「American Depositary Receipts (ADRs)」https://www.investor.gov/introduction-investing/investing-basics/glossary/american-depositary-receipts-adrs
(2) ADRで投資できる国と地域
ADRは世界中の企業が発行しており、日本の投資家は米国市場を通じて以下のような国・地域の企業に投資できます。
ADRが発行されている主な国・地域:
- アジア: 日本、中国、インド、韓国、台湾、東南アジア諸国
- ヨーロッパ: イギリス、ドイツ、フランス、スイス
- その他: イスラエル、南アフリカ、チリ、ブラジル
ADRを活用することで、日本から直接投資が難しい国(イギリス、インド、イスラエル、南アフリカ、チリ等)の個別銘柄にも投資可能になります。
ADRの仕組みと種類(Sponsored/Unsponsored、Level 1/2/3)
(1) ADRの発行プロセス(預託銀行の役割)
ADRは以下のプロセスで発行されます。
- 預託銀行が外国企業の株式を購入: 米国の大手銀行(JPモルガン、バンク・オブ・ニューヨーク・メロン等)が、外国市場で企業の株式を購入し保管します。
- ADRとして証券を発行: 預託銀行は保管した株式に対応するADRを発行し、米国市場で取引可能にします。
- 投資家がADRを購入: 投資家は米国市場でADRを購入し、配当金も米ドル建てで受け取ります。
預託銀行は、原株の保管、配当金の米ドル換算・支払い、株主権利の代行などを担当します。
※出典: Fidelity「Understanding American Depositary Receipts (ADRs)」https://www.fidelity.com/learning-center/investment-products/stocks/understanding-american-depositary-receipts
(2) Sponsored ADRとUnsponsored ADRの違い
ADRには、発行企業が関与する「Sponsored ADR」と、関与しない「Unsponsored ADR」の2種類があります。
Sponsored ADR:
- 発行企業が預託銀行と正式契約を結んだADR
- 流動性が高く、Level 2/3は主要取引所(NYSE、NASDAQ)に上場
- 企業が情報開示を積極的に行うため、投資家にとって透明性が高い
Unsponsored ADR:
- 発行企業の関与なしに預託銀行が発行するADR
- 流動性が低く、OTC(店頭取引)市場のみで取引
- 情報開示が限定的
投資家にとっては、流動性が高く情報開示が充実している「Sponsored ADR」の方が投資しやすいと言えます。
※出典: Interactive Brokers「Benefits & Risks of ADRs」https://www.interactivebrokers.com/campus/trading-lessons/sponsored-and-unsponsored-adrs/
(3) Level 1/2/3の分類と上場基準
Sponsored ADRは、上場基準により「Level 1」「Level 2」「Level 3」の3段階に分類されます。
Level 1:
- OTC市場での取引のみ
- SECへの登録不要、情報開示が最低限
- 流動性が低い
Level 2:
- NYSE・NASDAQなど主要取引所に上場
- SECへの登録が必要、厳格な情報開示義務
- 流動性が高く、個人投資家も取引しやすい
Level 3:
- Level 2の要件に加え、資金調達(新規株式発行)が可能
- 最も厳格な情報開示と上場基準
- 企業側のメリットが大きい
日本企業の主要ADR(トヨタ、ソニー、三菱UFJ等)はLevel 2またはLevel 3に該当し、NYSE・NASDAQに上場しているため流動性が高く取引しやすいです。
※出典: Vested Finance「A Complete Guide to American Depository Receipts (ADRs)」https://vestedfinance.com/blog/a-complete-guide-to-american-depository-receipts-adrs/
日本企業のADR銘柄一覧(トヨタ・ソニー等の主要企業)
(1) 主要日本企業のADR(自動車・電機・金融セクター)
日本企業の中でも、以下のような大手企業がADRを発行しています。
自動車セクター:
- トヨタ自動車(ティッカー: TM)
- ホンダ(ティッカー: HMC)
- 日産自動車(ティッカー: NSANY)
電機・テクノロジーセクター:
- ソニーグループ(ティッカー: SONY)
- パナソニック(ティッカー: PCRFY)
- キヤノン(ティッカー: CAJ)
- ニデック(旧日本電産)(ティッカー: NJDCY)
金融セクター:
- 三菱UFJフィナンシャル・グループ(ティッカー: MUFG)
- 三井住友フィナンシャルグループ(ティッカー: SMFG)
- 野村ホールディングス(ティッカー: NMR)
その他:
- 楽天グループ(ティッカー: RKUNY)
- 丸紅(ティッカー: MARUY)
これらの企業はNYSE・NASDAQに上場しており、SBI証券や楽天証券などの日本のネット証券から購入できます。
※参考: 日経225jp「ADR 日本株 全銘柄一覧」https://nikkei225jp.com/adr/
(2) アジア・その他地域の代表的なADR銘柄
日本企業以外にも、アジア・その他地域の企業が多数ADRを発行しています。
中国:
- アリババ・グループ(ティッカー: BABA)
- JD.com(ティッカー: JD)
- Didi(ティッカー: DIDI)
インド:
- HDFC銀行(ティッカー: HDB)
- Infosys(ティッカー: INFY)
韓国:
- サムスン電子(ティッカー: SSNLF)
台湾:
- 台湾セミコンダクター(ティッカー: TSM)
イギリス:
- BP(ティッカー: BP)
- HSBC(ティッカー: HSBC)
ただし、中国企業ADRはHFCAA(外国企業説明責任法)により上場廃止リスクを抱えているため、投資前に最新情報を確認することが重要です。
※参考: DMM株「ADR一覧」https://kabu.dmm.com/us/stock/stock_list/adr_list/
ADRのメリットとデメリット(国際分散投資の利便性と注意点)
(1) メリット:米国市場から世界へ投資、配当も米ドルで受取
ADR投資には以下のメリットがあります。
1. 米国市場から世界中の企業に投資できる 通常、外国企業の株式を購入するには、その国の証券取引所で口座を開設する必要があります。しかしADRなら、米国市場を通じて世界中の企業に投資できます。
2. 配当金が米ドル建てで受け取れる 配当金は米ドル建てで支払われ、米国株と同じように証券口座に入金されます。配当再投資(DRIP)も可能です。
3. 日本のネット証券で簡単に購入できる SBI証券、楽天証券、マネックス証券などの主要ネット証券で、通常の米国株と同じ取引画面でADRを購入できます。
4. 国際分散投資によるリスク軽減 ADRを活用することで、ポートフォリオを国際的に分散させ、特定国の経済リスクを軽減できます。
※出典: QUICK「「ADR(米国預託証券)」と株の違いとは?アメリカ経由で世界の企業に投資、リスクも分かりやすく解説」https://moneyworld.jp/news/05_00037077_news
(2) デメリット:為替リスク・管理手数料・上場廃止リスク
一方で、ADR投資には以下のデメリットもあります。
1. 為替リスク ADRは米ドル建てで取引されるため、為替レートの変動により、円ベースでの投資収益が大きく変動する可能性があります。円高時には為替差損が発生します。
2. 管理手数料 預託銀行はADRの管理手数料を徴収します。手数料は銘柄により異なりますが、年1-3セント/株が一般的です。配当金から自動的に差し引かれます。国際分散投資の利便性を考えれば許容範囲と言えます。
3. 政治リスク・インフレリスク 発行国の政情不安やインフレにより、原株の価値が下落するリスクがあります。特に新興国ADRでは注意が必要です。
4. 上場廃止リスク HFCAA(外国企業説明責任法)により、監査基準を満たせない中国企業ADRは米国市場から退出する可能性があります。2024-2025年現在も継続中のリスクです。
※出典: U.S. News「American Depositary Receipts: Pros and Cons of ADR Investing」https://money.usnews.com/investing/articles/american-depositary-receipts-pros-and-cons
ADRの買い方と証券会社選び(SBI証券・楽天証券等の対応状況)
(1) 証券会社での口座開設と取引手順
ADRを購入するには、以下の手順で証券会社に口座を開設します。
1. 証券会社で口座開設 主要ネット証券(SBI証券、楽天証券、マネックス証券等)で証券総合口座を開設します。
2. 外国株式口座を開設 証券総合口座開設後、外国株式取引専用の口座を開設します(オンラインで手続き可能)。
3. 米ドルを入金または購入 ADRは米ドル建てで取引されるため、事前に米ドルを証券口座に入金するか、円から米ドルに両替します。
4. ADRを検索して購入 通常の米国株と同じ取引画面で、ティッカーシンボル(例: TM、SONY)を検索し、購入します。
※参考: 株基礎.com「【株式用語】ADR(米国預託証券)とは?見方や投資方法、日本株・インド株・台湾株の銘柄例もわかりやすく解説」https://kabukiso.com/column/idiom/adr.html
(2) 日本の主要ネット証券のADR取扱状況
日本の主要ネット証券は、すべて米国ADRの取引に対応しています。
SBI証券:
- 取扱銘柄: 5,000銘柄以上(ADRを含む)
- 取引手数料: 約定代金の0.495%(最低0ドル、上限22ドル)
- 為替手数料: 片道25銭
- NISA対応: あり
楽天証券:
- 取扱銘柄: 4,000銘柄以上(ADRを含む)
- 取引手数料: 約定代金の0.495%(最低0ドル、上限22ドル)
- 為替手数料: 片道25銭
- 楽天ポイント: 取引で貯まる・使える
- NISA対応: あり
マネックス証券:
- 取扱銘柄: 5,000銘柄以上(ADRを含む)
- 取引手数料: 約定代金の0.495%(最低0ドル、上限22ドル)
- 為替手数料: 片道25銭(買付時は無料キャンペーンあり)
- NISA対応: あり
DMM株:
- 取扱銘柄: 2,000銘柄以上(ADRを含む)
- 取引手数料: 0円(米国株取引手数料無料)
- 為替手数料: 片道25銭
- NISA対応: あり
各証券会社の手数料やサービス内容を比較し、自分に合った証券会社を選びましょう。
※参考: SBI証券「外国株式・海外ETF」https://www.sbisec.co.jp/ETGate/WPLETmgR001Control?OutSide=on&getFlg=on&burl=search_foreign&cat1=foreign&cat2=none&dir=info&file=foreign_info120601.html
まとめ|ADR投資で世界の企業にアクセス
ADR(米国預託証券)は、米国市場を通じて世界中の企業に投資できる便利な仕組みです。トヨタやソニーなどの日本企業ADRから、アリババやTSMCといったアジア企業ADRまで、幅広い銘柄に投資できます。
この記事のまとめ:
- ADRは米国の預託銀行が発行する証書で、外国企業株を米ドル建てで取引できる
- 日本企業の主要ADRはNYSE・NASDAQに上場しており、流動性が高い
- SBI証券・楽天証券などの主要ネット証券で簡単に購入可能
- メリットは国際分散投資の利便性、デメリットは為替リスクと管理手数料
- 中国企業ADRは上場廃止リスクがあるため最新情報の確認が重要
次のアクション:
- 主要ネット証券で外国株式口座を開設する
- 少額から日本企業ADRに投資してみる
- 為替リスクや管理手数料を理解した上で長期投資を検討する
ADRを活用して、国際的に分散されたポートフォリオを構築し、長期的な資産形成を目指しましょう。
※2025年11月時点の情報です。手数料や取扱銘柄は変更される可能性があるため、各証券会社の公式サイトで最新情報をご確認ください。
