0. この記事でわかること
本記事では、クローガー(KR)について以下の情報を提供します:
- なぜ注目されているのか: 米国最大級のスーパーマーケットチェーン(店舗数2700超)として、デジタル化とプライベートブランド強化で成長を続ける生活必需品セクターの代表格
- 事業内容と成長戦略: 店舗拡大の加速(2025年に30の大型プロジェクト)、eコマース専門部署の新設(デジタル売上15%増)、プライベートブランド強化(顧客世帯の90%超が購入)
- 競合との差別化: ウォルマート、コストコ、アマゾンなど競合企業との比較、地域密着型の店舗網とプライベートブランドによる差別化、オルタナティブ収益事業(メディア広告17%成長)
- 財務・配当の実績: Q4 2024は既存店売上2.4%増、調整後EPS 1.14ドル、配当利回り約2%、17年連続増配の実績
- リスク要因: Albertsons買収の失敗(246億ドルのM&Aブロック)、CEO辞任による経営不安、競争激化による成長率の鈍化
(約250字)
1. なぜクローガー(KR)が注目されているのか
(1) 成長戦略の3つのポイント
クローガーは、米国最大級のスーパーマーケットチェーンとして、以下3つの成長戦略を推進しています。
店舗拡大の加速: 2025年に30の大型プロジェクトを実施し、2026年以降は成長地域で新規出店を加速する計画です。より効率的なレイアウトと短い建設期間を採用することで、投資回収期間を短縮し、収益性を高めています。一方で、60店舗を閉鎖してコスト削減を進め、その削減分を低価格提供や店舗時間延長に再投資しています。
eコマース専門部署の新設: オンライン顧客体験のあらゆる側面を統括する新部署を設立しました。Q1のデジタル売上は前年比15%増と成長を加速しており、オンライン注文(店舗受取・宅配)がクローガーの成長エンジンとなっています。オムニチャネル戦略により、顧客は店舗とオンラインをシームレスに使い分けることができます。
プライベートブランド強化: Our Brands製品の売上がナショナルブランドを上回る成長を記録しています。2024年に900以上の新商品を投入し、顧客世帯の90%超がOur Brands製品を購入しています。プライベートブランドは、ナショナルブランドより利益率が高く、価格競争力もあるため、クローガーの収益性改善に大きく貢献しています。
(2) 注目テーマ(オルタナティブ収益事業・AI・データアナリティクス)
オルタナティブ収益事業: メディア広告事業が17%成長し、営業利益13.5億ドルを創出しています。クローガーは、店舗やオンラインプラットフォームを活用したリテールメディア化を実現しており、食品メーカーや消費財メーカーに広告枠を提供しています。この事業は、小売業の低い利益率を補完する高収益事業として期待されています。
AI・データアナリティクス: 96%の取引がロイヤルティカードに紐付いており、クローガーは膨大な顧客データを保有しています。このデータを活用して、AIによる商品推奨、価格最適化、在庫管理を実現しており、顧客体験の向上と収益性の改善を両立しています。
コスト削減・効率化: 60店舗を閉鎖し、1億ドルの減損を計上しましたが、コスト削減分を低価格提供や店舗時間延長に再投資しています。これにより、ウォルマートやアマゾンとの価格競争に対抗しつつ、顧客満足度を維持しています。
(3) 投資家の関心・懸念点
関心点: 2025年のガイダンスは、既存店売上成長率2-3%(燃料除く)、調整後EPS 4.60-4.80ドルと堅調です。Q4 2024は既存店売上2.4%増、調整後EPS 1.14ドル、デジタル売上11%増と好調な結果となりました。アナリスト評価は「中立買い」(買い8、中立6、売り0)で、目標株価79.00ドル(現在68.99ドルから14.51%上昇余地)と、一定の評価を得ています。
懸念点: Albertsonsとの246億ドルのM&Aが2024年12月にFTC(連邦取引委員会)によりブロックされました。このM&Aは、クローガーとAlbertsonsを統合し、ウォルマートやコストコと対抗する規模を確保する戦略でしたが、規制当局は市場独占の懸念から阻止しました。Albertsonsから「クローガーが途中で考えを変え、規制当局に重要な合併詳細を隠蔽した」と逆提訴されており、成長戦略に不確実性が生じています。
さらに、長年のCEO Rodney McMullenが2025年3月3日に突然辞任しました。理由は非公開で、投資家に不安感を与えています。後任CEOの戦略や経営方針が不透明な点も懸念材料です。
2. クローガーの事業内容・成長戦略
(1) 主力事業
クローガーは、米国最大級のスーパーマーケットチェーンとして、以下の主力事業を展開しています:
食料品小売: 全米2700店舗超を展開し、生鮮食品、食料品、日用品を販売しています。主要ブランドは、Kroger、Ralphs、Fred Meyer、Harris Teeterなどです。地域密着型の店舗網により、各地域の消費者ニーズに対応しています。
プライベートブランド(Our Brands): Simple Truth(オーガニック・ナチュラル食品)、Kroger Brand(汎用食品)などのプライベートブランドを展開しています。Our Brands製品の売上構成比は約30%で、自社製造により品質とコストを管理しています。
オルタナティブ収益事業: メディア広告、金融サービス(Kroger Credit Card)、薬局などの非小売収益源を強化しています。特に、リテールメディア事業は17%成長と高い成長率を記録しており、今後の収益の柱として期待されています。
(2) セクター・業種の説明
クローガーは、生活必需品セクター(Consumer Staples) の 生活必需品流通・小売(Consumer Staples Distribution & Retail) に分類されます。
食料品小売は、景気後退期にも需要が安定するディフェンシブセクターの代表格です。食料品は日常的に消費される必需品であり、景気が悪化しても購買量は大きく減少しません。この特性により、クローガーは景気変動の影響を受けにくい安定した事業基盤を持っています。
(3) ビジネスモデルの特徴
オムニチャネル戦略: 店舗とオンラインをシームレスに統合し、顧客が自由に購買チャネルを選択できる環境を提供しています。オンライン注文の店舗受取(クリック&コレクト)、宅配サービス、店舗での買い物をすべて統合したシステムにより、顧客満足度を向上させています。
テクノロジー投資: クローガーは、1,500人のエンジニアを抱え、自社システムを内製するテックカンパニーとしての側面を持っています。AIによる需要予測、在庫管理、価格最適化などを自社開発しており、競合に対する技術的優位性を確立しています。
Value Creation Model: 株主総利回り8-11%を目指す価値創造モデルを掲げています。フレッシュ(生鮮食品)、ブランド(Our Brands)、パーソナライゼーション(顧客データ活用)、シームレス(オムニチャネル)をキーワードに、持続的な成長と株主還元を両立しています。
3. 競合との差別化
(1) 主要競合企業
クローガーの主要競合企業は以下の通りです:
ウォルマート(WMT): 売上高6,480億ドル(2024年)で、世界最大の小売企業です。食料品だけでなく、一般商品も幅広く扱っており、規模の経済により低価格を実現しています。
コストコ(COST): 会員制倉庫型小売で、売上高2,490億ドル(2024年)です。大容量パッケージを低価格で販売し、会員費収入で利益を確保するビジネスモデルです。
アマゾン・フレッシュ(AMZN): オンライン専業からスタートし、食料品宅配サービスを強化しています。アマゾン・フレッシュ、Whole Foods Marketを展開し、Eコマースと実店舗を組み合わせたオムニチャネル戦略を推進しています。
(2) 競合優位性
地域密着型の店舗網: クローガーは、全米2700店舗超を展開し、各地域の消費者ニーズに対応しています。ウォルマートやコストコが全国均一の品揃えであるのに対し、クローガーは地域ごとにカスタマイズした品揃えを提供しており、地域密着型の強みがあります。
プライベートブランド(Our Brands): 顧客世帯の90%超がOur Brands製品を購入しており、ブランドロイヤルティが高いのが特徴です。ナショナルブランドより価格が手頃で品質も高いため、顧客満足度が向上しています。
オルタナティブ収益事業: リテールメディア事業が17%成長し、営業利益13.5億ドルを創出しています。この事業は、ウォルマートやアマゾンも強化していますが、クローガーは96%の取引がロイヤルティカードに紐付いており、顧客データの質と量で優位性があります。
(3) 市場でのポジショニング
クローガーは、時価総額約530億ドル(2025年10月時点)で、米国食料品小売業界で第2位の規模です(第1位はウォルマート)。
売上成長率は2.7%/年(5年CAGR)で、米国市場全体の9.8%を下回っています。これは、ウォルマート(5.4%)やコストコ(10.75%)と比較しても低い水準です。Albertsons買収失敗により、規模拡大による成長戦略が頓挫し、ウォルマート、コストコ、アマゾンとの競争激化が懸念されています。
一方で、ROE(自己資本利益率)31.1%は高水準であり、収益性の面では一定の評価を得ています。アナリスト評価は「中立買い」で、目標株価79.00ドル(現在68.99ドルから14.51%上昇余地)と、慎重ながらも肯定的な見方です。
4. 財務・配当の実績
(1) 売上高・利益の推移
クローガーの財務実績は以下の通りです(2024年通期および2025年ガイダンス):
項目 | 2024年通期 | 2025年ガイダンス |
---|---|---|
既存店売上成長率(燃料除く) | 2.4% | 2-3% |
調整後EPS | 4.55ドル | 4.60-4.80ドル |
デジタル売上成長率 | 11% | - |
オルタナティブ収益営業利益 | 13.5億ドル | - |
Q4 2024では、既存店売上2.4%増、調整後EPS 1.14ドル、デジタル売上11%増と好調な結果となりました。2025年のガイダンスも、既存店売上2-3%増、調整後EPS 4.60-4.80ドルと堅調な見通しです。
(出典: Kroger Investor Relations - Q4 2024 Results)
(2) 配当履歴
クローガーは、17年連続増配の実績があります。配当利回りは約2%前後(2025年時点)で、配当貴族銘柄ではありませんが、安定した配当が期待できます。
配当よりも自社株買いによる株主還元を重視しており、株主総利回り8-11%を目標に掲げています。自社株買いは、株価上昇と1株当たり利益(EPS)の向上につながるため、長期投資家にとって魅力的な還元方法です。
(3) 財務健全性
ROE 31.1%: 自己資本利益率が高く、収益性は良好です。プライベートブランドの強化とオルタナティブ収益事業の成長により、利益率が改善しています。
ROA 0.90%: 総資産利益率が業界平均を下回っており、資産効率の改善が課題です。60店舗閉鎖により1億ドルの減損を計上しましたが、今後の店舗効率化により改善が期待されます。
営業利益の減少: 2023年営業利益31億ドルは、前年の41億ドルから10億ドル減少しています。これは、労働コスト上昇、サプライチェーン課題、競争激化が要因です。2024年以降は、コスト削減とデジタル化により、利益率の改善を図っています。
(出典: Kroger 10-K Annual Report 2024)
5. リスク要因
(1) 事業リスク
Albertsons買収の失敗: 246億ドルのM&Aが2024年12月にFTCによりブロックされました。このM&Aは、クローガーとAlbertsonsを統合し、ウォルマートやコストコと対抗する規模を確保する戦略でしたが、規制当局は市場独占の懸念から阻止しました。買収失敗により、成長戦略に不確実性が生じています。
CEO辞任による経営不安: 長年のCEO Rodney McMullenが2025年3月3日に突然辞任しました。理由は非公開で、投資家に不安感を与えています。後任CEOの戦略や経営方針が不透明な点も懸念材料です。
競争激化: ウォルマート、コストコ、アマゾンとの競争が激化しています。売上成長率2.7%/年は、米国市場全体の9.8%を下回っており、市場シェアを奪われるリスクがあります。
(2) 市場環境リスク
労働コスト上昇: 人手不足により、賃金が上昇しています。クローガーは労働集約的なビジネスモデルであり、賃金上昇が利益率を圧迫するリスクがあります。
インフレ・原材料コスト上昇: 食料品価格が上昇すると、消費者の購買力が低下し、販売量が減少する可能性があります。また、原材料コストの上昇により、利益率が圧迫されるリスクもあります。
為替リスク: 日本人投資家にとって、ドル円為替レートの変動は大きなリスクです。円高が進むと、ドル建て配当や株価を円換算した際の価値が目減りします。
(3) 規制・競争リスク
独占禁止規制: Albertsons買収がブロックされたように、今後のM&Aや事業拡大が規制当局により制限される可能性があります。
オンライン競合の台頭: アマゾン・フレッシュ、Instacartなどのオンライン食料品宅配サービスが成長しています。クローガーもデジタル化を進めていますが、オンライン専業企業との競争が激化するリスクがあります。
環境規制・サステナビリティ: プラスチック削減、食品廃棄物削減などの環境規制が強化されています。環境対応コストが増加すると、利益率が圧迫される可能性があります。
6. まとめ:投資判断のポイント
(1) この銘柄の強み
ディフェンシブセクター: 食料品小売は、景気後退期にも需要が安定するディフェンシブセクターです。景気変動の影響を受けにくい安定した事業基盤を持っています。
プライベートブランドの強化: 顧客世帯の90%超がOur Brands製品を購入しており、ブランドロイヤルティが高いのが特徴です。ナショナルブランドより利益率が高く、価格競争力もあるため、収益性改善に貢献しています。
オルタナティブ収益事業の成長: リテールメディア事業が17%成長し、営業利益13.5億ドルを創出しています。この事業は、小売業の低い利益率を補完する高収益事業として期待されています。
(2) リスク要因(再掲)
Albertsons買収の失敗: 246億ドルのM&Aがブロックされ、成長戦略に不確実性が生じています。
CEO辞任による経営不安: 長年のCEOが突然辞任し、理由が非公開のため投資家に不安感を与えています。
(3) 向いている投資家
ディフェンシブ銘柄を求める投資家: 食料品小売業の安定性を評価し、景気後退期のポートフォリオ防衛に適しています。
配当と自社株買いを重視する投資家: 17年連続増配の実績と、積極的な自社株買いにより、株主還元を重視する投資家に向いています。
リスク許容度が中程度の投資家: Albertsons買収失敗やCEO辞任など短期的な不確実性を理解した上で、長期的な成長を期待する投資家に適しています。
※本記事は情報提供を目的としており、投資を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。最新の財務情報は、Kroger公式IRページやSEC EDGARでご確認ください。
Q: クローガーの配当利回りは?
A: 約2%前後です(2025年時点)。17年連続増配の実績がありますが、配当貴族銘柄(25年以上連続増配)ではありません。クローガーは、配当よりも自社株買いによる株主還元を重視しており、株主総利回り8-11%を目標に掲げています。
Q: クローガーの主な競合は?
A: ウォルマート(WMT)、コストコ(COST)、アマゾン・フレッシュ(AMZN)などが主要競合です。クローガーは、地域密着型の店舗網とプライベートブランド(Our Brands)で差別化を図っています。顧客世帯の90%超がOur Brands製品を購入しており、ブランドロイヤルティが高い点が強みです。
Q: クローガーのリスク要因は?
A: 主なリスク要因として、Albertsons買収の失敗(246億ドルのM&Aが2024年12月にブロック)、CEO辞任による経営不安、ウォルマート・コストコ・アマゾンとの競争激化などがあります。また、労働コスト上昇、インフレ、規制強化なども注意が必要です。詳細は本文のリスク要因セクションを参照してください。
Q: クローガーは長期投資に向いている?
A: ディフェンシブ銘柄を求める投資家、食料品小売業の安定性を評価する投資家に向いています。景気後退期にも需要が安定する生活必需品セクターであり、長期保有前提の投資家に適しています。ただし、Albertsons買収失敗やCEO辞任など短期的な不確実性を理解した上での判断が必要です。ポートフォリオの一部として、リスク分散を意識した投資をおすすめします。