ADR主要銘柄とは?日本企業・外国企業の代表的なADR一覧

著者: Single Stock編集部公開日: 2025/11/15

ADR主要銘柄とは【米国市場で取引できる外国企業の株式】

ADR(米国預託証券、American Depositary Receipt)は、外国企業の株式を米国市場で取引できるようにした証券です。日本企業や台湾、中国、英国などの外国企業の株式を、米ドル建てで米国市場で売買できます。

「ADRの主要銘柄にはどのような企業があるのか」「日本企業のADRは何社あるのか」「ADRに投資するメリット・デメリットは何か」といった疑問を抱えている投資家も多いでしょう。

この記事では、ADR主要銘柄の一覧と投資方法、2024-2025年の動向を詳しく解説します。

この記事のポイント:

  • 日本企業のADR主要銘柄はトヨタ、ソニー、ソフトバンクグループなど16社が活発に取引されている
  • 外国企業のADRには台湾セミコンダクター(TSM)、アリババ(BABA)、British American Tobacco(BAT)などがある
  • ADRには3つのレベル(Level 1, 2, 3)があり、Level 1はOTC市場、Level 2/3は取引所上場
  • 2024-2025年に一部の日本企業ADRが上場廃止(NTTデータ、三菱重工業、JSR)
  • ADRのメリットは米国市場の取引時間で取引可能、デメリットは為替リスクやカストディアンフィー

(1) ADR(米国預託証券)の定義

ADR(American Depositary Receipt)は、米国の預託銀行(J.P. Morgan、Deutsche Bank等)が外国企業の株式を預かり、その証券として発行するものです。

仕組み:

  1. 預託銀行が外国株を預かる
  2. 預託銀行が米ドル建てのADRを発行
  3. 投資家は米国市場でADRを購入(外国株を間接的に保有)
  4. 配当や議決権は預託銀行を通じて行使

ADRは、米国の投資家が外国株に投資する際の手軽な手段として広く利用されています。日本の投資家にとっても、米国株口座で外国株に投資できる便利な選択肢です。

(2) 主要銘柄の条件:流動性・時価総額・投資家人気

ADRの「主要銘柄」とは、以下の条件を満たす銘柄を指します。

主要銘柄の条件:

  • 流動性が高い: 日々の取引高が多く、売買しやすい
  • 時価総額が大きい: 大型企業で市場への影響力が大きい
  • 投資家人気が高い: 広く認知され、投資家の関心が高い

J.P. MorganのADR.com(https://www.adr.com/)では、2,500銘柄以上のADRデータベースを提供しており、国別・セクター別に検索できます。

ADRの基本知識【仕組みと3つのレベル】

ADRの仕組みとレベル分類を理解することで、投資対象を適切に選ぶことができます。

(1) ADRの仕組み:預託銀行が外国株を預かり発行

ADRは、預託銀行が外国企業の株式を現地市場で購入し、それを担保としてADRを発行します。投資家はADRを購入することで、外国株を間接的に保有します。

主な預託銀行:

  • J.P. Morgan
  • Deutsche Bank
  • Citibank
  • Bank of New York Mellon

預託銀行は、配当金の分配、株主総会の議決権行使、企業情報の提供などを代行します。

(2) Level 1(OTC市場)・Level 2(取引所上場)・Level 3(資金調達)の違い

ADRには3つのレベルがあり、それぞれ規制や取引市場が異なります。

Level 1(OTC市場):

  • 最も簡易的なADR、OTC市場でのみ取引
  • SEC(米国証券取引委員会)への報告要件が最小限
  • 流動性が低く、スプレッドが広い可能性
  • 多くの日本企業ADRはLevel 1

Level 2(取引所上場):

  • NYSE、NASDAQなどの取引所に上場可能
  • 年次報告(Form 20-F)が必要
  • 流動性が高く、取引しやすい
  • 台湾セミコンダクター(TSM)などはLevel 2

Level 3(資金調達可能):

  • 新規資本調達を目的とした発行
  • 米国企業と同等のSEC報告義務
  • 最も規制が厳しい

投資家は、ADRのレベルを理解し、流動性や情報開示の程度を考慮して投資判断を行うことが推奨されます。

(3) ADR比率:1 ADRが何株の原株に相当するか

ADR比率は、1株のADRが何株の原株(外国株)に相当するかを示す比率です。この比率は預託銀行によって設定され、銘柄ごとに異なります。

ADR比率の例:

  • トヨタ自動車: 1 ADR = 2株の日本株
  • ソニーグループ: 1 ADR = 1株の日本株

ADR比率により、配当額や株価の換算が変わるため、投資前に確認することが重要です。

(4) カストディアンフィー:預託手数料の影響

ADRには、カストディアンフィー(預託手数料)と呼ばれる管理費用が年1-3セント/株かかります。この手数料は、配当金から差し引かれることが一般的です。

カストディアンフィーの影響:

  • 配当利回りが実質的に低下
  • 年間1-3セント/株は小さいが、長期保有で累積

投資家は、カストディアンフィーを考慮して実質的な配当利回りを計算することが推奨されます。

日本企業のADR主要銘柄【トヨタ・ソニー・ソフトバンクグループ等16社】

日本企業のADRは、米国市場で取引され、日本時間の夜間に値動きを把握できるため、翌日の東京市場の参考指標として活用されます。

(1) 主要16社のリスト(トヨタ、ソニー、キヤノン、KDDI等)

2025年4月時点で約300社の日本企業がADRとして上場していますが、活発に取引されている主要銘柄は以下の16社です。

日本企業のADR主要銘柄(16社):

  1. トヨタ自動車(TM)
  2. ソニーグループ(SONY)
  3. ソフトバンクグループ(SFTBY)
  4. キヤノン(CAJ)
  5. KDDI(KDDIY)
  6. NTT(NTTYY)
  7. 本田技研工業(HMC)
  8. 三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)
  9. 武田薬品工業(TAK)
  10. みずほフィナンシャルグループ(MFG)
  11. 任天堂(NTDOY)
  12. オリックス(IX)
  13. パナソニックホールディングス(PCRFY)
  14. 日産自動車(NSANY)
  15. セブン&アイ・ホールディングス(SVNDY)
  16. 野村ホールディングス(NMR)

これらの銘柄は、株探(かぶたん)の日本株ADR一覧(https://us.kabutan.jp/tanken/adr/jp)で株価や取引高を確認できます。

(2) 2024-2025年の上場廃止動向(NTTデータ、三菱重工業、JSR)

2024-2025年にかけて、一部の日本企業ADRが上場廃止となりました。

上場廃止となったADR:

  • NTTデータグループ: 2025年9月上場廃止
  • 三菱重工業: 2024年9月上場廃止
  • JSR: 2024年6月上場廃止

上場廃止の理由は、流動性の低さやコスト削減などが挙げられています。投資家は、投資前に最新の上場状況を確認することが重要です。

(3) 日本株ADRの特徴:夜間取引で翌日の東京市場の参考指標

日本株ADRは、米国市場の取引時間(日本時間の夜間)で値動きを把握できるため、翌日の東京市場の寄り付き予想に役立ちます。

活用方法:

  • 米国市場で日本株ADRが上昇 → 翌日の東京市場で株価上昇の可能性
  • 米国市場で日本株ADRが下落 → 翌日の東京市場で株価下落の可能性

Nikkei225jp.comの日本株ADR全銘柄一覧(https://nikkei225jp.com/adr/)では、円換算株価と東京証券取引所の株価を比較表示しています。

外国企業のADR主要銘柄【台湾セミコンダクター・アリババ等】

外国企業(日本以外)のADRは、台湾、中国、英国、韓国など多様な国の企業を含みます。

(1) 台湾企業:台湾セミコンダクター(TSM)

台湾セミコンダクター(TSMC、ティッカー: TSM)は、世界最大の半導体ファウンドリ(受託製造)企業です。

主な特徴:

  • Level 2 ADR(NYSE上場)
  • 高い流動性
  • Apple、NVIDIAなど主要テック企業向けに半導体を製造

台湾セミコンダクターは、AI関連株の成長により2024年に大きく上昇しました。

(2) 中国企業:アリババ(BABA)、バイドゥ(BIDU)等

中国企業のADRは多数ありますが、米中緊張により上場廃止リスクがあります。

主な中国ADR:

  • アリババ(BABA): 中国最大のEコマース企業
  • バイドゥ(BIDU): 中国の検索エンジン大手
  • JD.com(JD): 中国のオンライン小売大手
  • Pinduoduo(PDD): 中国の新興Eコマース企業

これらの企業はLevel 2/3 ADRとして取引所に上場していますが、2024年米大統領選挙の影響を受ける可能性があり、政治リスクに注意が必要です。

(3) 英国企業:British American Tobacco(BAT)等高配当銘柄

英国企業のADRは、高配当利回りで注目されています。

主な英国ADR:

  • British American Tobacco(BAT): タバコ大手、配当利回り7.8%(2020年時点)
  • Unilever(UL): 消費財大手
  • AstraZeneca(AZN): 製薬大手

英国企業ADRは、安定した配当収入を求める投資家に人気です。

(4) 中国ADRの上場廃止リスク:米中緊張の影響

中国ADRは、米中緊張により上場廃止リスクがあります。米国証券取引委員会(SEC)は、中国企業に対して財務監査の透明性を要求しており、基準を満たさない企業は上場廃止となる可能性があります。

リスク:

  • SECの監査要件を満たせない場合、上場廃止
  • 米中政治関係の悪化により、投資規制強化の可能性

中国ADRに投資する場合は、政治リスクを十分に理解し、最新の規制動向を確認することが重要です。

ADRに投資する方法とリスク【証券会社の選び方と注意点】

ADRは、日本の証券会社から簡単に購入できます。以下では、投資方法とリスクを解説します。

(1) 日本の証券会社から購入可能:楽天証券、SBI証券、マネックス証券等

ADRは、米国株取引を提供する日本の証券会社で購入できます。

主な証券会社:

  • 楽天証券: 米国株取引手数料0.495%(最低0ドル、上限22ドル)、為替手数料片道25銭
  • SBI証券: 米国株取引手数料0.495%、為替手数料片道25銭
  • マネックス証券: ADR取扱一覧を公式サイトで公開(https://info.monex.co.jp/us-stock/adrlist.html)

購入手順は通常の米国株と同じで、米国株口座を開設し、ティッカーシンボルで検索して注文します。

(2) ADR情報サイトの活用:J.P. MorganのADR.com、Investing.com

ADR銘柄の情報は、以下のサイトで確認できます。

主なADR情報サイト:

これらのサイトを活用すると、ADR比率、配当利回り、取引高などの詳細情報を確認できます。

(3) リスク:為替変動、カストディアンフィー、上場廃止リスク

ADRには以下のリスクがあります。

主なリスク:

  • 為替リスク: 米ドル建てのため、円高時には円換算価値が目減り
  • カストディアンフィー: 配当金から年1-3セント/株が差し引かれる
  • 上場廃止リスク: 流動性低下や規制により上場廃止の可能性
  • 流動性リスク: Level 1 ADRは取引量が少なく、スプレッドが広い可能性

(4) ADR価格と東京市場の価格乖離

日本株ADRの価格は、東京市場の株価を米ドル換算した価格に連動しますが、需給関係で一時的に乖離が発生することがあります。

乖離の原因:

  • 米国市場と東京市場の取引時間の違い
  • 為替レートの変動
  • ADR固有の需給関係

投資家は、ADR価格と東京市場の株価を比較し、割高・割安を判断することが推奨されます。

まとめ:ADR主要銘柄への投資戦略【2024-2025年の動向】

ADR主要銘柄への投資を検討する際は、メリット・デメリットを理解し、最新の動向を確認することが重要です。

(1) ADRのメリット:米国市場の取引時間で取引可能

ADRの主なメリットは以下の通りです。

メリット:

  • 米国市場の取引時間(日本時間の夜間)で外国株を取引できる
  • 米ドル建て決済が可能で、米国株口座で一括管理
  • 日本株ADRは翌日の東京市場の参考指標として活用できる

(2) ADRのデメリット:手数料・為替リスク・流動性

ADRの主なデメリットは以下の通りです。

デメリット:

  • 為替リスク(円高時には米ドル建て資産が目減り)
  • カストディアンフィー(配当金から年1-3セント/株が差し引かれる)
  • Level 1 ADRは流動性が低く、スプレッドが広い可能性
  • 一部銘柄の上場廃止リスク

(3) 2024-2025年の注意点:上場廃止動向を確認

2024-2025年にかけて、一部の日本企業ADR(NTTデータ、三菱重工業、JSR)が上場廃止となりました。投資前に最新の上場状況を確認することが重要です。

また、中国ADRは米中緊張により上場廃止リスクがあるため、政治リスクを十分に理解した上で投資判断を行うことが推奨されます。

次のアクション:

  • J.P. MorganのADR.comや株探(かぶたん)で主要銘柄を確認する
  • ADRのレベル(Level 1, 2, 3)と流動性を理解する
  • 証券会社の米国株取引手数料と為替手数料を比較する
  • 上場廃止動向と政治リスクを確認する

ADR主要銘柄への投資を通じて、米国市場でのグローバル分散投資を実現しましょう。投資判断は自己責任で行い、必要に応じて専門家に相談することをおすすめします。

よくある質問

Q1ADR主要銘柄にはどのような企業がありますか?

A1日本企業ではトヨタ、ソニー、ソフトバンクグループなど16社、外国企業では台湾セミコンダクター(TSM)、アリババ(BABA)、British American Tobacco(BAT)などが主要銘柄です。J.P. MorganのADR.comで2,500銘柄以上を検索できます。

Q2日本企業のADRは何社ありますか?

A22025年4月時点で約300社の日本企業がADRとして上場していますが、活発に取引されている主要銘柄は16社です。ただし、2024-2025年にNTTデータ、三菱重工業、JSRなど一部が上場廃止となりました。

Q3ADRのLevel 1、Level 2、Level 3の違いは何ですか?

A3Level 1はOTC市場のみで取引(SECへの報告最小限)、Level 2はNYSE・NASDAQ等の取引所に上場可能、Level 3は新規資本調達を目的とした発行で最も厳格な報告要件があります。

Q4ADRに投資するメリット・デメリットは何ですか?

A4メリットは米国市場の取引時間で外国株を取引でき、米ドル建て決済が可能なことです。デメリットは為替リスク、カストディアンフィー(預託手数料)、一部銘柄の流動性の低さ、上場廃止リスクです。

Q5中国企業のADRは投資して大丈夫ですか?

A5中国ADRは米中緊張により上場廃止リスクがあり、2024年米大統領選挙の影響を受ける可能性があります。投資する場合は政治リスクを十分に理解し、最新の規制動向を確認することが重要です。

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Single Stock編集部

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