0. この記事でわかること
本記事では、シティグループ(C)について以下の情報を提供します:
- なぜ注目されているのか: 世界有数のグローバル銀行、Jane Fraser CEO主導の組織変革(管理層13層→8層削減)、AI主導のコスト削減(年20-25億ドル、2026年まで)、2万人削減による収益性改善
- 事業内容と成長戦略: 投資銀行、ウェルスマネジメント、トレーディング、決済、商業銀行の5事業、90カ国超のグローバルネットワーク、非コア事業撤退によるコア事業への集中
- 競合との差別化: JPMorgan Chase、Bank of America、Wells Fargo等の大手米銀との競合環境下で、新興国市場での存在感とグローバルネットワークで差別化
- 財務・配当の実績: 2025年Q3収益220.9億ドル(前年比9%増)、調整後EPS 2.24ドル(予想を28%上回る)、ROTCE 8%(調整後9.7%)、2026年目標10-11%
- リスク要因: 規制・法的リスク(サブプライム開示問題、ストレステスト失敗、データガバナンス罰金の履歴)、景気後退による融資需要減少・延滞率上昇リスク、2万人削減による組織再編リスク
※2025年10月時点のデータです。最新情報はCitigroup Inc公式IRページをご確認ください。
1. なぜシティグループ(C)が注目されているのか
(1) 成長戦略の3つのポイント
シティグループは以下3つの戦略で収益性改善を図っています:
組織簡素化: Jane Fraser CEO主導で管理層を13層から8層に削減し、意思決定の迅速化と官僚的複雑性の排除を進めています。2026年までに2万人削減(全体の8%)を計画しており、2024年末時点で1万人削減を完了しました。2025年の変革費用は35億ドル弱を見込んでいますが、長期的には最大25億ドル(約3,600億円)のコスト削減が期待されます。
非コア事業からの撤退: 2021年4月にアジア・EMEA 14市場の個人銀行業務からの撤退を発表し、メキシコのBanamex売却を含む資産処分を進めています。これにより、コア5事業(投資銀行、ウェルスマネジメント、トレーディング、決済、商業銀行)に経営資源を集中し、収益性を高める戦略です。
AI・デジタル投資: Citi AssistとCiti Stylusを14万人の従業員に導入し、Google Cloudと協業してインフラ近代化を進めています。AI主導の業務改革により、年間20-25億ドルのコスト削減を2026年までに達成する予定です。
(2) 注目テーマ(組織変革・AI主導コスト削減・ウェルス拡大)
投資家が注目する主なテーマは以下の通りです:
組織変革(Jane Fraser CEO主導): 2021年3月に就任したJane Fraser CEOは、シティグループ初の女性CEOとして組織変革を主導しています。管理層の削減により意思決定が迅速化され、官僚的な組織文化が改善されつつあります。
AI主導のコスト削減(20-25億ドル/年): AI・デジタル投資により業務効率を大幅に改善し、2026年までに年間20-25億ドルのコスト削減を達成する計画です。Citi AssistとCiti Stylusの導入により、従業員の生産性が向上しています。
ウェルスマネジメント拡大(Q3収益8%増): ウェルスマネジメント部門の収益が2025年Q3に8%増加し、運用資産186億ドルの流入を記録しました。高純資産顧客向けサービスの拡大により、安定的な手数料収入を確保しています。
(3) 投資家の関心・懸念点
2025年Q3は純利益38億ドル、EPS 1.86ドル(調整後2.24ドルで予想を28%上回る)を達成しました。収益は前年比9%増の220.9億ドルで、全事業セグメントでQ3過去最高収益を達成しています。投資銀行手数料は17%増、サービス部門は7%増、ウェルス部門は8%増と好調です。
ROTCE(有形普通株式利益率)は8%(調整後9.7%)で、2026年目標は10-11%、効率性比率60%未満を掲げています。60億ドル超を株主還元(うち50億ドルは自社株買い)しており、株主還元姿勢を明確にしています。
アナリスト評価はStrong Buy(買い14件、ホールド4件、売り0件)で、平均目標株価は101.97ドル(最高124ドル、最低87ドル)です。EPS予想は2025年7.31ドル、2026年9.35ドル、2027年11.23ドル(年率20.47%成長、セクター平均9.09%超)となっており、高い成長性が期待されます。
一方で、2024年1月には株価が17.9%下落(1ヶ月間)し、「再び最も愛されない大手米銀株」と報道されるなど、市場ボラティリティへの感応度が高い点が懸念されています。
2. シティグループの事業内容・成長戦略
(1) 主力事業(投資銀行・ウェルス・トレーディング・決済・商業銀行)
シティグループは以下のコア5事業に集中しています:
投資銀行業務: 企業の資金調達(株式・債券発行)、M&A助言等を行う業務。2025年Q3の投資銀行手数料は17%増と好調で、M&A市場の回復が追い風となっています。
ウェルスマネジメント: 高純資産顧客向けの資産運用サービス。2025年Q3の収益は8%増で、運用資産186億ドルの流入を記録しました。安定的な手数料収入を生み出す事業として注力しています。
トレーディング: 株式・債券・為替等のトレーディング業務。市場ボラティリティが高い局面では収益が増加しますが、2023年Q4には債券トレーディング収益が5年ぶり最悪となり失望を招きました。
決済(Treasury & Trade Solutions): 資金決済・管理、貿易金融サービス。企業向けの決済・流動性管理を提供し、グローバルネットワークを活かした安定収益源です。2025年Q3のサービス部門収益は7%増と堅調でした。
商業銀行(Corporate Banking): 法人向け銀行業務。融資、決済、貿易金融等を提供し、特に在日外資系最大級規模を誇ります。
(2) セクター・業種の説明(グローバル銀行・金融セクター)
シティグループは金融セクター(Financials)の銀行業界(Banks)に分類されます。世界有数のグローバル銀行として、90カ国超でビジネスを展開し、特にエマージング・マーケット(新興国市場)に強みを持ちます。
銀行業界は金利動向が収益に大きく影響します。金利上昇局面では利鞘(預金金利と貸出金利の差)が拡大し、収益性が向上します。一方で、景気後退局面では融資需要が減少し、延滞率が上昇するため、収益が悪化する傾向があります。
シティグループは2008年金融危機で多額の公的資金を受け、長年リストラを継続してきました。近年は収益性改善が進み、バリュエーション(株価評価)は同業他社より割安とされています。
(3) ビジネスモデルの特徴(国際業務の高比重・新興国市場への強み)
シティグループのビジネスモデルの特徴は、国際業務の高比重と新興国市場への強みです。
90カ国超のグローバルネットワーク: 在日外資系最大級規模のコーポレート・バンキングとトレジャリー&トレード・ソリューションを提供し、日本企業の海外展開を支援しています。日本では個人向け銀行・クレジットカードから全面撤退し、法人向けサービスに集中しています。
エマージング・マーケットへの強み: 新興国市場での事業展開により、高い経済成長率を取り込んでいます。ただし、地政学リスク(政治不安、通貨変動等)への露出も大きく、リスク管理が重要となります。
日本では法人向けサービスに集中し、コーポレート・バンキングとトレジャリー&トレード・ソリューションで在日外資系最大級規模を維持しています。
3. 競合との差別化
(1) 主要競合企業(JPMorgan Chase、Bank of America、Wells Fargo等)
大手米銀の主要競合企業は以下の通りです:
- JPMorgan Chase: 米国最大の銀行。総資産4兆ドル超で、投資銀行、商業銀行、資産運用等を幅広く展開。収益性・財務健全性で業界トップ。
- Bank of America: 米国第2位の銀行。個人向け銀行業務、投資銀行業務、資産運用等を展開。リテール分野で強み。
- Wells Fargo: 米国第3位の銀行。個人向け銀行業務、商業銀行業務に強み。過去の不正口座開設問題で信頼回復が課題。
- Goldman Sachs: 投資銀行業務に特化。M&A助言、トレーディング、資産運用で業界トップクラス。
- Morgan Stanley: 投資銀行、ウェルスマネジメント、トレーディングを展開。ウェルス分野での成長が著しい。
シティグループは総資産で米国第4位の規模を持ちますが、収益性では競合に劣る面があり、組織変革により改善を図っています。
(2) 競合優位性(90カ国超のグローバルネットワーク・新興国市場での存在感)
シティグループの競合優位性は以下の点です:
90カ国超のグローバルネットワーク: 競合の多くが米国中心であるのに対し、シティグループは90カ国超でビジネスを展開し、グローバルな顧客基盤を持ちます。特にエマージング・マーケット(新興国市場)での存在感が強く、高い経済成長率を取り込んでいます。
トレジャリー&トレード・ソリューション(TTS)の強み: 企業向けの決済・流動性管理サービスで業界トップクラスの地位を占めます。グローバルネットワークを活かし、多国籍企業の国際決済を支援しています。
Jane Fraser CEO主導の組織変革: 管理層を13層から8層に削減し、意思決定の迅速化を図っています。非コア事業から撤退し、コア5事業に集中することで、収益性を高める戦略です。
(3) 市場でのポジショニング(世界有数のグローバル銀行)
シティグループは、世界有数のグローバル銀行として、90カ国超で事業を展開しています。米国内では総資産第4位の規模ですが、国際業務の比重が高い点が特徴です。
2026年目標としてROTC 10-11%、効率性比率60%未満を掲げており、収益性改善を進めています。ウェルズ・ファーゴのメイヨー氏は、Jane Fraser CEO主導の組織再編を高評価し、2026年末までに株価約119ドル(現在比2倍超)を予想しています。
4. 財務・配当の実績
(1) 売上高・利益の推移(2025年Q3: 収益220.9億ドル、前年比9%増)
2025年Q3の決算ハイライトは以下の通りです:
- 純利益: 38億ドル
- EPS: 1.86ドル(調整後2.24ドルで予想を28%上回る)
- 収益: 220.9億ドル(前年比9%増)
- 投資銀行手数料: 17%増
- サービス部門: 7%増
- ウェルス部門: 8%増(運用資産186億ドル流入)
- 全事業セグメント: Q3過去最高収益達成
2025年通期の見通し:
- 収益目標: 840億ドル超(AI主導の業務改革とBanamex売却が支え)
- ROTCE: 8%(調整後9.7%)
- 株主還元: 60億ドル超(うち50億ドルは自社株買い)
2026年目標:
- ROTC: 10-11%
- 効率性比率: 60%未満
(出典: Citigroup Inc 10-Q 2025 Q3, SEC EDGAR)
(2) 配当履歴(配当再開後の配当利回り中程度)
シティグループは2008年金融危機後に配当を一時停止していましたが、現在は再開しています。配当利回りは中程度(2025年時点)で、配当性向は純利益の一定割合を維持しています。
組織変革による収益性改善が進めば、今後の増配余地もあると期待されます。60億ドル超を株主還元(うち50億ドルは自社株買い)しており、株主還元姿勢を明確にしています。
(3) 財務健全性(ROTCE 8%・調整後9.7%、2026年目標10-11%)
2025年Q3の財務指標:
- ROTCE(有形普通株式利益率): 8%(調整後9.7%)
- 効率性比率: 2026年目標60%未満
- EPS予想: 2025年7.31ドル、2026年9.35ドル、2027年11.23ドル(年率20.47%成長)
アナリストは年率20.47%のEPS成長率を予測しており、セクター平均9.09%を大幅に上回ります。収益成長予想も3.13%(セクター平均1.47%超)と、高い成長性が期待されます。
2026年までのAI施策により年20-25億ドルのコスト削減を達成する計画で、効率性の大幅な改善が見込まれます。
(出典: Citigroup Inc 10-Q 2025 Q3, SEC EDGAR)
5. リスク要因
(1) 事業リスク(組織再編リスク・2万人削減による一時的混乱)
2万人削減(全体の8%)による組織再編リスクがあります。2024年末時点で1万人削減を完了しましたが、残り1万人の削減が2026年までに実施される予定です。大規模な人員削減により、一時的な業務混乱や従業員モラール低下のリスクがあります。
2025年の変革費用は35億ドル弱を見込んでおり、短期的には収益を圧迫する可能性があります。ただし、長期的には最大25億ドル(約3,600億円)のコスト削減が期待されます。
(2) 市場環境リスク(景気後退懸念・金利変動・貿易戦争)
トランプ政権の政策・貿易戦争懸念で市場ボラティリティが上昇しており、景気後退時には融資需要減少・延滞率上昇のリスクがあります。2024年1月には株価が17.9%下落(1ヶ月間)し、「再び最も愛されない大手米銀株」と報道されました。
金利変動も収益に大きく影響します。金利上昇局面では利鞘が拡大し収益性が向上しますが、金利低下局面では逆に収益が圧迫されます。
(3) 規制・競争リスク(開示問題・ストレステスト・データガバナンス罰金)
シティグループは過去に以下の規制・法的問題を抱えています:
- 2010年7月: サブプライム開示問題で7,500万ドル和解。投資家に対する露出額の虚偽開示(実際500億ドル超を130億ドル未満と表示)。
- 2012年・2014年: ストレステスト失敗(資本返還計画・国際融資リスク評価問題)。
- データガバナンス問題: 1.36億ドルの罰金。
これらの履歴から、規制・法的リスクへの注意が必要です。金融機関は常に規制強化の対象となりやすく、コンプライアンス体制の強化が重要となります。
また、2025年4月には幹部報酬(Vis Raghavan銀行部門トップの52億円パッケージ)への議決権行使助言会社の懸念が報じられるなど、ガバナンス面での課題も指摘されています。
6. まとめ:投資判断のポイント
(1) この銘柄の強み(グローバルネットワーク・組織変革・AI主導改革)
シティグループの主な強みは以下の3点です:
90カ国超のグローバルネットワーク: 競合の多くが米国中心であるのに対し、グローバルな顧客基盤を持ち、特にエマージング・マーケットでの存在感が強い。トレジャリー&トレード・ソリューション(TTS)で業界トップクラスの地位。
Jane Fraser CEO主導の組織変革: 管理層を13層から8層に削減し、意思決定の迅速化を図る。非コア事業から撤退し、コア5事業に集中することで収益性を高める戦略。
AI主導の業務改革: 2026年までに年20-25億ドルのコスト削減を達成する計画。Citi AssistとCiti Stylusの導入により従業員の生産性が向上。
(2) リスク要因(再掲:規制リスク・景気後退・組織再編)
主なリスク要因は以下の3点です:
規制・法的リスク: サブプライム開示問題、ストレステスト失敗、データガバナンス罰金の履歴。金融機関は常に規制強化の対象となりやすく、コンプライアンス体制の強化が重要。
景気後退リスク: 景気後退時には融資需要減少・延滞率上昇のリスク。市場ボラティリティへの感応度が高く、2024年1月には株価が17.9%下落(1ヶ月間)。
組織再編リスク: 2万人削減による一時的な業務混乱や従業員モラール低下のリスク。2025年の変革費用は35億ドル弱を見込み、短期的には収益を圧迫する可能性。
(3) 向いている投資家(バリュー投資家・金融株志向・長期投資家)
シティグループは以下のような投資家に向いていると言われています:
バリュー投資家: バリュエーション(株価評価)は同業他社より割安とされており、組織変革による収益性改善が進めば、株価上昇余地が大きい。アナリスト平均目標株価は101.97ドル(最高124ドル)。
金融株志向の投資家: 金利上昇局面では利鞘が拡大し収益性が向上するため、金融株に投資したい投資家に適している。EPS成長率20.47%予測(セクター平均9.09%超)で高い成長性が期待される。
長期投資家: Jane Fraser CEO主導の組織変革は長期的なプロジェクトであり、短期的な変動を気にせず、長期保有できる投資家に適している。2026年末までに株価約119ドル(現在比2倍超)との見方もある。
ただし、投資判断はご自身の投資目的やリスク許容度に基づいて行ってください。最新の財務情報やアナリスト評価を確認し、総合的に判断することが重要です。特に、規制リスクや景気後退リスクについては十分に理解した上で投資を検討してください。
※本記事は情報提供を目的としており、個別銘柄の推奨を行うものではありません。投資判断は自己責任で行ってください。