0. この記事でわかること
本記事では、パブリック・ストレージ(PSA)について以下の情報を提供します:
- なぜ注目されているのか: セルフストレージREIT(不動産投資信託)で米国最大手。配当利回り3-4%台の安定配当と、引越し・住宅売買・事業縮小時に需要が増加するディフェンシブな特性が投資家の注目を集めています。
- 事業内容と成長戦略: 全米2700施設以上、1.7億平方フィート超の賃貸可能面積を保有。2025年に11億ドルの買収・開発プロジェクトを展開し、非同一店舗ポートフォリオの拡大とデジタル化(顧客接点の85%)を推進しています。
- 競合との差別化: Extra Space Storage、CubeSmart等との競争において、稼働率90%超の高水準と付帯サービス収益(非賃貸収入の25%)で差別化。オーストラリア・ニュージーランドへの国際展開も検討しています。
- 財務・配当の実績: REITとして安定配当を継続。2025年コアFFO予想を1株16.35〜16.45ドルに引き上げたものの、市場予想17.17ドルを下回る慎重なガイダンスです。
- リスク要因: 入居賃料の持続的下落(2025年Q1で前年比5%減、4月で8%減)、ロサンゼルスの賃料規制、金利上昇による借入コスト増加が業績を圧迫する懸念があります。
1. なぜパブリック・ストレージ(PSA)が注目されているのか
(1) 成長戦略の3つのポイント
パブリック・ストレージは、次の3つの成長戦略で投資家の関心を集めています。
大規模な買収・開発プロジェクト: 2025年に11億ドル規模の買収・開発を発表し、年初来で7.85億ドルを成約または契約済み。6.48億ドルの開発パイプラインから260万平方フィートの賃貸可能面積を創出し、既存ポートフォリオを拡大しています。
非同一店舗ポートフォリオの成長加速: 新規買収・開発物件を含む非同一店舗ポートフォリオ(non-same-store pool)は、2025年に4.7億ドル、2026年以降に1.1億ドルの高成長NOI(純営業利益)を創出する見込みです。既存の同一店舗が成熟化する中、新規物件が成長ドライバーとなっています。
国際展開の検討: オーストラリア・ニュージーランドへの進出を検討し、新市場開拓と収益源の多様化を推進しています。米国市場の成熟化に対応し、グローバル展開で成長余地を広げる戦略です。
(2) 注目テーマ(デジタルエンゲージメント・付帯サービス収益・国際展開)
デジタルエンゲージメントは、パブリック・ストレージの重要な競争力です。顧客接点の85%がデジタル化されており、オンライン予約・契約・支払いが主流となっています。これにより、人件費を抑えつつ顧客転換率を向上させています。
付帯サービス収益は、賃貸収入以外の収益源として注目されます。梱包資材の販売や保険販売などの付帯サービスが非賃貸収入の25%を占め、収益の多角化に貢献しています。
国際展開は、米国市場の成熟化に対応する成長戦略です。現在、欧州で事業展開していますが、さらにオーストラリア・ニュージーランドへの進出を検討しており、グローバルなセルフストレージ市場でのプレゼンス拡大を目指しています。
(3) 投資家の関心・懸念点
投資家は、パブリック・ストレージのディフェンシブ性と安定配当に注目していますが、同時に以下の懸念も抱いています。
- 入居賃料の持続的下落: Q4 2024からQ1 2025で前年比5%減、2025年4月には8%減と、入居時賃料が5年ぶりの低水準に下落しています。需要減退の兆候として投資家の警戒を招いています。
- ロサンゼルスの賃料規制: ロサンゼルスで導入された賃料規制が、2025年後半から2026年前半の成長を圧迫する見込みです。同市は同社の重要市場の一つであり、影響は無視できません。
- Q2 2025決算のEPS未達: Q2 2025のEPS 1.76ドルは予想2.55ドルを31%下回り、発表後に株価が5.52%下落しました。稼働率も前年比60bps(0.6ポイント)低下し、需要の弱さが顕在化しています。
アナリストの平均目標株価は328.36ドル(最高380ドル、最低287ドル)で、現在価格からの上昇余地を示唆していますが、短期的には慎重な見方が優勢です。
一方、長期的には年率7.7%の利益成長と4.4%の売上成長が予測されており、非同一店舗ポートフォリオの拡大とデジタル化が成長を支えるとの期待もあります。
2. パブリック・ストレージの事業内容・成長戦略
(1) 主力事業
パブリック・ストレージは、セルフストレージ施設の取得・開発・保有・管理を主要事業としています。
- セルフストレージ施設の運営: 全米約40州で2700施設以上を保有し、1.7億平方フィート超の賃貸可能面積を提供しています。個人顧客は引越し・リフォーム時の一時保管、法人顧客は在庫・書類保管などに利用します。
- 付帯サービス: 梱包資材(段ボール箱・テープ等)の販売や保管物品向け保険の販売を行い、非賃貸収入の25%を占めています。これにより、賃貸収入だけに依存しない収益構造を実現しています。
- 国際展開: 米国に加え、欧州でも事業を展開。オーストラリア・ニュージーランドへの進出も検討しており、グローバルなセルフストレージ市場での存在感を高めています。
稼働率は90%超と業界トップクラスの水準を維持しており、高い収益性を誇ります。
(2) セクター・業種の説明
パブリック・ストレージは、Real Estate(不動産)セクターのSpecialized REITs(特化型REIT)業種に分類されます。
REIT(不動産投資信託)は、不動産に投資し、賃貸収入や売却益を投資家に分配する投資信託です。特化型REITは、特定の不動産タイプ(セルフストレージ、データセンター、携帯電話基地局等)に特化した投資を行います。
セルフストレージREITの特徴:
- 景気敏感性とディフェンシブ性の両面: 引越し・住宅売買が活発な時期は需要が増加する一方、景気後退時も事業縮小・在庫整理で需要が発生するため、一定のディフェンシブ性があります。
- 金利感応度が高い: REITは不動産の買収・開発に借入を活用するため、金利上昇は借入コストの増加を招き、収益性を圧迫します。
- 配当義務: REITは利益の大部分を配当として分配する義務があり、安定配当を求める投資家に人気です。
(3) ビジネスモデルの特徴
パブリック・ストレージのビジネスモデルは、賃貸収入と付帯サービス収益の両輪で成り立っています。
- 賃貸収入: 月額ベースでセルフストレージスペースをリースし、安定的な賃貸収入を得ています。契約期間は比較的短期(月単位)で、賃料を市場環境に応じて柔軟に調整できます。
- 付帯サービス収益: 梱包資材販売・保険販売などの付帯サービスが、賃貸収入を補完します。これにより、賃料下落時のリスクを分散しています。
- 資産効率の高さ: 稼働率90%超と業界トップクラスの水準を維持し、既存資産を最大限活用しています。デジタル化により、人件費を抑えつつ顧客体験を向上させています。
一方、新規供給の増加や賃料規制が収益性を圧迫するリスクもあり、市場環境の変化に注意が必要です。
3. 競合との差別化
(1) 主要競合企業
パブリック・ストレージの主要競合は、以下のセルフストレージREIT大手です。
- Extra Space Storage: 米国第2位のセルフストレージREIT。全米で3,500施設以上を展開し、積極的なM&Aで規模を拡大しています。
- CubeSmart: 中堅セルフストレージREIT。都市部の好立地物件に特化し、高稼働率を維持しています。
- Life Storage: 東海岸を中心に展開するセルフストレージREIT。地域密着型の運営が特徴です。
(2) 競合優位性
パブリック・ストレージは、以下の点で競合と差別化しています。
規模とブランド力: 全米2700施設以上という圧倒的な施設数と、「Public Storage」のオレンジ色の看板で高い認知度を誇ります。規模の経済により、運営コストを抑えつつ高い収益性を実現しています。
高稼働率の維持: 稼働率90%超を維持し、業界トップクラスの水準です。これは、立地の良さ(主要都市・幹線道路沿い)とデジタルマーケティングの効果によるものです。
付帯サービス収益の多角化: 梱包資材販売・保険販売などの付帯サービスが非賃貸収入の25%を占め、賃貸収入だけに依存しない収益構造を構築しています。競合他社と比較して、付帯サービス収益の比率が高い点が強みです。
デジタル化の進展: 顧客接点の85%がデジタル化されており、オンライン予約・契約・支払いが主流です。これにより、店舗スタッフの人件費を抑えつつ、24時間対応の顧客体験を提供しています。
(3) 市場でのポジショニング
パブリック・ストレージは、セルフストレージREIT業界のリーディングカンパニーとして位置づけられています。施設数・賃貸可能面積ともに業界最大規模を誇り、ブランド認知度も最高レベルです。
一方で、PER 140倍超という高いバリュエーションは、市場が同社の成長性を高く評価している反面、短期的な業績悪化に対して株価が敏感に反応するリスクも示唆しています。
アナリストの評価は慎重で、入居賃料の下落や賃料規制の影響を注視する姿勢です。今後、非同一店舗ポートフォリオの成長と既存店舗の賃料安定化が、株価再評価のカギとなります。
4. 財務・配当の実績
(1) 売上高・利益の推移
パブリック・ストレージの財務実績(2025年Q1および通年ガイダンス)は以下の通りです。
2025年Q1ハイライト:
項目 | 実績 | 前年比 |
---|---|---|
入居量 | 増加 | +2% |
同一店舗売上成長 | プラス転換 | 2年超の減速後 |
非同一店舗売上成長 | 加速 | 約11%近く |
稼働率 | 低下 | 前年比60bps減 |
2025年通年ガイダンス:
- コアFFO予想: 1株16.35〜16.45ドル(引き上げ)
- 市場予想: 1株17.17ドル(ガイダンスを上回る)
同社は2025年コアFFO予想を引き上げましたが、市場予想を下回る慎重なガイダンスです。これは、入居賃料の下落とロサンゼルス賃料規制の影響を織り込んだものと考えられます。
Q2 2025決算:
- EPS: 1.76ドル(予想2.55ドルを31%下回る)
- 株価反応: 発表後5.52%下落
短期的には入居賃料の下落と稼働率の低下が業績を圧迫していますが、非同一店舗ポートフォリオの成長が今後の収益拡大を支えると期待されています。
長期予測:
- 利益成長率: 年率7.7%
- 売上成長率: 年率4.4%
- アナリスト平均目標株価: 328.36ドル(最高380ドル、最低287ドル)
※2025年10月時点のデータです。最新情報はPublic Storage公式IRページをご確認ください。
(2) 配当履歴
パブリック・ストレージは、REITとして安定配当を継続しています。
- 配当利回り: 約3-4%台(2025年10月時点)
- 配当支払い: 四半期ごと
- 税制: REIT特有の税制(米国源泉徴収10%+日本での総合課税)に注意が必要
REITは利益の大部分を配当として分配する義務があるため、安定した配当収入を求める投資家に人気です。ただし、REITの配当は「配当所得」ではなく「不動産所得」として扱われるため、日本での課税は総合課税(累進課税)となります。
配当の受取例(簡易計算):
- 米国源泉徴収: 配当額の10%(日米租税条約により軽減)
- 日本での課税: 配当額の90%(米国源泉後)に対し、総合課税(所得税+住民税)
- 外国税額控除: 一定額まで米国源泉税を日本の所得税から控除可能
詳細は税理士または税務署にご確認ください。
(3) 財務健全性
財務健全性については、以下の点に注目です。
- 負債管理: REITは不動産の買収・開発に借入を活用しますが、パブリック・ストレージは比較的保守的な財務戦略を採用しています。
- 開発パイプライン: 6.48億ドルの開発パイプラインから260万平方フィートの賃貸可能面積を創出中です。これにより、今後の賃貸収入増加が見込まれます。
- NOI創出見込み: 非同一店舗ポートフォリオは、2025年に4.7億ドル、2026年以降に1.1億ドルの高成長NOI(純営業利益)を創出する見込みです。
一方で、金利上昇は借入コストの増加を招き、財務負担を重くします。今後の金利動向が財務健全性に影響を与える点に注意が必要です。
(出典: Public Storage Form 10-K Annual Report 2024, SEC EDGAR; Public Storage Investor Relations - Q1 2025 Earnings)
5. リスク要因
(1) 事業リスク
パブリック・ストレージが直面する事業リスクは、以下の通りです。
入居賃料の持続的下落: Q4 2024からQ1 2025で前年比5%減、2025年4月には8%減と、入居時賃料が5年ぶりの低水準に下落しています。これは、新規顧客獲得の競争激化や需要減退を示唆しており、今後の収益性を圧迫する懸念があります。
稼働率の低下: Q2 2025で稼働率が前年比60bps(0.6ポイント)低下しました。新規供給の増加や競合との価格競争により、稼働率の維持が課題となっています。
新規供給過多: 米国のセルフストレージ市場は成熟化しており、新規施設の供給が需要を上回る地域が増えています。これにより、賃料下落と稼働率低下のリスクが高まっています。
(2) 市場環境リスク
セルフストレージREITは、市場環境の変化に大きく影響されます。
金利上昇リスク: 金利上昇は借入コストの増加を招き、収益性を悪化させます。また、REIT株は金利上昇局面で株価が下落しやすい傾向があります。現在の金利環境は同社にとって逆風です。
景気変動リスク: 引越し・住宅売買が活発な好景気時は需要が増加しますが、景気後退時には個人・法人ともに保管需要が減少する可能性があります。ただし、事業縮小時の在庫保管など一定のディフェンシブ性もあります。
為替リスク: 日本人投資家にとっては、ドル建て資産であるため円高・円安の影響を受けます。円高局面では円換算での投資成果が減少します。
(3) 規制・競争リスク
賃料規制: ロサンゼルスで導入された賃料規制が、2025年後半から2026年前半の成長を圧迫する見込みです。同市は同社の重要市場の一つであり、今後他都市でも同様の規制が導入されるリスクがあります。
競合との価格競争: Extra Space Storage、CubeSmart等の競合他社も積極的にM&Aと新規開発を進めており、価格競争が激化しています。入居賃料の下落は、この競争の結果と考えられます。
高バリュエーションのリスク: PER 140倍超という高いバリュエーションは、短期的な業績悪化に対して株価が敏感に反応するリスクを示唆しています。Q2 2025決算でのEPS未達時に株価が5.52%下落したのは、その一例です。
これらのリスク要因は、投資判断において重要な考慮事項です。詳細はPublic Storageの10-K報告書(SEC EDGAR)やアナリストレポートで確認することをお勧めします。
6. まとめ:投資判断のポイント
(1) この銘柄の強み
パブリック・ストレージの主な強みは、以下の3点です。
業界最大手の規模とブランド力: 全米2700施設以上、稼働率90%超という圧倒的な事業基盤。規模の経済と高い認知度が競争力の源泉です。
安定配当とディフェンシブ性: REIT特有の配当義務により、配当利回り3-4%台の安定配当を継続。景気後退時も一定の需要が見込めるディフェンシブな事業モデルです。
非同一店舗ポートフォリオの成長と国際展開: 2025年に11億ドルの買収・開発を展開し、非同一店舗ポートフォリオから2025年に4.7億ドル、2026年以降に1.1億ドルの高成長NOIを創出見込み。オーストラリア・ニュージーランドへの国際展開も検討しています。
(2) リスク要因(再掲)
一方で、以下のリスク要因にも注意が必要です。
入居賃料の持続的下落と稼働率低下: 2025年Q1で前年比5%減、4月で8%減と、入居賃料が5年ぶりの低水準に下落。稼働率も前年比60bps低下し、短期的な業績圧迫要因となっています。
賃料規制と金利上昇: ロサンゼルスの賃料規制が2025年後半から2026年前半の成長を圧迫する見込み。金利上昇も借入コスト増加を招き、収益性を悪化させるリスクがあります。
(3) 向いている投資家
パブリック・ストレージは、以下のような投資家に向いています。
安定配当を重視する投資家: 配当利回り3-4%台の安定配当を求め、長期保有で配当収入を積み上げたい投資家。
ディフェンシブ銘柄を好む投資家: 景気後退時も一定の需要が見込めるセルフストレージ事業の特性を評価し、ポートフォリオのリスク分散を図りたい投資家。
不動産セクターに精通した投資家: REIT特有の税制(総合課税)や金利感応度を理解し、市場環境の変化を見極められる投資家。
一方、短期的な成長を求める投資家や税制に不慣れな投資家には向かない可能性があります。REITの配当は総合課税となるため、高所得者は税負担が大きくなる点に注意が必要です。
免責事項: 本記事は情報提供を目的としており、個別銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断は、ご自身の責任で最新の財務データや市場動向を確認の上、行ってください。米国株投資には為替リスク、市場リスク、規制リスクが伴います。
Q: パブリック・ストレージの配当利回りは?
A: 約3-4%台です(2025年10月時点)。REITは利益の大部分を配当として分配する義務があり、安定配当が期待できます。ただし、REIT特有の税制(米国源泉徴収10%+日本での総合課税)に注意が必要です。高所得者は税負担が大きくなる可能性があります。詳細は本文の「4. 財務・配当の実績」セクションをご参照ください。
Q: パブリック・ストレージの主な競合は?
A: Extra Space Storage、CubeSmart、Life Storageなどのセルフストレージ大手です。パブリック・ストレージは全米2700施設以上と稼働率90%超で業界最大手の地位を確立していますが、競合も積極的なM&Aと新規開発を進めており、価格競争が激化しています。詳細は本文の「3. 競合との差別化」セクションをご覧ください。
Q: パブリック・ストレージのリスク要因は?
A: 入居賃料の持続的下落(2025年Q1で前年比5%減、4月で8%減)、ロサンゼルスの賃料規制、金利上昇による借入コスト増加が主なリスクです。また、稼働率が前年比60bps低下し、短期的な業績圧迫要因となっています。詳細は本文の「5. リスク要因」セクションをご参照ください。
Q: パブリック・ストレージは長期投資に向いている?
A: 安定配当とディフェンシブ性を重視する投資家には向いています。長期的には年率7.7%の利益成長予測と非同一店舗ポートフォリオの拡大(2025年に4.7億ドル、2026年以降に1.1億ドルの高成長NOI創出見込み)が成長を支えるとの期待があります。ただし、短期的には入居賃料の下落と賃料規制の影響に注意が必要です。投資判断はご自身で行ってください。