0. この記事でわかること
本記事では、タペストリー(TPR)について以下の情報を提供します:
- なぜ注目されているのか: 「Amplify」成長戦略によるGen Z顧客獲得、デジタル変革、グローバル展開が投資家の注目を集めています。2025年度には北米で680万人の新規顧客を獲得し、粗利率75.4%という高い収益性を実現しています
- 事業内容と成長戦略: Coach、Kate Spade、Stuart Weitzmanの3ブランドを展開するアクセサブル・ラグジュアリー企業。ハンドバッグとレザーグッズを中核としながら、フットウェアとライフスタイル製品への拡大を図っています
- 競合との差別化: LVMH(ルイ・ヴィトン)やKering(グッチ)等のハイエンドブランドと異なり、中価格帯のアクセサブル・ラグジュアリー市場に特化。Michael Korsなどと競合しています
- 財務・配当の実績: 2025年度通期売上70億ドル(5%成長)、調整後EPS 5.10ドル。配当は年1.60ドル(14%増配)で、配当性向約30%を維持しています
- リスク要因: 関税政策の影響(2026年度に1.6億ドルのマージン圧迫)、Kate Spadeブランドの減損処理(約8.5億ドル)、中国市場への依存度が主なリスク要因です
1. なぜタペストリー(TPR)が注目されているのか
(1) 成長戦略の3つのポイント
タペストリーは「Amplify」成長戦略を掲げ、以下の3つのポイントで投資家の注目を集めています。
第一に、Gen Z顧客獲得の成功です。 2025年度には北米で680万人の新規顧客を獲得し、そのうち60%がGen Z(Z世代)とミレニアル世代でした。特にCoachブランドでは、顧客との感情的なつながり構築に注力し、若年層の支持を拡大しています。
第二に、製品カテゴリーの拡大です。 ハンドバッグとレザーグッズを中核としながら、フットウェアとライフスタイル製品への展開を加速しています。特にCoachブランドでは2025年度第4四半期に14%の成長を達成し、製品多様化の効果が表れています。
第三に、グローバル成長の加速です。 北米での安定成長を維持しつつ、中国(22%成長)と欧州(12%成長)での国際展開を推進しています。デジタルチャネルでも10%台半ばから後半の成長を実現し、オンライン販売強化が奏功しています。
(出典: Tapestry, Inc. Fiscal 2025 Fourth Quarter and Full Year Results, SEC EDGAR)
(2) 注目テーマ(Gen Z顧客獲得・デジタル・サステナビリティ)
タペストリーは以下の注目テーマで投資家の関心を集めています。
Gen Z顧客獲得: 若年層の新規顧客獲得に注力し、2025年度には北米で680万人を達成しました。この戦略により、長期的な顧客基盤の拡大と売上成長が期待されています。
デジタルトランスフォーメーション: オンライン販売チャネルの強化により、デジタルで10%台半ばから後半の成長を実現しています。EC強化による収益性向上が注目されています。
サステナビリティ(Fabric of Change戦略): 環境配慮型の製品開発と生産プロセスの改善を推進しています。ESG(環境・社会・ガバナンス)投資の観点からも注目されています。
(3) 投資家の関心・懸念点
投資家の関心点は、2028年度までに営業利益率22%超(2025年度比200bps以上の改善)と2桁のEPS成長を目指す長期財務目標です。さらに、累計40億ドルの株主還元(2028年度まで)と配当14%増で株主重視姿勢を明確化している点も評価されています。
一方で、懸念点としては、2026年度に関税政策の影響で1.6億ドル(約230bps)のマージン圧迫が見込まれており、2025年8月の決算発表後に株価が18%急落しました。また、Kate Spadeブランドで約8.5億ドル(約1,255億円)の減損処理を実施したこと、インサイダー売却とショート比率8.08%が不安材料として指摘されています。
2. タペストリーの事業内容・成長戦略
(1) 主力事業
タペストリーは以下の3つのブランドを展開するアクセサブル・ラグジュアリー企業です。
Coach(コーチ): 主力ブランドで、ハンドバッグ、レザーグッズ、フットウェア、アクセサリーを展開しています。2025年度には10%成長を達成し、売上の大部分を占めています。特にGen Z顧客の獲得に成功し、北米で680万人の新規顧客を獲得しました。
Kate Spade(ケイト・スペード): 女性向けのハンドバッグ、アパレル、アクセサリーを展開しています。ただし、2025年度には約8.5億ドル(約1,255億円)の減損処理を実施し、ブランド再建が課題となっています。
Stuart Weitzman(スチュアート・ワイツマン): 高級靴ブランドで、プレミアムフットウェア市場に特化しています。売上規模は3ブランドの中で最小ですが、高単価製品で収益性を確保しています。
(2) セクター・業種の説明
タペストリーはConsumer Discretionary(一般消費財)セクターのTextiles, Apparel & Luxury Goods(繊維・アパレル・ラグジュアリー製品)業種に属しています。
このセクター・業種は景気敏感性が高く、消費者の可処分所得や消費意欲に大きく影響されます。特にアクセサブル・ラグジュアリー市場は、LVMH(ルイ・ヴィトン)やKering(グッチ)などのハイエンドブランドと、ファストファッションの中間に位置する中価格帯市場です。
経済成長期には消費拡大の恩恵を受けやすい一方、景気後退期には消費削減の影響を受けやすい特性があります。
(3) ビジネスモデルの特徴
タペストリーのビジネスモデルには以下の特徴があります。
高い粗利率: 2025年度の粗利率は75.4%(210bps改善)と、非常に高い収益性を実現しています。これは自社ブランドの製品を自社販売チャネルで販売する垂直統合型のビジネスモデルによるものです。
ブランドポートフォリオ戦略: Coach、Kate Spade、Stuart Weitzmanの3ブランドを展開し、リスク分散と市場カバー範囲の拡大を図っています。特にCoachブランドの好調が全体の成長を牽引しています。
オムニチャネル戦略: 直営店、百貨店、オンラインストアなど複数の販売チャネルを組み合わせています。デジタルチャネルでは10%台半ばから後半の成長を実現し、収益性の高いEC販売を強化しています。
グローバル展開: 北米を中心としながら、中国(22%成長)と欧州(12%成長)での国際展開を加速しています。特に中国市場での成長が今後の業績を左右する重要な要素となっています。
(出典: Tapestry, Inc. 10-K Annual Report, SEC EDGAR)
3. 競合との差別化
(1) 主要競合企業
タペストリーの主要競合企業は以下の通りです。
LVMH(ルイ・ヴィトン): 世界最大のラグジュアリーコングロマリットで、ルイ・ヴィトン、ディオール、フェンディなどのハイエンドブランドを展開しています。タペストリーよりも高価格帯市場に特化しています。
Kering(ケリング): グッチ、サンローラン、ボッテガ・ヴェネタなどを傘下に持つラグジュアリー企業です。LVMHと同様、ハイエンド市場が主戦場です。
Michael Kors(マイケル・コース): Capri Holdingsが運営するアクセサブル・ラグジュアリーブランドです。タペストリーと同じ中価格帯市場で直接競合しています。なお、タペストリーは2023年にCapri Holdings(Michael Kors、Versace、Jimmy Choo)を約85億ドルで買収する戦略を発表しましたが、買収は破談となり、1.2億ドルの債務を計上しました。
(2) 競合優位性
タペストリーの競合優位性は以下の点にあります。
中価格帯のブランドポートフォリオ: LVMH・Keringなどのハイエンドブランドと異なり、アクセサブル・ラグジュアリー市場に特化しています。この価格帯は、ラグジュアリー製品を求める幅広い消費者層にアピールできます。
Gen Z顧客基盤の拡大: 2025年度に北米で680万人の新規顧客を獲得し、うち60%がGen Z/ミレニアル世代です。若年層の支持を獲得することで、長期的な顧客基盤を構築しています。
高い収益性: 粗利率75.4%(210bps改善)、営業利益率20.0%(2025年度)と、競合他社と比較して高い収益性を実現しています。2028年度までに営業利益率22%超を目指しています。
株主還元の充実: 累計40億ドルの株主還元(2028年度まで)と配当14%増で、株主重視姿勢を明確化しています。配当性向約30%を維持し、安定した配当が期待できます。
(3) 市場でのポジショニング
タペストリーはアクセサブル・ラグジュアリー市場に位置しています。この市場は、ハイエンドのラグジュアリー製品(LVMH、Kering等)とファストファッション(ZARA、H&M等)の中間に位置する中価格帯市場です。
価格帯: ハンドバッグの価格は数万円から数十万円程度で、高品質ながら手の届きやすい価格設定が特徴です。
ターゲット顧客: 中間所得層の消費者で、特にGen Z・ミレニアル世代の若年層をターゲットにしています。
競争環境: Michael Korsなどと直接競合する一方、ハイエンドブランドからの顧客流入や、ファストファッションからのステップアップ需要を取り込んでいます。
この市場ポジショニングにより、景気敏感性がある一方で、幅広い消費者層にアピールできる強みがあります。
4. 財務・配当の実績
(1) 売上高・利益の推移
タペストリーの過去5年間の財務推移は以下の通りです(※2025年10月時点のデータです)。
年度 | 売上高(億ドル) | 営業利益率 | 調整後EPS(ドル) |
---|---|---|---|
2021 | 51.3 | - | - |
2022 | 64.7 | - | - |
2023 | 66.6 | 18.5% | 4.30 |
2024 | 66.7 | 18.7% | 4.75 |
2025 | 70.0 | 20.0% | 5.10 |
2025年度の業績ハイライトは以下の通りです:
- 売上高: 70億ドル(5%成長)
- 粗利率: 75.4%(210bps改善)
- 営業利益率: 20.0%(2024年度18.7%から改善)
- 調整後EPS: 5.10ドル
- Coachブランド: 10%成長を達成
2026年度の見通しは、売上72億ドル、EPS 5.30-5.45ドル(4-7%成長)を見込んでいます。ただし、関税政策の影響で1.6億ドルのマージン圧迫が予想されています。
(出典: Tapestry, Inc. Fiscal 2025 Fourth Quarter and Full Year Results, SEC EDGAR)
(2) 配当履歴
タペストリーの配当履歴は以下の通りです。
年度 | 年間配当(ドル) | 配当性向 | 増配率 |
---|---|---|---|
2023 | 1.20 | 約30% | - |
2024 | 1.40 | 約30% | 16.7% |
2025 | 1.60 | 約30% | 14.3% |
配当方針:
- 配当性向約30%を維持
- 2025年度は年間配当1.60ドル(14%増配)を承認
- 2026-2028年度で累計30億ドルの自社株買戻しと配当成長を計画
- 2028年度までに累計40億ドルの株主還元(調整後フリーキャッシュフローの100%超)を目指す
配当利回り: 株価により変動しますが、安定した増配と配当性向30%の維持により、株主還元の充実が期待できます。
(出典: Tapestry, Inc. 10-K Annual Report, SEC EDGAR)
(3) 財務健全性
タペストリーの財務健全性は以下の通りです。
フリーキャッシュフロー: 2026年度見込みは約13億ドルです。ただし、2025年度には営業キャッシュフロー9.02億ドル→6.26億ドルへ減少し、在庫8.25億ドル→9.37億ドルへ増加したことが懸念材料として指摘されています。
負債状況: Capri Holdings買収の破談により1.2億ドルの債務を計上しました。今後の負債水準には注意が必要です。
収益性: 粗利率75.4%(210bps改善)と非常に高い収益性を実現しています。営業利益率も20.0%(2025年度)と良好で、2028年度までに22%超を目指しています。
株主還元: 2025年度には23億ドルの株主還元(配当と自社株買戻し)を実施し、株主重視姿勢を明確化しています。
※2025年10月時点のデータです。最新情報はTapestry Inc公式IRページをご確認ください。 (出典: Tapestry, Inc. 10-K 2024, SEC EDGAR)
5. リスク要因
(1) 事業リスク
タペストリーの主な事業リスクは以下の通りです。
Kate Spadeブランドの不振: 2025年度に約8.5億ドル(約1,255億円)の減損処理を実施しました。Kate Spadeブランドの再建が課題となっており、ブランドポートフォリオ戦略の見直しが必要です。
在庫増加: 在庫が8.25億ドル→9.37億ドルへ増加し、在庫管理の課題が浮上しています。在庫増加は収益性の低下や値引き販売につながるリスクがあります。
営業キャッシュフロー減少: 営業キャッシュフロー9.02億ドル→6.26億ドルへ減少し、キャッシュ創出力の低下が懸念されています。
(2) 市場環境リスク
関税政策の影響: 2026年度に関税政策の影響で1.6億ドル(約230bps)のマージン圧迫が見込まれています。2025年8月の決算発表では、EPS見通しを60セント下方修正し、株価が18%急落しました。今後の貿易政策の変更により、さらなる影響を受ける可能性があります。
景気敏感性: Consumer Discretionary(一般消費財)セクターは景気敏感性が高く、景気後退期には消費削減の影響を受けやすい特性があります。中国・米国での消費者トレンド弱体化が逆風となっています。
為替リスク: 米ドル/円の為替レート変動により、円換算の配当金額や株価が変動します。円高局面では配当の円換算額が減少し、円安局面では増加します。為替ヘッジを行わない場合、為替変動リスクを負うことになります。
(3) 規制・競争リスク
中国市場への依存度: 2025年度に中国市場で22%成長を達成しましたが、中国経済の減速や中国政府の規制強化により、今後の成長が鈍化するリスクがあります。
競争激化: アクセサブル・ラグジュアリー市場では、Michael Korsなどとの競争が激化しています。また、ハイエンドブランドの価格引き下げや、ファストファッションの品質向上により、競争環境が厳しくなる可能性があります。
インサイダー売却とショート比率: インサイダー保有19.45%減少、ショート比率8.08%が不安材料として指摘されています。内部者による株式売却は、経営陣の自社株への信頼度低下を示唆する可能性があります。
(出典: Bloomberg「コーチのタペストリー株が急落、関税直撃で見通しが市場予想に届かず」)
6. まとめ:投資判断のポイント
(1) この銘柄の強み
タペストリーの強みは以下の3点です。
第一に、高い収益性です。 粗利率75.4%(210bps改善)、営業利益率20.0%(2025年度)と、競合他社と比較して高い収益性を実現しています。2028年度までに営業利益率22%超を目指しており、さらなる収益改善が期待できます。
第二に、Gen Z顧客基盤の拡大です。 2025年度に北米で680万人の新規顧客を獲得し、うち60%がGen Z/ミレニアル世代です。若年層の支持を獲得することで、長期的な顧客基盤を構築しています。
第三に、株主還元の充実です。 累計40億ドルの株主還元(2028年度まで)と配当14%増で、株主重視姿勢を明確化しています。配当性向約30%を維持し、安定した配当が期待できます。
(2) リスク要因(再掲)
一方で、以下の2点のリスクに注意が必要です。
第一に、関税政策の影響です。 2026年度に1.6億ドル(約230bps)のマージン圧迫が見込まれており、株価が18%急落しました。今後の貿易政策の変更により、さらなる影響を受ける可能性があります。
第二に、Kate Spadeブランドの不振です。 2025年度に約8.5億ドル(約1,255億円)の減損処理を実施し、ブランドポートフォリオ戦略の見直しが必要です。
(3) 向いている投資家のタイプ
タペストリーは以下のタイプの投資家に向いています。
アパレル・ラグジュアリーセクターに興味がある投資家: Coach、Kate Spade、Stuart Weitzmanなどのブランド企業に投資したい投資家に適しています。
配当重視の投資家: 配当性向約30%を維持し、配当14%増を承認しています。安定した配当と増配が期待できます。
成長戦略に期待する投資家: 「Amplify」成長戦略によるGen Z顧客獲得、デジタル変革、グローバル展開に期待する投資家に向いています。
ただし、景気敏感性が高く、関税政策やKate Spadeブランドの不振などのリスクがあるため、投資判断はご自身で行ってください。投資の最終決定は自己責任で行い、必要に応じて専門家にご相談ください。
※本記事は情報提供を目的としており、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。
Q: タペストリーの配当利回りは?
A: 2025年度の年間配当は1.60ドル(14%増配)です。配当利回りは株価により変動しますが、配当性向約30%を維持しています。過去の配当履歴を見ると、2023年度1.20ドル、2024年度1.40ドル、2025年度1.60ドルと連続増配しています。最新の配当利回りは証券会社の株価情報をご確認ください。
Q: タペストリーの主な競合は?
A: LVMH(ルイ・ヴィトン)やKering(グッチ)などのハイエンドラグジュアリー企業、Michael Kors等のアクセサブル・ラグジュアリー企業が主要競合です。タペストリーは中価格帯のブランドポートフォリオ(Coach、Kate Spade、Stuart Weitzman)で差別化しており、ハイエンドブランドよりも手の届きやすい価格設定が特徴です。競合との差別化ポイントは高い収益性(粗利率75.4%)とGen Z顧客基盤の拡大です。
Q: タペストリーのリスク要因は?
A: 主なリスク要因は3つです。第一に、関税政策の影響(2026年度に1.6億ドルのマージン圧迫)により株価が18%急落しました。第二に、Kate Spadeブランドの減損処理(約8.5億ドル)でブランド再建が課題です。第三に、中国市場への依存度が高く、中国経済の減速や規制強化のリスクがあります。詳細は本文のリスク要因セクションを参照してください。
Q: タペストリーは長期投資に向いている?
A: アパレル・ラグジュアリーセクターの中価格帯ブランド(Coach、Kate Spade)に投資したい投資家、配当重視の投資家、Gen Z顧客獲得やデジタル変革に期待する投資家に向いています。ただし、景気敏感性が高く、景気後退期には消費削減の影響を受けやすい特性があります。関税政策やKate Spadeブランドの不振などのリスクもあるため、投資判断はご自身で行ってください。
Q: タペストリーのGen Z戦略とは?
A: 「Amplify」成長戦略の一環で、Z世代の新規顧客獲得に注力しています。2025年度には北米で680万人の新規顧客を獲得し、うち60%がGen Z/ミレニアル世代です。顧客との感情的なつながり構築に注力し、特にCoachブランドで若年層の支持を拡大しています。デジタルチャネルでも10%台半ばから後半の成長を実現し、オンライン販売強化が奏功しています。この戦略により、長期的な顧客基盤の拡大と売上成長が期待されています。