S&P500

キンダー・モルガン (KMI)

Kinder Morgan Inc

0. この記事でわかること

本記事では、キンダー・モルガン(KMI)について以下の情報を提供します:

  • なぜ注目されているのか: 北米最大級の天然ガスパイプライン事業者として、データセンター需要やLNG輸出拡大を背景に安定成長が見込まれています
  • 事業内容と成長戦略: 天然ガスパイプラインへの集中投資(93億ドルのプロジェクトバックログの90%超)、LNG輸出施設向け供給の拡大、再生可能天然ガス(RNG)などエネルギー転換事業への展開
  • 競合との差別化: エンタープライズ・プロダクツ・パートナーズやウィリアムズなど大手ミッドストリーム企業との比較、北米最大級のネットワーク規模と長期契約ベースの安定収益モデル
  • 財務・配当の実績: 8年連続増配、配当利回り約4.3%、調整後EBITDA 4%成長見込み(2025年)
  • リスク要因: 2029-2030年の長期契約更新時の料金低下リスク、配当性向101%での財務持続性、エネルギー転換による長期的な需要減少懸念

(約250字)

1. なぜキンダー・モルガン(KMI)が注目されているのか

(1) 成長戦略の3つのポイント

キンダー・モルガンは、北米最大級の天然ガスパイプライン事業者として、以下3つの成長戦略を推進しています。

天然ガスパイプラインへの集中投資: 93億ドルのプロジェクトバックログのうち90%超を天然ガスインフラ拡張に配分しています。2030年までに天然ガス火力発電需要が日量30億立方フィート増加すると予測しており、この需要増加を取り込むための積極投資を進めています。

LNG輸出施設向け供給の拡大: 2028年までにLNG施設向け供給量を50%増加させ、日量12Bcf(10億立方フィート)まで拡大する計画です。世界的なLNG需要の高まりを背景に、米国からの輸出拡大が見込まれており、キンダー・モルガンはこの成長市場で重要な役割を担っています。

エネルギー転換事業への展開: 再生可能天然ガス(RNG)生産能力6.4 bcfを保有し、CO2パイプライン・貯蔵事業を強化しています。脱炭素社会への移行期において、天然ガスは石炭より環境負荷が低い「橋渡し燃料」として位置づけられており、同社はこのトレンドを活かしたポートフォリオ拡充を図っています。

(2) 注目テーマ(データセンター需要・LNG輸出・脱炭素)

データセンター需要: アリゾナからサウスカロライナまで、データセンター向けパイプライン建設に注力しています。AI技術の発展によりデータセンターの電力需要が急増しており、その多くが天然ガス火力発電で賄われることから、パイプライン需要も拡大しています。

LNG輸出拡大: 米国は世界最大のLNG輸出国となっており、2028年までにキンダー・モルガンのLNG施設向け供給量は50%増加すると見込まれています。欧州のロシア産ガス依存脱却、アジアのエネルギー需要増加が追い風となっています。

脱炭素・エネルギー転換: CO2回収・貯蔵(CCS)やRNG生産などの事業に参入しており、エネルギー転換期における収益源の多様化を進めています。

(3) 投資家の関心・懸念点

関心点: 配当利回り約4.3%(2025年時点)と高水準のインカムゲインが得られることから、安定収入を求める投資家に人気があります。また、2025年6月にMoody'sが格付け見通しを「ポジティブ」に引き上げ、財務の健全性が評価されています。

懸念点: 配当性向が101%と利益を超える水準にあり、財務持続性に不安があります。また、ROIC(投下資本利益率)4.80%がWACC(加重平均資本コスト)7.73%を下回っており、経済的価値創出に課題があるとの指摘もあります。さらに、2029-2030年に期限を迎える長期契約の更新時に、新規パイプライン稼働による競争激化で料金引き下げ圧力が懸念されています。

2. キンダー・モルガンの事業内容・成長戦略

(1) 主力事業

キンダー・モルガンは、石油・天然ガスの中流事業(Midstream)を専門とする企業です。主力事業は以下3つです:

天然ガスパイプライン: キャッシュフローの約3分の2を占める最大の収益源です。米国全土に約7万マイル(約11万キロ)のパイプラインネットワークを保有し、天然ガスを生産地から発電所やLNG輸出施設へ輸送しています。

液体炭化水素パイプライン: 原油、ガソリン、ディーゼルなどの石油製品を輸送するパイプライン網を運営しています。特にPermian盆地(テキサス州)からメキシコ湾岸への原油輸送で強みを持っています。

貯蔵・ターミナル施設: 天然ガス貯蔵施設、原油・石油製品の貯蔵タンク、積出ターミナルを運営しています。これらの施設は、需給調整や輸出支援において重要な役割を果たしています。

(2) セクター・業種の説明

キンダー・モルガンは、エネルギーセクター(Energy)石油・ガス・消費燃料(Oil, Gas & Consumable Fuels) に分類されます。

中流事業の特徴は、原油価格の変動に対する感応度が低いことです。上流事業(探鉱・生産)は原油価格に大きく影響されますが、中流事業は輸送・貯蔵サービスに対する手数料収入が中心であり、長期契約ベースの安定収益モデルとなっています。

(3) ビジネスモデルの特徴

長期契約による安定収益: 多くの契約が10年以上の長期契約であり、輸送量に応じた固定料金を受け取る仕組みです。これにより、景気後退期や原油価格下落時でもキャッシュフローが安定します。

規律ある投資方針: プロジェクトバックログ93億ドルに対し、EBITDA倍率6倍未満の案件に絞り込んで投資しています。これにより、過剰投資を避け、株主還元と成長投資のバランスを取っています。

インフラ資産の優位性: パイプラインや貯蔵施設は参入障壁が高く、規制や用地取得のハードルが高いため、既存事業者に有利な市場構造となっています。

3. 競合との差別化

(1) 主要競合企業

キンダー・モルガンの主要競合企業は以下の通りです:

エンタープライズ・プロダクツ・パートナーズ(EPD): 時価総額約680億ドルで、北米最大級のミッドストリーム企業の一つです。天然ガス液(NGL)処理やプロパン輸出に強みを持ちます。

ウィリアムズ(WMB): 時価総額約600億ドルで、天然ガスパイプラインに特化した企業です。Transcontinental Gas Pipe Lineなどの大規模パイプラインを運営しています。

ONEOK(OKE): 時価総額約500億ドルで、天然ガス液(NGL)の集荷・処理・輸送に強みを持ちます。

(2) 競合優位性

北米最大級のネットワーク規模: キンダー・モルガンは約7万マイルのパイプライン網を保有し、米国全土をカバーしています。この規模により、顧客に多様なルート選択肢を提供でき、ネットワーク効果が働きます。

LNG輸出施設への供給力: 2028年までにLNG施設向け供給量を日量12Bcfまで拡大する計画であり、LNG輸出市場での存在感が高まっています。メキシコ湾岸の主要LNG施設への供給ルートを確保しており、今後の成長が期待されます。

多様な事業ポートフォリオ: 天然ガスパイプライン、液体炭化水素パイプライン、貯蔵・ターミナル、CO2パイプラインなど、多岐にわたる事業を展開しています。これにより、特定市場の変動リスクを分散できます。

(3) 市場でのポジショニング

キンダー・モルガンは、時価総額約580億ドル(2025年時点)で、北米ミッドストリーム業界で第2-3位の規模です。天然ガスパイプラインがキャッシュフローの約3分の2を占めるため、天然ガス需要の成長に連動した業績拡大が見込まれます。

一方で、配当性向101%と利益を超える配当を続けており、成長投資と株主還元のバランスが今後の課題となっています。競合のEPDやWMBと比較すると、配当性向が高めであり、財務余力の面ではやや劣後しています。

4. 財務・配当の実績

(1) 売上高・利益の推移

キンダー・モルガンの財務実績は以下の通りです(2025年Q2決算までの最新データ):

項目 2024年通期 2025年Q2(前年同期比)
売上高 約180億ドル -
調整後EBITDA 約76億ドル +6%
純利益(Q2) - 7.15億ドル(+24%)
調整後EPS(Q2) - 0.28ドル(+12%)

2025年通期の業績ガイダンスでは、調整後EBITDA 4%成長、EPS 8%成長を見込んでいます。プロジェクトバックログが88億ドルから93億ドルに拡大しており、今後の成長投資が業績を押し上げる見通しです。

(出典: Kinder Morgan Q2 2025 Earnings Call, Yahoo Finance)

(2) 配当履歴

キンダー・モルガンは、8年連続増配を継続しており、年間配当は1.17ドル(2025年予定、前年比2%増)です。配当利回りは約4.3%(2025年10月時点の株価ベース)で、高水準のインカムゲインが得られます。

ただし、配当性向が101%と利益を超える水準にあり、配当の持続可能性には注意が必要です。過去には2015年に減配を実施した経緯があり、財務状況によっては再び減配のリスクも考えられます。

(3) 財務健全性

格付け: 2025年6月にMoody'sが格付け見通しを「ポジティブ」に引き上げました。これは、天然ガス需要の増加と規律ある投資方針により、財務の健全性が改善していると評価されたためです。

資本効率: ROIC(投下資本利益率)4.80%がWACC(加重平均資本コスト)7.73%を下回っており、経済的価値創出に課題があります。今後、プロジェクトバックログからの収益化が進めば、ROICの改善が期待されます。

有利子負債: 中流事業は設備投資が大きいため、一定の負債を抱えるビジネスモデルです。キンダー・モルガンも同様ですが、安定したキャッシュフロー創出により、債務返済能力は維持されています。

(出典: InvestLingo - キンダー・モルガン(KMI)配当推移と将来性分析)

5. リスク要因

(1) 事業リスク

2029-2030年の長期契約更新リスク: Permian盆地で新規パイプラインが稼働すると、契約更新時に料金引き下げ圧力がかかる可能性があります。競合との競争激化により、収益性が低下するリスクがあります。

顧客の生産減少リスク: 原油・天然ガス生産企業の生産量が減少すると、パイプラインの輸送量も減少します。経済不況や原油価格の長期低迷により、顧客の生産活動が縮小するリスクがあります。

配当性向の高さ: 配当性向101%は、利益を超える配当を続けていることを意味します。この状況が続くと、財務余力が低下し、成長投資や債務返済に支障をきたす可能性があります。

(2) 市場環境リスク

金利上昇リスク: 中流事業は設備投資が大きく、負債比率が高い傾向にあります。金利が上昇すると、借入コストが増加し、利益を圧迫する可能性があります。

為替リスク: 日本人投資家にとって、ドル円為替レートの変動は大きなリスクです。円高が進むと、ドル建て配当や株価を円換算した際の価値が目減りします。

インフレリスク: 資材費や人件費の上昇により、プロジェクトコストが増加するリスクがあります。インフレが長期化すると、収益性が低下する可能性があります。

(3) 規制・競争リスク

パイプライン新設規制: 環境保護の観点から、新規パイプライン建設の許認可が厳格化しています。プロジェクトの遅延や中止により、成長戦略が阻害されるリスクがあります。

エネルギー転換リスク: 再生可能エネルギーへのシフトが加速すると、長期的には天然ガス需要が減少する可能性があります。ただし、天然ガスは石炭より環境負荷が低いため、当面は「橋渡し燃料」として需要が継続すると見込まれています。

競争激化リスク: Permian盆地などの主要生産地では、複数のパイプライン事業者が競合しています。新規参入や既存事業者の設備拡張により、料金競争が激化するリスクがあります。

6. まとめ:投資判断のポイント

(1) この銘柄の強み

安定したキャッシュフロー: 長期契約ベースの収益モデルにより、景気変動や原油価格の影響を受けにくい安定したキャッシュフローを創出しています。

成長市場への対応: データセンター需要、LNG輸出拡大、エネルギー転換事業への展開により、今後の成長が期待されます。特に、2028年までにLNG施設向け供給量を50%増加させる計画は、世界的なLNG需要増加を取り込む好機です。

高配当: 配当利回り約4.3%、8年連続増配を継続しており、インカムゲイン投資家にとって魅力的な銘柄です。

(2) リスク要因(再掲)

配当性向の高さ: 配当性向101%は、利益を超える配当を続けていることを意味し、財務持続性に懸念があります。

長期契約更新リスク: 2029-2030年に期限を迎える契約の更新時に、料金引き下げ圧力がかかる可能性があります。

(3) 向いている投資家

安定したインカムゲインを重視する投資家: 高配当利回りと安定したキャッシュフローにより、定期的な配当収入を求める投資家に適しています。

エネルギーインフラへの投資を検討する投資家: 中流事業の特性(原油価格への感応度が低い、参入障壁が高い)を理解し、長期保有を前提とする投資家に向いています。

リスク許容度が中程度の投資家: 配当性向の高さやエネルギー転換リスクを理解した上で、ポートフォリオの一部として組み入れる投資家に適しています。

※本記事は情報提供を目的としており、投資を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。最新の財務情報は、Kinder Morgan公式IRページやSEC EDGARでご確認ください。

Q: キンダー・モルガンの配当利回りは?

A: 約4.3%です(2025年10月時点)。8年連続増配を継続しており、年間配当1.17ドルを計画しています。ただし、配当性向が101%と利益を超える水準にある点に注意が必要です。配当の持続可能性については、今後の業績動向や財務状況を継続的に確認することをおすすめします。

Q: キンダー・モルガンの主な競合は?

A: エンタープライズ・プロダクツ・パートナーズ(EPD)、ウィリアムズ(WMB)、ONEOK(OKE)などの大手ミッドストリーム企業が主要競合です。キンダー・モルガンは北米最大級のパイプラインネットワークを保有し、LNG輸出施設への供給力が差別化要因となっています。

Q: キンダー・モルガンのリスク要因は?

A: 主なリスク要因として、2029-2030年に期限を迎える長期契約の料金低下リスク、配当性向101%での財務持続性の懸念、エネルギー転換による天然ガス需要の長期的減少リスクなどがあります。また、金利上昇や為替変動、規制強化なども注意が必要です。詳細は本文のリスク要因セクションを参照してください。

Q: キンダー・モルガンは長期投資に向いている?

A: 安定したインカムゲインを重視する投資家、エネルギーインフラへの投資を検討する投資家に向いています。長期契約ベースの安定収益モデルと、データセンター需要やLNG輸出拡大などの成長機会がある一方で、配当性向の高さやエネルギー転換リスクを理解した上での判断が必要です。ポートフォリオの一部として、リスク分散を意識した投資をおすすめします。

よくある質問

Q1キンダー・モルガンの配当利回りは?

A1約4.3%です(2025年10月時点)。8年連続増配を継続しており、年間配当1.17ドルを計画しています。ただし、配当性向が101%と利益を超える水準にある点に注意が必要です。配当の持続可能性については、今後の業績動向や財務状況を継続的に確認することをおすすめします。

Q2キンダー・モルガンの主な競合は?

A2エンタープライズ・プロダクツ・パートナーズ(EPD)、ウィリアムズ(WMB)、ONEOK(OKE)などの大手ミッドストリーム企業が主要競合です。キンダー・モルガンは北米最大級のパイプラインネットワークを保有し、LNG輸出施設への供給力が差別化要因となっています。

Q3キンダー・モルガンのリスク要因は?

A3主なリスク要因として、2029-2030年に期限を迎える長期契約の料金低下リスク、配当性向101%での財務持続性の懸念、エネルギー転換による天然ガス需要の長期的減少リスクなどがあります。また、金利上昇や為替変動、規制強化なども注意が必要です。詳細は本文のリスク要因セクションを参照してください。

Q4キンダー・モルガンは長期投資に向いている?

A4安定したインカムゲインを重視する投資家、エネルギーインフラへの投資を検討する投資家に向いています。長期契約ベースの安定収益モデルと、データセンター需要やLNG輸出拡大などの成長機会がある一方で、配当性向の高さやエネルギー転換リスクを理解した上での判断が必要です。ポートフォリオの一部として、リスク分散を意識した投資をおすすめします。