NYSE:MRK(メルク)、米国製薬大手への投資は今が狙い目?
「NYSE:MRKって何?」「メルク株への投資を検討しているけど、配当や株価動向はどうなっている?」と疑問を持つ投資家の方は多いのではないでしょうか。メルク(Merck & Co., Inc.、ティッカー:MRK)は、がん免疫療法のキイトルーダ(Keytruda)で知られる米国の製薬大手であり、配当貴族銘柄としても人気があります。しかし、主力製品の特許切れリスクや二重課税などを理解せずに投資を始めると、想定外の損失を被る可能性があります。
この記事では、NYSE:MRKの株価動向、事業内容、配当政策、投資リスクを、日本人投資家にも分かりやすく解説します。
この記事のポイント:
- MRKはNYSE上場の製薬大手で、がん治療薬Keytruda、糖尿病薬Januvia、HPVワクチンGardasilが主力製品
- 配当利回り3.54%で長期配当投資に適しており、配当貴族銘柄として安定配当を実現
- 2024年通期売上642億ドル(前年比7%増)、2025年も641-656億ドルの成長見通し
- リスク:Keytruda依存度が高い(売上の46%)、2028年米国特許切れによる収益減少懸念
- 日本の証券会社(SBI、楽天、マネックス等)で購入可能、NISA口座でも取引できる
1. NYSE:MRK(メルク)とは:製薬大手の基本情報
(1) メルク(Merck & Co., Inc.)の企業概要
メルク(Merck & Co., Inc.)は、米国ニュージャージー州に本社を置く世界的な製薬会社です。1891年に設立され、130年以上の歴史を持つグローバル企業として、医薬品、ワクチン、バイオ医薬品、動物用医薬品を製造・販売しています。
同社は、がん治療、糖尿病、ワクチンなどの分野で革新的な製品を提供しており、世界中の患者の健康に貢献しています。
(2) ティッカーシンボル「MRK」とNYSE上場
メルクのティッカーシンボルはMRKで、ニューヨーク証券取引所(NYSE)に1927年から上場しています。米国株投資家にとって、MRKは長期保有に適した安定銘柄の一つとして認識されています。
(3) 時価総額と業界内でのポジション
2025年時点で、メルクの時価総額は**約2,270億ドル(約31兆円)**です(Yahoo Financeより)。製薬業界では、ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)、ファイザー(PFE)、ノバルティス(NVS)などと並ぶグローバルリーダーです。
主力製品のKeytruda(がん免疫療法)は、世界で最も売れているがん治療薬の一つであり、同社の業績を大きく牽引しています。
(4) MRKとドイツのMerck KGaAとの違い
重要:NYSE:MRK(米国メルク)とドイツのMerck KGaAは別会社です。
- 米国メルク(MRK): Merck & Co., Inc.、北米では「Merck」、北米以外では「MSD(Merck Sharp & Dohme)」として展開
- ドイツのメルク(Merck KGaA): ドイツ・ダルムシュタット本社、医薬品・化学品・ライフサイエンスを手がける
両社は歴史的に同じ起源を持ちますが、第一次世界大戦後に分離し、現在は法的に別会社として運営されています。
2. メルクの事業内容と主力製品
(1) 製薬セグメント(処方薬、ワクチン、バイオ医薬品)
メルクの事業は大きく分けて、製薬セグメントと動物用医薬品セグメントの2つです。製薬セグメントが売上の大部分を占めており、以下の分野で製品を提供しています:
- オンコロジー(がん治療): Keytruda等
- ワクチン: Gardasil、Varivax、RotaTeq等
- 病院向け急性期ケア: 抗菌薬、麻酔薬等
- 免疫・呼吸器: 喘息・アレルギー治療薬等
- 糖尿病: Januvia/Janumet等
(2) 主力製品:Keytruda(がん免疫療法)
メルクの最も重要な製品が、がん免疫療法薬**Keytruda(キイトルーダ)**です。Keytrudaは、PD-1阻害薬と呼ばれる免疫チェックポイント阻害剤で、がん細胞が免疫システムから逃れるのを防ぎ、免疫細胞ががんを攻撃できるようにします。
Keytrudaの特徴:
- 2024年売上: 約295億ドル(メルク全体の売上の**46%**を占める)
- 適応症: 非小細胞肺がん、悪性黒色腫(メラノーマ)、膀胱がん、頭頸部がん、胃がん等、30種類以上のがんに適応
- 特許切れ: 米国では2028年に特許切れ予定(後述のリスク参照)
Keytrudaの成功により、メルクは製薬業界のリーダーとしての地位を確立していますが、同時にKeytruda依存度の高さがリスク要因となっています。
(3) その他の主力製品:Januvia(糖尿病)、Gardasil(HPVワクチン)
メルクは、Keytruda以外にも複数の主力製品を持っています:
- Januvia/Janumet(ジャヌビア/ジャヌメット): 2型糖尿病治療薬。DPP-4阻害薬として、血糖値のコントロールに使用される
- Gardasil(ガーダシル): HPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチン。子宮頸がん、肛門がん、口腔がんなどの予防に使用される
これらの製品は、Keytrudaほどの売上規模ではありませんが、メルクの収益基盤を支える重要な柱です。
(4) 動物用医薬品セグメント
メルクは、動物用医薬品事業も展開しており、家畜やペット向けのワクチン、抗菌薬、寄生虫駆除薬等を製造・販売しています。このセグメントは売上全体の約10-15%を占めます。
3. MRK株の株価推移と財務指標
(1) 直近の株価動向(52週レンジ、株価推移)
2025年時点のMRK株の株価は以下の通りです(Yahoo Financeより):
- 現在株価: $91.45
- 52週レンジ: $73.31 - $105.07
- 株価推移: 2024年11月にPhase 3臨床試験で新薬enlicitide(経口PCSK9阻害薬)がLDLコレステロールを最大60%削減する結果を発表し、株価が8.5%上昇
メルクの株価は、新薬開発の進捗やFDA承認のニュースに大きく反応する傾向があります。特にKeytrudaの適応拡大やenlicitideなどの新薬候補の臨床試験結果は、投資家から注目されています。
(2) 主要財務指標(PER、時価総額)
- 時価総額: $226.98B(約31兆円)
- PER(株価収益率): 12.10
- 配当利回り: 3.54%
PERが12.10という水準は、製薬大手としては低めであり、割安感があると言えます。ただし、Keytruda特許切れのリスクを織り込んでいる可能性もあります。
(3) 2024年通期業績と2025年の見通し
メルクの2024年通期業績は以下の通りです(メルク公式IRより):
- 2024年通期売上: $64.2B(約9.2兆円、前年比7%増)
- Q4売上: $15.6B(前年同期比7%増)
- 2025年見通し: $64.1B - $65.6B(2024年とほぼ同水準の成長を予想)
Keytrudaの適応拡大とGardasilの需要拡大が、業績成長を牽引しています。
(4) 新薬開発の進捗(enlicitide等)
メルクは、Keytruda特許切れ後の収益源として、新薬開発に注力しています。注目すべき新薬候補は以下の通りです:
- enlicitide(経口PCSK9阻害薬): 2024年11月のPhase 3試験でLDLコレステロールを最大60%削減する結果を発表。FDA承認されれば、スタチン系薬剤に次ぐ主力製品となる可能性あり
- その他のパイプライン: がん、感染症、循環器疾患等の分野で複数の新薬候補を開発中
新薬開発の成功は、メルクの長期成長に不可欠です。
4. 配当政策と株主還元:配当貴族銘柄としての魅力
(1) 配当利回り(3.54%)と配当実績
メルクは、長期配当投資家にとって魅力的な銘柄です。配当利回りは3.54%(2025年時点)で、米国株の平均配当利回り(約1.5-2%)を大きく上回っています。
メルクは、配当貴族銘柄の一つとされ、長期にわたって安定配当を維持してきた実績があります。
(2) 配当支払スケジュール(年4回、四半期ごと)
メルクの配当は、**年4回(四半期ごと)**に支払われます。配当支払スケジュールは以下の通りです:
- 3月、6月、9月、12月に配当支払
- 各四半期ごとに同額の配当が支払われる
(3) 安定配当の実績
メルクは、不況期でも配当を維持・増配してきた実績があります。製薬業界は景気変動の影響を受けにくいディフェンシブセクターであり、長期保有に適しています。
ただし、Keytruda特許切れ後の収益減少により、配当が減配されるリスクは存在します。投資判断は慎重に行う必要があります。
5. 投資リスクと注意点
(1) Keytruda依存度が高い(2024年売上の46%)
メルク最大のリスクは、Keytruda依存度の高さです。2024年時点で、Keytrudaは売上の**46%**を占めており、この1製品が業績を大きく左右する状況です。
Keytruda以外の製品が育たない場合、特許切れ後の収益減少は避けられません。
(2) 2028年米国特許切れによる収益減少リスク
Keytrudaの米国特許は2028年に切れる予定です。特許切れ後は、ジェネリック医薬品(後発品)が市場に参入し、Keytrudaの価格競争力が大幅に低下します。
メルクは、新薬開発(enlicitide等)や適応拡大で収益減少を補う計画ですが、Keytrudaほどの売上規模を持つ製品を短期間で生み出すのは容易ではありません。
(3) 配当の二重課税(米国10% + 日本20.315%)
MRK株の配当には、二重課税が適用されます:
- 米国での源泉徴収: 配当の**10%**が米国で差し引かれます
- 日本での課税: 残りの90%に対して、日本でさらに20.315%(所得税15.315%+住民税5%)が課税されます
この二重課税を軽減するため、外国税額控除の手続きを行うことで、米国で支払った税金の一部を日本の税金から差し引くことができます。詳細は税理士や国税庁のウェブサイト(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1240.htm)を参照してください。
(4) 為替リスク(ドル建て投資)
MRK株は米ドル建てで取引されるため、為替リスクがあります:
- 円安時: 米ドルベースでの値上がり分に加え、為替差益が上乗せされる
- 円高時: 米ドルベースで上昇していても、円換算では評価額が減少する場合がある
長期投資では、為替変動もリスクとリターンの一部として受け入れる姿勢が求められます。
6. 日本からMRK株を購入する方法
(1) 主要ネット証券での購入方法(SBI、楽天、マネックス等)
MRK株は、日本の主要ネット証券で購入できます:
- SBI証券: 米国株取引手数料が業界最安水準
- 楽天証券: 楽天ポイントが貯まる、使いやすいアプリ
- マネックス証券: 米国株の銘柄数が豊富、情報ツールが充実
購入手順は以下の通りです:
- 証券会社で米国株取引口座を開設する
- 円から米ドルに両替する(または外貨建MMFで米ドルを保有)
- ティッカーシンボル「MRK」で検索し、購入注文を出す
(2) 取引手数料(約定代金の0.45-0.495%)
米国株の取引手数料は、証券会社によって異なりますが、一般的に**約定代金の0.45-0.495%**程度です。
- SBI証券: 約定代金の0.495%(最低0ドル、上限22ドル)
- 楽天証券: 約定代金の0.495%(最低0ドル、上限22ドル)
- マネックス証券: 約定代金の0.495%(最低0ドル、上限22ドル)
これに加えて、円から米ドルへの為替手数料(片道25銭程度)がかかります。
(3) NISA口座での取引(成長投資枠で可能)
MRK株は、**新NISA(成長投資枠)**で購入できます。成長投資枠では年間240万円まで非課税で投資できます。
ただし、米国での10%源泉徴収は免除されません。NISA口座でも、配当の10%は米国で差し引かれます。残りの90%は日本で非課税となります。
(4) 外国税額控除の手続き
特定口座やNISA以外の口座でMRK株の配当を受け取った場合、確定申告時に外国税額控除の手続きを行うことで、米国で支払った税金の一部を日本の税金から差し引くことができます。
手続きは複雑ですが、証券会社から送られる「外国所得税の額等を証する書類」を確定申告書に添付することで申請できます。詳細は税理士や国税庁(https://www.nta.go.jp/)に相談してください。
※税制は変更される可能性があります。最新情報は国税庁や証券会社の公式サイトをご確認ください。
まとめ:NYSE:MRK(メルク)への投資判断
NYSE:MRK(メルク)は、がん免疫療法のKeytrudaで知られる米国製薬大手です。配当利回り3.54%で長期配当投資に適しており、安定配当の実績があります。一方で、Keytruda依存度の高さと2028年特許切れによる収益減少リスクが懸念されます。
投資判断のポイント:
- 配当利回り3.54%で長期配当投資に適している
- Keytrudaが売上の46%を占め、2028年米国特許切れのリスクあり
- 新薬開発(enlicitide等)の進捗に注目
- 二重課税(米国10% + 日本20.315%)と外国税額控除を理解する
- 為替リスクを許容できるか検討する
次のアクション:
- 主要ネット証券で米国株口座を開設する
- MRK株の配当利回りと業績を定期的に確認する
- 新薬開発の進捗やFDA承認のニュースをフォローする
- 外国税額控除の手続きについて税理士や国税庁に相談する
投資判断は最終的に自己責任となります。メルクの事業リスクと配当政策を十分に理解した上で、慎重に判断してください。
