0. この記事でわかること
本記事では、ファーストエナジー(FE)について以下の情報を提供します:
- なぜ注目されているのか: 280億ドルのEnergize365投資計画による送配電網の近代化、データセンター需要の急拡大(6,115MWから11,130MWへ80%以上増)、規制下ビジネスモデルによる安定収益
- 事業内容と成長戦略: 米国中西部・大西洋岸中部5州での配電・送電事業、2025~2029年のレートベース年率9%成長目標、2050年カーボンニュートラル達成計画
- 競合との差別化: Duke Energy、Exelon、Southern Companyとの比較、送電セグメントへの140億ドル超投資、データセンター需要パイプラインの拡大
- 財務・配当の実績: 2024年度コアEPS 2.37ドル(前年比8%増)、2025年Q1売上38億ドル、資本投資45億ドル、安定配当の実績
- リスク要因: Signal Peak炭鉱レガシー投資のボラティリティ、金利・商品価格変動リスク、2020年贈収賄スキャンダルの影響、規制当局の料金決定依存
ファーストエナジーは公益事業セクターのディフェンシブ銘柄として、インカムゲイン重視の投資家に注目されています。本記事では、事業戦略から財務実績、リスク要因まで詳しく解説します。
1. なぜファーストエナジー(FE)が注目されているのか
(1) 成長戦略の3つのポイント
ファーストエナジーは2025年以降の成長戦略として、以下の3つの柱を掲げています。
① Energize365プログラムの延長と投資拡大
2025~2029年の基本投資計画を280億ドル(前年比8%増)に拡大し、2025年単年で50億ドルを投資する計画です。Energize365は、送配電システムの信頼性向上、需要成長・電化対応、クリーンエネルギー接続を支援するプログラムで、顧客重視の投資姿勢が評価されています。
② 送電網への重点投資
2025~2029年で送電網に140億ドル超を投資し、送電セグメントのレートベース成長率約15%を目指しています。送電インフラの近代化(グリッドモダナイゼーション)は、データセンター需要の急増や電力安定供給のために不可欠であり、規制当局からの料金改定承認を得やすい分野と言われています。
③ データセンター需要の急拡大
2025年2月時点でデータセンター需要の長期パイプラインが6,115MWから11,130MWへ80%以上増加しました。AI・クラウドコンピューティングの普及に伴い、データセンターの電力需要は今後も拡大する見通しで、ファーストエナジーの主要成長ドライバーとなっています。
(2) 注目テーマ(レギュレーテッド・ビジネスモデル・グリッドモダナイゼーション・2050年カーボンニュートラル)
ファーストエナジーは、規制下ビジネスモデル(レギュレーテッド・ビジネスモデル)に特化しています。発電事業からは撤退済みで、送配電事業に集中することで、州政府の電気料金認可に基づく安定収益を確保しています。
また、2050年カーボンニュートラル達成を目指す気候戦略を実行中です。クリーンエネルギーの送電網接続を支援し、インフラの近代化を通じて環境負荷低減に貢献する方針を示しています。
(3) 投資家の関心・懸念点
投資家の関心は、安定配当と規制下ビジネスによるディフェンシブ性にあります。公益事業セクターは景気変動に左右されにくく、リタイアメント層のインカムゲイン重視ポートフォリオに適しています。
一方で、2020年にオハイオ州で発覚した贈収賄スキャンダル(議会議員への不正献金により原発支援法案を成立させた事件)により、信頼性に疑問を持つ投資家もいます。経営陣を刷新し再建中ですが、規制当局との関係や料金改定の承認遅延リスクには注意が必要です。
2. ファーストエナジーの事業内容・成長戦略
(1) 主力事業(配電・統合・独立送電セグメント)
ファーストエナジーは、以下の3つの事業セグメントで構成されています。
配電セグメント
オハイオ、ペンシルベニア、ニュージャージー、ウェストバージニア、メリーランド各州で配電事業を展開。家庭・企業に電力を供給し、各州の規制当局が認可した料金で収益を得ています。
統合セグメント
配電・送電の両方を統合運営するセグメントで、効率的なインフラ管理とコスト削減を実現しています。
独立送電セグメント
送電網の保守・運営を専門に行うセグメントで、Energize365投資計画の中心的役割を担っています。送電セグメントのレートベース成長率は約15%と高く、今後の成長エンジンと位置付けられています。
(2) セクター・業種の説明(公益事業セクター・電力事業の特性)
ファーストエナジーは公益事業(Utilities)セクター、電力公益事業(Electric Utilities)業種に分類されます。公益事業セクターは、電力・ガス・水道などの生活インフラを提供する業種で、需要が安定しているため景気変動に強い特性があります。
電力事業の収益は、規制当局が認可する料金に基づくため、インフレや金利上昇時にはコストを料金に転嫁しやすい仕組みです。一方で、料金改定の承認には時間がかかり、規制当局との交渉が収益に直結するリスクもあります。
(3) ビジネスモデルの特徴(規制下ビジネス・好循環モデル・5州で事業展開)
ファーストエナジーのビジネスモデルは、投資・運営・コスト回収・資金調達の4要素からなる「好循環」です。送配電システムへの投資により信頼性が向上し、規制当局から料金改定の承認を得てコストを回収、さらに資金調達を行って次の投資に回すサイクルを繰り返しています。
オハイオ、ペンシルベニア、ニュージャージー、ウェストバージニア、メリーランドの5州で事業を展開し、約600万人の顧客にサービスを提供しています。地域密着型の事業モデルで、各州の規制環境に適応した料金戦略を取っています。
3. 競合との差別化
(1) 主要競合企業(Duke Energy・Exelon・Southern Company)
米国の電力公益事業セクターでは、以下の企業が主要競合です。
Duke Energy(DUK)
フロリダ、ノースカロライナ、サウスカロライナ州を中心に事業展開。時価総額約800億ドルで、ファーストエナジー(約260億ドル)より規模が大きい。
Exelon(EXC)
イリノイ、ペンシルベニア、メリーランド州などで事業を展開し、送配電事業に加え原子力発電も保有。ファーストエナジーと地理的に一部重複しています。
Southern Company(SO)
ジョージア、アラバマ、ミシシッピ州などで事業を展開。天然ガス発電と送配電の統合モデルで、時価総額は約900億ドル。
(2) 競合優位性(Energize365プログラム280億ドル・データセンター需要パイプライン11,130MW・送電投資140億ドル超)
ファーストエナジーの競合優位性は、以下の3点にあります。
① 大規模投資プログラムEnergize365
2025~2029年で280億ドル(前年比8%増)を投資し、送配電網の信頼性向上とレートベース成長を推進。競合他社と比較して投資規模の増加率が高く、成長意欲が強いことが評価されています。
② データセンター需要の急拡大
2025年2月時点で長期パイプライン需要が11,130MW(前年比80%以上増)に達し、AI・クラウドコンピューティングの成長を取り込んでいます。データセンター企業との長期契約により、安定した需要が見込めます。
③ 送電セグメントへの重点投資
送電セグメントに140億ドル超を投資し、レートベース成長率約15%を目指しています。送電インフラは規制当局の料金改定承認を得やすく、収益の安定性が高い分野です。
(3) 市場でのポジショニング(規制事業特化・レートベース年率9%成長)
ファーストエナジーは、発電事業から撤退し規制下の送配電事業に特化したことで、収益のボラティリティを低減しました。発電事業は燃料価格や卸電力市場の変動に左右されますが、送配電事業は規制料金に基づく安定収益を確保できます。
2025~2029年のレートベース年率9%成長を目標とし、設備投資による資産拡大とそれに伴う料金改定により、コアEPSの年平均成長率6~8%を見込んでいます。公益セクター全体の成長率(年率3~5%程度)と比較すると、積極的な成長戦略と言えます。
4. 財務・配当の実績
(1) 売上高・利益の推移(2024年通期・2025年Q1最新データ)
2024年度通期(出典: FirstEnergy Corporation 10-K 2024, SEC EDGAR)
- GAAP EPS: 1.70ドル
- 営業EPS: 2.63ドル
- コアEPS: 2.37ドル(前年2.20ドルから8%増)
- 資本投資: 45億ドル(計画比5%超、前年比20%増)
- 料金改定承認額: 約4.5億ドル(メリーランド・ウェストバージニア・ニュージャージー・ペンシルベニア州で純増収)
2025年Q1最新データ(出典: FirstEnergy Announces First Quarter 2025 Financial Results)
- EPS: 0.67ドル(アナリスト予想0.58ドルを超過)
- 売上高: 38億ドル(アナリスト予想34.4億ドルを超過)
- コアEPS: 前年同期0.49ドルから大幅改善
ファーストエナジーは、2024年に資本投資を前年比20%増の45億ドルに拡大し、インフラ強化を加速しました。2025年Q1決算では売上・利益ともに市場予想を上回り、Energize365投資計画が順調に進んでいることが確認されました。
(2) 配当履歴(配当利回り・配当性向)
ファーストエナジーは、安定配当を提供する銘柄として知られています。2025年10月時点の配当利回りは約4%前後で推移しており(株価により変動)、公益セクターの平均(3~4%程度)と比較してやや高めの水準です。
配当性向(配当額÷コアEPS)は60~70%程度で、無理のない範囲で配当を維持しています。ただし、2020年の贈収賄スキャンダル後に配当を一時引き下げた経緯があり、配当の連続増配記録はリセットされています。
今後は、レートベース成長とコアEPS増加に伴い、配当も緩やかに増加する見通しです。
(3) 財務健全性(コアEPS 2.37ドル・資本投資45億ドル)
ファーストエナジーは、2024年度にコアEPS 2.37ドル(前年比8%増)を達成し、収益性が改善しています。コアEPSは、特別項目・Signal Peak炭鉱収益・年金収入を除外した指標で、企業の本業の収益力を示します。
資本投資45億ドルは、主に送配電インフラの強化に投じられており、レートベース拡大による将来の収益増が期待されます。
財務面では、規制下ビジネスによる安定キャッシュフローにより、追加株式発行なしで280億ドルの投資計画を実行できる見通しです。ただし、金利上昇局面では設備投資の資金調達コストが増加するリスクがあります。
5. リスク要因
(1) 事業リスク(Signal Peak炭鉱レガシー投資のボラティリティ・年金制度の時価評価インパクト)
ファーストエナジーは、Signal Peak炭鉱への非中核レガシー投資を保有しており、この投資の時価評価変動が財務諸表に影響を及ぼします。炭鉱事業は電力公益事業と関連性が低く、投資家が企業の真の業績を評価しづらくする要因となっています。
また、年金制度の時価評価インパクトも収益のボラティリティを高める要因です。金利変動や資産運用成績により年金負債が変動し、特別損益に計上されることがあります。
これらのリスクに対応するため、ファーストエナジーは2025年からコアEPS指標を導入し、特別項目・Signal Peak収益・年金収入を除外した透明性の高い業績開示を行っています。
(2) 市場環境リスク(金利変動・商品価格変動・規制当局の料金決定依存)
金利変動リスク
公益事業は設備投資に多額の資金調達が必要なため、金利上昇時には利払い負担が増加します。2025年時点では、米連邦準備制度(FRB)が金利据え置きから段階的な引き下げ局面に入る可能性があり、金利動向には引き続き注意が必要です。
商品価格変動リスク
電力・天然ガス・石炭の価格変動により、コスト構造が影響を受けます。ファーストエナジーは発電事業から撤退済みですが、購入電力コストや燃料調整費は料金に転嫁される仕組みであり、規制当局の承認が前提となります。
規制当局の料金決定依存
送配電事業の収益は、州政府の公益事業委員会が認可する料金に基づきます。料金改定の承認が遅れた場合、コスト増加分を回収できず収益性が低下するリスクがあります。
(3) 規制・競争リスク(2020年贈収賄スキャンダルの影響・州政府の電気料金認可遅延リスク)
2020年贈収賄スキャンダルの影響
2020年にオハイオ州で発覚した贈収賄スキャンダルにより、ファーストエナジーの信頼性は大きく損なわれました。事件後、経営陣を刷新し再建に取り組んでいますが、規制当局との関係修復には時間がかかる可能性があります。
州政府の電気料金認可遅延リスク
インフラ老朽化対応のための設備投資が必要ですが、州政府の料金改定承認が遅れた場合、投資回収が遅れるリスクがあります。特に、過去のスキャンダルにより規制当局の審査が厳格化する可能性には注意が必要です。
6. まとめ:投資判断のポイント
(1) この銘柄の強み
ファーストエナジーの強みは、以下の3点にあります。
① 規制下ビジネスによる安定収益
送配電事業に特化し、州政府が認可する料金に基づく安定キャッシュフローを確保。景気変動に左右されにくいディフェンシブ銘柄です。
② 積極的な成長投資
2025~2029年で280億ドルのEnergize365投資計画を実行し、レートベース年率9%成長を目指しています。データセンター需要の急拡大(11,130MW)も追い風です。
③ 安定配当
配当利回り約4%前後で、インカムゲイン重視の投資家に魅力的です。コアEPSの年平均成長率6~8%により、配当も緩やかに増加する見通しです。
(2) リスク要因(再掲)
リスク要因は、以下の2点に集約されます。
① 過去のスキャンダルと信頼性
2020年の贈収賄スキャンダルにより、規制当局との関係や料金改定承認に遅延が生じる可能性があります。
② 金利・規制リスク
金利上昇による資金調達コストの増加、州政府の料金改定承認遅延、Signal Peak炭鉱レガシー投資のボラティリティに注意が必要です。
(3) 向いている投資家のタイプを2-3種類
ファーストエナジーは、以下のような投資家に向いています。
① インカムゲイン重視のリタイアメント層
50~65歳の投資家で、安定配当を重視し、ポートフォリオのディフェンシブ部分を強化したい方に適しています。
② 公益セクター投資家
景気変動に左右されにくい業種を好み、規制下ビジネスの安定性を評価する投資家に向いています。
③ データセンター需要の成長を取り込みたい投資家
AI・クラウドコンピューティングの普及に伴うデータセンター需要の拡大を、公益セクターを通じて間接的に享受したい投資家にも適しています。
免責事項
本記事は情報提供を目的としており、個別銘柄の推奨や投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。最新の財務データや規制環境については、ファーストエナジー公式IRページやSEC EDGARで確認することをお勧めします。
Q: ファーストエナジーの配当利回りは?
A: 2025年10月時点で約4%前後で推移しています(株価により変動)。公益セクターの平均(3~4%程度)と比較してやや高めの水準です。過去の配当履歴として、2020年のスキャンダル後に一時引き下げた経緯がありますが、現在は配当性向60~70%程度で安定しています。最新の配当利回りは、証券会社のツールやYahoo Financeなどで確認してください。
Q: ファーストエナジーの主な競合は?
A: Duke Energy(DUK)、Exelon(EXC)、Southern Company(SO)などが主要競合です。競合との差別化ポイントは、Energize365投資計画280億ドル(2025~2029年)、データセンター需要パイプライン11,130MW(2025年2月時点で前年比80%以上増)、送電投資140億ドル超です。送電セグメントのレートベース成長率約15%を目指し、競合他社より積極的な成長戦略を取っています。
Q: ファーストエナジーのリスク要因は?
A: 主なリスク要因は、①Signal Peak炭鉱レガシー投資のボラティリティ、②金利・商品価格(電力、天然ガス、石炭)の変動リスク、③規制当局の料金決定依存、④2020年贈収賄スキャンダルの影響です。特に、オハイオ州での不正献金事件により規制当局との関係が悪化し、料金改定承認が遅延する可能性があります。詳細は本文の「5. リスク要因」を参照してください。
Q: ファーストエナジーは長期投資に向いている?
A: 規制下ビジネスによる安定収益と、配当利回り約4%のインカムゲインを重視する投資家(特に50-65歳のリタイアメント層)に向いています。2025~2029年の年平均成長率6~8%を目標としており、緩やかな成長が期待されます。ただし、過去のスキャンダルと規制リスクには注意が必要です。景気変動に左右されにくいディフェンシブ銘柄として、ポートフォリオの安定部分を担う位置づけが適しています。投資判断はご自身で行ってください。