0. この記事でわかること
本記事では、オラクル(ORCL)について以下の情報を提供します:
- なぜ注目されているのか: クラウドインフラ(OCI)売上が2026年度に前年比77%増の180億ドルへ拡大見通し、RPO(残存契約義務)が4,550億ドルに急増(前年比359%増)、OpenAI・Meta・Nvidiaとの大型AI案件獲得
- 事業内容と成長戦略: エンタープライズDB・ERPの老舗からクラウドファーストへ転換、AIインフラ対応のデータセンター能力を2025年に倍増、マルチクラウド戦略でAWS・Azure上でもOracle Database提供
- 競合との差別化: Microsoft・SAP・Salesforce(エンタープライズアプリ)、AWS・Google Cloud・Azure(クラウドインフラ)との競争で、マルチクラウド戦略と業界特化ソリューションで差別化
- 財務・配当の実績: 2026年度Q1売上149億ドル(前年比12%増)、クラウド売上72億ドル(28%増)、配当・自社株買いで株主還元も設備投資拡大でTTM FCFが53%減少
- リスク要因: 高PER(43倍)、設備投資350億ドルで今後3年間累計260億ドル超の負のFCF予想、2025年に2件のサイバーセキュリティ侵害、EPSガイダンス期待外れで株価7%下落
1. なぜオラクル(ORCL)が注目されているのか
(1) 成長戦略の3つのポイント
オラクルは、創業者ラリー・エリソン会長の下で、以下3つの成長戦略を推進しています:
① クラウドファースト戦略とAIインフラ積極投資
クラウドインフラ(OCI)売上を2026年度に180億ドル(前年比77%増)、2030年度に1,440億ドルへ拡大する計画です。データセンター能力を2025年に倍増し、AI負荷対応のため電力容量をさらに拡大しています。設備投資は2026年度に350億ドル(前年比65%増)を計画しており、生成AI向けGPUクラスタ提供に注力しています。
② マルチクラウド戦略とハイパースケーラー連携
Amazon(AWS)、Google(Google Cloud)、Azure上でのOracle Database売上が前四半期比115%成長しました。マルチクラウド・データセンターは現在23カ所稼働、47カ所を建設中です。OpenAI、Meta、Nvidiaとの大型AI案件を獲得し、ハイパースケーラーとの連携を強化しています。
③ 業界特化ソリューションとM&A統合
金融、医療、小売、製造など業界別に特化したERP・HCM・SCMアプリケーションを提供しています。戦略的M&Aにより製品ラインナップを拡充し、統合・包括的なソリューションを顧客に提供する方針です。
(2) 注目テーマ(AIクラウドインフラ、マルチクラウド戦略、RPO急増)
投資家が注目する主要テーマは以下の通りです:
- AIクラウドインフラとGPU対応データセンター: 生成AIモデル学習・展開向けの需要が供給を上回り、480億ドルの新規契約を獲得(過去最高の四半期ブッキング)
- マルチクラウド戦略(AWS、Google Cloud、Azure連携): 既存のOracle Database顧客がクラウド移行する際、AWS・Azure上でもOracle Databaseを利用可能にし、顧客の選択肢を拡大
- 残存契約義務(RPO)4,550億ドル(前年比359%増): 既に契約済みで今後認識される売上高の総額。将来の収益可視性を示す指標として、RPOの急増は長期成長期待を高めています
(3) 投資家の関心・懸念点
関心点:
- クラウドインフラ(OCI)売上が2026年度Q1に33億ドル(前年比55%増)を記録
- アナリストコンセンサス「買い」(32人中の多数)で、平均目標株価334.06ドル(上昇余地20.52%)
- 長期的にはEPS年率25%成長で、2030年度にEPS 18.31ドル、株価458ドル(PER 25倍想定)に到達する可能性
- 480億ドルの新規契約獲得(過去最高の四半期ブッキング)
懸念点:
- 予想PER 43倍(Nvidiaの31倍を上回る)と2000年ドットコム・バブル期以来の高水準
- 2026-2027年度EPSガイダンスがウォール街予想を下回り、2025年10月に株価7%下落
- 設備投資拡大によりTTMフリーキャッシュフローが53%減少、今後3年間で累計260億ドル超の負のFCFが予想
- 2025年に2件目のサイバーセキュリティ侵害でクライアント認証情報が盗まれ、FBI・CrowdStrikeが捜査中(3月の医療顧客向け侵害に続く)
2. オラクルの事業内容・成長戦略
(1) 主力事業(クラウドインフラ、エンタープライズアプリケーション、ライセンス)
オラクルは、以下3つの事業セグメントに経営資源を集中しています:
① クラウドインフラ(OCI: Oracle Cloud Infrastructure)
IaaS(インフラストラクチャ・アズ・ア・サービス)を提供し、AIワークロードに最適化されています。主な用途は以下の通りです:
- 生成AIモデルの学習・展開(OpenAI、Meta、Nvidiaとの大型案件)
- エンタープライズ向けデータベース・アプリケーション基盤
- マルチクラウド戦略でAWS・Azure上でもOracle Database提供
② クラウドアプリケーション(SaaS)
ERP・HCM・SCMなどのエンタープライズアプリケーションをクラウドで提供しています:
- ERP(Enterprise Resource Planning): 会計、人事、在庫、購買などを統合管理
- HCM(Human Capital Management): 人事・給与・採用・育成を統合管理
- SCM(Supply Chain Management): 調達・製造・物流・在庫を最適化
- 業界特化ソリューション(金融、医療、小売、製造等)
③ ライセンス収入(オンプレミス向け)
従来型のOracle Databaseライセンスとサポート収入です。クラウド移行に伴い減少傾向ですが、既存顧客からの安定収入源として継続しています。
(2) セクター・業種の説明(情報技術・ソフトウェア)
オラクルは、情報技術(Information Technology)セクターのソフトウェア(Software)業種に属します。クラウド業界は競争が激しく、Google、Amazon、Microsoftなどの巨大プレイヤーとの競争が激化しています。
(3) ビジネスモデルの特徴(クラウドファースト、業界特化ソリューション)
オラクルのビジネスモデルには、以下の特徴があります:
クラウドファースト戦略:
従来型オンプレミス(自社データセンターで運用)からクラウドベースソリューションへ移行し、サブスクリプション(月額・年額契約)収益モデルを構築しています。これにより、収益の予測可能性が向上し、RPO(残存契約義務)が急増しています。
業界特化ソリューション:
金融、医療、小売、製造など業界別に特化したERP・HCM・SCMアプリケーションを提供し、業界固有のニーズに対応しています。これにより、競合他社との差別化を図っています。
マルチクラウド戦略:
AWS・Azure上でもOracle Databaseを提供し、顧客が既に利用しているクラウドインフラ上でOracleソリューションを利用可能にしています。これにより、クラウドロックイン(特定ベンダーへの依存)を回避し、顧客の選択肢を拡大しています。
※2025年10月時点のデータです。最新情報はOracle Corporation公式IRページをご確認ください。
(出典: Oracle Corporation Q1 FY2026 Earnings Report, Investor Relations)
3. 競合との差別化
(1) 主要競合企業(Microsoft、SAP、AWS/Google Cloud/Azure)
オラクルの主要競合企業は以下の通りです:
エンタープライズアプリケーション:
- Microsoft(MSFT): Dynamics 365(ERP・HCM)、Officeスイート統合で強み
- SAP(ドイツ): ERP世界最大手。ドイツ・欧州市場で強固な地盤
- Salesforce(CRM): CRM(顧客関係管理)世界最大手。クラウドネイティブで急成長
クラウドインフラ:
- AWS(Amazon Web Services): クラウドインフラ世界最大手。シェア約30-40%
- Google Cloud(Alphabet): AI・機械学習で強み。シェア約10%
- Azure(Microsoft): エンタープライズ市場で強み。シェア約20-30%
(2) 競合優位性(Oracle Database、マルチクラウド戦略、AI大型案件)
オラクルの競合優位性は以下の通りです:
Oracle Database のエコシステム:
リレーショナルデータベース(RDBMS)市場で長年トップシェアを維持し、既存顧客のロックイン効果が高いです。エンタープライズ向けに信頼性・パフォーマンスで定評があり、クラウド移行時も既存顧客がOracle Databaseを継続利用する傾向があります。
マルチクラウド戦略の柔軟性:
AWS・Azure上でもOracle Databaseを提供し、顧客が既に利用しているクラウドインフラ上でOracleソリューションを利用可能にしています(前四半期比115%成長)。これにより、クラウドロックインを回避し、顧客の選択肢を拡大しています。
AI大型案件の獲得:
OpenAI、Meta、Nvidiaとの大型AI案件を獲得し、生成AIモデル学習・展開向けのインフラ需要を取り込んでいます。480億ドルの新規契約(過去最高の四半期ブッキング)は、AI需要の取り込みが進んでいることを示しています。
(3) 市場でのポジショニング(エンタープライズDB・ERP老舗、クラウド急成長)
オラクルは、エンタープライズDB・ERP市場で老舗として確固たる地位を築いています。クラウド移行では後発でしたが、2026年度Q1にクラウドインフラ売上が前年比55%増を記録し、急速に追い上げています。AWS・Azure・Google Cloudとの競争は激しいですが、既存顧客基盤とマルチクラウド戦略で差別化を図っています。
4. 財務・配当の実績
(1) 売上高・利益の推移(2026年度Q1売上149億ドル、クラウド72億ドル)
2026年度Q1(2025年9月期)の主要財務データは以下の通りです:
項目 | 金額(億ドル) | 前年比 |
---|---|---|
売上高 | 149 | +12% |
クラウド売上 | 72 | +28% |
クラウドインフラ(OCI) | 33 | +55% |
RPO(残存契約義務) | 4,550 | +359% |
2026年度の売上成長率は15%、2027年度には20%への加速を予想しています。クラウドインフラを成長ドライバーとし、2026年度に180億ドル(前年比77%増)、2030年度に1,440億ドルへの拡大を見込んでいます。
※2025年10月時点のデータです。最新情報はOracle Corporation公式IRページをご確認ください。
(出典: Oracle Corporation Q1 FY2026 Earnings Report, Investor Relations)
(2) 配当履歴(配当・自社株買いで株主還元、配当利回り約1-2%)
オラクルは、配当と自社株買いで株主還元を実施しています。配当利回りは株価により変動しますが、2025年時点で約1-2%程度です(株価により変動)。ただし、設備投資拡大によりフリーキャッシュフロー(FCF)は圧迫されており、TTM FCFが53%減少しました。今後3年間で累計260億ドル超の負のFCFが予想されており、配当・自社株買いの持続可能性に懸念があります。
(3) 財務健全性(TTM FCF 53%減、今後3年で累計260億ドル超の負のFCF予想)
設備投資を2026年度に350億ドル(前年比65%増)に拡大する計画であり、短期的にはFCFが大幅に圧迫されます。TTM(直近12カ月)FCFが53%減少し、今後3年間で累計260億ドル超の負のFCFが予想されています。これは、AIインフラ対応のデータセンター能力を倍増させるための積極投資ですが、短期的には株主還元余力を制約します。
長期的には、クラウドインフラ売上の拡大によりFCFが回復する見通しですが、成長期待が実現しない場合の財務リスクに注意が必要です。
5. リスク要因
(1) 事業リスク(設備投資拡大によるFCF圧迫、競争激化)
オラクルは、設備投資を2026年度に350億ドル(前年比65%増)に拡大する計画であり、TTM FCFが53%減少しました。今後3年間で累計260億ドル超の負のFCFが予想されており、短期的には配当・自社株買いの持続可能性に懸念があります。また、AWS・Azure・Google Cloudとの競争が激化しており、コンポーネント遅延によりクラウド容量拡張が阻害されるリスクもあります。
(2) 市場環境リスク(高PER懸念、EPSガイダンス期待外れ、株価下落)
予想PER 43倍は、Nvidiaの31倍を上回り、2000年ドットコム・バブル期以来の高水準です。2026-2027年度EPSガイダンスがウォール街予想を下回り、2025年10月に株価7%下落しました。高PERは成長期待を反映していますが、成長期待が実現しない場合の株価下落リスクが大きくなります。為替レートの変動により、円建てでの投資収益が大きく変動する可能性もあります。
(3) 規制・競争リスク(サイバーセキュリティ侵害、サプライチェーン制約)
2025年に2件目のサイバーセキュリティ侵害でクライアント認証情報が盗まれ、FBI・CrowdStrikeが捜査中です(3月の医療顧客向け侵害に続く)。サイバーセキュリティ侵害により顧客の信頼低下や法的責任が生じるリスクがあります。また、コンポーネント遅延によりクラウド容量拡張が阻害され、競合他社が急速にインフラを拡大する中で競争上不利になる可能性があります。
6. まとめ:投資判断のポイント
(1) この銘柄の強み(クラウド急成長、AI需要取り込み、安定ライセンス収入)
オラクルの主な強みは以下の通りです:
- クラウド急成長: 2026年度Q1にクラウドインフラ売上が前年比55%増、2026年度に180億ドル(77%増)を見込む
- AI需要取り込み: OpenAI・Meta・Nvidiaとの大型AI案件獲得、480億ドルの新規契約(過去最高の四半期ブッキング)
- 安定ライセンス収入: 従来型Oracle Databaseライセンスとサポート収入が継続
(2) リスク要因(再掲:高PER、FCF圧迫、セキュリティ侵害)
主なリスク要因は以下の通りです:
- 高PER(43倍): 2000年ドットコム・バブル期以来の高水準、成長期待が実現しない場合の株価下落リスク
- FCF圧迫: 設備投資350億ドルで今後3年間累計260億ドル超の負のFCF予想、配当・自社株買いの持続可能性に懸念
(3) 向いている投資家(クラウド・AI長期成長期待、短期FCF圧迫許容)
オラクルは、以下のような投資家に向いています:
- クラウド・AI市場の長期成長を期待する投資家: AIインフラ需要の取り込みとクラウド移行の加速を期待
- 短期的なFCF圧迫を許容できる投資家: 設備投資拡大による短期的なFCF圧迫を受け入れ、長期的な成長を待つ
- エンタープライズソフトウェアの安定収益基盤を評価する投資家: Oracle Databaseのエコシステムと既存顧客基盤
一方、以下のような投資家には不向きです:
- 配当重視の投資家: 配当利回り約1-2%と低く、FCF圧迫により配当・自社株買いの持続可能性に懸念
- 短期的な業績改善を期待する投資家: 設備投資拡大により短期的にはFCFが大幅に圧迫される見通し
- バリュエーション重視の投資家: 予想PER 43倍と高水準であり、成長期待が実現しない場合の株価下落リスクに注意
免責事項: 本記事は情報提供を目的としており、個別銘柄の推奨ではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。最新の財務データ・市場動向は、Oracle Corporation公式IRページ、SEC EDGAR、各種金融情報サービスでご確認ください。
Q: オラクルの配当利回りは?
A: 2025年時点で約1-2%程度です(株価により変動)。配当と自社株買いで株主還元を実施していますが、設備投資拡大によりフリーキャッシュフロー(FCF)が圧迫されています。TTM FCFが53%減少し、今後3年間で累計260億ドル超の負のFCFが予想されており、配当・自社株買いの持続可能性に懸念があります。詳細は財務・配当の実績セクションを参照してください。
Q: オラクルの主な競合は?
A: エンタープライズアプリケーションではMicrosoft(Dynamics 365)、SAP(ERP世界最大手)、Salesforce(CRM)が主な競合です。クラウドインフラではAWS、Google Cloud、Azureが主な競合です。Oracleはマルチクラウド戦略でAWS・Azure上でもOracle Database提供を展開し、前四半期比115%成長を記録しています。
Q: オラクルのリスク要因は?
A: 主なリスク要因は以下の通りです:
- 高PER(43倍): 2000年ドットコム・バブル期以来の高水準。成長期待が実現しない場合の株価下落リスク
- 設備投資拡大によるFCF圧迫: 2026年度に350億ドル投資予定。今後3年間で累計260億ドル超の負のFCF予想
- サイバーセキュリティ侵害: 2025年に2件目の侵害でFBI・CrowdStrikeが捜査中。顧客の信頼低下や法的責任リスク
- EPSガイダンス期待外れ: 2026-2027年度EPSガイダンスがウォール街予想を下回り、2025年10月に株価7%下落
詳細はリスク要因セクションを参照してください。
Q: オラクルは長期投資に向いている?
A: クラウド・AI市場の長期成長を期待し、短期的なFCF圧迫を許容できる投資家に向いています。クラウドインフラ売上が2026年度に前年比77%増の180億ドルへ拡大見通し、OpenAI・Meta・Nvidiaとの大型AI案件を獲得しています。ただし、高PER(43倍)のため成長期待が実現しない場合の株価下落リスクに注意が必要です。配当重視の投資家には不向きです(配当利回り約1-2%)。投資判断はご自身の責任で行ってください。