0. この記事でわかること
本記事では、ハリバートン(HAL)について以下の情報を提供します:
- なぜ注目されているのか: 5つの戦略柱(国際市場での収益拡大・北米価値最大化・デジタル/自動化加速・資本効率改善・持続可能エネルギー推進)を実行、Zeus IQ自律型フラクチャリングシステムで労働コスト削減・排出削減を実現、新エネルギー事業参入で収益基盤を多角化。
- 事業内容と成長戦略: 石油・ガス探査/掘削/生産サポートの油田サービス世界2位。Completion & Production(仕上げ・生産)とDrilling & Evaluation(掘削・評価)の2部門で、120ヶ国以上に展開。
- 競合との差別化: Schlumberger(世界1位)・Baker Hughes(世界3位)と競合するが、AI活用型リアルタイム掘削自動化(Zeus IQ・Sensori)で差別化。北米シェール市場に強みを持つ。
- 財務・配当の実績: 2024年通期で売上高229億ドル(横ばい)、フリーキャッシュフロー18億ドル。配当利回りは約2-3%程度で、自社株買いと配当を合わせて年間16億ドルの株主還元を計画。
- リスク要因: 北米市場への高依存(売上の40%超)で2024年に8%減・2025年も低-中単位減を見込む、利益率圧縮(Completion & Productionが2024年Q4で20%→Q1 2025に1.75-2.25%ポイント低下予測)、2025年EPS予想の下方修正(2.94→2.63ドル)が主な懸念点。
1. なぜハリバートン(HAL)が注目されているのか
(1) 成長戦略の3つのポイント
ハリバートンは、以下3つの戦略で成長を加速しています:
5つの戦略柱(2024年)を実行: 国際市場での収益拡大・北米価値最大化・デジタル/自動化加速・資本効率改善・持続可能エネルギー推進の5つを掲げています。特に国際市場では中東・アジアでの長期契約を拡大し、収益源の地域分散を進めています。Petrobrasとの10億ドル長期契約など、2026年まで収益可視性を確保しています。
Zeus IQ自律型フラクチャリングシステム(Coterra共同開発): 労働コスト削減・排出削減・安全性向上を実現するAI活用型の自動化技術です。Zeus電動フラクチャリングと組み合わせ、人員スリム化によりEBITDAマージンを2018年17%から2024年20%へ上昇させました。Sensoriフラクチャーモニタリングにより、リアルタイムで効率最適化を図っています。
新エネルギー事業参入(GeoFrame Energyの地熱/リチウム抽出プロジェクト): 東テキサスSmackover層での地熱・リチウム抽出プロジェクトを2025年後半に開始予定です。脱炭素トレンドへの対応として、持続可能エネルギー事業に参入し、長期的な収益基盤を多角化しています。
(2) 注目テーマ(非在来型資源・AI自動化・人工リフト成長)
投資家が注目するテーマは以下の通りです:
- 非在来型資源開発(Unconventionals): シェールオイル/ガス等の従来技術では採掘困難だった資源の開発がハリバートンの成長エンジンです。北米シェール市場に強みを持ち、水圧破砕(Fracking)技術で高いシェアを確保しています。
- AI活用型リアルタイム掘削自動化(Zeus IQ・Sensori): AI・リアルタイム分析により掘削を自動化し、人員スリム化と効率向上を実現。労働コスト削減と安全性向上により、競合他社との差別化を図っています。
- 人工リフト事業(2025年に20%成長見込み): 油井の採掘量を増やすポンプ等の設備を提供する人工リフト事業が2025年に20%成長を見込んでいます。既存油田の生産最適化により、安定した収益源を確保しています。
(3) 投資家の関心・懸念点
関心点:
- フリーキャッシュフロー18-20億ドル創出で株主還元16億ドル(自社株買い・配当)を計画
- 年間フリーキャッシュフローの50%以上を株主還元にコミット
- 長期ではEPS年率3.9%成長を予測、アナリストコンセンサスは「Moderate Buy」(目標株価27.36ドル、12.55%上値余地)
懸念点:
- 北米市場への高依存(売上の40%超、競合SLBの20%・Baker Hughesの25%より高い)で2024年に8%減・2025年に低-中単位減を見込む
- 利益率圧縮(Completion & Productionが2024年Q4で20%→Q1 2025に1.75-2.25%ポイント低下予測)と価格交渉圧力
- 2025年EPS予想を60日で2.94→2.63ドルへ下方修正、株価は過去1年で34%下落(業界平均-11.4%を大幅下回る)
2. ハリバートンの事業内容・成長戦略
(1) 主力事業(Completion & Production・Drilling & Evaluation)
ハリバートンの2つの主力事業は以下の通りです:
Completion & Production(仕上げ・生産): 掘削後の坑井仕上げ・水圧破砕(Fracking)・人工リフト等を提供する主力セグメントです。売上高の約60-65%を占め、北米シェール市場に強みを持ちます。Zeus IQ自律型フラクチャリングやZeus電動フラクチャリングにより、労働コスト削減と排出削減を実現しています。
Drilling & Evaluation(掘削・評価): 掘削サービス・坑井評価・プロジェクト管理等を提供します。売上高の約35-40%を占め、国際市場(中東・アジア・南米)に強みを持ちます。Petrobrasとの10億ドル長期契約など、大型プロジェクトを獲得しています。
(2) セクター・業種の説明(Energy - Energy Equipment & Services)
ハリバートンはEnergy(エネルギー)セクターのEnergy Equipment & Services(エネルギー設備・サービス)業種に分類されます。石油・ガス探査/掘削/生産をサポートする油田サービス(Oilfield Services, OFS)業界で、Schlumberger(世界1位)に次ぐ世界2位の地位を占めます。
油田サービス業界は原油価格とリグ稼働数に業績が連動する典型的な景気循環株です。原油価格が上昇すると掘削活動が活発化し、ハリバートンのような油田サービス企業の受注が増加します。逆に原油価格が下落すると掘削活動が減少し、業績が大きく悪化します。
(3) ビジネスモデルの特徴(油田サービス・5つの戦略柱)
ハリバートンのビジネスモデルには以下の特徴があります:
- 原油価格・リグ稼働数に連動する収益構造: 石油会社の掘削活動が活発化すると、ハリバートンの受注が増加します。2020年の原油価格暴落時には大打撃を受けましたが、近年は原油高で業績が回復しています。
- 北米シェール市場への依存度が高い: 売上の40%超が北米市場で、競合Schlumbergerの20%・Baker Hughesの25%より高い依存度です。米国の掘削活動減少が収益に大きく影響します。
- 国際市場での収益拡大: 120ヶ国以上で営業し、国際売上が59%を占めます。中東・アジアでの長期契約拡大により、収益源の地域分散を進めています。
- 技術差別化(AI自動化・Zeus IQ): AI・リアルタイム分析により掘削を自動化し、人員スリム化と効率向上を実現。EBITDAマージンを2018年17%から2024年20%へ上昇させました。
3. 競合との差別化
(1) 主要競合企業(Schlumberger・Baker Hughes等)
ハリバートンの主要競合企業は以下の通りです:
Schlumberger(SLB): 油田サービス世界1位で、国際市場に強み。売上高ではハリバートンを上回り、技術力でも優位に立ちます。北米市場への依存度は20%と低く、地域分散が進んでいます。
Baker Hughes(BKR): 油田サービス世界3位で、GE傘下から独立。売上高の25%が北米市場で、ハリバートンより地域分散が進んでいます。LNG・天然ガス分野に強みを持ちます。
Weatherford International: 油田サービス中堅で、北米・中東市場に強み。技術力ではハリバートンに劣りますが、価格競争力で対抗しています。
(2) 競合優位性(AI自動化・Zeus IQフラクチャリング)
ハリバートンの競合優位性は以下の点にあります:
- AI活用型リアルタイム掘削自動化(Zeus IQ・Sensori): Coterra共同開発のZeus IQ自律型フラクチャリングシステムにより、労働コスト削減・安全性向上・排出削減を実現。Sensoriフラクチャーモニタリングでリアルタイム効率最適化を図り、競合他社との技術差別化を実現しています。
- 北米シェール市場での高いシェア: 水圧破砕(Fracking)技術で高いシェアを確保し、北米シェール市場に強みを持ちます。ただし、北米市場への依存度が高いため、米国の掘削活動減少がリスクとなっています。
- 人工リフト事業の急成長: 2025年に20%成長を見込む人工リフト事業により、既存油田の生産最適化で安定した収益源を確保しています。
- 新エネルギー事業参入: 地熱・リチウム抽出プロジェクトにより、脱炭素トレンドへの対応と収益基盤の多角化を進めています。
(3) 市場でのポジショニング(世界2位の油田サービス)
ハリバートンは、Schlumbergerに次ぐ世界2位の油田サービス企業として地位を確立しています。北米シェール市場に強みを持ちますが、売上の40%超が北米市場に依存しており、競合Schlumbergerの20%・Baker Hughesの25%より高い依存度です。
2014年にBaker Hughesとの合併を計画しましたが、2016年に独禁法懸念で断念。その後は中東・アジアでの長期契約拡大により、収益源の地域分散を進めています。国際売上が59%を占め、Petrobrasとの10億ドル長期契約など、大型プロジェクトを獲得しています。
4. 財務・配当の実績
(1) 売上高・利益の推移(2024年通期・2025年Q1実績)
ハリバートンの過去5年間の財務実績は以下の通りです:
年度 | 売上高(億ドル) | 前年比成長率 | 純利益(億ドル) | フリーキャッシュフロー(億ドル) |
---|---|---|---|---|
2020 | 約143 | -36.0% | -32.8 | 約10 |
2021 | 約152 | +6.3% | -2.6 | 約12 |
2022 | 約203 | +33.6% | 23.6 | 約15 |
2023 | 約230 | +13.3% | 24.7 | 約20 |
2024 | 229 | -0.4% | 約23 | 18 |
(出典: Halliburton Company 10-K 2024, SEC EDGAR)
2024年通期の売上高は229億ドル(横ばい)、営業キャッシュフロー28億ドル、フリーキャッシュフロー18億ドルとなりました。フリーキャッシュフロー返還率60%を達成し、株主還元を拡大しています。
2025年Q1は売上高54億ドル・純利益2.04億ドル・EPS 0.24ドル、調整純利益5.17億ドル・調整EPS 0.60ドル(コンセンサスミス)、調整営業利益率14.5%でした。自社株買い約2.5億ドルを実施しています。
(2) 配当履歴(配当利回り2-3%・株主還元16億ドル計画)
ハリバートンの配当履歴は以下の通りです:
- 配当利回り: 約2-3%程度(2025年10月時点)
- 配当性向: フリーキャッシュフローの50%以上を株主還元にコミット
- 株主還元: 自社株買いと配当を合わせて年間16億ドルの株主還元を計画
2025年は北米・国際共に減収見通しですが、フリーキャッシュフロー18-20億ドル創出で株主還元16億ドル(自社株買い・配当)を計画しています。配当と自社株買いの両方で株主価値の向上を図っています。
(3) 財務健全性(フリーキャッシュフロー18-20億ドル創出見込み)
ハリバートンの財務健全性は以下の通りです:
- 営業キャッシュフロー: 2024年に28億ドルを創出
- フリーキャッシュフロー: 2024年に18億ドル、2025年は18-20億ドル創出見込み
- フリーキャッシュフロー返還率: 60%を達成(2024年)
原油価格の変動により業績が大きく変動するリスクがありますが、近年はフリーキャッシュフロー創出力を高め、株主還元を拡大しています。2025年EPS予想は2.44ドル(前年比18.4%減)ですが、長期ではEPS年率3.9%成長を予測しています。
5. リスク要因
(1) 事業リスク(原油価格依存・北米市場への高依存)
ハリバートンの主な事業リスクは以下の通りです:
- 原油価格への依存: 油田サービス業界は原油価格とリグ稼働数に業績が連動します。原油価格が下落すると掘削活動が減少し、ハリバートンの受注が大きく減少します。2020年の原油価格暴落時には純損失32.8億ドルを計上しました。
- 北米市場への高依存(売上の40%超): 競合Schlumbergerの20%・Baker Hughesの25%より高い依存度で、米国の掘削活動減少が収益に大きく影響します。2024年に北米売上が8%減、2025年も低-中単位減を見込んでいます。
- 価格交渉圧力と利益率圧縮: Completion & Production営業利益率がQ4 2024で20%→Q1 2025に1.75-2.25%ポイント低下予測です。石油会社との価格交渉で圧力を受け、利益率が圧縮されています。
(2) 市場環境リスク(利益率圧縮・EPS予想下方修正・株価下落)
- 利益率圧縮懸念: Q1 2025で調整営業利益率14.5%と低迷し、Completion & Production部門の利益率が大幅に低下しています。価格交渉圧力と北米市場の減速により、利益率改善が困難な状況です。
- 2025年EPS予想の下方修正: 2025年EPS予想を60日で2.94→2.63ドルへ下方修正しました。北米・国際共に減収見通しで、アナリストのセンチメントが悪化しています。
- 株価の大幅下落: 株価は過去1年で34%下落し、業界平均-11.4%を大幅に下回っています。アナリストコンセンサスは「Moderate Buy」(目標株価27.36ドル、12.55%上値余地)ですが、短期的な上値余地は限定的との見方があります。
- 為替リスク: 国際売上が59%を占めるため、為替レートの変動が円換算の投資成果に影響します。ドル高・円安時には円換算の配当収入が増加し、ドル安・円高時には減少します。
(3) 規制・競争リスク(脱炭素トレンド・環境規制強化)
- 脱炭素トレンドによる長期需要減少リスク: 環境規制強化や脱炭素トレンドにより、化石燃料開発サービスの長期需要が減少するリスクがあります。ESG投資家が石油関連企業を忌避する傾向が強まっており、長期的な株価上昇が制約される可能性があります。
- 環境規制強化: 石油・ガス探査/掘削/生産に対する環境規制が強化され、事業コストが増加するリスクがあります。特に水圧破砕(Fracking)は環境への影響が大きく、規制強化の対象となりやすい技術です。
- 新エネルギー事業への転換リスク: 地熱・リチウム抽出プロジェクトなど新エネルギー事業に参入していますが、収益化までに時間がかかる可能性があります。従来の油田サービス事業の減収を新エネルギー事業で補えるかは不透明です。
6. まとめ:投資判断のポイント
(1) この銘柄の強み(油田サービス2位・AI技術・国際分散)
世界2位の油田サービス企業: Schlumbergerに次ぐ世界2位で、北米シェール市場に強み。水圧破砕(Fracking)技術で高いシェアを確保し、人工リフト事業が2025年に20%成長見込みです。
AI活用型リアルタイム掘削自動化(Zeus IQ・Sensori): 労働コスト削減・安全性向上・排出削減を実現し、EBITDAマージンを2018年17%から2024年20%へ上昇させました。技術差別化により競合優位性を確保しています。
国際市場での収益拡大と地域分散: 国際売上が59%を占め、中東・アジアでの長期契約拡大により収益源の地域分散を進めています。Petrobrasとの10億ドル長期契約など、2026年まで収益可視性を確保しています。
(2) リスク要因(再掲)
北米市場への高依存と原油価格依存: 売上の40%超が北米市場で、2024年に8%減・2025年も低-中単位減を見込みます。原油価格が下落すると掘削活動が減少し、業績が大きく悪化します。
利益率圧縮と株価下落: Completion & Production営業利益率が大幅に低下し、株価は過去1年で34%下落しました。アナリストのセンチメントが悪化しています。
(3) 向いている投資家
原油価格上昇局面での収益改善に期待する投資家: 原油価格が上昇すると掘削活動が活発化し、ハリバートンの受注が増加します。景気循環株として、原油価格の見通しを理解できる投資家に適しています。
配当とキャピタルゲインの両方を狙う投資家: 配当利回り約2-3%で、自社株買いと配当を合わせて年間16億ドルの株主還元を計画しています。フリーキャッシュフローの50%以上を株主還元にコミットしており、配当重視の投資家にも適しています。
エネルギーセクターの長期見通しを理解しリスク許容度の高い投資家: 脱炭素トレンドの逆風を理解し、原油価格のボラティリティと北米市場への依存度を受け入れた上で、長期保有できる投資家に向いています。
※本記事は情報提供を目的としており、特定銘柄の推奨ではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。最新の財務データや投資リスクについては、Halliburton Company公式IRページ(https://ir.halliburton.com/)およびSEC EDGAR(https://www.sec.gov/edgar)で10-K・10-Qをご確認ください。
※2025年10月時点のデータです。税率・為替レート等は変動する可能性がありますので、投資前に国税庁や証券会社の最新情報をご確認ください。
Q: ハリバートンの配当利回りは?
A: 2025年10月時点で約2-3%程度です。自社株買いと配当を合わせて年間16億ドルの株主還元を計画しており、フリーキャッシュフローの50%以上を株主還元にコミットしています。過去の配当履歴と合わせて、Halliburton Company公式IRページで最新の配当情報をご確認ください。
Q: ハリバートンの主な競合は?
A: Schlumberger(世界1位)、Baker Hughes(世界3位)が主要競合です。ハリバートンは世界2位で、AI自動化やZeus IQフラクチャリングで差別化していますが、北米市場への依存度が高い(売上の40%超)点が競合と異なります。競合との差別化ポイントは本文の「競合との差別化」セクションを参照してください。
Q: ハリバートンのリスク要因は?
A: 原油価格依存、北米市場への高依存(売上の40%超)で2024年に8%減・2025年も低-中単位減を見込む、利益率圧縮(Completion & Productionが2024年Q4で20%→Q1 2025に1.75-2.25%ポイント低下予測)、脱炭素トレンドによる長期需要減少リスクなどが主なリスクです。また、2025年EPS予想を60日で2.94→2.63ドルへ下方修正し、株価は過去1年で34%下落しています。詳細は本文のリスク要因セクションを参照してください。
Q: ハリバートンは長期投資に向いている?
A: 原油価格のボラティリティが高く、脱炭素トレンドの逆風もあるため、リスク許容度が高くエネルギー市場の見通しを理解できる投資家に向いています。配当利回り約2-3%で株主還元にコミットしていますが、北米市場への依存度が高く利益率圧縮懸念があります。原油価格上昇局面での収益改善を見据えて、景気循環株として長期保有できる投資家に適しています。投資判断はご自身で行ってください。