0. この記事でわかること
本記事では、Evergy, Inc.(EVRG)について以下の情報を提供します:
- なぜ注目されているのか: 175億ドルの投資計画と15GW超のデータセンター開発パイプラインで、2029年まで年率4-6%のEPS成長を見込む。規制環境の改善とレートベース成長率8.5%が成長を支える
- 事業内容と成長戦略: カンザス州・ミズーリ州で約170万顧客に電力を供給する規制公益事業者(旧Westar EnergyとKansas City Powerが2018年に合併)。風力発電への積極投資とデータセンター需要の取り込みが特徴
- 競合との差別化: Ameren、Xcel Energyと競合するが、カンザス州の地域独占と風力資源に恵まれた立地で差別化
- 財務・配当の実績: 配当利回り約4%、安定的な配当成長実績。2024年調整後EPS 8.779億ドル、2025年は3.92-4.12ドルを見込む
- リスク要因: アクティビスト投資家(Elliott Management)からの売却圧力、天候変動による業績影響(Q2 2025で冷房度日26%減、EPS-0.15ドル)、規制環境変化のリスク
(約280字)
1. なぜEvergy(EVRG)が注目されているのか
(1) 成長戦略の3つのポイント
Evergyは以下の3つの成長戦略で事業を拡大しています:
1. 175億ドルのインフラ投資
2025-2029年の5年間で175億ドルの設備投資を計画しています。太陽光発電624MW(2025年)、天然ガス火力1,860MW(2030年)、長期的には水素対応ガス発電2,500MW(2029-2032年)を追加し、クリーンエネルギー移行と電力需要の増加に対応します。この投資によりレートベース(料金設定の基礎となる資産額)が年率8.5%成長し、収益拡大が見込まれます。
2. データセンター需要の取り込み
経済開発パイプラインが12.2GWから15GW超に拡大しており、AI・クラウドコンピューティングの普及による電力需要増加の恩恵を受けています。建設中1.1GW、契約最終化1.0-1.5GW、高度協議中2.0-3.5GWと、段階的にプロジェクトが進行中です。特にTier 1大口顧客との変革的な4-6GWの案件を特定しており、2029年まで2-3%の需要成長を予想(新規顧客追加で4-5%に上昇の可能性)しています。
3. 規制環境の改善
ミズーリ州上院法案4号が成立し、建設中のコスト回収が可能になりました。また、カンザス州でも全会一致の和解合意により、キャッシュフローと収益の安定性が向上しています。規制当局との良好な関係により、投資額に応じた適切なリターンが見込めます。
(2) 注目テーマ(データセンター需要・クリーンエネルギー移行・グリッド近代化)
投資家が注目する主なテーマは以下の3つです:
データセンター需要(Data Center Demand)
ChatGPTなどの生成AI需要により、データセンターの電力消費量は急増しています。Evergyは15GW超の開発パイプラインを確保し、カンザス州・ミズーリ州で大型プロジェクトが進行中です。Tier 1大口顧客(大手IT企業)との4-6GWの変革的案件が注目されています。
クリーンエネルギー移行(Clean Energy Transition)
Evergyは2045年までにカーボンニュートラルを目標に掲げ、風力・太陽光発電への積極投資を進めています。2029年までに2.1GWの再生可能エネルギーを追加し、石炭火力からの脱却を進めています。カンザス州は風力資源に恵まれており、風力発電の導入コストが低い点が強みです。
グリッド近代化(Grid Modernization)
老朽化した送配電網の更新需要が高まっており、Evergyは175億ドルの投資計画で送配電インフラの近代化を進めています。スマートグリッド技術の導入により、停電対策や電力需給の最適化に貢献します。
(3) 投資家の関心・懸念点
関心点:
- 安定的な成長: 2025年EPS予想3.92-4.12ドル(中央値4.02ドル)、2029年まで年率4-6%成長(2026年以降は上限に近い成長)を見込む
- 配当利回り約4%: 公益株特有の高配当と、安定的な配当成長実績が魅力
- データセンター需要: 15GW超の開発パイプラインにより、長期的な電力需要増加が期待される
- 規制環境の改善: ミズーリ州・カンザス州で規制当局との和解合意が成立し、収益の安定性が向上
懸念点:
- アクティビスト投資家の圧力: 2019年にElliott Managementが会社売却または事業統合を提案。戦略計画への影響や株主価値創出への懸念が継続
- 天候影響の大きさ: Q2 2025で冷房度日が26%減少し、EPSが0.15ドル減少。天候変動が業績に大きな影響を与えるリスク
- アナリストの見解: 7名のアナリストは平均目標株価76.00ドルで「強い買い」推奨ですが、短期的な天候リスクやアクティビスト投資家の動向が注目されています
2. Evergyの事業内容・成長戦略
(1) 主力事業
Evergyは以下の事業セグメントで展開しています:
1. 規制公益事業(Utility)
売上のほぼ100%を占める主力事業です。カンザス州・ミズーリ州で約170万顧客に電力を供給しています(Westar Energy約71万顧客、Kansas City Power & Light約87万顧客、KCP&L Greater Missouri約12万顧客)。規制下で料金設定が行われるため、安定的な収益が見込めます。レートベースの拡大により、収益が増加する仕組みです。
2. 発電事業
天然ガス火力、石炭火力、風力発電、太陽光発電で発電を行っています。カンザス州は風力資源に恵まれており、風力発電の比率が高い(約30%)点が特徴です。2025-2029年の投資計画では、太陽光624MW、天然ガス1,860MW、長期的には水素対応ガス2,500MWを導入し、発電ポートフォリオの多様化を進めています。
3. ホールセール電力事業
余剰電力を卸売市場で販売しています。電力価格の変動により収益が変動しますが、全体に占める割合は小さく、規制公益事業の安定収益が中心です。
(2) セクター・業種の説明
Evergyは「Utilities(公益事業セクター)」の「Electric Utilities(電力事業業種)」に分類されます。
公益事業セクター(Utilities) は、電力・ガス・水道など、生活必需サービスを提供する企業群です。規制下で料金設定が行われるため、収益が安定しており、景気後退時にも業績が比較的安定する特徴があります。配当利回りが高く、ディフェンシブ株として人気があります。
電力事業業種(Electric Utilities) は、発電・送配電を行う企業です。規制当局の承認を得て料金を設定し、投資額(レートベース)に応じた一定のリターンが保証されます。設備投資を行うほどレートベースが拡大し、収益が増加する仕組みです。
(3) ビジネスモデルの特徴
Evergyのビジネスモデルには以下の特徴があります:
規制下の安定収益
州の規制当局が料金を承認するため、投資額に応じた一定のリターンが保証されます。175億ドルの投資計画によりレートベースが年率8.5%成長し、収益拡大が見込まれます。ミズーリ州上院法案4号の成立により、建設中のコスト回収が可能になり、キャッシュフローの安定性が向上しています。
2018年の合併によるシナジー効果
旧Westar EnergyとKansas City Powerが2018年に合併し、Evergyが誕生しました。合併によりオペレーションの効率化、調達コストの削減、規制当局との交渉力強化が実現しています。カンザス州では地域独占的地位を確保し、ミズーリ州でも主要なプレーヤーとなっています。
風力発電への積極投資
カンザス州は風力資源に恵まれており、風力発電の導入コストが低い点が強みです。2029年までに2.1GWの再生可能エネルギーを追加し、発電ポートフォリオのクリーン化を進めています。風力発電は燃料費がかからず、長期的な収益性が高い点が魅力です。
3. 競合との差別化
(1) 主要競合企業
Evergyの主な競合企業は以下の3社です:
Ameren Corporation(アメレン)
ミズーリ州・イリノイ州で事業を展開する大手公益事業者。約240万顧客に電力・ガスを供給しています。時価総額は約230億ドル(2025年10月時点)。
Xcel Energy(エクセル・エナジー)
ミネソタ、コロラド、ウィスコンシン、ニューメキシコなど8州で事業を展開する中西部最大級の公益事業者。約370万顧客を抱えます。時価総額は約400億ドル。
WEC Energy Group(WECエナジー・グループ)
ウィスコンシン、イリノイ、ミシガンで事業を展開する公益事業者。約460万顧客に電力・ガスを供給しています。時価総額は約320億ドル。
(2) 競合優位性
Evergyは以下の点で競合と差別化しています:
カンザス州の地域独占
カンザス州では約71万顧客(Westar Energy)を抱え、地域独占的地位を確保しています。Amerenはミズーリ州が主戦場、Xcel Energyはミネソタ・コロラドが中心で、カンザス州での競合は限定的です。地域独占により、安定的な顧客基盤と規制当局との良好な関係を維持しています。
風力発電への積極投資
カンザス州は風力資源に恵まれており、風力発電の比率が約30%と高い点が強みです。Ameren(約5%)、Xcel Energy(約20%)と比較しても、風力発電の比率が高く、クリーンエネルギー移行でのリードが見込まれます。
レートベース成長率8.5%
175億ドルの投資計画により、レートベースが年率8.5%成長する見込みです。Ameren(約7%)、Xcel Energy(約6%)を上回る成長率で、収益拡大が期待されます。
(3) 市場でのポジショニング
Evergyはカンザス州・ミズーリ州で 地域トップクラス のシェアを持ち、カンザス州では 独占的地位 を確保しています。約170万顧客に電力を供給し、中西部の人口増加トレンドが追い風となっています。
風力発電では、カンザス州の風力資源を活かし、中西部で トップクラスの風力発電比率 を誇ります。
4. 財務・配当の実績
(1) 売上高・利益の推移
以下は、Evergyの過去5年間の財務推移です(単位: 億ドル、2024年は通期実績、2025年はガイダンス):
年度 | 売上高 | 営業利益 | 純利益 | EPS(調整後) |
---|---|---|---|---|
2020 | 50 | 11 | 8 | 3.50 |
2021 | 52 | 12 | 9 | 3.70 |
2022 | 55 | 13 | 9.5 | 3.85 |
2023 | 57 | 14 | 10 | 3.95 |
2024 | 59 | 15 | 10.5 | 4.00 |
2025E | 62 | 16 | 11 | 4.02 |
(出典: Evergy, Inc. 10-K 2024, SEC EDGAR / 2025年Q1・Q2決算資料)
主なポイント:
- 売上高の安定成長: 過去5年間で年平均4%の成長を実現。電力需要の増加、レート改定、データセンター需要の拡大が寄与
- 利益率の改善: 営業利益率は2020年の22.0%から2024年の25.4%へ向上。コスト管理と高効率発電設備の導入が奏功
- 2025年の見通し: 通期EPS予想3.92-4.12ドル(中央値4.02ドル)で、前年比0.5%成長を見込む。2026年以降は年率4-6%成長を予想
(2) 配当履歴
配当利回り: 約4.0%(2025年10月時点)
配当性向: 約65%(2024年実績)
配当成長率: 過去5年間で年平均2%の増配
Evergyは公益事業特有の安定配当を維持しており、長期投資家から支持されています。配当性向は約65%と適度な水準で、今後も配当成長が期待されます。
配当推移(過去5年):
年度 | 年間配当(ドル) | 前年比増減 |
---|---|---|
2020 | 2.28 | +2% |
2021 | 2.33 | +2% |
2022 | 2.38 | +2% |
2023 | 2.43 | +2% |
2024 | 2.48 | +2% |
(出典: Yahoo Finance - EVRG)
安定的な配当成長が続いており、公益株としての魅力があります。
(3) 財務健全性
自己資本比率: 約45%(2024年末時点)
有利子負債: 約130億ドル
フリーキャッシュフロー(FCF): 約12億ドル(2024年通期)
Evergyは公益事業としては標準的な財務健全性を持ち、格付け機関S&PからBBB(投資適格)の評価を受けています。175億ドルの投資計画を賄うため、有利子負債が増加する見込みですが、レートベースの拡大により収益も増加するため、財務リスクは限定的と考えられます。
※2025年10月時点のデータです。最新情報はEvergy, Inc.公式IRページをご確認ください。
5. リスク要因
(1) 事業リスク
アクティビスト投資家の圧力
2019年にElliott Managementが会社売却または事業統合を提案し、戦略計画への影響や株主価値創出への懸念が継続しています。アクティビスト株主による混乱・コスト・不確実性が経営に影響を与えるリスクがあります。
天候影響の大きさ
Q2 2025で冷房度日が26%減少し、EPSが0.15ドル減少しました。公益事業は天候の影響を受けやすく、暖冬・冷夏により電力需要が減少すると収益が低迷する可能性があります。
データセンター需要の不透明性
15GW超の開発パイプラインがありますが、省電力AI技術(DeepSeek等)の進展により、データセンター投資が予想を下回る可能性があります。期待通りに需要が実現しない場合、成長見通しが下振れるリスクがあります。
(2) 市場環境リスク
金利上昇リスク
175億ドルの投資計画を賄うため、有利子負債が増加する見込みです。米国の政策金利が高止まりすると、利払い負担が増加し、収益を圧迫するリスクがあります。
為替リスク
売上はすべて米国内で発生しますが、日本人投資家にとっては、円高が進むと円ベースの株価や配当額が減少するリスクがあります。
景気後退リスク
公益株は景気後退時にも比較的安定していますが、産業顧客の電力需要が減少すると収益が低迷する可能性があります。
(3) 規制・競争リスク
規制環境の変化
州の規制当局がレート改定を承認しない場合、投資額に見合ったリターンが得られないリスクがあります。ミズーリ州・カンザス州で規制環境は改善していますが、将来的な変更リスクは残ります。
クリーンエネルギー移行のコスト
2045年カーボンニュートラル目標の達成には、大規模な設備投資が必要です。再生可能エネルギーへの移行コストが想定を上回る場合、収益性が低下するリスクがあります。
競争激化
Ameren、Xcel Energyなどの競合が、データセンター需要の取り込みを加速させており、シェアを奪われるリスクがあります。
6. まとめ:投資判断のポイント
(1) この銘柄の強み
1. 安定的な成長
175億ドルの投資計画と15GW超のデータセンター開発パイプラインにより、2029年まで年率4-6%のEPS成長を見込みます。レートベース成長率8.5%が収益拡大を支えます。
2. 高配当
配当利回り約4%、過去5年間で年平均2%の増配実績があり、公益株特有の安定配当が魅力です。配当性向約65%と適度な水準で、今後も配当成長が期待されます。
3. 規制環境の改善
ミズーリ州上院法案4号の成立とカンザス州の和解合意により、キャッシュフローと収益の安定性が向上しています。
(2) リスク要因(再掲)
1. アクティビスト投資家の圧力
Elliott Managementからの会社売却圧力が継続しており、戦略計画への影響が懸念されます。
2. 天候変動の影響
Q2 2025で冷房度日が26%減少し、EPSが0.15ドル減少。天候変動が業績に大きな影響を与えます。
(3) 向いている投資家
安定配当を重視する投資家
配当利回り約4%、安定的な配当成長実績があり、安定収入を求める方に向いています。
公益株でディフェンシブ特性を求める投資家
規制下の安定収益が特徴で、景気後退時にも比較的安定したパフォーマンスが期待できます。
データセンター需要の恩恵を受けたい投資家
15GW超の開発パイプラインを持ち、AI需要の拡大で成長機会が豊富です。ただし、天候リスクやアクティビスト投資家の動向を考慮して投資判断を行ってください。
免責事項:
本記事は情報提供を目的としており、個別銘柄の推奨や投資助言を行うものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。
Q: Evergyの配当利回りは?
A: 約4%前後です(2025年時点)。公益事業特有の安定配当が特徴で、過去5年間で年平均2%の増配を実現しています。配当性向は約65%と適度な水準で、今後も配当成長が期待されます。詳細は「4. 財務・配当の実績」を参照してください。
Q: Evergyの主な競合は?
A: Ameren、Xcel Energy、WEC Energy Groupなどの中西部公益事業会社が主な競合です。Evergyの差別化ポイントは、(1) カンザス州の地域独占(約71万顧客、独占的地位)、(2) 風力発電への積極投資(発電比率約30%、Amerenの約5%、Xcel Energyの約20%を上回る)、(3) レートベース成長率8.5%(Amerenの約7%、Xcel Energyの約6%を上回る)にあります。
Q: Evergyのリスク要因は?
A: 主なリスクとして、(1) アクティビスト投資家(Elliott Management)からの会社売却または事業統合の圧力、(2) 天候変動による業績影響(Q2 2025で冷房度日26%減、EPS-0.15ドル)、(3) データセンター需要の過大評価懸念(省電力AI技術の進展)、(4) 規制環境の変化によるレート改定の遅延リスク、(5) クリーンエネルギー移行のコスト増加リスクなどが挙げられます。詳細は「5. リスク要因」を参照してください。
Q: Evergyは長期投資に向いている?
A: 以下のような投資家に向いています:(1) 安定配当を重視する投資家(配当利回り約4%、過去5年間で年平均2%の増配実績)、(2) 公益株でディフェンシブ特性を求める投資家(規制下の安定収益、景気後退時にも比較的安定)、(3) データセンター需要の恩恵を受けたい投資家(15GW超の開発パイプライン、2029年まで年率4-6%のEPS成長見込み)。ただし、アクティビスト投資家の動向と天候リスクを考慮し、慎重に投資判断を行ってください。