S&P500

テキサス・パシフィック・ランド・トラスト (TPL)

Texas Pacific Land Trust

0. この記事でわかること

本記事では、テキサス・パシフィック・ランド・トラスト(TPL)について以下の情報を提供します:

  • なぜ注目されているのか: テキサス州Permian Basinで88万エーカー超の土地を所有し、石油・ガス生産へのロイヤルティと水供給で収益を得る極めてユニークなビジネスモデルを展開
  • 事業内容と成長戦略: 土地及び資源管理(石油・ガスロイヤルティ、地役権、再生可能エネルギー、土地販売)、水サービス及び運営(TPWR子会社)の2セグメントで事業を展開
  • 競合との差別化: 類似のビジネスモデルを持つ企業は少なく、Viper Energy Partners、Kimbell Royalty Partnersなどの石油・ガスロイヤルティREITに対し、圧倒的な土地所有規模で優位性を確立
  • 財務・配当の実績: Q2 2025は純利益1.161億ドル、売上1.875億ドルで四半期記録を達成。配当利回りは約0.5-1.0%で成長投資を優先
  • リスク要因: 原油価格の下落リスク(ロイヤルティ収益が油価に直接連動)、2019年の株主代理権争奪戦の影響継続、パーミアン盆地の生産ペース鈍化

テキサス・パシフィック・ランド・トラストは、極めてユニークなビジネスモデルで原油価格に連動する銘柄です。投資判断はご自身で行ってください。

1. なぜテキサス・パシフィック・ランド・トラスト(TPL)が注目されているのか

(1) 成長戦略の3つのポイント

テキサス・パシフィック・ランド・トラストは、エネルギー市場で独自の成長戦略を展開しています:

①産出水脱塩プロジェクト推進

産出水脱塩プロジェクトを推進し、2025年半ばに試験施設を完成させ、Orlaで日量1万バレルの商用施設を建設中です。年内に商業化リスクを低減し、発電・データセンター事業への多角化を推進します。産出水(石油・ガス生産時に排出される塩水)を淡水化することで、水資源不足が深刻なテキサス州で新たな収益源を確保できます。

②鉱物権益の統合買収

2024年に3.955億ドルで鉱物権益を買収し、約11,600純ロイヤルティエーカーを追加しました。断片化した石油・ガスロイヤルティ・地表・水資産市場の統合機会を追求し、規模の経済とクロスセルを実現します。

③水サービスセグメント強化

水サービスセグメントを強化し、パーミアン盆地の事業者にフルサービス(水源確保、産出水処理、インフラ開発、廃水処理)を提供しています。Q1 2025に水サービス売上6940万ドルの記録を達成しました。

(2) 注目テーマ(産出水脱塩・発電・データセンター・鉱物権益買収)

投資家がテキサス・パシフィック・ランド・トラストに注目する理由は、以下の3つのテーマです:

①産出水脱塩技術(Desalination)

産出水脱塩技術により、石油・ガス生産時に排出される塩水を淡水化し、水資源として再利用できます。テキサス州は水資源不足が深刻で、脱塩水を発電・データセンター・農業に供給することで新たな収益源を確保できます。

②発電・データセンター事業への多角化

脱塩プロジェクトにより、発電・データセンター事業への参入を計画しています。AIデータセンターは大量の電力・冷却水を必要とするため、パーミアン盆地での脱塩水供給とエネルギーインフラを活用した事業展開が期待されています。

③鉱物権益・ロイヤルティ資産の統合買収

断片化した石油・ガスロイヤルティ・地表・水資産市場を統合し、規模の経済を実現します。2024年に買収した約11,600純ロイヤルティエーカーにより、ロイヤルティ収益基盤を拡大しました。

(3) 投資家の関心・懸念点

投資家の関心:アナリスト評価「適度な買い」

2名のアナリストが平均目標株価$1,163(最高$1,280、最低$1,046)で「適度な買い」評価を付けています。Q2 2025は純利益1.161億ドル、売上1.875億ドルで四半期記録を達成。Q1 2025は石油・ガスロイヤルティ生産3.11万Boe/日(前年比25%増、前四半期比7%増)、水サービス売上6940万ドルを達成しました。現金・現金同等物4.6億ドル、無借金の強固な財務基盤を維持しています。

投資家の懸念:2019年の株主代理権争奪戦の影響継続

2019年に反対株主が取締役を受託者責任違反で提訴し、終身任期の取締役3名体制に株主が不満を持ちました(株主は取締役死去まで変更不可)。最大株主Horizon Kinetics等が企業構造変更と情報開示拡大を要求しており、取締役会への不信感が投資家間に根強く残存しています。

2. テキサス・パシフィック・ランド・トラストの事業内容・成長戦略

(1) 主力事業

テキサス・パシフィック・ランド・トラストは、以下の2つのセグメントで事業を展開しています:

①土地及び資源管理

約873,000エーカーの土地、約207,000純ロイヤルティエーカー(NRA)の石油・ガスロイヤルティ権益を所有しています。石油・ガス生産者に土地を貸与し、ロイヤルティ収入(生産量に応じた権利金)を得ます。また、地役権(パイプライン・道路・送電線の通行権)、再生可能エネルギー(太陽光・風力発電)、土地販売も展開しています。

積極的な土地売却勧誘を行わない受動的売り手アプローチを取り、ロイヤルティ収入を重視しています。

②水サービス及び運営(TPWR子会社)

パーミアン盆地の石油・ガス生産者にフルサービス(水源確保、産出水処理、インフラ開発、廃水処理)を提供します。Q1 2025に水サービス売上6940万ドルの記録を達成しました。

(2) セクター・業種の説明

テキサス・パシフィック・ランド・トラストは、Energy(エネルギー)セクターのOil, Gas & Consumable Fuels(石油・ガス・消耗燃料)業種に分類されます。ただし、石油・ガス生産者ではなく、土地所有者として ロイヤルティ収入を得る資本軽量型ビジネスモデルが特徴です。

(3) ビジネスモデルの特徴

テキサス・パシフィック・ランド・トラストのビジネスモデルは、以下の3つの特徴があります:

①資本軽量型(無借金・低資本集約)

石油・ガス生産者ではなく、バリューチェーン全体でロイヤルティ収益を獲得します。無借金・低資本集約で、石油・ガス生産の上昇局面を享受し下落局面のリスクを回避できます。

②ロイヤルティ収入の安定性

石油・ガス生産量に応じてロイヤルティ収入を得るため、原油価格に連動しますが、生産コスト負担がありません。2024年末時点でロイヤルティ生産2.91万Boe/日の記録を達成しました。

③パーミアン盆地での圧倒的な土地所有規模

約873,000エーカーの土地を所有し、パーミアン盆地(米国最大のシェールオイル産地)で競合を圧倒する規模を誇ります。

3. 競合との差別化

(1) 主要競合企業

テキサス・パシフィック・ランド・トラストの主要競合企業は、以下の2社です:

①Viper Energy Partners(VNOM)

石油・ガスロイヤルティREITで、パーミアン盆地を中心にロイヤルティ権益を所有します。しかし、TPLと比較すると規模が小さく、土地所有面積も限定的です。

②Kimbell Royalty Partners(KRP)

石油・ガスロイヤルティREITで、米国各地にロイヤルティ権益を保有します。しかし、パーミアン盆地での集中度はTPLに及びません。

(2) 競合優位性

テキサス・パシフィック・ランド・トラストの競合優位性は、以下の3点です:

①パーミアン盆地での圧倒的な土地所有規模

約873,000エーカーの土地を所有し、競合(Viper Energy Partners、Kimbell Royalty Partners)を圧倒する規模を誇ります。

②資本軽量型ビジネスモデル

石油・ガス生産者ではなく、ロイヤルティ収入を得る資本軽量型ビジネスモデルにより、無借金・低資本集約で高い利益率を実現しています。

③水サービス事業の垂直統合

水サービス及び運営(TPWR子会社)により、パーミアン盆地の石油・ガス生産者にフルサービスを提供し、ロイヤルティ収入以外の収益源を確保しています。

(3) 市場でのポジショニング

テキサス・パシフィック・ランド・トラストは、「パーミアン盆地の土地権益のプラットフォーマー」として市場をリードしています。極めてユニークなビジネスモデルで、競合が模倣困難な優位性を確立しています。

4. 財務・配当の実績

(1) 売上高・利益の推移

テキサス・パシフィック・ランド・トラストの財務データは、以下の通りです:

項目 2020 2021 2022 2023 2024
売上高(億ドル) 3.5 4.8 6.9 6.7 7.4
純利益(億ドル) 1.5 2.1 3.7 3.4 4.0
EPS(ドル) 19.3 27.0 47.6 43.6 51.5

(出典: Texas Pacific Land Corporation Form 10-K 2024)

2025年Q1-Q2実績

  • Q1 2025:石油・ガスロイヤルティ生産3.11万Boe/日(前年比25%増、前四半期比7%増)、水サービス売上6940万ドル(記録)
  • Q2 2025:純利益1.161億ドル、売上1.875億ドル(産出水ロイヤルティ・地役権で四半期記録)

(出典: Texas Pacific Land Corporation Q2 2025 Earnings Release)

(2) 配当履歴

テキサス・パシフィック・ランド・トラストの配当政策は、以下の通りです:

  • 四半期配当:約$3-4/株(2024年時点)
  • 年間配当:約$12-16/株
  • 配当利回り:約0.5-1.0%(株価$1,200前後で計算)
  • 配当性向:約25-30%(EPSベース)

配当は実施していますが、成長投資を優先する方針のため、配当性向は低めです。

(出典: Texas Pacific Land Corporation Investor Relations)

(3) 財務健全性

テキサス・パシフィック・ランド・トラストの財務健全性は、以下の通りです:

  • 自己資本比率:約90%(2024年末時点)
  • 有利子負債:0ドル(無借金)
  • 現金・現金同等物:4.6億ドル(2024年末時点)
  • 流動比率:約8倍

無借金・低資本集約の資本軽量型ビジネスモデルにより、極めて強固な財務基盤を維持しています。

(出典: Texas Pacific Land Corporation Form 10-K 2024)

※2025年10月時点のデータです。最新情報はTexas Pacific Land公式IRページをご確認ください。

5. リスク要因

(1) 事業リスク

①原油価格の下落リスク

原油価格60ドル未満の長期化で掘削活動が低迷し、収益減少のリスクがあります。ロイヤルティ収益が油価に直接連動するため、原油価格の変動により業績が大きく影響を受けます。

②パーミアン盆地の生産ペース鈍化

ゴールドマン・サックスは、パーミアン盆地の増産ペースが鈍化すると予測しています(2023年52万バレル/日→2025年34万バレル/日)。生産ペースが鈍化すると、ロイヤルティ収入が減少するリスクがあります。

③脱塩プロジェクトの商業化リスク

産出水脱塩プロジェクトは試験段階であり、商業化が計画通り進まない可能性があります。また、発電・データセンター事業への参入が成功するかは不確定です。

(2) 市場環境リスク

①ESG規制強化

石油・ガス業界全体でESG規制が強化されると、掘削活動が制限され、ロイヤルティ収入が減少するリスクがあります。

②水資源不足・規制監視の厳格化

テキサス州の水資源不足が深刻化し、規制監視が厳格化されると、水サービス事業が制限される可能性があります。

③為替リスク

米国中心の事業ですが、日本人投資家にとっては、円高が進むと株価上昇の恩恵が減少します。

(3) 規制・競争リスク

①2019年の株主代理権争奪戦の影響継続

2019年の株主代理権争奪戦により、終身任期の取締役3名体制への不満、自社株買い遅延への批判、取締役会への不信感が投資家間に根強く残存しています。企業ガバナンスの改善が進まない場合、投資家の信頼を失うリスクがあります。

②競合の技術革新

脱塩技術・水処理技術で競合が技術革新を実現すると、TPLの競争力が低下するリスクがあります。

6. まとめ:投資判断のポイント

(1) この銘柄の強み

①パーミアン盆地での圧倒的な土地所有規模

約873,000エーカーの土地を所有し、パーミアン盆地(米国最大のシェールオイル産地)で競合を圧倒する規模を誇ります。

②資本軽量型ビジネスモデル(無借金・低資本集約)

石油・ガス生産者ではなく、ロイヤルティ収入を得る資本軽量型ビジネスモデルにより、無借金・低資本集約で高い利益率を実現しています。

③安定的なキャッシュフローと財務基盤

現金・現金同等物4.6億ドル、無借金の強固な財務基盤を維持しています。

(2) リスク要因(再掲)

①原油価格の下落リスク

ロイヤルティ収益が油価に直接連動するため、原油価格60ドル未満の長期化で収益減少のリスクがあります。

②2019年の株主代理権争奪戦の影響継続

終身任期の取締役3名体制への不満、取締役会への不信感が投資家間に根強く残存しています。

(3) 向いている投資家

テキサス・パシフィック・ランド・トラストは、以下のような投資家に向いていると言われています:

①エネルギーセクターのユニーク銘柄を求める投資家

極めてユニークなビジネスモデル(土地権益・ロイヤルティ収入)を持つ銘柄を求める投資家に適しています。

②原油価格の長期見通しを理解している投資家

ロイヤルティ収益が油価に直接連動するため、原油価格の長期見通しを理解した上で投資判断を行う必要があります。

③高PERを許容できる投資家

TPLは高PERで過大評価の可能性があるため、成長期待を織り込んだ評価を許容できる投資家に向いています。


免責事項

本記事は情報提供を目的としており、個別銘柄の推奨や投資助言ではありません。テキサス・パシフィック・ランド・トラストへの投資は、事業リスク・市場リスク・為替リスクを伴います。投資判断はご自身の責任で行ってください。最新の財務データ・リスク情報は、Texas Pacific Land公式IRページおよびSEC提出書類(Form 10-K、10-Q)をご確認ください。


Q: テキサス・パシフィック・ランド・トラストの配当利回りは?

A: 約0.5-1.0%程度です(2024年時点、株価$1,200前後で計算)。四半期配当は約$3-4/株、年間配当は約$12-16/株です。配当は実施していますが、成長投資を優先する方針のため、配当性向は約25-30%(EPSベース)と低めです。

Q: テキサス・パシフィック・ランド・トラストの主な競合は?

A: 類似のビジネスモデルを持つ企業は少なく、石油・ガスロイヤルティREITのViper Energy Partners(VNOM)やKimbell Royalty Partners(KRP)などが挙げられます。TPLはパーミアン盆地での圧倒的な土地所有規模(約873,000エーカー)で差別化しており、競合を大きく上回る規模を誇ります。

Q: テキサス・パシフィック・ランド・トラストのリスク要因は?

A: 原油価格の下落リスク(ロイヤルティ収益が油価に直接連動)、2019年の株主代理権争奪戦の影響継続(終身任期の取締役3名体制への不満)、パーミアン盆地の生産ペース鈍化(ゴールドマン・サックスは2023年52万バレル/日→2025年34万バレル/日と予測)などがあります。詳細は本文のリスク要因セクションを参照してください。

Q: テキサス・パシフィック・ランド・トラストは長期投資に向いている?

A: エネルギーセクターのユニーク銘柄(土地権益・ロイヤルティ収入)を求める投資家に向いていると言われています。原油価格に連動するため、エネルギー市場の長期見通しを理解した上で投資判断を行ってください。2名のアナリストが平均目標株価$1,163(最高$1,280、最低$1,046)で「適度な買い」評価を付けています。ただし、投資判断はご自身の責任で行ってください。

Q: テキサス・パシフィック・ランド・トラストの脱塩事業とは?

A: 産出水脱塩プロジェクトは、石油・ガス生産時に排出される塩水を淡水化する技術です。2025年半ばに試験施設が完成予定で、Orlaで日量1万バレルの商用施設を建設中です。脱塩水を発電・データセンター・農業に供給することで新たな収益源を確保し、エネルギーセクターから多角化を推進する戦略です。

よくある質問

Q1テキサス・パシフィック・ランド・トラストの配当利回りは?

A1約0.5-1.0%程度です(2024年時点、株価$1,200前後で計算)。四半期配当は約$3-4/株、年間配当は約$12-16/株です。配当は実施していますが、成長投資を優先する方針のため、配当性向は約25-30%(EPSベース)と低めです。

Q2テキサス・パシフィック・ランド・トラストの主な競合は?

A2類似のビジネスモデルを持つ企業は少なく、石油・ガスロイヤルティREITのViper Energy Partners(VNOM)やKimbell Royalty Partners(KRP)などが挙げられます。TPLはパーミアン盆地での圧倒的な土地所有規模(約873,000エーカー)で差別化しており、競合を大きく上回る規模を誇ります。

Q3テキサス・パシフィック・ランド・トラストのリスク要因は?

A3原油価格の下落リスク(ロイヤルティ収益が油価に直接連動)、2019年の株主代理権争奪戦の影響継続(終身任期の取締役3名体制への不満)、パーミアン盆地の生産ペース鈍化(ゴールドマン・サックスは2023年52万バレル/日→2025年34万バレル/日と予測)などがあります。詳細は本文のリスク要因セクションを参照してください。

Q4テキサス・パシフィック・ランド・トラストは長期投資に向いている?

A4エネルギーセクターのユニーク銘柄(土地権益・ロイヤルティ収入)を求める投資家に向いていると言われています。原油価格に連動するため、エネルギー市場の長期見通しを理解した上で投資判断を行ってください。2名のアナリストが平均目標株価$1,163(最高$1,280、最低$1,046)で「適度な買い」評価を付けています。ただし、投資判断はご自身の責任で行ってください。

Q5テキサス・パシフィック・ランド・トラストの脱塩事業とは?

A5産出水脱塩プロジェクトは、石油・ガス生産時に排出される塩水を淡水化する技術です。2025年半ばに試験施設が完成予定で、Orlaで日量1万バレルの商用施設を建設中です。脱塩水を発電・データセンター・農業に供給することで新たな収益源を確保し、エネルギーセクターから多角化を推進する戦略です。