TSMC株を買いたいけれど、米国市場での買い方が分からない...
TSMC(台湾積体電路製造)は、NVIDIA・AMD・Appleなどの半導体チップを製造する世界最大のファウンドリ企業です。AI半導体需要の拡大により、TSMCへの投資を検討する日本人投資家も増えています。
しかし、「米国市場でTSMC株をどう買うのか」「台湾本社株との違いは何か」といった疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。この記事では、TSMCの米国ADR(ティッカー: TSM)の仕組みと投資方法を詳しく解説します。
この記事のポイント:
- TSMCは世界最大のファウンドリ企業で、ファウンドリ市場シェア70.2%(2025年Q2過去最高)
- 米国ADR(NYSE: TSM)は日本の証券会社(SBI・楽天・マネックス等)で購入可能
- 2024-2025年の株価は52週レンジ134-311ドルで、1年リターン+55.25%
- アナリスト平均目標株価343ドル(現在価格284ドルから+20%上昇余地)
- 地政学リスク(台湾・中国関係)とAI需要の持続性が主要リスク
1. TSMC(台湾積体電路)とは
TSMCは、世界の半導体産業を支える最重要企業の一つです。まずは企業の基本情報を理解しましょう。
(1) 世界最大のファウンドリ企業
TSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company)は、1987年に設立された台湾の半導体製造企業です。
基本情報:
- 設立: 1987年
- 本社: 台湾・新竹市
- 事業: 半導体ファウンドリ(受託製造)
- 市場シェア: ファウンドリ市場で70.2%(2025年Q2、過去最高)
世界の先端半導体の大部分はTSMCが製造しており、業界での存在感は圧倒的です。
(2) 事業内容とビジネスモデル
TSMCは「ファウンドリ」と呼ばれるビジネスモデルで成長してきました。
ファウンドリとは:
- 定義: 半導体設計企業(ファブレス)から設計を受託し、製造のみを行う事業モデル
- 顧客: 自社で製造設備を持たない企業(NVIDIA、AMD、Appleなど)
- 特徴: 最先端の製造技術に集中投資し、規模の経済を実現
TSMCは自社ブランドの半導体を販売せず、あくまで製造に特化しています。
主な製品分野:
- HPC(高性能コンピューティング): AI・データセンター向け(売上の60%)
- モバイル: スマートフォン向けチップ
- 自動車: 自動運転・ADAS向け
- IoT: 組み込み機器向け
(3) 主要顧客(NVIDIA・AMD・Apple等)
TSMCの主要顧客は、世界を代表するテクノロジー企業です。
主要顧客:
- NVIDIA: AI半導体(H100、A100など)の製造
- AMD: CPU(Ryzen)・GPU(Radeon)の製造
- Apple: iPhone・Macのプロセッサ(A17 Pro、M3など)の製造
- Broadcom・Marvell: データセンター・ネットワーク向けチップ
これらの企業の成長がTSMCの業績に直結しています。
2. TSMCの米国ADR(NYSE: TSM)の仕組み
TSMCは台湾企業ですが、米国市場でも株式を取引できます。その仕組みを解説します。
(1) ADR(米国預託証券)とは
ADR(American Depositary Receipt)は、外国企業の株式を米国市場で取引できる仕組みです。
ADRの仕組み:
- 台湾本社株を預託: TSMCの台湾本社株を米国の預託銀行に預ける
- ADRを発行: 預託銀行が預託証券(ADR)を発行
- NYSE上場: ADRをニューヨーク証券取引所(NYSE)で取引
ティッカーシンボル:
- 米国ADR: TSM(NYSE)
- 台湾本社株: 2330(台湾証券取引所)
日本の投資家は、米国ADR(TSM)を購入するのが一般的です。
(2) 台湾本社株との関係と価格差
ADRと台湾本社株は、同じ企業の株式を異なる市場で取引しているため、価格は連動しますが完全一致はしません。
価格差が生じる理由:
- 為替レート: 米ドル建て(ADR) vs 台湾ドル建て(本社株)
- 取引時間: 米国市場と台湾市場の営業時間が異なる
- 流動性: 米国ADRの方が取引量が多い
換算比率:
- TSMCのADRは、台湾本社株5株に相当する権利を持つ
価格差が大きい場合、裁定取引(アービトラージ)により徐々に縮小します。
(3) 日本の証券会社で購入する方法
TSMCの米国ADRは、日本のネット証券で簡単に購入できます。
購入手順:
- 証券口座を開設: SBI証券、楽天証券、マネックス証券など
- 外国株口座を開設: 米国株取引用の口座(無料)
- ティッカー「TSM」で検索: 証券会社のツールで検索
- 注文: 株数・価格を指定して発注
購入に必要な金額(2025年時点):
- 1株: 約284ドル(約43,600円、1ドル=153円換算)
- 最低購入単位: 1株から
米国株は1株から買えるため、少額でも投資可能です。
3. TSMCの株価推移と2025年の見通し
2024-2025年のTSMC株のパフォーマンスと、専門家の予想を紹介します。
(1) 2024-2025年のパフォーマンス(52週レンジ134-311ドル、1年リターン+55%)
TSMC株は2024年から2025年にかけて大きく上昇しました。
株価パフォーマンス:
- 52週レンジ: 134.25-311.37ドル
- 1年リターン: +55.25%
- 現在価格: 約284ドル(2025年時点)
上昇の背景:
- AI半導体需要の急拡大(NVIDIA・AMD向け製造増加)
- 先端チップ(3ナノ以下)の売上が前年比3倍以上に成長
- ファウンドリ市場シェアの拡大(67.6% → 70.2%)
AI関連の期待が株価を押し上げています。
(2) 現在価格284ドルと目標株価343ドルの比較
アナリストは、TSMC株にさらなる上昇余地があると見ています。
目標株価:
- アナリスト平均: 343.75ドル(現在価格から+20%上昇余地)
- みんかぶ目標: 293.23ドル
- 楽天証券(2024年1月): 145ドル(その後大幅上昇)
評価:
- 証券アナリスト: 「割安」「Strong Buy」
- AI診断: 「割高」
評価が分かれている点に注意が必要です。
(3) アナリスト評価と予想のばらつき(304-372ドル)
アナリストの予想には幅があります。
予想レンジ:
- 楽観的予想: 372ドル
- 保守的予想: 304ドル
- 平均: 343.75ドル
予想が分かれる要因:
- AI需要の持続性: HPC向け売上(60%)が今後も伸び続けるか
- 地政学リスク: 台湾・中国関係の緊張が供給に影響しないか
- 競合の追い上げ: Samsung・SMICが技術力を向上させているか
予想の幅の広さは、不確実性の高さを示しています。
4. TSMCの市場シェアと競争優位性
TSMCが圧倒的なシェアを持つ理由と、競合との比較を解説します。
(1) ファウンドリ市場シェア70.2%(2025年Q2過去最高)
TSMCのファウンドリ市場シェアは、2025年Q2に過去最高を記録しました。
市場シェアの推移:
- 2024年Q2: 61.7%
- 2025年Q1: 67.6%
- 2025年Q2: 70.2%(過去最高)
シェア拡大の理由:
- AI半導体需要の急増
- 先端チップ製造能力の優位性
- 顧客企業(NVIDIA・AMD・Apple)の好調
(2) 先端チップ製造(3ナノ以下)で90%独占
TSMCは、最先端の半導体製造で他を圧倒しています。
先端チップの市場シェア:
- 3ナノ以下 + パッケージング: 90%独占
- 3ナノ半導体の売上: 前年比3倍以上の成長
先端技術の重要性:
- NVIDIA・AMD・AppleなどのAI・HPC向けチップは、3ナノ以下の最先端プロセスが必要
- 競合(Samsung・SMIC)は技術的に数年遅れている
この技術優位性がTSMCの強みです。
(3) Samsung(7.3%)・SMIC(5.1%)との比較
競合企業との市場シェアを比較します。
ファウンドリ市場シェア(2025年Q2):
- TSMC: 70.2%
- Samsung: 7.3%
- SMIC(中国): 5.1%
- その他: 17.4%
TSMCは第2位のSamsungを10倍近く引き離しています。
Samsungの課題:
- 先端プロセス(3ナノ以下)の歩留まり(良品率)が低い
- 顧客企業がTSMCに回帰する傾向
SMICのリスク:
- 米中半導体規制により、最先端装置の入手が困難
- 技術的にTSMCから数世代遅れ
当面、TSMCの優位性は続くと見られています。
(4) AI半導体需要(HPC向け売上60%)の影響
TSMCの業績は、AI半導体需要に大きく依存しています。
HPC(高性能コンピューティング)向け売上:
- 比率: 全体の60%
- 成長率: 2025年1-8月で前年比+37%増
AI需要のリスク:
- 減速兆候: 一部のアナリストがAI需要の鈍化を指摘
- 過度な依存: HPC向けが60%を占めるため、AI市場の調整が直撃
AI需要の持続性が、TSMC株の最大の注目ポイントです。
5. TSMC株への投資方法と注意点
実際にTSMC株へ投資する際の手順と注意点を解説します。
(1) 米国ADRの購入手順(SBI証券・楽天証券等)
日本の証券会社でTSMC株を購入する具体的な手順です。
購入手順(SBI証券の例):
- ログイン: SBI証券のサイトにログイン
- 外国株取引: メニューから「外国株式」を選択
- 銘柄検索: ティッカー「TSM」で検索
- 注文入力: 株数・価格・注文タイプ(成行・指値)を指定
- 注文確定: 内容を確認して発注
手数料(SBI証券の例):
- 取引手数料: 約定代金の0.495%(最低0ドル、上限22ドル)
- 為替手数料: 片道25銭/ドル
(2) 為替リスク(米ドル・台湾ドル)
TSMC ADRは米ドル建てのため、為替リスクがあります。
為替リスクの仕組み:
- 株価上昇 + 円高: 円建てでの利益が減少
- 株価上昇 + 円安: 円建てでの利益が増加
為替リスクの例:
- 購入時: 1ドル=153円、284ドル(43,452円)
- 売却時: 1ドル=140円、320ドル(44,800円)
- 株価は+12.7%上昇だが、円建ては+3.1%のみ
円高が進むと、株価上昇の恩恵が薄れる点に注意が必要です。
(3) 地政学リスク(台湾・中国関係)
TSMCの最大のリスクは、台湾と中国の地政学的緊張です。
地政学リスクの内容:
- 台湾海峡の緊張: 中国が台湾に軍事的圧力をかけている
- 供給途絶リスク: TSMCの工場が操業停止すれば、世界的半導体不足が発生
- 予測不能: 突発的な事態が株価を急落させる可能性
リスク管理:
- 過度な集中投資を避ける
- 地政学ニュースを定期的にチェック
(4) AI需要の持続性とバリュエーション
AI需要が今後も続くかどうかが、株価を左右します。
AI需要の持続性:
- 楽観的見方: 生成AI・機械学習の普及で長期的に需要拡大
- 慎重な見方: AI投資のピークアウト・需要減速の兆候
バリュエーション:
- アナリスト: 「割安」(目標株価343ドル)
- AI診断: 「割高」(現在価格284ドル)
バリュエーションについては、慎重に見極める必要があります。
6. まとめ:TSMC投資を検討する際のポイント
TSMCは、世界の半導体産業を支える最重要企業であり、AI半導体需要の恩恵を最も受ける企業の一つです。米国ADRなら日本の証券会社で簡単に購入できます。
TSMC投資のまとめ:
- TSMCはファウンドリ市場シェア70.2%で圧倒的優位性
- 米国ADR(NYSE: TSM)は日本の証券会社で購入可能(1株約284ドル)
- 2024-2025年の株価は52週レンジ134-311ドルで、1年リターン+55%
- アナリスト平均目標株価343ドル(+20%上昇余地)だが評価は分かれる
- 地政学リスク・AI需要の持続性・為替リスクに注意
投資を検討する際のポイント:
- 事業理解: ファウンドリビジネスとAI半導体需要の関係を理解する
- バリュエーション: 現在価格が割高か割安かを慎重に判断する
- リスク管理: 地政学リスク・為替リスクを認識し、過度な集中を避ける
- 長期視点: 短期の株価変動に一喜一憂せず、長期的な成長性を見る
次のアクション:
- ネット証券(SBI・楽天・マネックス)で外国株口座を開設する
- TSMCの決算発表・IRレポートを定期的にチェックする
- 台湾・中国関係のニュースを追跡する
- AI半導体需要のトレンドを把握する
- 少額から始めて、市場の反応を見ながら投資額を調整する
TSMCへの投資は、半導体産業とAI技術の未来に賭ける投資です。リスクを理解した上で、戦略的に検討しましょう。
※本記事の株価・目標価格は2025年時点の情報です。最新情報は証券会社や企業IRでご確認ください。投資判断は自己責任でお願いします。
