0. この記事でわかること
本記事では、D.R.ホートン(DHI)について以下の情報を提供します:
- なぜ注目されているのか: 米国最大の住宅建設会社として年間着工戸数9万戸超を誇り、「Pace Over Price(価格より販売ペース優先)」戦略で中低価格帯の一戸建て住宅を展開。金利買い下げインセンティブやアセットライト型土地戦略で市場シェアを拡大しています。
- 事業内容と成長戦略: 36州・126市場で運営する住宅建設事業を中心に、金融サービス(住宅ローン・権原サービス)も提供。平均住宅サイズを8%縮小し平均販売価格を全国平均より25%安く設定することで、初回購入者をターゲットにしています。
- 競合との差別化: レナー、パルト・ホームズなど主要競合に対し、64万区画のパイプラインの76%をオプション契約とするアセットライト戦略で財務柔軟性を確保しています。
- 財務・配当の実績: 2025年度第3四半期は売上高92億ドル、純利益10億ドル。10年連続増配(直近配当成長率20.0%)と40億ドルの自社株買戻しを計画しています。
- リスク要因: 高金利環境による購買意欲の低下、売上高成長率の低迷(直近四半期15.1%減)、ROE低下による資本効率悪化、木材・人件費高騰による利益率圧迫などが懸念されます。
1. なぜD.R.ホートン(DHI)が注目されているのか
(1) 成長戦略の3つのポイント
D.R.ホートンは米国最大の住宅建設会社として、以下の3つの成長戦略で投資家の注目を集めています。
第一に、「Pace Over Price(価格より販売ペース優先)」戦略を堅持しています。 平均住宅サイズを8%縮小(2,119平方フィート→1,950平方フィート)し、平均販売価格を全国平均より約25%安く設定することで、若年層・初回購入者の購入ハードルを下げています。金利買い下げインセンティブ(4.99〜5.99%)を導入し、購入者の住宅ローン負担を軽減することで販売ペースを維持しています(出典: The Builders Daily, 2025年)。
第二に、アセットライト型の土地戦略を展開しています。 64万区画のパイプラインのうち76%をオプション契約(所有ではなく購入権確保)とすることで、市場変動リスクを軽減し財務柔軟性を確保しています。これにより、景気後退時にも過剰な土地在庫を抱えるリスクを回避できます(出典: The Builders Daily, 2025年)。
第三に、営業プラットフォームの拡大を進めています。 従業員数8%増、コミュニティ数10%増、市場数7%増(126市場・36州)に展開し、2025年度は自社株買戻しを26億〜28億ドルから40億ドルに引き上げました。過去9ヶ月間で36億ドルの自社株買戻しと3.76億ドルの配当を実施しています(出典: The Builders Daily, 2025年)。
(2) 注目テーマ(アフォーダビリティ・Express Homes・アセットライト戦略)
投資家が注目する3つのテーマは、アフォーダビリティ(手頃な価格)戦略、Express Homes(エントリーレベル住宅)、アセットライト型土地戦略です。
アフォーダビリティ戦略では、平均住宅サイズを縮小することで建築コストを削減し、初回購入者が購入しやすい価格帯(全国平均より25%安)に設定しています。Express Homesは同社のエントリーレベル住宅ブランドで、若年層の住宅購入ニーズに応えています。アセットライト型土地戦略では、土地を直接所有せず購入権のみを確保することで、在庫投資のリターンを最大化しています(住宅建築ROI 26.7%、2024年12月期TTM)(出典: D.R. Horton Investor Relations, 2024年)。
(3) 投資家の関心・懸念点
投資家の関心は、金利低下局面での業績回復に集中しています。 2025年度の見通しは、売上高337億〜342億ドル、住宅引渡数8.5万〜8.55万戸を計画しており、アナリスト14名のコンセンサス評価は「買い」で平均目標株価162.71ドルとなっています(出典: Nasdaq, 2025年)。2025年度のEPS成長率は前年比4%増の14.92ドル、2026年度はEPS2.5%増、売上高1.5%増と緩やかな回復が予想されています。
一方、懸念点としては、高金利環境が継続する場合の購買意欲低下と、売上高成長率の低迷が挙げられます。 過去3年間の売上高成長率は年平均5.3%でS&P500の5.5%を下回り、直近12ヶ月では売上高4.7%減の350億ドル、直近四半期では前年比15.1%減の77億ドルに落ち込みました(出典: SimplyWall.St, 2025年)。ROEも低下傾向で資本効率の悪化が懸念されています。
2. D.R.ホートンの事業内容・成長戦略
(1) 主力事業
D.R.ホートンの主力事業は以下の3つです。
第一に、住宅建設事業です。 36州・126市場で一戸建て住宅の建設・販売を行っており、年間着工戸数は9万戸を超えています。初回購入者向け・買い替え用住宅を中心に、中低価格帯のセグメントで市場シェアを拡大しています(出典: Provej, 2024年)。
第二に、金融サービス事業です。 住宅ローンの提供や権原サービス(不動産所有権の確認・保険)を通じて、住宅購入者をワンストップでサポートしています。これにより、住宅建設事業との相乗効果を生み出しています(出典: Provej, 2024年)。
第三に、賃貸事業です。 一部の住宅を賃貸用として保有し、安定的なキャッシュフローを確保しています(出典: Provej, 2024年)。
(2) セクター・業種の説明
D.R.ホートンはConsumer Discretionary(一般消費財)セクターのHousehold Durables(家庭用耐久財)業種に分類されます。
住宅建設業界は景気敏感セクターであり、金利動向・住宅ローン金利・雇用環境に大きく影響されます。米国では、若年層(ミレニアル世代・Z世代)の住宅購入ニーズが拡大しており、長期的な需要成長が見込まれています。一方で、住宅ローン金利が7%を超える高金利環境では、購入者の購買意欲が低下し、販売ペースが鈍化するリスクがあります。
(3) ビジネスモデルの特徴
D.R.ホートンのビジネスモデルには以下の特徴があります。
第一に、「Pace Over Price」戦略です。 販売価格を下げてでも販売ペースを維持することで、在庫回転率を高め、営業キャッシュフローの創出を重視しています。2025年第3四半期の営業キャッシュフローは29億ドルに達しました(出典: D.R. Horton Press Release, 2025年7月22日)。
第二に、アセットライト型土地戦略です。 土地をオプション契約で確保することで、初期投資を抑え、市場変動リスクを軽減しています。これにより、住宅建築ROIは26.7%と高水準を維持しています(出典: D.R. Horton Investor Relations, 2024年)。
第三に、積極的な買収戦略です。 1997年のコンチネンタルホームズ買収、2016年のウィルソン・パーカー・ホームズ買収など、数多くの企業を買収し、2002年に米国最大の住宅建設会社となりました(出典: Provej, 2024年)。
3. 競合との差別化
(1) 主要競合企業
D.R.ホートンの主要競合企業は以下の通りです。
- レナー(Lennar Corporation): 米国第2位の住宅建設会社。デジタル技術を活用した営業効率化と顧客体験向上に注力しています。
- パルト・ホームズ(PulteGroup): ベビーブーマー世代向け住宅(Del Webb)で強みを持つ住宅建設会社。
- NVR(NVR Inc.): 高価格帯の住宅建設に特化し、土地所有を最小限に抑える戦略で高収益を維持しています。
- トール・ブラザーズ(Toll Brothers): 高級住宅セグメントで市場シェアを持つ住宅建設会社。
- KB Home(KB Home): 初回購入者向け住宅に注力する中堅住宅建設会社。
(2) 競合優位性
D.R.ホートンの競合優位性は以下の3点です。
第一に、米国最大の市場シェアです。 年間着工戸数9万戸超は業界トップであり、規模の経済によるコスト削減を実現しています。36州・126市場という広範なネットワークにより、地域リスクを分散できる点も強みです(出典: D.R. Horton Investor Relations, 2024年)。
第二に、「Pace Over Price」戦略による販売ペース維持です。 競合他社が価格維持を優先する中、D.R.ホートンは販売ペースを優先することで、在庫回転率を高め、キャッシュフロー創出力で優位に立っています(出典: D.R. Horton Investor Relations, 2024年)。
第三に、アセットライト型土地戦略による財務柔軟性です。 パイプラインの76%をオプション契約とすることで、景気後退時にも土地在庫リスクを抑え、ROIを高水準に維持しています(26.7%、2024年12月期TTM)(出典: D.R. Horton Investor Relations, 2024年)。
(3) 市場でのポジショニング
D.R.ホートンは中低価格帯の一戸建て住宅市場でトップシェアを持ちます。初回購入者・若年層をターゲットに、手頃な価格と金利買い下げインセンティブで市場シェアを拡大しています。
競合のNVRやトール・ブラザーズが高価格帯に特化する一方、D.R.ホートンは中低価格帯で圧倒的な販売数量を誇ります。レナーやパルト・ホームズとは価格帯で競合しますが、「Pace Over Price」戦略とアセットライト型土地戦略で差別化しています。
4. 財務・配当の実績
(1) 売上高・利益の推移
以下は過去5年間の売上高・純利益の推移です(単位: 億ドル、出典: D.R. Horton Press Release, 2025年7月22日およびInvestor Relations, 2024年)。
年度 | 売上高 | 純利益 | 税引前利益率 |
---|---|---|---|
2020年度(9月期) | 約178 | 約16 | 約13.5% |
2021年度(9月期) | 約277 | 約38 | 約19.8% |
2022年度(9月期) | 約339 | 約53 | 約21.5% |
2023年度(9月期) | 約363 | 約50 | 約19.2% |
2024年度(9月期) | 約368 | 約44 | 約17.0% |
2025年度第3四半期(TTM) | 約350 | 約39 | 約14.7%(Q3単独) |
2021〜2022年度は住宅需要の急増で大幅増収増益となりましたが、2023年度以降は高金利環境の影響で売上高成長率が鈍化し、利益率も圧迫されています。 直近12ヶ月では売上高4.7%減の350億ドル、直近四半期(2025年第3四半期)では前年比15.1%減の77億ドルに落ち込みました(出典: SimplyWall.St, 2025年)。
2025年第3四半期の住宅引渡数は2.316万戸、住宅売上粗利益率は21.8%でした(出典: D.R. Horton Press Release, 2025年7月22日)。
(2) 配当履歴
D.R.ホートンは10年連続増配を実施しており、直近配当成長率は20.0%です(出典: みんかぶ(米国株), 2025年)。配当利回りは1%前後と低めですが、自社株買戻しを積極的に行っています。2025年度は42億〜44億ドルの自社株買戻しを計画しており、過去9ヶ月間で36億ドルの自社株買戻しと3.76億ドルの配当を実施しました(出典: The Builders Daily, 2025年)。
配当性向は低めに設定されており、業績変動リスクに対する配当余力を確保しています。株主還元は配当よりも自社株買戻しを重視する方針です。
(3) 財務健全性
2025年第3四半期の営業キャッシュフローは29億ドルに達し、過去12ヶ月で株主還元46億ドル(自社株買戻し+配当)を実施しています(出典: D.R. Horton Press Release, 2025年7月22日)。
自己資本比率や有利子負債の詳細は公式IR資料(10-K, 10-Q)で確認が必要ですが、アセットライト型土地戦略により、過剰な土地在庫を抱えるリスクを軽減しています。これにより、景気後退時にも財務柔軟性を維持できる体制となっています。
※2025年10月時点のデータです。最新情報はDR Horton Inc公式IRページをご確認ください。
5. リスク要因
(1) 事業リスク
第一に、高金利環境による購買意欲の低下です。 住宅ローン金利がピークから低下したものの依然として高水準であり、2025年にさらなる低下が予想されるため、顧客が購入決定を遅らせています(出典: Nasdaq, 2025年)。住宅ローン金利が7%を超える水準では、初回購入者の購入ハードルが高まり、販売ペースが鈍化するリスクがあります。
第二に、売上高成長率の低迷と利益率圧迫です。 過去3年間の売上高成長率は年平均5.3%でS&P500の5.5%を下回り、直近12ヶ月では売上高4.7%減の350億ドル、直近四半期では前年比15.1%減の77億ドルに落ち込みました(出典: SimplyWall.St, 2025年)。木材・人件費の高騰により利益率が圧迫されており、税引前利益率は2024年度の17.0%から2025年第3四半期は14.7%に低下しています。
第三に、ROE低下による資本効率悪化です。 ROEが低下傾向にあり、PBRを中心としたバリュエーション悪化が予想されます(出典: みんかぶ(米国株), 2025年)。これにより、株価の評価倍率が圧迫されるリスクがあります。
(2) 市場環境リスク
第一に、景気後退リスクです。 住宅建設業界は景気敏感セクターであり、景気後退局面では住宅需要が急減し、在庫住宅が増加するリスクがあります。D.R.ホートンはアセットライト型土地戦略で在庫リスクを軽減していますが、景気後退時には売上高・利益の大幅減少は避けられません。
第二に、金利動向リスクです。 米国FRBの金融政策次第で住宅ローン金利が変動します。金利が低下すれば住宅需要が回復しますが、金利が再上昇すれば購買意欲がさらに低下するリスクがあります。
第三に、為替リスクです。 日本人投資家にとって、円高(例: 1ドル=140円→130円)になると配当金・売却益が円換算で目減りします。為替変動は株価パフォーマンスに加えて、配当利回りにも影響を与えます。
(3) 規制・競争リスク
第一に、規制リスクです。 住宅購入者への月額住宅ローン支払額開示に関する集団訴訟が提起されており(出典: SimplyWall.St, 2025年)、規制強化や訴訟コストが発生するリスクがあります。
第二に、競争激化リスクです。 レナー、パルト・ホームズなど主要競合が価格競争やデジタル技術活用で市場シェア拡大を図っており、D.R.ホートンの優位性が相対的に低下するリスクがあります。
第三に、建築資材コスト・人件費の変動リスクです。 木材価格の変動や人件費の上昇により、利益率が圧迫されるリスクがあります。特に、インフレが再燃した場合、コスト増を販売価格に転嫁できず、利益率がさらに低下する可能性があります。
6. まとめ:投資判断のポイント
(1) この銘柄の強み
D.R.ホートンの強みは以下の3点です。
- 米国最大の住宅建設会社: 年間着工戸数9万戸超、36州・126市場で運営し、規模の経済によるコスト削減を実現しています。
- 「Pace Over Price」戦略とアセットライト型土地戦略: 販売ペース優先とオプション契約による土地確保で、在庫回転率を高め、住宅建築ROI 26.7%(2024年12月期TTM)を維持しています。
- 株主還元の積極化: 10年連続増配(直近配当成長率20.0%)と2025年度42億〜44億ドルの自社株買戻し計画により、株主価値向上に取り組んでいます。
(2) リスク要因(再掲)
一方、以下のリスク要因に注意が必要です。
- 高金利環境による購買意欲の低下: 住宅ローン金利が高水準で推移する中、顧客が購入決定を遅らせています。
- 売上高成長率の低迷と利益率圧迫: 直近四半期で売上高15.1%減、税引前利益率14.7%に低下しており、ROE低下による資本効率悪化が懸念されます。
(3) 向いている投資家
D.R.ホートンは以下のような投資家に向いています。
- 米国住宅市場の長期的な需要拡大に期待する長期投資家: 若年層(ミレニアル世代・Z世代)の住宅購入ニーズが長期的に拡大すると考える投資家。
- 金利低下局面での業績回復を見込む投資家: 2025年度のEPS成長率4%増、2026年度のEPS2.5%増と緩やかな回復を期待する投資家。
- 景気サイクルを理解し、短期的な業績変動を許容できる投資家: 景気敏感株として、金利動向と住宅市場サイクルを理解し、短期的な株価変動を許容できる投資家。
免責事項: 本記事は情報提供を目的としており、個別銘柄の売買推奨ではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。最新の財務データや市場動向については、D.R.ホートン公式IR資料(10-K、10-Q)や証券会社のレポートをご確認ください。
Q: D.R.ホートンの配当利回りは?
A: 配当利回りは1%前後です(2025年10月時点)。10年連続増配を実施しており、直近配当成長率は20.0%です。配当性向は低めに設定されており、株主還元は配当よりも自社株買戻しを重視する方針です。2025年度は42億〜44億ドルの自社株買戻しを計画しており、過去9ヶ月間で36億ドルの自社株買戻しと3.76億ドルの配当を実施しています。
Q: D.R.ホートンの主な競合は?
A: レナー、パルト・ホームズ、NVR、トール・ブラザーズ、KB Homeなどが主な競合です。米国最大の市場シェア(年間着工戸数9万戸超)と「Pace Over Price」戦略が差別化ポイントです。レナーやパルト・ホームズとは価格帯で競合しますが、アセットライト型土地戦略(パイプラインの76%をオプション契約)で財務柔軟性を確保している点が優位性となっています。
Q: D.R.ホートンのリスク要因は?
A: 高金利環境による購買意欲の低下、売上高成長率の低迷(直近四半期15.1%減)、ROE低下による資本効率悪化、木材・人件費高騰による利益率圧迫などがあります。住宅ローン金利が高水準で推移する中、顧客が購入決定を遅らせており、2025年にさらなる金利低下が予想されますが、その時期は不透明です。景気敏感株として、景気後退リスクや金利動向リスクにも注意が必要です。詳細は本文の「5. リスク要因」を参照してください。
Q: D.R.ホートンは長期投資に向いている?
A: 米国住宅市場の長期的な需要拡大(若年層の住宅購入ニーズ)に期待する長期投資家に向いています。ただし景気敏感株のため、金利動向と住宅市場サイクルに注意してください。2025年度はEPS成長率4%増、2026年度はEPS2.5%増と緩やかな回復が見込まれます。アナリスト14名のコンセンサス評価は「買い」で平均目標株価162.71ドルですが、別の分析では「ホールド」(買い5、ホールド7、売り2)との評価もあり、短期的には業績回復のペースが焦点となります。投資判断はご自身の責任で行ってください。