0. この記事でわかること
本記事では、ナイソース(NI)について以下の情報を提供します:
- なぜ注目されているのか: 電力・ガス複合公益企業としての安定性、データセンター需要取り込みによる成長期待、39年連続配当維持と8年連続増配の実績
- 事業内容と成長戦略: 電力事業とガス事業の2本柱、194億ドルの5年間インフラ投資計画、再生可能エネルギー移行と2040年ネットゼロ目標
- 競合との差別化: 主要競合企業との比較、データセンター向け専用組織の設立、規制料金ベース資産による安定成長モデル
- 財務・配当の実績: 売上高・利益の推移と最新業績、39年連続配当維持と増配履歴、料金ベース年率8-10%成長見込み
- リスク要因: インディアナ州規制当局のリスク、高い負債比率と財務リスク、金利上昇リスクと割高なバリュエーション
ナイソースは、インディアナ州を中心に電力・ガス事業を展開する公益企業です。日本の電力会社と似たビジネスモデルですが、米国では規制下で安定的な収益確保が可能です。配当利回りは魅力的で、ディフェンシブ銘柄として景気後退局面での下落耐性が期待できます。
1. なぜナイソース(NI)が注目されているのか
(1) 電力・ガス複合公益企業としての安定性
ナイソースは、インディアナ州を中心に電力・ガス事業を展開する公益企業です。公益事業は、電力・ガス・水道など生活必需インフラを提供する規制業種で、景気変動に強く配当安定性が特徴です。
日本の電力会社(東京電力、関西電力等)と似たビジネスモデルですが、米国では規制料金ベース資産に焦点を当て、安定的な収益確保が可能です。料金ベースとは、公益事業会社が規制当局から認可された投資資産額で、この資産に一定の利益率を上乗せして料金を設定できます。
この仕組みにより、景気後退局面でもキャッシュフローが安定し、配当の持続可能性が高いとされています。
(2) データセンター需要取り込みによる成長期待
近年、AI・データセンター向け電力需要が急増しています。ナイソースは、インディアナ州公益事業規制委員会(IURC)の承認を得て、データセンター産業向けの新組織NIPSCO Generation LLCを設立しました。2027年から大手データセンター顧客との契約を開始し、2032年まで年々増加する計画です。
この取り組みは、既存顧客への料金負担を増やすことなく、新たな収益源を確保できる点が評価されています。公益株としては珍しく、明確な成長ドライバーを持つ銘柄と言えます。
(3) 39年連続配当維持と8年連続増配の実績
ナイソースは、39年連続で配当を維持し、8年連続で増配しています。配当利回りは約2.9%(2025年2月時点)で、BMO Capital Marketsの「Top 15 Income Stock」にも選定されています。
連続増配の実績は、経営の安定性と株主還元への姿勢を示しています。配当を重視する投資家にとって、長期保有に適した銘柄です。
2. ナイソースの事業内容・成長戦略
(1) 電力事業とガス事業の2本柱
ナイソースは、電力事業とガス事業の2本柱でビジネスを展開しています。主な事業地域はインディアナ州で、約350万人の顧客にサービスを提供しています。
電力事業では、発電・送配電を一貫して行っています。ガス事業では、天然ガスの輸送・供給を担っています。これらの事業は、規制料金ベース資産に基づく安定収益モデルを採用しており、長期的なキャッシュフロー創出が見込まれます。
(2) 194億ドルの5年間インフラ投資計画
ナイソースは、2025-2029年に約194億ドルの基本資本支出計画を発表しています(従来比1億ドル増)。投資配分は以下の通りです:
- ガスシステム強化:48%
- 電力システム近代化:17%
- 再生可能エネルギー発電:14%
- その他:21%
このインフラ投資により、料金ベース資産は年率8-10%成長する見込みです。料金ベース資産の成長は、そのまま収益の成長につながるため、EPS(1株当たり利益)も年率6-8%成長が期待されています。
(3) 再生可能エネルギー移行と2040年ネットゼロ目標
ナイソースは、2028年までに石炭火力発電2,105MW全廃、2020-2027年に再生可能エネルギー3,350MW導入を計画しています。2040年にはネットゼロ目標(Scope 1・2温室効果ガス排出ゼロ)の達成を目指しています。
ESG(環境・社会・ガバナンス)投資が世界的に注目される中、公益企業の脱炭素化は重要なテーマです。再生可能エネルギーへの投資は、規制当局からの承認を得やすく、料金ベース資産の拡大にも寄与します。
3. 競合との差別化
(1) 主要競合企業(他の公益株)との比較
ナイソースの主要競合は、他の地域公益企業です。例えば、Duke Energy、Southern Company、Dominion Energyなどが挙げられます。これらの企業も、電力・ガス事業を規制下で運営し、安定配当を提供しています。
競合他社と比較して、ナイソースの差別化ポイントは、データセンター需要の取り込みです。多くの公益企業が既存顧客への安定供給に注力する中、ナイソースは新たな成長分野に積極的に進出しています。
(2) データセンター向け専用組織の設立
ナイソースは、インディアナ州公益事業規制委員会(IURC)の承認を得て、データセンター産業向けの新組織NIPSCO Generation LLCを設立しました。この組織は、既存顧客への料金負担を増やすことなく、大手データセンター顧客に電力を供給します。
2027年から契約を開始し、2032年まで年々増加する計画で、AI・データセンター向け電力需要という成長市場に位置づけられます。
(3) 規制料金ベース資産による安定成長モデル
規制料金ベース資産とは、公益事業会社が規制当局から認可された投資資産額です。この資産に一定の利益率を上乗せして料金を設定できるため、投資すればするほど収益が増える仕組みです。
ナイソースは、2025-2029年に料金ベース資産を年率8-10%成長させる計画で、これがEPS年率6-8%成長の原動力となります。このビジネスモデルは、他の産業にはない安定性を提供します。
4. 財務・配当の実績
(1) 売上高・利益の推移と最新業績
以下は、ナイソースの過去数年間の財務実績です:
| 年度 | 調整後EPS | 前年比成長率 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 2024 | $1.75 | 9.4%増 | ガイダンス上限超え |
| 2025(予想) | $1.85-1.89 | 5.7-8.0%増 | ガイダンス引き上げ |
| 2025 Q1 | $0.98 | 15%増 | 前年同期比 |
※2025年10月時点のデータです。最新情報はNiSource Inc公式IRページをご確認ください。 (出典: NiSource Inc Full-Year 2024 Results, SEC EDGAR)
2025年第1四半期の調整後EPS $0.98は、前年比15%増と好調でした。Q1で年間見通し中央値の52%超を達成しており、通期目標の達成可能性が高まっています。
(2) 39年連続配当維持と増配履歴
ナイソースは、39年連続で配当を維持し、8年連続で増配しています。配当利回りは約2.9%(2025年2月時点)で、公益株として標準的な水準です。
配当性向(配当金÷純利益)は適切な水準に維持されており、今後も増配が期待できます。ただし、高い成長率は見込めないため、増配ペースは緩やかです。
(3) 料金ベース年率8-10%成長見込み
2025-2029年の基本資本支出計画194億ドルにより、料金ベース資産は年率8-10%成長する見込みです。料金ベース資産の成長は、そのまま収益の成長につながるため、持続的な利益成長が期待できます。
EPSも年率6-8%成長が見込まれており、公益株としては高めの成長率です。データセンター需要の取り込みと再生可能エネルギー投資が、成長ドライバーとなっています。
5. リスク要因
(1) インディアナ州規制当局のリスク
ナイソース最大のリスクは、インディアナ州公益事業規制委員会(IURC)の判断です。IURCの人事変更により、2.57億ドル規模のGenco分社化計画(発電事業の分離)に遅延・修正・却下のリスクがあります。
アナリストは「バイナリー評価リスク」と指摘しており、規制当局の判断次第で株価が大きく変動する可能性があります。料金改定の承認も、IURCの判断に左右されるため、規制リスクは常に付きまといます。
(2) 高い負債比率と財務リスク
ナイソースの負債資本比率は1.67で、財務リスクが高い水準にあります。アルトマンZスコア(財務健全性指標)も0.8と低く、大規模インフラ投資期間中の資金調達負担が懸念されます。
公益事業の特性上、ある程度の負債は許容されますが、金利上昇局面では借入コストが増加し、収益性が圧迫される可能性があります。
(3) 金利上昇リスクと割高なバリュエーション
ナイソースのPER(株価収益率)は21.4倍で、ユーティリティセクター平均17倍を上回っています。割高なバリュエーションは、株価調整リスクを意味します。
金利上昇局面では、高配当銘柄の魅力が相対的に低下し、株価が下落しやすい傾向があります。また、借入コスト増加により収益性が圧迫される可能性もあります。
為替リスクも見逃せません。米ドル建ての株式であるため、円高局面では円建て評価額が減少します。SBI証券や楽天証券では為替手数料(1ドルあたり片道25銭が一般的)がかかるため、売買時のコストも考慮する必要があります。
6. まとめ:投資判断のポイント
(1) この銘柄の強み
ナイソースの強みは以下の3点です:
- 規制料金ベース資産による安定成長: 2025-2029年に料金ベース年率8-10%成長、EPS年率6-8%成長見込み
- データセンター需要の取り込み: 新組織NIPSCO Generation LLC設立、2027年から契約開始
- 39年連続配当維持と8年連続増配: 配当利回り2.9%、BMO Capital Markets「Top 15 Income Stock」選定
(2) リスク要因(再掲)
一方で、以下のリスク要因も存在します:
- インディアナ州規制当局のリスク: Genco分社化計画に遅延・修正・却下の可能性
- 高い負債比率と財務リスク: 負債資本比率1.67、アルトマンZスコア0.8
(3) 向いている投資家
ナイソースは、以下のような投資家に向いています:
- 安定配当とディフェンシブ性を重視する投資家: 39年連続配当維持、景気後退局面での下落耐性を期待する方
- NISA枠でのインカムゲイン目的の長期保有を検討する投資家: 配当利回り2.9%と増配実績に魅力を感じる方
- 公益事業セクターに関心がある投資家: 規制下の安定収益モデルとデータセンター需要の成長性に期待する方
逆に、高い成長率や株価の大幅上昇を求める投資家には向きません。公益株の特性上、成長率は低めで、PER 21.4倍の割高なバリュエーションも懸念材料です。
※本記事は情報提供を目的としており、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。
Q: ナイソースの配当利回りは?
A: 配当利回りは約2.9%です(2025年2月時点)。39年連続配当維持、8年連続増配の実績があり、BMO Capital Marketsの「Top 15 Income Stock」にも選定されています。公益株として標準的な水準ですが、防御的特性を評価する投資家に適しています。配当性向は適切な水準に維持されており、今後も増配が期待できます。
Q: ナイソースはどんな企業ですか?
A: インディアナ州を中心に電力・ガス事業を展開する公益企業です。約350万人の顧客にサービスを提供しています。規制料金ベース資産に焦点を当て、安定的な収益確保が可能なビジネスモデルを持ちます。日本の電力会社(東京電力、関西電力等)と似たビジネスモデルですが、米国では規制下で一定の利益率を上乗せして料金を設定できるため、収益の安定性が高いとされています。
Q: ナイソースはなぜ成長率が低いのですか?
A: 公益事業の特性上、成長率は低めです。電力・ガスは生活必需インフラで、既存顧客への安定供給が主な事業のため、爆発的な成長は見込めません。ただし、データセンター需要取り込みと194億ドルのインフラ投資により、2025-2029年にEPS年率6-8%成長を見込んでいます。公益株としては高めの成長率で、料金ベース資産の年率8-10%成長が原動力となっています。
Q: ナイソースと金利の関係は?
A: 金利上昇局面では以下の影響があります:
- 株価下落リスク: 高配当銘柄の魅力が相対的に低下し、株価が下落しやすい傾向
- 借入コスト増加: 負債資本比率1.67と高い負債比率のため、金利上昇により借入コストが増加し、収益性が圧迫される可能性
逆に、金利低下局面では株価が上昇しやすくなります。金利動向を注視する必要があります。
Q: ナイソースは長期投資に向いている?
A: 安定配当とディフェンシブ性を重視する長期投資家に適しています。39年連続配当維持と8年連続増配の実績があり、景気後退局面での下落耐性が期待できます。NISA枠でのインカムゲイン目的の保有にも向いています。ただし、高い成長は見込めず、PER 21.4倍の割高なバリュエーションや、インディアナ州規制当局のリスクがあります。投資判断はご自身で行ってください。
