TSMC(台湾積体電路)の米国株|ADRの特徴と投資方法

著者: Single Stock編集部公開日: 2025/11/17

TSMC株を買いたいけれど、米国市場での買い方が分からない...

TSMC(台湾積体電路製造)は、NVIDIA・AMD・Appleなどの半導体チップを製造する世界最大のファウンドリ企業です。AI半導体需要の拡大により、TSMCへの投資を検討する日本人投資家も増えています。

しかし、「米国市場でTSMC株をどう買うのか」「台湾本社株との違いは何か」といった疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。この記事では、TSMCの米国ADR(ティッカー: TSM)の仕組みと投資方法を詳しく解説します。

この記事のポイント:

  • TSMCは世界最大のファウンドリ企業で、ファウンドリ市場シェア70.2%(2025年Q2過去最高)
  • 米国ADR(NYSE: TSM)は日本の証券会社(SBI・楽天・マネックス等)で購入可能
  • 2024-2025年の株価は52週レンジ134-311ドルで、1年リターン+55.25%
  • アナリスト平均目標株価343ドル(現在価格284ドルから+20%上昇余地)
  • 地政学リスク(台湾・中国関係)とAI需要の持続性が主要リスク

1. TSMC(台湾積体電路)とは

TSMCは、世界の半導体産業を支える最重要企業の一つです。まずは企業の基本情報を理解しましょう。

(1) 世界最大のファウンドリ企業

TSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company)は、1987年に設立された台湾の半導体製造企業です。

基本情報:

  • 設立: 1987年
  • 本社: 台湾・新竹市
  • 事業: 半導体ファウンドリ(受託製造)
  • 市場シェア: ファウンドリ市場で70.2%(2025年Q2、過去最高)

世界の先端半導体の大部分はTSMCが製造しており、業界での存在感は圧倒的です。

(2) 事業内容とビジネスモデル

TSMCは「ファウンドリ」と呼ばれるビジネスモデルで成長してきました。

ファウンドリとは:

  • 定義: 半導体設計企業(ファブレス)から設計を受託し、製造のみを行う事業モデル
  • 顧客: 自社で製造設備を持たない企業(NVIDIA、AMD、Appleなど)
  • 特徴: 最先端の製造技術に集中投資し、規模の経済を実現

TSMCは自社ブランドの半導体を販売せず、あくまで製造に特化しています。

主な製品分野:

  • HPC(高性能コンピューティング): AI・データセンター向け(売上の60%)
  • モバイル: スマートフォン向けチップ
  • 自動車: 自動運転・ADAS向け
  • IoT: 組み込み機器向け

(3) 主要顧客(NVIDIA・AMD・Apple等)

TSMCの主要顧客は、世界を代表するテクノロジー企業です。

主要顧客:

  • NVIDIA: AI半導体(H100、A100など)の製造
  • AMD: CPU(Ryzen)・GPU(Radeon)の製造
  • Apple: iPhone・Macのプロセッサ(A17 Pro、M3など)の製造
  • Broadcom・Marvell: データセンター・ネットワーク向けチップ

これらの企業の成長がTSMCの業績に直結しています。

2. TSMCの米国ADR(NYSE: TSM)の仕組み

TSMCは台湾企業ですが、米国市場でも株式を取引できます。その仕組みを解説します。

(1) ADR(米国預託証券)とは

ADR(American Depositary Receipt)は、外国企業の株式を米国市場で取引できる仕組みです。

ADRの仕組み:

  1. 台湾本社株を預託: TSMCの台湾本社株を米国の預託銀行に預ける
  2. ADRを発行: 預託銀行が預託証券(ADR)を発行
  3. NYSE上場: ADRをニューヨーク証券取引所(NYSE)で取引

ティッカーシンボル:

  • 米国ADR: TSM(NYSE)
  • 台湾本社株: 2330(台湾証券取引所)

日本の投資家は、米国ADR(TSM)を購入するのが一般的です。

(2) 台湾本社株との関係と価格差

ADRと台湾本社株は、同じ企業の株式を異なる市場で取引しているため、価格は連動しますが完全一致はしません。

価格差が生じる理由:

  • 為替レート: 米ドル建て(ADR) vs 台湾ドル建て(本社株)
  • 取引時間: 米国市場と台湾市場の営業時間が異なる
  • 流動性: 米国ADRの方が取引量が多い

換算比率:

  • TSMCのADRは、台湾本社株5株に相当する権利を持つ

価格差が大きい場合、裁定取引(アービトラージ)により徐々に縮小します。

(3) 日本の証券会社で購入する方法

TSMCの米国ADRは、日本のネット証券で簡単に購入できます。

購入手順:

  1. 証券口座を開設: SBI証券、楽天証券、マネックス証券など
  2. 外国株口座を開設: 米国株取引用の口座(無料)
  3. ティッカー「TSM」で検索: 証券会社のツールで検索
  4. 注文: 株数・価格を指定して発注

購入に必要な金額(2025年時点):

  • 1株: 約284ドル(約43,600円、1ドル=153円換算)
  • 最低購入単位: 1株から

米国株は1株から買えるため、少額でも投資可能です。

3. TSMCの株価推移と2025年の見通し

2024-2025年のTSMC株のパフォーマンスと、専門家の予想を紹介します。

(1) 2024-2025年のパフォーマンス(52週レンジ134-311ドル、1年リターン+55%)

TSMC株は2024年から2025年にかけて大きく上昇しました。

株価パフォーマンス:

  • 52週レンジ: 134.25-311.37ドル
  • 1年リターン: +55.25%
  • 現在価格: 約284ドル(2025年時点)

上昇の背景:

  • AI半導体需要の急拡大(NVIDIA・AMD向け製造増加)
  • 先端チップ(3ナノ以下)の売上が前年比3倍以上に成長
  • ファウンドリ市場シェアの拡大(67.6% → 70.2%)

AI関連の期待が株価を押し上げています。

(2) 現在価格284ドルと目標株価343ドルの比較

アナリストは、TSMC株にさらなる上昇余地があると見ています。

目標株価:

  • アナリスト平均: 343.75ドル(現在価格から+20%上昇余地)
  • みんかぶ目標: 293.23ドル
  • 楽天証券(2024年1月): 145ドル(その後大幅上昇)

評価:

  • 証券アナリスト: 「割安」「Strong Buy」
  • AI診断: 「割高」

評価が分かれている点に注意が必要です。

(3) アナリスト評価と予想のばらつき(304-372ドル)

アナリストの予想には幅があります。

予想レンジ:

  • 楽観的予想: 372ドル
  • 保守的予想: 304ドル
  • 平均: 343.75ドル

予想が分かれる要因:

  • AI需要の持続性: HPC向け売上(60%)が今後も伸び続けるか
  • 地政学リスク: 台湾・中国関係の緊張が供給に影響しないか
  • 競合の追い上げ: Samsung・SMICが技術力を向上させているか

予想の幅の広さは、不確実性の高さを示しています。

4. TSMCの市場シェアと競争優位性

TSMCが圧倒的なシェアを持つ理由と、競合との比較を解説します。

(1) ファウンドリ市場シェア70.2%(2025年Q2過去最高)

TSMCのファウンドリ市場シェアは、2025年Q2に過去最高を記録しました。

市場シェアの推移:

  • 2024年Q2: 61.7%
  • 2025年Q1: 67.6%
  • 2025年Q2: 70.2%(過去最高)

シェア拡大の理由:

  • AI半導体需要の急増
  • 先端チップ製造能力の優位性
  • 顧客企業(NVIDIA・AMD・Apple)の好調

(2) 先端チップ製造(3ナノ以下)で90%独占

TSMCは、最先端の半導体製造で他を圧倒しています。

先端チップの市場シェア:

  • 3ナノ以下 + パッケージング: 90%独占
  • 3ナノ半導体の売上: 前年比3倍以上の成長

先端技術の重要性:

  • NVIDIA・AMD・AppleなどのAI・HPC向けチップは、3ナノ以下の最先端プロセスが必要
  • 競合(Samsung・SMIC)は技術的に数年遅れている

この技術優位性がTSMCの強みです。

(3) Samsung(7.3%)・SMIC(5.1%)との比較

競合企業との市場シェアを比較します。

ファウンドリ市場シェア(2025年Q2):

  • TSMC: 70.2%
  • Samsung: 7.3%
  • SMIC(中国): 5.1%
  • その他: 17.4%

TSMCは第2位のSamsungを10倍近く引き離しています。

Samsungの課題:

  • 先端プロセス(3ナノ以下)の歩留まり(良品率)が低い
  • 顧客企業がTSMCに回帰する傾向

SMICのリスク:

  • 米中半導体規制により、最先端装置の入手が困難
  • 技術的にTSMCから数世代遅れ

当面、TSMCの優位性は続くと見られています。

(4) AI半導体需要(HPC向け売上60%)の影響

TSMCの業績は、AI半導体需要に大きく依存しています。

HPC(高性能コンピューティング)向け売上:

  • 比率: 全体の60%
  • 成長率: 2025年1-8月で前年比+37%増

AI需要のリスク:

  • 減速兆候: 一部のアナリストがAI需要の鈍化を指摘
  • 過度な依存: HPC向けが60%を占めるため、AI市場の調整が直撃

AI需要の持続性が、TSMC株の最大の注目ポイントです。

5. TSMC株への投資方法と注意点

実際にTSMC株へ投資する際の手順と注意点を解説します。

(1) 米国ADRの購入手順(SBI証券・楽天証券等)

日本の証券会社でTSMC株を購入する具体的な手順です。

購入手順(SBI証券の例):

  1. ログイン: SBI証券のサイトにログイン
  2. 外国株取引: メニューから「外国株式」を選択
  3. 銘柄検索: ティッカー「TSM」で検索
  4. 注文入力: 株数・価格・注文タイプ(成行・指値)を指定
  5. 注文確定: 内容を確認して発注

手数料(SBI証券の例):

  • 取引手数料: 約定代金の0.495%(最低0ドル、上限22ドル)
  • 為替手数料: 片道25銭/ドル

(2) 為替リスク(米ドル・台湾ドル)

TSMC ADRは米ドル建てのため、為替リスクがあります。

為替リスクの仕組み:

  • 株価上昇 + 円高: 円建てでの利益が減少
  • 株価上昇 + 円安: 円建てでの利益が増加

為替リスクの例:

  • 購入時: 1ドル=153円、284ドル(43,452円)
  • 売却時: 1ドル=140円、320ドル(44,800円)
  • 株価は+12.7%上昇だが、円建ては+3.1%のみ

円高が進むと、株価上昇の恩恵が薄れる点に注意が必要です。

(3) 地政学リスク(台湾・中国関係)

TSMCの最大のリスクは、台湾と中国の地政学的緊張です。

地政学リスクの内容:

  • 台湾海峡の緊張: 中国が台湾に軍事的圧力をかけている
  • 供給途絶リスク: TSMCの工場が操業停止すれば、世界的半導体不足が発生
  • 予測不能: 突発的な事態が株価を急落させる可能性

リスク管理:

  • 過度な集中投資を避ける
  • 地政学ニュースを定期的にチェック

(4) AI需要の持続性とバリュエーション

AI需要が今後も続くかどうかが、株価を左右します。

AI需要の持続性:

  • 楽観的見方: 生成AI・機械学習の普及で長期的に需要拡大
  • 慎重な見方: AI投資のピークアウト・需要減速の兆候

バリュエーション:

  • アナリスト: 「割安」(目標株価343ドル)
  • AI診断: 「割高」(現在価格284ドル)

バリュエーションについては、慎重に見極める必要があります。

6. まとめ:TSMC投資を検討する際のポイント

TSMCは、世界の半導体産業を支える最重要企業であり、AI半導体需要の恩恵を最も受ける企業の一つです。米国ADRなら日本の証券会社で簡単に購入できます。

TSMC投資のまとめ:

  • TSMCはファウンドリ市場シェア70.2%で圧倒的優位性
  • 米国ADR(NYSE: TSM)は日本の証券会社で購入可能(1株約284ドル)
  • 2024-2025年の株価は52週レンジ134-311ドルで、1年リターン+55%
  • アナリスト平均目標株価343ドル(+20%上昇余地)だが評価は分かれる
  • 地政学リスク・AI需要の持続性・為替リスクに注意

投資を検討する際のポイント:

  • 事業理解: ファウンドリビジネスとAI半導体需要の関係を理解する
  • バリュエーション: 現在価格が割高か割安かを慎重に判断する
  • リスク管理: 地政学リスク・為替リスクを認識し、過度な集中を避ける
  • 長期視点: 短期の株価変動に一喜一憂せず、長期的な成長性を見る

次のアクション:

  • ネット証券(SBI・楽天・マネックス)で外国株口座を開設する
  • TSMCの決算発表・IRレポートを定期的にチェックする
  • 台湾・中国関係のニュースを追跡する
  • AI半導体需要のトレンドを把握する
  • 少額から始めて、市場の反応を見ながら投資額を調整する

TSMCへの投資は、半導体産業とAI技術の未来に賭ける投資です。リスクを理解した上で、戦略的に検討しましょう。

※本記事の株価・目標価格は2025年時点の情報です。最新情報は証券会社や企業IRでご確認ください。投資判断は自己責任でお願いします。

よくある質問

Q1TSMCの米国ADRとは何ですか?

A1TSMCの株式を米国市場(NYSE)で取引できる仕組みです。ティッカーはTSMです。台湾本社株を裏付けとし、日本の証券会社(SBI・楽天・マネックス等)で購入可能です。

Q2TSMC株は今から買っても割高ではないですか?

A2現在価格284ドルに対し、アナリスト平均目標株価343ドル(+20%上昇余地)です。ただしAI診断は「割高」、アナリストは「割安」と評価が分かれます。バリュエーションは慎重に見極めるべきです。

Q3TSMCの配当金はもらえますか?

A3ADRでも配当金を受け取れます。ただし米国で10%の源泉徴収後、日本で20.315%課税される二重課税に注意してください。外国税額控除制度で軽減可能です。

Q4TSMCの最大のリスクは何ですか?

A4台湾・中国間の地政学リスク(供給途絶で世界的半導体不足の可能性)、AI需要の減速(HPC向け売上60%に依存)、米中半導体規制の影響が主要リスクです。

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Single Stock編集部

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