日本製鉄ADRとは
日本製鉄に投資したいけれど、東京証券取引所ではなく米国市場で取引したい...そんなニーズを満たすのが「日本製鉄ADR」です。
日本製鉄のADR(米国預託証券)は、日本の鉄鋼最大手である日本製鉄の株式を米国市場で取引できるようにした証券です。ティッカーシンボル「NPSCY」でOTC市場(店頭市場)で取引されており、米ドル建てで1株から購入できます。
この記事では、日本製鉄ADRの基本情報、購入方法、税金・為替の注意点まで詳しく解説します。
この記事のポイント:
- 日本製鉄ADRはティッカーシンボル「NPSCY」でOTC市場で取引されている
- 預託銀行はThe Bank of New York Mellonが担当
- マネックス証券やmoomoo証券など、日本の証券会社で購入可能
- 配当は年2回(7月と12月頃)支払われ、配当利回りは4.73%
- 配当には米国と日本の二重課税が適用される
(1) ADR(米国預託証券)の仕組み
ADR(American Depositary Receipt)とは、米国市場で外国企業の株式を取引できるようにした証券です。預託銀行が外国企業の株式を預かり、その株式を裏付けとしてADRを発行します。
日本製鉄のADRは、The Bank of New York Mellon(BNYメロン)が預託銀行として発行・管理しています。日本製鉄は2022年9月にスポンサードADR(企業が公式に承認したADRプログラム)に移行しており、企業としても正式に認めているプログラムです。
(出典: NIPPON STEEL - ADR Information)
(2) ティッカーシンボル「NPSCY」
日本製鉄ADRのティッカーシンボルは「NPSCY」です。OTC市場(Over-The-Counter Market)で取引されており、ナスダックやニューヨーク証券取引所のような主要取引所とは異なる店頭市場で売買されます。
OTC市場は主要取引所と比較して流動性が低く、売買のスプレッド(買値と売値の差)が広い可能性があります。取引時間は米国市場の営業時間(日本時間23:30~翌6:00、夏時間は22:30~翌5:00)に準じます。
(出典: Nasdaq - NPSCY)
(3) 預託銀行(The Bank of New York Mellon)
預託銀行は、ADRの発行・管理を行う金融機関です。日本製鉄の場合、The Bank of New York Mellon(BNYメロン)が預託銀行として、配当の支払い、株主総会の通知、企業情報の開示などを行っています。
日本製鉄の公式IR情報でもADRに関する手続き情報が提供されており、投資家は預託銀行を通じて株主としての権利を行使できます。
(出典: NIPPON STEEL - ADR Information)
日本製鉄の事業概要と業界動向
日本製鉄は、日本最大の鉄鋼メーカーとして、世界的にも高い技術力と生産規模を誇ります。米国市場での時価総額は約$20.80B(約208億ドル)、従業員数は113,845人に上ります。
(1) 4つの事業セグメント
日本製鉄の事業は、以下の4つのセグメントで構成されています。
- 鉄鋼製造: 自動車、建設、インフラ向けの鉄鋼製品
- エンジニアリング: プラント建設、メンテナンス
- 化学・材料: 化学製品、新素材開発
- システムソリューション: ITシステム、情報サービス
鉄鋼製造が主力事業ですが、エンジニアリングや化学・材料分野でも幅広く事業を展開しています。
(出典: Nasdaq - NPSCY)
(2) 時価総額と企業規模
2024年時点で、日本製鉄ADRの時価総額は約$20.80B(約208億ドル)です。鉄鋼業界では世界有数の規模を誇り、従業員数は113,845人に達します。
株価や企業情報は、Investing.comやNasdaqなどの金融情報サイトで確認できます。
(出典: Investing.com - NPSCY)
(3) 鉄鋼業界のリスク
鉄鋼業界は景気敏感業種と言われており、景気後退時には需要が減少しやすい特性があります。また、脱炭素社会への移行に伴い、鉄鋼製造プロセスの環境負荷削減が求められています。
日本製鉄も、CO2排出削減に向けた技術開発や設備投資を進めていますが、これらの取り組みには時間とコストがかかります。投資を検討する際は、こうした業界特有のリスクも理解しておくことが重要です。
東京証券取引所上場株とADRの違い
日本製鉄は東京証券取引所(プライム市場)にも上場していますが、ADRと東証株にはいくつかの違いがあります。
(1) 取引市場と通貨
- 東証株: 東京証券取引所・円建て
- ADR: OTC市場・米ドル建て
東証株は日本円で取引されるのに対し、ADRは米ドル建てで取引されます。そのため、為替レート(ドル/円)の変動により、円建てでの投資額が大きく変動するリスクがあります。
円換算値(ドル建てのADR価格を為替レートで円に換算した値)を比較できるチャートサイトも存在しますが、為替の影響を受ける点は理解しておく必要があります。
(2) 流動性の違い
OTC市場は主要取引所と比較して流動性が低く、売買が成立しにくい場合があります。スプレッド(買値と売値の差)が広いこともあり、取引コストが高くなる可能性があります。
東京証券取引所で取引される日本製鉄株の方が流動性は高いため、頻繁に売買する投資家には東証株の方が適している場合もあります。
(3) 税金の違い
配当に関する税金の扱いが異なります。
- 東証株: 日本の税金のみ(所得税15.315%、住民税5%)
- ADR: 米国と日本の二重課税(米国で源泉徴収後、日本でも課税)
ADRの配当には、米国で10%の源泉徴収が行われた後、日本でも課税されます。外国税額控除の制度を利用すれば、米国で支払った税金の一部を日本の所得税から差し引けますが、確定申告が必要です。
(詳細は税理士や国税庁のウェブサイトをご確認ください)
日本製鉄ADRの購入方法
日本製鉄ADRは、米国株を扱う日本の証券会社で購入できます。
(1) 必要な証券会社
以下の証券会社でADRの取り扱いがあります。
- マネックス証券: ADR一覧に日本製鉄ADR(NPSCY)を掲載
- moomoo証券: 日本語での企業情報と株価チャートを提供
その他、SBI証券や楽天証券でも米国株取引が可能ですが、ADRの取り扱い銘柄は証券会社によって異なるため、事前に確認することをおすすめします。
(出典: マネックス証券 - 取扱ADR一覧、moomoo証券 - NPSCY)
(2) 取引手順
- 証券口座の開設: 米国株取引に対応した証券口座を開設
- 米ドルの準備: 円を米ドルに両替(証券会社の為替手数料に注意)
- 注文: ティッカーシンボル「NPSCY」で検索し、1株から購入可能
米国株として取引されるため、日本株とは異なり1株単位で購入できます。
(3) OTC市場での取引時間
OTC市場の取引時間は、米国市場の営業時間に準じます。
- 標準時間: 日本時間23:30~翌6:00
- 夏時間: 日本時間22:30~翌5:00
OTC市場は主要取引所と異なり、流動性が低い時間帯もあるため、成行注文よりも指値注文の利用が推奨されます。
税金と為替の注意点
日本製鉄ADRに投資する際は、税金と為替の影響を理解しておく必要があります。
(1) 配当の二重課税と外国税額控除
日本製鉄ADRの配当は、米国で10%の源泉徴収が行われた後、日本でも課税されます(所得税15.315%、住民税5%)。これを「二重課税」と呼びます。
外国税額控除の制度を利用すれば、米国で支払った税金の一部を日本の所得税から差し引けますが、確定申告が必要です。
※外国税額控除の詳細は、税理士や国税庁のウェブサイトをご確認ください。
(出典: 国税庁「外国税額控除」)
(2) 為替リスク
ADRは米ドル建てで取引されるため、為替レート(ドル/円)の変動により、円建てでの投資額が大きく変動します。
- 円安(ドル高): ADRの円換算値が上昇(プラス要因)
- 円高(ドル安): ADRの円換算値が下落(マイナス要因)
為替リスクを軽減したい場合は、東京証券取引所で取引される日本製鉄株を選択する方法もあります。
(3) 確定申告の必要性
外国税額控除を受けるには、確定申告が必要です。証券会社から発行される「外国株式等 配当金のお知らせ」や「特定口座年間取引報告書」を使用して申告します。
確定申告の具体的な手順や書き方については、国税庁のウェブサイトや税理士にご相談ください。
まとめ:日本製鉄ADRへの投資に向いている人
日本製鉄ADRは、日本の鉄鋼最大手である日本製鉄を米国市場で取引できる証券です。ティッカーシンボル「NPSCY」でOTC市場にて取引され、配当利回りは4.73%と比較的高い水準にあります。
日本製鉄ADRへの投資に向いている人:
- 米ドル建ての資産を保有したい投資家
- 配当利回りの高い銘柄を探している投資家
- 日本製鉄に投資したいが、東京証券取引所を利用できない海外在住の投資家
注意点:
- OTC市場は流動性が低く、スプレッドが広い可能性がある
- 配当には米国と日本の二重課税が適用される
- 為替リスク(ドル/円の変動)が投資額に影響する
次のアクション:
- 証券会社の公式サイトで取扱銘柄を確認する
- 東証株とADRの違いを理解し、自分に合った投資方法を選ぶ
- 配当の税金や為替リスクを考慮して投資判断を行う
投資判断は自己責任で行い、ご自身の投資スタイルに合った方法を選択してください。
