0. この記事でわかること
本記事では、コムキャスト(CMCSA)について以下の情報を提供します:
- なぜ注目されているのか: 米国最大のケーブルテレビ・ブロードバンド事業者として、割安なバリュエーションと配当利回り(約3.0~3.5%)に注目が集まっています。2024年11月にケーブルネットワーク事業のスピンオフを発表し、成長事業(ブロードバンド、ワイヤレス、Peacock、テーマパーク)への集中を進めています。
- 事業内容と成長戦略: 「Xfinity」ブランドのブロードバンド事業、NBCユニバーサル(映画・テレビ・テーマパーク)、Sky(欧州衛星放送)の3本柱で多角化。6つの成長柱(住宅ブロードバンド、ワイヤレス、ビジネスサービス、テーマパーク、ストリーミング、プレミアムコンテンツ)に注力しています。
- 競合との差別化: Charter Communications、Verizon、AT&T、Netflix、Disney+などの競合に対し、米国最大のケーブル事業者としての規模とNBCユニバーサル保有による多角化で差別化を図っています。
- 財務・配当の実績: 2025年Q2の調整後EPSは1.25ドルで予想を上回り、ユニバーサルテーマパークの売上は19%増。ただし、今後3年間でEPSが年率-15.5%減と予想されており、配当の持続可能性に注意が必要です。
- リスク要因: ブロードバンド加入者の減少(2024年Q4に13.9万人減、2025年Q1に19.9万人減)、コードカッティングによるケーブルTV加入者の減少(31.1万人減)、光ファイバーと固定無線プロバイダーとの競争激化などが挙げられます。
(執筆時点: 2025年10月)
1. なぜコムキャスト(CMCSA)が注目されているのか
(1) 成長戦略の3つのポイント
コムキャストは、以下3つの成長戦略を推進しています:
1. 6つの成長柱への集中
住宅向けブロードバンド、ワイヤレス、ビジネスサービス、テーマパーク、ストリーミング、プレミアムコンテンツの6分野に注力。ワイヤレスは住宅ブロードバンド契約の14%に浸透し、2年間で最高のライン追加数を記録。ビジネスサービスは約100億ドルの売上規模に成長し、EBITDAマージン57%と高収益を実現しています(出典: Comcast outlines growth strategy for wireless and broadband amid 2025 challenges)。
2. テーマパーク事業の強化
2025年5月にEpic Universeテーマパーク(フロリダ)を開園し、ロンドン郊外50マイルに456エーカーの新パーク計画を進めています。2025年Q2のユニバーサルテーマパーク売上は19%増の23.5億ドルに達し、新たな成長ドライバーとして期待されています(出典: Comcast earnings top analyst estimates despite broadband customer losses)。
3. Peacockストリーミングサービスの収益化
Peacockのメディア調整EBITDAは21%増の10億ドルを達成。2024年通期で売上46%成長、EBITDA損失10億ドル改善により、配信事業の収益化が進んでいます。加入者数は3600万人で停滞していますが、ARPU(1ユーザーあたりの平均売上高)向上により収益性を改善しています。
(2) 注目テーマ(ケーブルネットワーク事業スピンオフ・ワイヤレスサービス拡大・Peacockとテーマパーク強化)
投資家が注目するキーワードは以下の通りです:
- ケーブルネットワーク事業のスピンオフ: 2024年11月に発表され、2026年1月完了予定。USA Network、CNBC、MSNBCなどのケーブルTVネットワークを独立企業として分離し、成長事業に集中する戦略です(出典: Comcast Announces Intention to Create Leading Independent Media Business Through Spin-off)。
- ワイヤレスサービスの拡大: MVNOモデルとWiFiオフロードを活用し、ワイヤレス事業を拡大。住宅ブロードバンド契約の14%が利用しており、今後の成長余地が大きいと期待されています。
- Peacockストリーミングとテーマパーク強化: Peacockの収益化とEpic Universe開園により、メディア・エンターテインメント事業の成長を目指しています。
(3) 投資家の関心・懸念点
関心: 割安なバリュエーションと配当利回り(約3.0~3.5%)が魅力です。アナリスト23名のコンセンサスレーティングは「買い」で、平均目標株価41.98ドル(現在株価30.60ドルから41.25%上昇)と評価されています。スピンオフ後は成長事業が売上の70%を占める見込みで、事業構造の改善に期待が集まっています。
懸念: ブロードバンド加入者の減少が継続しており、2024年Q4に13.9万人減(予想10万人減を上回る)、2025年Q1も19.9万人減と、光ファイバーと固定無線プロバイダーとの競争激化により加入者流出が止まりません。ケーブルTV加入者も31.1万人減とコードカッティングが加速しており、従来型ケーブル事業が構造的に衰退しています(出典: コムキャスト、ブロードバンド加入者が予想上回る落ち込み-競争過酷)。
さらに、EPS予想は今後3年間で年率-15.5%減と厳しい見通しで、売上成長率(年率1.3%)は米国市場平均(9.2%)やテレコムサービス業界平均(6.83%)を大きく下回る見込みです。配当の持続可能性に注意が必要です。
2. コムキャストの事業内容・成長戦略
(1) 主力事業(Xfinityブロードバンド・NBCユニバーサル・Sky)
コムキャストは、以下3つの主力事業を展開しています:
- Xfinityブロードバンド(ケーブル通信): 米国最大のケーブルテレビ・ブロードバンド事業者として、Xfinityブランドでインターネット・ケーブルTV・電話サービスを提供。ワイヤレス事業(MVNOモデル)も拡大中。
- NBCユニバーサル: 映画(ユニバーサル・ピクチャーズ)、テレビ(NBC、USA Network、CNBC、MSNBC)、テーマパーク(ユニバーサル・スタジオ)、ストリーミング(Peacock)を統合的に運営。
- Sky: 英国・ドイツ・イタリアで衛星放送・ブロードバンドサービスを提供。欧州市場でのプレゼンスを持つ。
これらの事業により、通信・メディア・エンターテインメントの多角化を実現しています。
(2) セクター・業種の説明(Communication Services - Media)
コムキャストは、Communication Services(通信サービス)セクターのMedia(メディア)業種に属しています。ケーブル通信とメディアコンテンツの両方を手がけることで、垂直統合のメリットを享受しています。ただし、ストリーミング市場の競争激化とコードカッティング(ケーブルTV解約)により、従来型ケーブル事業は逆風に直面しています。
(3) ビジネスモデルの特徴(多角化戦略と6つの成長柱)
コムキャストのビジネスモデルの特徴は、以下の通りです:
- 多角化戦略: ケーブル通信、メディアコンテンツ、テーマパークの3分野で収益を分散し、リスクを低減
- 6つの成長柱: 住宅ブロードバンド、ワイヤレス、ビジネスサービス、テーマパーク、ストリーミング、プレミアムコンテンツに集中し、成長を加速
- 垂直統合: NBCユニバーサルのコンテンツをXfinityやPeacockで配信し、顧客をエコシステム内に囲い込む
スピンオフ後は、成長事業(ブロードバンド、ワイヤレス、Peacock、テーマパーク)が売上の70%を占める見込みで、事業ポートフォリオの最適化が進んでいます。
3. 競合との差別化
(1) 主要競合企業(Charter Communications、Verizon、AT&T等)
コムキャストの主要競合企業は以下の通りです:
- Charter Communications: 米国第2位のケーブル事業者(Spectrumブランド)
- Verizon: 光ファイバー(Fios)と無線ブロードバンド(5G Home)を提供
- AT&T: 光ファイバー(AT&T Fiber)と無線ブロードバンド(AT&T Internet Air)を提供
- Netflix、Disney+、Amazon Prime Video: ストリーミング市場での競合
光ファイバーと固定無線プロバイダーとの競争が激化しており、ブロードバンド加入者の流出が続いています。
(2) 競合優位性(米国最大のケーブル事業者、NBCユニバーサル保有)
コムキャストの競合優位性は以下の点にあります:
- 米国最大のケーブル事業者: 規模の経済により、コスト競争力が高い
- NBCユニバーサル保有: 映画・テレビ・テーマパークの自社コンテンツを持ち、Peacockで配信することで差別化
- 多角化戦略: ケーブル通信の衰退をメディア・テーマパーク事業で補完
一方で、光ファイバーの速度優位性や固定無線の低価格により、ブロードバンド市場でのシェア低下が課題です。
(3) 市場でのポジショニング(ブロードバンド・メディア統合企業)
コムキャストは、ブロードバンド・メディア統合企業として、通信とコンテンツの両面で競争力を持ちます。しかし、ストリーミング市場ではNetflixやDisney+に劣り、Peacockの収益化が課題です。テーマパーク事業の拡大により、新たな成長エンジンを構築しようとしています。
4. 財務・配当の実績
(1) 売上高・利益の推移(2025年Q2の業績含む)
コムキャストの売上高・利益は、ブロードバンド加入者減少の影響を受けながらも、テーマパークやPeacockの成長により底堅く推移しています。以下は最新の業績データです(出典: Comcast Corporation 10-K 2024, SEC EDGAR、およびComcast earnings top analyst estimates despite broadband customer losses):
2025年Q2決算(2025年7月発表):
- 調整後EPS: 1.25ドル(予想を上回る)
- 売上: 303.1億ドル(予想を上回る)
- 純利益: 111.2億ドル(Hulu株式売却益含む)
- ユニバーサルテーマパーク売上: 19%増の23.5億ドル(Epic Universe開園効果)
長期財務推移(年次):
年度 | 売上高(億ドル) | 調整後EPS(ドル) |
---|---|---|
2020 | 1,036 | 2.83 |
2021 | 1,164 | 3.54 |
2022 | 1,217 | 3.64 |
2023 | 1,213 | 3.74 |
2024 | 1,230(推定) | 3.80(推定) |
売上は堅調に推移していますが、今後3年間でEPSが年率-15.5%減と予想されており、成長鈍化への懸念があります。
(2) 配当履歴(配当利回り、配当性向)
コムキャストは、安定した配当を継続しています:
- 配当利回り: 約3.0~3.5%(執筆時点、Yahoo Financeより)
- 配当性向: 30~40%程度で推移(適正水準)
- 配当成長: 過去5年で年率10%程度の増配を継続
配当は四半期ごとに支払われ、安定したインカムゲインが期待できます。ただし、今後3年間でEPS年率-15.5%減と予想されているため、増配ペースの鈍化や配当据え置きのリスクに注意が必要です。
(3) 財務健全性(フリーキャッシュフロー、株主還元)
コムキャストの財務健全性は以下の通りです:
- フリーキャッシュフロー(FCF): 年間約120~150億ドルと豊富
- 株主還元: 配当と自社株買いを合わせて年間約100億ドル規模の株主還元を実施
- 負債: 投資適格級の格付けを維持しており、財務レバレッジは適正水準
FCFが豊富なため、配当の持続可能性は高いと言えます。ただし、設備投資(ブロードバンド網の拡張、ERP近代化等)が増加する可能性があり、株主還元余地が縮小するリスクもあります。
※2025年10月時点のデータです。最新情報はComcast Corporation公式IRページをご確認ください。
(出典: Comcast Corporation 10-K 2024, SEC EDGAR)
5. リスク要因
(1) 事業リスク(ブロードバンド加入者減少、コードカッティング加速、Peacock収益化の遅れ)
コムキャストは、以下の事業リスクに直面しています:
ブロードバンド加入者減少
2024年Q4にブロードバンド加入者13.9万人減(予想10万人減を上回る)、2025年Q1も19.9万人減と、光ファイバーと固定無線プロバイダーとの競争激化により加入者流出が継続しています。コア事業の収益基盤が損なわれるリスクがあります。
コードカッティング加速
ケーブルTV加入者が31.1万人減(2024年Q4)と、ストリーミングサービスへの移行(コードカッティング)が加速しています。従来型ケーブル事業が構造的に衰退しており、今後の収益基盤に対する不透明感があります。
Peacock収益化の遅れ
Peacockの加入者数は3600万人で停滞しており、Netflix(2億6000万人超)やDisney+(1億5000万人超)に大きく劣ります。EBITDA損失は改善していますが、収益化が想定より遅れるリスクがあります。
(2) 市場環境リスク(為替、光ファイバー・固定無線との競争、EPS減少予想)
為替リスク
日本人投資家にとって、為替レート(USD/JPY)の変動は重要なリスクです。円高になれば、円換算での配当額や投資元本が減少します。為替手数料(片道0.25円程度)も考慮が必要です。
光ファイバー・固定無線との競争
VerizonのFios(光ファイバー)やAT&TのAT&T Fiber、T-MobileやVerizonの5G Home(固定無線)が競争力を高めており、ブロードバンド市場でのシェア低下が懸念されます。ケーブルの速度劣位が顕在化しつつあります。
EPS減少予想
今後3年間でEPSが年率-15.5%減と予想されており、2025年EPSは4.28ドル見込み。売上成長率(年率1.3%)も低迷しており、成長鈍化への懸念があります。
(3) 規制・競争リスク(ストリーミング市場の競争、スピンオフの影響)
ストリーミング市場の競争
Netflix、Disney+、Amazon Prime Video、Apple TV+など、ストリーミング市場の競争は激化しています。Peacockの差別化が不十分な場合、収益化が想定より遅れるリスクがあります。
スピンオフの影響
ケーブルネットワーク事業のスピンオフ(2026年1月完了予定)により、売上規模が縮小します。スピンオフ後の成長事業への集中がうまくいかない場合、株価が低迷するリスクがあります。
6. まとめ:投資判断のポイント
(1) この銘柄の強み(米国最大のケーブル事業者、多角化戦略、テーマパーク事業成長)
コムキャストの強みは以下の3点です:
- 米国最大のケーブル事業者: 規模の経済によるコスト競争力と、豊富なフリーキャッシュフロー(年間120~150億ドル)
- 多角化戦略: ケーブル通信、NBCユニバーサル、Skyの3本柱で収益を分散し、リスクを低減
- テーマパーク事業の成長: Epic Universe開園により、2025年Q2のユニバーサルテーマパーク売上は19%増。新たな成長ドライバーとして期待
(2) リスク要因(再掲)(加入者減少、コードカッティング、EPS減少予想)
一方で、以下のリスク要因に注意が必要です:
- ブロードバンド加入者減少: 2024年Q4に13.9万人減、2025年Q1に19.9万人減と、競争激化により加入者流出が継続
- EPS減少予想: 今後3年間で年率-15.5%減と予想され、配当の持続可能性に注意が必要
(3) 向いている投資家(配当重視の投資家、割安なバリュー株を求める投資家、メディア・通信セクターに関心がある投資家)
コムキャストは、以下のような投資家に向いています:
- 配当重視の投資家: 配当利回り3.0~3.5%と、安定したインカムゲインを求める投資家に適しています
- 割安なバリュー株を求める投資家: PERやPBRが低めで、アナリスト平均目標株価は現在株価から41.25%上昇と評価されています
- メディア・通信セクターに関心がある投資家: スピンオフ後の成長事業への集中と、テーマパーク事業の拡大に期待する投資家に向いています
免責事項: 本記事は情報提供を目的としており、個別銘柄の推奨ではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。最新の財務データや株価指標は、証券会社のサイトやComcast Corporation公式IRページでご確認ください。
※米国株投資には為替リスクがあります。円高になれば、円換算での配当額や投資元本が減少する点にご注意ください。