NISAで米国株を保有する前に知っておくべきこと
NISA制度を活用して米国株投資を始めたいと考えているものの、「何かデメリットがあるのでは?」「日本株と比べて不利な点はないか?」と気になっていませんか?
実は、NISAで米国株を保有する際には、日本株にはない独自のデメリットやリスクがあります。配当金への課税、損益通算の制約、為替リスクなど、事前に理解しておくべきポイントがいくつか存在します。
この記事では、NISAで米国株投資をする際の主要なデメリット・リスクを網羅的に解説し、それぞれへの対処法も紹介します。
この記事のポイント:
- NISAで米国株の配当金には10%課税され、日本株(非課税)より不利
- 外国税額控除が適用されないため、課税口座と比べて配当課税を取り戻せない
- 損益通算・繰越控除ができず、税制上の柔軟性が失われる
- 為替リスクにより、株価が上昇しても円高で損失が出る可能性がある
- 各デメリットへの対処法(成長株重視、分散投資、ドルコスト平均法等)を理解すれば、リスクを軽減できる
(1) NISA制度の基本(成長投資枠・つみたて投資枠)
2024年1月から開始した新NISA制度では、年間投資枠が大幅に拡大しました。
新NISAの投資枠:
- 成長投資枠: 年間240万円(個別株、ETF等)
- つみたて投資枠: 年間120万円(対象投資信託のみ)
- 生涯投資枠: 1,800万円(うち成長投資枠は1,200万円まで)
NISA口座での投資による利益(配当金・値上がり益)は原則として非課税となります。ただし、米国株の配当金には後述する10%課税が発生します。
(2) 米国株投資のデメリットを正しく理解する重要性
デメリットを正しく理解せずにNISAで米国株投資を始めると、想定外の課税や為替損失により期待したリターンを得られない可能性があります。
特に、配当金重視の投資戦略を取る場合、NISAよりも課税口座の方が有利になるケースもあります。投資判断は自己責任で行い、不明点は専門家にご相談ください。
デメリット1:配当金への10%課税と外国税額控除の不適用
NISAで米国株を保有する最大のデメリットの一つが、配当金への課税です。
(1) 米国株の配当金は10%源泉徴収される
米国株の配当金には、米国で10%の源泉徴収税が課されます。これは日米租税条約により定められており、NISA口座でも課税口座でも同様に適用されます。
例えば、1,000ドルの配当金を受け取る場合、100ドル(10%)が源泉徴収され、手取りは900ドルとなります。
(2) 日本株は非課税だが米国株は課税
NISA口座で日本株を保有する場合、配当金は完全に非課税です。一方、米国株の配当金には10%課税されるため、同じNISA口座内でも日本株より不利な扱いとなります。
比較例(配当金1,000ドル = 約15万円の場合):
- 日本株(NISA口座): 受取額15万円(非課税)
- 米国株(NISA口座): 受取額約13.5万円(10%源泉徴収後)
(3) 外国税額控除が適用されない(課税口座との違い)
課税口座で米国株を保有する場合、外国税額控除を確定申告で適用することで、米国で源泉徴収された10%の一部を日本の所得税から取り戻せます。
しかし、NISA口座は非課税制度のため外国税額控除が適用されず、10%の課税を取り戻すことができません。
配当重視の投資家へのアドバイス:
- 高配当株を長期保有する場合、課税口座で外国税額控除を活用する方が有利なケースもある
- NISAでは配当よりも値上がり益(キャピタルゲイン)を重視する成長株を選ぶ戦略が税制上有利
デメリット2:損益通算・繰越控除ができない
NISA口座では、損益通算と繰越控除が適用されません。
(1) 損益通算ができない(他の口座の利益と相殺不可)
損益通算とは、複数の投資商品の利益と損失を相殺して税金を計算する制度です。課税口座では適用されますが、NISA口座内の損失は他の口座の利益と相殺できません。
例:
- NISA口座で50万円の損失
- 課税口座で100万円の利益
通常の課税口座同士なら損益通算で課税対象は50万円となりますが、NISA口座の損失は使えないため、課税口座の100万円全額に課税されます。
(2) 繰越控除ができない(損失を翌年以降に繰り越せない)
繰越控除とは、当年の損失を翌年以降3年間繰り越して将来の利益と相殺する制度です。NISA口座では適用されないため、損失が出た年の翌年以降に利益が出ても相殺できません。
対処法:
- NISA口座と課税口座を併用し、税制上の柔軟性を確保
- NISA口座では長期保有前提の安定した銘柄・ETFを選び、損失リスクを最小化
デメリット3:為替リスク(円高局面での損失可能性)
米国株投資には必ず為替リスクが伴います。
(1) 為替リスクとは(円ドルレート変動の影響)
為替リスクとは、為替レートの変動により投資資産の価値が変動するリスクです。米国株投資では円ドルレートの影響を受けます。
- 円安(ドル高): 米国株の円換算価値が上昇(為替差益)
- 円高(ドル安): 米国株の円換算価値が下落(為替差損)
(2) 円高時の損失シミュレーション例
シミュレーション:
- 購入時: 1ドル=150円で100株購入(株価100ドル = 150万円)
- 売却時: 株価が110ドルに上昇(+10%)、為替レートが1ドル=130円に円高
- 売却額: 110ドル × 100株 × 130円 = 143万円
- 結果: 株価10%上昇でも為替差損により7万円の損失
このように、株価が上昇しても円高が進むと為替差損が株価上昇を相殺する可能性があります。
(3) ドルコスト平均法による為替リスク軽減
ドルコスト平均法とは、定期的に一定額ずつ購入する投資手法です。為替レートが高い時も安い時も一定額を購入することで、為替変動の影響を平準化できます。
対処法:
- 一度に大量購入せず、毎月定額で積立投資
- 日本株と米国株をバランスよく組み合わせ、円高・円安どちらにも対応できるポートフォリオを構築
- 為替ヘッジ付き投資信託の検討(ただし、ヘッジコストが発生)
デメリット4:値幅制限なし・集中リスク・その他のリスク
米国株投資には、日本株にはない独自のリスクがあります。
(1) 値幅制限なし(1日で大幅変動の可能性)
日本株には1日の値幅制限(ストップ高・ストップ安)がありますが、米国株には値幅制限がありません。そのため、1日で大幅に値上がり・値下がりする可能性があります。
特に、決算発表や重要ニュースの際には、1日で10%〜20%変動することも珍しくありません。
(2) 集中リスク(マグニフィセント・セブンへの集中)
2025年時点で、S&P500指数の上位10銘柄が全体の30.9%を占めており、うちマグニフィセント・セブン(Apple、Microsoft、Google、Amazon、Meta、Tesla、Nvidia)が28.0%を占めています。
これはITバブルピーク時(1999年末25.4%)を超える集中度であり、AI市場の調整時に大幅下落のリスクが懸念されています。
対処法:
- S&P500インデックスファンド以外にも分散(全世界株式、米国以外の先進国・新興国等)
- 個別株投資では特定のセクター・銘柄に集中しない
(3) バリュエーション過熱(2025年の評価水準)
2025年時点で米国株の評価指標が90パーセンタイル水準に到達しており、大型株は適正価値より6%高い水準(2018年以来の高水準)とされています。
高評価水準での投資は、将来のリターンが限定的になる可能性があります。ただし、市場のタイミングを計ることは困難であり、長期的な視点での投資が重要です。
まとめ:デメリットを理解した上での投資戦略
NISAで米国株投資をする際には、日本株にはない独自のデメリット・リスクが存在します。
主要なデメリット:
- 配当金への10%課税(日本株は非課税)
- 外国税額控除が適用されない
- 損益通算・繰越控除ができない
- 為替リスク(円高局面での損失可能性)
- 値幅制限なし、集中リスク、バリュエーション過熱
推奨される投資戦略:
- 成長株重視: NISAでは配当よりも値上がり益(非課税)を重視する成長株を選ぶ
- 分散投資: 日本株と米国株を組み合わせ、為替リスクを軽減
- ドルコスト平均法: 定期的に一定額を購入し、為替変動の影響を平準化
- NISA・課税口座の併用: 高配当株は課税口座で外国税額控除を活用、成長株はNISAで非課税のメリットを享受
次のアクション:
- デメリットを理解した上で、自分の投資スタイルに合った戦略を選ぶ
- 少額から始めて、為替リスクや市場変動を実際に体験する
- 長期的な視点で投資を続け、短期的な変動に一喜一憂しない
デメリットを正しく理解し、適切な対処法を実践すれば、NISAで米国株投資のメリットを最大限に活かせます。投資判断は自己責任で行い、不明点は専門家にご相談ください。
※本記事の税制・為替レート情報は執筆時点のものです。最新情報は金融庁・国税庁のウェブサイトをご確認ください。
