0. この記事でわかること
本記事では、アボット・ラボラトリーズ(ABT)について以下の情報を提供します:
- なぜ注目されているのか: 医療機器(FreeStyle Libre、Navitor、TriClip等)で2025年第1四半期に13%の有機的成長を達成、新興国市場でのブランドジェネリックとバイオシミラーで二桁成長、2024年に15以上の新製品機会をR&Dパイプラインから発表
- 事業内容と成長戦略: 配当貴族(50年超連続増配)のヘルスケア複合企業として、医療機器(45%)、栄養製品(22%)、診断製品(20%)、医薬品(13%)の4つの多角化された事業セグメントでリスク分散。2013年にアッヴィ(製薬)と分社化
- 競合との差別化: Medtronic、Johnson & Johnson、Rocheなどの大手ヘルスケア企業と競合しながらも、FreeStyle Libre(持続血糖測定器)や心臓血管デバイスで独自の市場ポジションを確立
- 財務・配当の実績: 2024年通年売上420億ドル(基礎事業ベースで9.6%の有機的成長)。2025年に調整後EPS $5.05-$5.25(二桁成長)、調整後営業利益率23.5-24.0%(前年比150ベーシスポイント増加)を見込む
- リスク要因: 中国の診断事業市場における厳しい競争環境と売上減少懸念、関税や貿易摩擦による利益率圧迫の可能性、継続的なCOVID-19検査売上の減少
アボットは1888年創業の老舗ヘルスケア企業で、1924年から394四半期連続配当を継続し、50年連続増配で「配当王」に認定されています。ディフェンシブで安定配当を重視する長期投資家に人気です。
1. なぜアボット・ラボラトリーズ(ABT)が注目されているのか
(1) 成長戦略の3つのポイント
アボットは2013年に製薬部門をアッヴィ(ABBV)として分社化し、医療機器・診断・栄養に特化した戦略を推進しています。投資家から注目されている3つの戦略は以下の通りです。
1. 医療機器(FreeStyle Libre、Navitor、TriClip等)に注力
アボットは医療機器部門に注力し、2025年第1四半期に13%の有機的成長を達成しました。医療機器全体で年間10%以上の成長率を維持する見込みです。主力製品のFreeStyle Libre(持続血糖測定器)は糖尿病患者に革新的なデバイスとして高い評価を受けており、2025年第3四半期のCGM(持続血糖モニタリング)売上は20億ドルで17%成長しています。また、心臓血管デバイス(Navitor、TriClip等)も急成長しています。
2. 新興国市場(インド、中国、ラテンアメリカ、中東等)での医療アクセス拡大
アボットは新興国市場での医療アクセス拡大と中間層の増加を狙い、ブランドジェネリックとバイオシミラーで二桁成長を実現しています。売上構成は先進国58%、新興国42%で、新興国に積極展開しています。
3. 2024年に15以上の新製品機会をR&Dパイプラインから発表
アボットは2024年に15以上の新製品機会をR&Dパイプラインから発表し、2025年末までに米国で製造・R&D施設に5億ドルを投資予定です。2022年にR&Dに28.9億ドル以上を投資しており、継続的なイノベーションを推進しています。
(2) 注目テーマ(FreeStyle Libre・構造的心疾患・新興国市場)
投資家が注目するキーワードは以下の通りです。
- 糖尿病ケア(FreeStyle Libre): 持続血糖測定器FreeStyle Libreは、針を刺さずに血糖値を測定できる革新的なデバイスで、糖尿病患者のQOL(生活の質)を大幅に向上させています。2025年第3四半期のCGM売上は20億ドルで17%成長しており、成長の柱となっています。
- 構造的心疾患(PFAシステム、TAVR): PFAシステム(Pulse Field Ablation、不整脈治療)やTAVR(経カテーテル大動脈弁置換術)など、心臓血管デバイスで高い成長を実現しています。2025年第3四半期の医療機器売上は12.5%成長しました。
- 新興国市場での医療アクセス: 高齢化・慢性疾患増加地域への注力により、150カ国以上での事業展開を強化しています。新興国での栄養製品販売(粉ミルク等)も成長ドライバーです。
(3) 投資家の関心・懸念点
投資家からは以下の関心と懸念が寄せられています。
関心点:
- 2024年通年売上420億ドル(基礎事業ベースで9.6%の有機的成長)
- 2025年に有機的売上成長率7.5-8.5%、調整後EPS $5.05-$5.25(中央値で二桁成長)を予想
- 2025年第3四半期のEPS $1.30で、前年比高い一桁成長を達成
- 医療機器売上が12.5%成長、CGM売上が20億ドルで17%成長
- 新製品が四半期で5億ドル近い売上を生み出し、有機的売上成長に100ベーシスポイント以上寄与
- 2026年以降も高い一桁売上成長と二桁EPS成長を予想
- 50年連続増配の「配当王」として、1924年から394四半期連続配当を継続
懸念点:
- 2025年第3四半期の売上が$113.7億で予想をわずかに下回り、株価が2.59%下落
- 中国市場での診断事業の課題と国際市場でのボラティリティ
- 関税リスクと継続的な貿易摩擦による利益率圧迫の懸念
- COVID-19検査売上の継続的な減少
2. アボット・ラボラトリーズの事業内容・成長戦略
(1) 主力事業
アボットの主力事業は以下の4つのセグメントに分かれています。
1. 医療機器(Medical Devices、売上の45%)
心臓血管デバイス(ステント、心臓弁、電気生理学デバイス等)、糖尿病ケア(FreeStyle Libre等の持続血糖測定器)、神経調節デバイス(慢性疼痛治療等)などを展開しています。2025年第1四半期に13%の有機的成長を達成し、アボットの成長を牽引しています。
2. 栄養製品(Nutrition、売上の22%)
粉ミルク(Similac等)、成人向け栄養補助食品(Ensure等)、医療用栄養製品などを展開しています。新興国市場での中間層の増加により、粉ミルクの需要が拡大しています。
3. 診断製品(Diagnostics、売上の20%)
臨床検査機器(血液検査、免疫検査等)、分子診断(感染症検査等)、ポイント・オブ・ケア検査(迅速検査)などを展開しています。COVID-19検査で一時売上が急増しましたが、現在は減少傾向にあります。
4. 医薬品(Established Pharmaceutical Products、売上の13%)
長期収載品(ジェネリック医薬品)やブランドジェネリックを展開しています。2013年に新薬事業をアッヴィに分離し、長期収載品に特化しています。新興国市場で二桁成長を実現しています。
(2) セクター・業種の説明
アボットはヘルスケアセクター(Health Care)のヘルスケア機器・医療品(Health Care Equipment & Supplies)に分類されます。ヘルスケアセクターは景気変動の影響を受けにくいディフェンシブセクターとされており、長期投資に適しています。
(3) ビジネスモデルの特徴
アボットのビジネスモデルには以下の特徴があります。
- 多角化された事業ポートフォリオ: 医療機器、栄養製品、診断製品、医薬品の4つのセグメントでリスクを分散しています。どれか1つのセグメントが不振でも、他のセグメントでカバーできる構造です。
- グローバル展開: 150カ国以上で事業を展開し、先進国58%、新興国42%の売上構成です。新興国での成長が期待されています。
- 継続的なイノベーション: 2022年にR&Dに28.9億ドル以上を投資し、2024年に15以上の新製品機会を発表しています。イノベーションを通じて競争力を維持しています。
- 安定配当: 1924年から394四半期連続配当を継続し、50年連続増配で「配当王」に認定されています。過去5年で配当額が77%増加しており、株主還元を重視する経営方針を取っています。
- 戦略的買収: 2016年にセント・ジュード・メディカルを250億ドルで買収し、心血管医療機器市場を強化しました。大型買収を通じて事業領域を拡大しています。
3. 競合との差別化
(1) 主要競合企業
アボットの主要競合企業は以下の通りです。
- Medtronic (MDT): 医療機器最大手。心臓血管デバイス、糖尿病ケア、神経調節デバイスなどでアボットと直接競合しています。
- Johnson & Johnson (JNJ): 医薬品・医療機器・コンシューマーヘルスケアの複合企業。医療機器部門でアボットと競合しています。
- Roche: 診断機器と医薬品を展開。診断部門でアボットと競合しています。
- Danaher (DHR): 診断機器、ライフサイエンス機器を展開。診断部門でアボットと競合しています。
(2) 競合優位性
アボットは競合と比較して以下の差別化ポイントを持っています。
1. FreeStyle Libre(持続血糖測定器)の市場リーダーシップ
FreeStyle Libreは糖尿病患者に革新的なデバイスとして高い評価を受けており、CGM市場でリーダーシップを確立しています。2025年第3四半期のCGM売上は20億ドルで17%成長しています。
2. 多角化された事業ポートフォリオ
医療機器、栄養製品、診断製品、医薬品の4つのセグメントでリスクを分散しており、どれか1つのセグメントが不振でも、他のセグメントでカバーできます。Medtronicは医療機器のみ、Rocheは診断と医薬品のみと、アボットほど多角化していません。
3. 新興国市場での強固なプレゼンス
売上構成の42%が新興国市場であり、中間層の増加により栄養製品(粉ミルク等)やブランドジェネリックで二桁成長を実現しています。
4. 50年連続増配の「配当王」
1924年から394四半期連続配当を継続し、50年連続増配で「配当王」に認定されています。安定配当を重視する投資家に人気があります。
(3) 市場でのポジショニング
アボットは「多角化されたヘルスケア複合企業」として位置づけられています。Medtronicのような医療機器専業企業、Johnson & Johnsonのような医薬品・医療機器・コンシューマーヘルスケア複合企業と比較すると、医療機器・診断・栄養に特化している点が特徴です。また、2013年にアッヴィ(製薬)と分社化したことで、製薬リスクを切り離し、医療機器・診断・栄養の成長に集中しています。
4. 財務・配当の実績
(1) 売上高・利益の推移
アボットの財務実績は以下の通りです(2025年10月時点)。
2024会計年度通期:
- 売上高: 420億ドル(基礎事業ベースで9.6%の有機的成長)
- 調整後営業利益率: 22%前後(推定)
2025会計年度第3四半期:
- 売上高: 113.7億ドル(予想をわずかに下回る)
- EPS: $1.30(前年比高い一桁成長)
- 医療機器売上: 12.5%成長
- CGM売上: 20億ドル(17%成長)
- 新製品売上: 四半期で5億ドル近く(有機的売上成長に100ベーシスポイント以上寄与)
2025会計年度通期ガイダンス:
- 有機的売上成長率: 7.5-8.5%
- 調整後EPS: $5.05-$5.25(中央値で二桁成長)
- 調整後営業利益率: 23.5-24.0%(前年比150ベーシスポイント増加)
中長期目標:
- 2026年以降も高い一桁売上成長と二桁EPS成長を予想
医療機器部門の二桁成長と新興国市場での展開強化により、堅調な成長が期待されています。
(出典: Abbott Laboratories Q3 2025 Earnings, Abbott Investor Relations, Abbott Q4 2024 Earnings Release)
(2) 配当履歴
アボットは50年連続増配の「配当王」であり、配当利回りは約2%前後です。1924年から394四半期連続配当を継続しており、過去5年で配当額が77%増加しています。配当性向は適度な水準を維持しており、配当の持続可能性が高いとされています。
配当を受け取る際には、米国で10%の源泉徴収が行われますが、確定申告により外国税額控除を受けることができます。また、新NISA制度の成長投資枠を利用すれば、配当・譲渡益が非課税になります(ただし、外国税額控除との併用は不可)。
(3) 財務健全性
アボットの財務健全性は以下の通りです。
- 安定したキャッシュフロー: 多角化された事業ポートフォリオにより、安定したキャッシュフローを創出しています。
- 自己資本比率: ヘルスケア企業として高い自己資本比率を維持しており、財務の安定性があります。
- 有利子負債: 2016年のセント・ジュード・メディカル買収(250億ドル)により一時的に有利子負債が増加しましたが、着実に返済を進めています。
- 営業利益率: 2025年に調整後営業利益率23.5-24.0%(前年比150ベーシスポイント増加)を見込み、収益性が向上しています。
最新の財務データは、Abbott Investor Relations(https://www.abbott.com/investors/overview.html)やSEC EDGAR(https://www.sec.gov/edgar/search/)で確認してください。
※2025年10月時点のデータです。最新情報はAbbott Laboratories公式IRページをご確認ください。
5. リスク要因
(1) 事業リスク
アボットの事業リスクは以下の通りです。
1. 中国市場での診断事業の競争激化
中国市場では診断事業における厳しい競争環境があり、売上減少の懸念があります。中国は新興国市場の中でも重要な市場であり、診断事業の不振は全体業績に影響を与えます。
2. COVID-19検査売上の継続的な減少
COVID-19パンデミック時に診断部門の売上が急増しましたが、現在は減少傾向にあります。この減少が続くと、診断部門全体の成長が鈍化する可能性があります。
3. 新製品開発リスク
医療機器・診断製品の開発は高リスクであり、臨床試験や規制当局の承認が得られない可能性があります。開発の失敗は成長戦略に影響を与えます。
(2) 市場環境リスク
1. 関税や貿易摩擦による利益率圧迫
関税リスクと継続的な貿易摩擦により、利益率が圧迫される可能性があります。グローバルに事業を展開しているため、貿易政策の変更が業績に影響を与えます。
2. 為替リスク
アボットはグローバルに事業を展開しているため、為替変動が業績に影響を与えます。日本の投資家にとっては、円高になると円ベースでの投資リターンが減少するリスクがあります。
3. 景気後退リスク
ヘルスケアセクターは景気変動の影響を受けにくいとされていますが、栄養製品(粉ミルク等)や選択的医療(一部の医療機器)は景気後退により需要が減少する可能性があります。
(3) 規制・競争リスク
1. 規制リスク
医療機器・診断製品はFDA(米国食品医薬品局)などの厳格な規制があり、承認取得に時間とコストがかかります。規制変更により、製品の承認が遅れたり、承認が取り消されたりする可能性があります。
2. 競争激化リスク
Medtronic、Johnson & Johnson、Rocheなどの大手企業との競争が激化すると、価格競争や市場シェアの低下が発生する可能性があります。また、新興企業が新技術を開発すると、アボットの市場ポジションが脅かされる可能性もあります。
6. まとめ:投資判断のポイント
(1) この銘柄の強み
アボット・ラボラトリーズの強みは以下の3点です。
1. 多角化された事業ポートフォリオによるリスク分散
医療機器(45%)、栄養製品(22%)、診断製品(20%)、医薬品(13%)の4つのセグメントでリスクを分散しており、どれか1つのセグメントが不振でも、他のセグメントでカバーできます。
2. FreeStyle Libre(持続血糖測定器)の市場リーダーシップ
CGM市場でリーダーシップを確立しており、2025年第3四半期のCGM売上は20億ドルで17%成長しています。糖尿病患者のQOL向上に貢献し、高い評価を受けています。
3. 50年連続増配の「配当王」
1924年から394四半期連続配当を継続し、50年連続増配で「配当王」に認定されています。過去5年で配当額が77%増加しており、株主還元を重視する経営方針を取っています。
(2) リスク要因(再掲)
一方で、以下のリスク要因にも注意が必要です。
1. 中国市場での診断事業の競争激化
中国市場では診断事業における厳しい競争環境があり、売上減少の懸念があります。
2. 関税や貿易摩擦による利益率圧迫
関税リスクと継続的な貿易摩擦により、利益率が圧迫される可能性があります。
(3) 向いている投資家
アボット・ラボラトリーズは以下のような投資家に向いています。
- 配当を重視する投資家: 配当利回り約2%前後、50年連続増配の「配当王」として、安定配当を得たい投資家に適しています。
- ディフェンシブセクターで安定収益を求める投資家: ヘルスケアセクターは景気変動の影響を受けにくく、多角化された事業ポートフォリオによりリスクが分散されています。長期投資に適しています。
- 医療機器の成長を期待する投資家: FreeStyle Libreや心臓血管デバイスの急成長により、2026年以降も高い一桁売上成長と二桁EPS成長が期待されています。
免責事項: 本記事は情報提供を目的としており、個別銘柄の推奨を行うものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。最新の財務データや株価情報は、公式IRページやSEC EDGARで確認してください。
※2025年10月時点の情報です。税率や制度は改正の可能性があります。