ミリ秒とは?米国株の高速取引(HFT)と個人投資家への影響

著者: Single Stock編集部公開日: 2025/11/13

ミリ秒とは?米国株の高速取引(HFT)と個人投資家への影響

米国株取引の情報を調べていると、「ミリ秒」や「マイクロ秒」といった時間単位を目にすることがあります。また、高頻度取引(HFT)という言葉を耳にし、個人投資家にどのような影響があるのか気になっている方もいるでしょう。

ミリ秒(millisecond、略称ms)とは、1/1000秒という極めて短い時間単位です。現代の株式市場では、コンピュータがこのミリ秒、さらにはマイクロ秒(1/1,000,000秒)単位で自動取引を行うHFT(High-Frequency Trading、高頻度取引)が主流となっており、米国市場では取引の約61-70%、日本の東証でも約40%をHFTが占めています。

この記事では、ミリ秒という時間単位の意味、HFTの仕組み、市場への影響、個人投資家が知るべきポイントと対策を解説します。

この記事のポイント:

  • ミリ秒(ms)= 1/1000秒、HFTの基本速度単位
  • HFTは米国市場で61-70%、日本市場で40%のシェア
  • 1ミリ秒の速度差が数百万ドルの利益差を生む世界
  • 個人投資家は速度競争で不利だが、長期投資で影響を回避可能
  • 指値注文の活用、大型株の選択がHFT対策として有効

1. ミリ秒と株式市場の関係

まず、ミリ秒という時間単位が株式市場でなぜ重要なのかを確認しましょう。

(1) なぜ「ミリ秒」が重要なのか

ミリ秒(millisecond、ms)は、1秒の1/1000の長さ、つまり0.001秒です。人間が瞬きする時間は約300-400ミリ秒と言われており、ミリ秒単位の時間差は人間には体感できません。

しかし、現代の株式市場では、コンピュータが1ミリ秒、さらには1マイクロ秒(1/1,000,000秒)、1ナノ秒(1/1,000,000,000秒)単位で取引を実行しています。この速度差が、HFT業者にとって莫大な利益をもたらすため、「ミリ秒」という時間単位が市場の重要な指標となっています。

例えば、2005年には注文応答時間が97ミリ秒だったものが、2011年には7ミリ秒にまで短縮されました。この10年間で約14倍の高速化が実現しています。

(2) 1ミリ秒の速度差が生む利益差

作家Michael Lewisの著書『Flash Boys』によれば、1ミリ秒の速度差が数百万ドルの利益差を生むとされています。HFT業者は、以下の理由からミリ秒単位の時間短縮に巨額投資を行っています。

  • 裁定取引(アービトラージ): 複数の取引所間の価格差を瞬時に捉え、買いと売りを同時に実行して利益を得る
  • 市場の先回り: 大口注文を事前に検知し、価格変動前に取引を成立させる
  • マーケットメイク: 売値と買値の差(スプレッド)から利益を得る

Goldman Sachsは、取引時間を数百ミリ秒から100マイクロ秒未満に短縮するために$100百万(約100億円)を投資したと報道されており、ミリ秒短縮の経済価値の大きさが伺えます。

2. ミリ秒の定義とHFT(高頻度取引)

ミリ秒の定義と、それを活用するHFTの基本を理解しましょう。

(1) ミリ秒・マイクロ秒・ナノ秒の違い

時間単位を整理すると以下の通りです。

  • 1秒(s): 基本単位
  • 1ミリ秒(ms): 1/1000秒 = 0.001秒
  • 1マイクロ秒(μs): 1/1,000,000秒 = 0.000001秒
  • 1ナノ秒(ns): 1/1,000,000,000秒 = 0.000000001秒

2010年代初期のHFTは「ミリ秒単位」が主流でしたが、2020年代には「マイクロ秒単位」が標準となり、最先端の技術では「ナノ秒単位」での取引も実現しています。

人間が1回瞬きする時間(約300-400ミリ秒)の間に、HFT業者は数千回から数万回の取引を実行できる計算になります。

(2) HFTとは:1ミリ秒以下での自動取引

HFT(High-Frequency Trading、高頻度取引)は、コンピュータがミリ秒以下の時間スケールで自動的に売買を繰り返す取引手法です。アルゴリズムに基づいて、以下のような戦略を実行します。

  • マーケットメイク戦略: 買値と売値を同時に提示し、スプレッドから利益を得る
  • 裁定取引戦略: 複数市場間の価格差を利用して利益を得る
  • イベント駆動戦略: ニュースや経済指標の発表直後に取引を実行

HFT業者は、1日に数千回から数万回の取引を行い、1回あたりの利益は小さいものの、取引回数の多さで大きな利益を積み上げます。

(3) HFTの市場シェア(米国61-70%、日本40%)

HFTの市場シェアは以下の通りです。

  • 米国市場: 取引高の約61-70%がHFT取引(2024年時点)
  • 日本市場(東証): 取引高の約40%、取引金額ベースでも同程度(2024年時点)
  • 主要プレイヤー: Citadel Securities、Virtu Financialなどが米国市場の約25%のシェアを持つ

個人投資家の約40%の注文が、実際にはマーケットメーカー(HFT企業)によって処理されていると言われており、HFTは現代の株式市場のインフラの一部となっています。

3. HFTの仕組みと技術インフラ

HFTを実現する技術的な仕組みを見ていきましょう。

(1) アルゴリズム取引の自動化

HFTの核心は、事前にプログラムされたアルゴリズムによる自動取引です。アルゴリズムは以下の情報をリアルタイムで分析し、取引判断を行います。

  • 市場価格データ: 複数取引所の株価、気配値
  • 注文フロー: 大口注文の動向
  • ニュース・経済指標: 発表直後の価格変動を予測

人間が判断するのではなく、コンピュータが自動的に注文を生成・執行するため、ミリ秒単位での取引が可能になります。

(2) コロケーション:取引所近くのサーバー設置

HFT業者は、「コロケーション(Co-location)」と呼ばれる手法を活用します。これは、取引所のサーバーの近くに自社のサーバーを設置することで、通信時間(レイテンシ)を極限まで短縮する技術です。

例えば、東証のArrowhead(2010年導入)では、コロケーションを利用することで注文応答時間を5ミリ秒以下に短縮できます。物理的な距離が短いほど通信時間が短くなるため、取引所の近くにサーバーを置くことが競争優位につながります。

(3) 光ファイバーネットワークへの巨額投資

HFT業者は、取引所間の通信を高速化するために光ファイバーネットワークに巨額投資を行っています。

  • Spread Networksの事例: ニューヨークとシカゴ間の通信時間を14.5ミリ秒から13.1ミリ秒に短縮するために、約300億円を投資して光ファイバーケーブルを敷設(2010年)。1.4ミリ秒の短縮が巨額投資を正当化する理由となりました。
  • Goldman Sachsの事例: 数百ミリ秒から100マイクロ秒未満への短縮に$100百万を投資(2019年)。

このような投資は、個人投資家には実現不可能な規模であり、HFTと個人投資家の間の技術格差を生んでいます。

4. HFTが市場に与える影響

HFTは市場にメリットとデメリットの両面をもたらします。

(1) メリット:流動性の提供とスプレッド縮小

HFTの主なメリットは以下の通りです。

  • 流動性の向上: HFT業者がマーケットメイクを行うことで、売買が成立しやすくなる
  • スプレッドの縮小: 買値と売値の差が狭まり、個人投資家にとって取引コストが低下
  • 価格発見機能: 複数市場間の価格差を瞬時に調整し、効率的な価格形成を促進

これらのメリットにより、個人投資家も以前より低コストで取引できるようになったと言われています。

(2) デメリット:Flash Crashリスクと市場操縦の懸念

HFTのデメリットとしては以下が挙げられます。

  • Flash Crash(瞬間暴落): 2010年5月6日、米国市場でダウ平均が数分間で約9%下落した事例(一般的な公開情報)。HFTアルゴリズムが連鎖的に売り注文を出したことが原因とされる。
  • 市場操縦の懸念: HFT業者が大口注文を事前に検知し、価格を釣り上げてから売却する「フロントランニング(先回り取引)」の疑い。
  • 不公平性: ミリ秒単位の技術格差により、個人投資家が不利な取引を強いられる可能性。

これらのリスクから、HFTの規制強化を求める声も上がっています。

(3) Michael Lewis『Flash Boys』の問題提起

作家Michael Lewisの著書『Flash Boys』(2014年)は、HFTによる「市場の不正操作」を告発し、大きな議論を呼びました。

Lewisは、HFT業者が1ミリ秒の速度差を利用して個人投資家の注文を「先回り」し、不当な利益を得ていると主張しました。この告発により、米国証券取引委員会(SEC)やNASDAQなどがHFTの透明性向上と規制強化を検討するきっかけとなりました。

ただし、HFT業界側は「流動性提供により市場を効率化している」と反論しており、議論は現在も続いています。

5. 個人投資家への影響と対策

個人投資家がHFTの影響を受けにくくするための対策を確認しましょう。

(1) 速度競争では不利:長期投資戦略の重要性

HFTとミリ秒単位の速度競争をしても、個人投資家に勝ち目はありません。しかし、投資戦略を工夫することで、HFTの影響を最小限に抑えることができます。

  • 長期投資に徹する: HFTは短期的な価格変動を狙う戦略。長期保有(1年以上)を前提とする投資家には影響が限定的。
  • ファンダメンタル分析重視: 企業の財務状況や成長性を分析し、中長期的な価値に基づいて投資判断を行う。
  • 分散投資: 複数銘柄・セクターに分散することで、特定銘柄のHFT影響を平準化。

速度ではなく、企業価値の評価と忍耐力で勝負することが、個人投資家の最大の武器です。

(2) 指値注文の活用と成行注文の回避

HFTの影響を受けにくい注文方法を選ぶことも重要です。

  • 指値注文を使う: 希望価格を指定することで、予期しない価格での約定を避ける。HFT業者による「価格釣り上げ」の影響を軽減。
  • 成行注文を避ける: 成行注文は現在の市場価格で即座に約定するため、HFT業者による価格操作の影響を受けやすい。
  • 寄り付き・引けの取引: 市場開始時や終了時の取引は、HFTの影響が相対的に小さいとされる。

特に、大口注文を出す際は指値注文を活用し、分割発注することで市場への影響を最小化できます。

(3) 流動性が高い大型株の選択

HFTの影響を受けにくい銘柄を選ぶことも対策の一つです。

  • 大型株(時価総額が大きい銘柄): Apple、Microsoft、Amazonなどの大型株は取引量が多く、HFTによる価格乱高下の影響が相対的に小さい。
  • 流動性が高い銘柄: 1日の取引量が多い銘柄は、HFTが価格を大きく動かしにくい。
  • 小型株・低流動性銘柄は注意: 取引量が少ない銘柄は、HFTが価格を操作しやすく、個人投資家に不利。

投資対象を選ぶ際には、時価総額と1日の平均取引量を確認することが推奨されます。

6. まとめ:個人投資家が知るべきポイント

ミリ秒(1/1000秒)という時間単位は、現代の株式市場において高頻度取引(HFT)の基本単位として重要な役割を果たしています。HFTは米国市場で61-70%、日本市場で40%のシェアを持ち、市場の流動性向上に貢献する一方、Flash Crashや市場操縦の懸念も指摘されています。

個人投資家は、ミリ秒単位の速度競争では不利ですが、長期投資・ファンダメンタル分析・指値注文の活用により、HFTの影響を回避できます。投資判断は自己責任で行い、自分の投資スタイルに合った戦略を構築することが推奨されます。

個人投資家が知るべきポイント:

  • HFTとの速度競争は避け、長期投資に徹する
  • 指値注文を活用し、成行注文を避ける
  • 流動性が高い大型株を選ぶ
  • ファンダメンタル分析で企業価値を評価する
  • 分散投資で特定銘柄のリスクを平準化する

※投資判断は自己責任で行ってください。最新の市場動向や規制情報は、証券会社や金融庁のウェブサイトでご確認ください。

よくある質問

Q1HFT(高頻度取引)とは何ですか?

A1コンピュータがミリ秒(1/1000秒)以下の時間スケールで自動売買する取引手法です。アルゴリズムに基づいて、1日に数千回から数万回の取引を行います。米国市場では取引の約61-70%、日本の東証でも約40%をHFTが占めています。

Q2HFTはどれくらい速いですか?

A21ミリ秒(1/1000秒)が基本単位ですが、最新のHFTは5-10マイクロ秒(1/1,000,000秒)で取引を実行します。2005年には97ミリ秒だった注文応答時間が、2011年には7ミリ秒にまで短縮されています。人間が1回瞬きする時間(約300-400ミリ秒)の間に、HFTは数千回の取引を実行できます。

Q3個人投資家はHFTに太刀打ちできますか?

A3速度競争では不利です。しかし、長期投資・ファンダメンタル分析に注力すれば、HFTの影響は限定的です。指値注文を使う、流動性が高い大型株を選ぶ、分散投資するといった対策が有効です。

Q4HFTの市場シェアはどれくらいですか?

A4米国市場では約61-70%、日本の東証では取引高の約40%がHFT企業による取引です(2024年時点)。Citadel Securities、Virtu Financialなどの主要HFT企業が、米国市場の約25%のシェアを持っています。

Q5日本でのHFT規制はありますか?

A52018年4月から登録制が導入され、約60社のHFT業者が金融庁に登録しています。アルゴリズムの内容や取引状況の報告が義務付けられ、市場の透明性向上が図られています。

S

Single Stock編集部

Single Stockは、米国株式投資に関する情報を日本語で提供するメディアです。投資初心者から経験者まで、銘柄分析・市場動向・投資戦略など、株式投資に役立つ情報を分かりやすく解説しています。