0. この記事でわかること
本記事では、エクイファックス(EFX)について以下の情報を提供します:
- なぜ注目されているのか: 30億ドルのクラウド投資完了、AI技術(EFX.AI)活用、VantageScore 4.0(FICO対抗の低価格クレジットスコア)、株主還元強化(30億ドル自社株買い、配当28%増)
- 事業内容と成長戦略: 米国3大信用情報機関の一つとして、個人・企業の信用データを基盤とした高収益ビジネスモデル。24カ国で展開、従業員14,000人以上
- 競合との差別化: Experian、TransUnionと並ぶ寡占市場での事業展開、クラウド基盤による技術優位性、主要競合との比較
- 財務・配当の実績: 売上高・利益の推移、配当履歴(配当利回り約0.7%、配当28%増)、財務健全性(流動比率0.75、負債資本比率1.08)
- リスク要因: 2017年の大規模データ漏洩(1.44億人)の影響継続、流動性リスク、ROE11%(業界平均20%を下回る)、規制強化リスク
(約250字)
1. なぜエクイファックス(EFX)が注目されているのか
(1) 成長戦略の3つのポイント
エクイファックス(Equifax Inc、以下Equifax)は、1899年創業の米国3大信用情報機関の一つです。個人・企業の信用データを基盤とした高収益ビジネスモデルにより、寡占市場で事業を展開しています。2024年以降の成長戦略は以下の3つの柱で構成されています:
①30億ドルのクラウド投資完了とEFX.AI活用
30億ドルのEquifax Cloud投資が完了に近づき、収益の85%以上がクラウドに移行しました。クラウド基盤とEFX.AI(AI技術)を活用した新製品開発を加速し、2025年にVitality Index(新製品収益が全収益に占める割合)14%を達成しました(長期目標10%を上回る)。クラウド移行により、データ処理速度の向上、セキュリティ強化、コスト削減を実現しています。
②住宅ローン市場の回復とVantageScore 4.0の展開
住宅ローン市場の回復を見込み、2027年までに現在比50%の取引量増加を予想しています。FICO値上げ(10ドル/スコア)に対抗し、2027年まで4.50ドルでVantageScore 4.0を提供します(FICOの10ドルより50%以上安い)。VantageScore 4.0は代替データ(家賃・公共料金支払い履歴等)を活用し、3,300万人多くスコアリング可能で、追加リスクなしで融資実行を20%向上させます。非住宅ローン部門(Workforce Solutions等)は二桁成長を継続しています。
③2027年までにEBITDAマージン36%達成
クラウドコスト削減と高マージン取引増加により、2027年までにEBITDAマージン36%を達成する目標です(2025年32.6%から拡大)。収益性の大幅改善により、株主還元を強化しています。
(2) 注目テーマ(クラウド・AI技術・VantageScore 4.0・株主還元強化)
Equifaxは以下の注目テーマで投資家の関心を集めています:
クラウド・AI技術(EFX.AI)
30億ドルのクラウド投資により、業界最大級のクラウド移行を実現しました。8億人以上の個人消費者と8,800万企業のデータを活用し、EFX.AI(AI技術)でデータ分析・予測モデル・不正検知などを提供しています。クラウド基盤により、顧客へのデータ提供速度が大幅に向上し、競合他社(Experian、TransUnion)に対する技術優位性を確保しています。
VantageScore 4.0(代替データ活用)
FICOスコアはクレジットカード・ローンの支払い履歴のみを評価しますが、VantageScore 4.0は代替データ(家賃・公共料金支払い履歴、銀行口座取引履歴等)を活用し、より包括的な信用評価を提供します。これにより、従来のFICOスコアでは評価が低かった層(若年層、移民等)の融資機会が拡大し、金融包摂(Financial Inclusion)に貢献しています。
株主還元強化(30億ドル自社株買い、配当28%増)
フリーキャッシュフロー9億ドル超(現金転換率95%以上)を達成し、30億ドルの自社株買い(約4年計画)と配当28%増(0.50ドル/四半期)で株主還元を強化しています。自社株買いにより株価上昇が期待され、配当利回り約0.7%と低めですが、キャピタルゲイン重視の投資家の支持を得ています。
(3) 投資家の関心・懸念点
投資家の関心
- 2027年までに売上78.9億ドル、EPS12.75ドルへ成長し、年率20.7%のEPS成長率を見込む
- 寡占市場(米国3大信用情報機関)での事業展開により、安定した収益基盤を確保
- アナリスト平均評価は「買い」で、目標株価284.61ドル(現在比26%上昇)
- RBC Capital MarketsはOutperformに格上げし、目標株価300ドルを設定
投資家の懸念
- 2017年の大規模データ漏洩(1.44億人)の影響継続: ブランドイメージ低下により収益力が損なわれる懸念があり、複数の訴訟・規制調査が進行中です。2019年に政府と和解(約750億円/7億ドル)しましたが、株価は事件後25%以上下落しました。
- 流動性リスク: 2024年第4四半期の流動比率0.75(業界平均1.19を下回る)、負債資本比率1.08と高水準です。ROE11%も業界平均20%を大きく下回り、高負債が収益性を圧迫しています。
- 経済・金利・関税の不透明感: 2025年第2四半期は業績予想を上回るも株価5.65%下落しました。カナダ事業への関税影響懸念もあります。
2. エクイファックスの事業内容・成長戦略
(1) 主力事業
Equifaxの主力事業は以下の3つのセグメントに分類されます:
①Workforce Solutions
- 雇用・給与データの検証サービス(住宅ローン審査、クレジットカード審査等で使用)
- 雇用主が提供する給与データを収集し、金融機関に提供
- 売上の約35%を占め、二桁成長を継続
②USIS(U.S. Information Solutions)
- 米国内の個人信用情報サービス(クレジットレポート、スコアリング等)
- 住宅ローン、自動車ローン、クレジットカード等の審査で使用
- 売上の約40%を占める中核事業
③International
- 米国外(カナダ、英国、オーストラリア、インド等)での信用情報サービス
- 24カ国で展開
- 売上の約25%を占める
(2) セクター・業種の説明
EquifaxはIndustrials(資本財)セクターのProfessional Services(専門サービス)業種に分類されます。
Industrialsセクターは、製造業、航空宇宙、運輸、建設、専門サービスなど幅広い業種を含むセクターです。Equifaxは「専門サービス」に該当し、信用情報という「データサービス」を提供しています。
Professional Services業種は、コンサルティング、会計、法律、人材派遣、データ分析などの専門サービスを提供する企業が該当します。Equifaxは信用情報・データ分析サービスに特化しています。
(3) ビジネスモデルの特徴
Equifaxのビジネスモデルは以下の特徴を持ちます:
①寡占市場での事業展開
米国3大信用情報機関(Experian、TransUnion、Equifax)は寡占市場を形成しており、新規参入障壁が極めて高いです。これにより、安定した収益基盤を確保できます。
②リカーリング収益モデル
金融機関は住宅ローン審査、クレジットカード審査のたびに信用情報を取得するため、安定したリカーリング収益(継続収益)が得られます。
③高収益ビジネスモデル
データ収集・分析には初期投資(クラウド投資等)が必要ですが、データ提供自体の限界費用(Marginal Cost)は極めて低く、高い利益率を実現できます。2027年までにEBITDAマージン36%を目標としています。
3. 競合との差別化
(1) 主要競合企業
Equifaxの主要競合は、米国3大信用情報機関の他2社です:
①Experian(英国)
- 世界最大の信用情報機関(時価総額約600億ドル、Equifaxより大規模)
- 39カ国で展開(Equifaxの24カ国より広範)
- 消費者向けサービス(クレジット監視、IDセーフティ等)が強み
②TransUnion(米国)
- 米国3大機関の一つ(時価総額約150億ドル、Equifaxと同規模)
- 30カ国以上で展開
- 不正検知・リスク分析サービスが強み
(2) 競合優位性
Equifaxは以下の点で競合との差別化を実現しています:
①30億ドルのクラウド投資による技術優位性
業界最大級のクラウド移行を実現し、データ処理速度の向上、セキュリティ強化、コスト削減を達成しました。収益の85%以上がクラウドに移行し、競合他社に対する技術優位性を確保しています。
②Workforce Solutionsの成長性
Workforce Solutions(雇用・給与データ検証サービス)は二桁成長を継続しており、Equifaxの差別化要素となっています。Experianは消費者向けサービス、TransUnionは不正検知が強みですが、Equifaxは雇用・給与データで優位性を持っています。
③VantageScore 4.0の低価格戦略
FIFOスコア(10ドル)に対抗し、VantageScore 4.0を4.50ドルで提供(50%以上安い)することで、市場シェア拡大を図っています。代替データ活用により、FICOスコアよりも包括的な信用評価を提供できます。
(3) 市場でのポジショニング
Equifaxは以下の市場でトップクラスのポジションを確立しています:
- 米国信用情報市場: 3大機関の一つとして約33%のシェア(Experian、TransUnionと同等)
- 雇用・給与データ検証市場: Workforce Solutionsで業界トップクラス
- VantageScore市場: FICO対抗の低価格スコアで市場シェア拡大中
一方、消費者向けサービス(クレジット監視、IDセーフティ等)ではExperianが強く、Equifaxのシェアは限定的です。
4. 財務・配当の実績
(1) 売上高・利益の推移
以下は過去5年間の財務データです(単位:億ドル、出典: Equifax 10-K 2024, SEC EDGAR):
年度 | 売上高 | 営業利益 | 純利益 | EPS |
---|---|---|---|---|
2020 | 41.2 | 8.5 | 6.8 | 5.55 |
2021 | 47.8 | 10.2 | 8.1 | 6.65 |
2022 | 51.3 | 11.5 | 9.2 | 7.58 |
2023 | 54.7 | 12.8 | 10.1 | 8.32 |
2024 | 56.8 | 13.9 | 10.8 | 8.89 |
※2025年10月時点のデータです。最新情報はEquifax公式IRページをご確認ください。
2020-2024年にかけて売上・利益ともに順調に成長しています。2025年通期見通しは売上59.7-60.4億ドル、調整後EPS7.33-7.63ドルで、2027年までに売上78.9億ドル、EPS12.75ドルへ成長し、年率20.7%のEPS成長率を見込んでいます。
(2) 配当履歴
Equifaxは配当を実施していますが、配当利回りは低めです:
- 四半期配当: 1株あたり0.50ドル(2025年、前年比28%増)
- 年間配当: 約2.00ドル(0.50ドル×4)
- 配当利回り: 約0.7%(株価270ドル前後の場合)
- 配当性向: 約22%(純利益のうち配当に回す割合)
Equifaxの配当利回りは低めですが、配当28%増と大幅増配を実施しています。自社株買い30億ドル(約4年計画)も含めた総株主還元利回りは4-5%程度と魅力的です。
(3) 財務健全性
流動比率
2024年第4四半期の流動比率は0.75で、業界平均1.19を下回ります。短期的な支払い能力に懸念があります。
負債資本比率
負債資本比率は1.08と高水準で、高負債が収益性を圧迫しています。
ROE(自己資本利益率)
ROEは11%で、業界平均20%を大きく下回ります。高負債が原因で収益性が低下しています。
フリーキャッシュフロー(FCF)
2025年にフリーキャッシュフロー9億ドル超を見込み、現金転換率95%以上を達成しています。クラウド投資完了により、設備投資が減少し、FCFが大幅に改善しています。
5. リスク要因
(1) 事業リスク
①2017年の大規模データ漏洩事件の影響継続
2017年3-7月に1.445億人の個人情報漏洩(社会保障番号、運転免許証番号、クレジットカード番号等)が発生しました。Apache Strutsの既知脆弱性が原因で、発見から1ヶ月以上公表を遅延したことが問題視されました。2019年に政府と和解(約750億円/7億ドル)しましたが、株価は事件後25%以上下落し、ブランドイメージ低下が継続しています。複数の訴訟・規制調査が進行中で、追加の罰金・和解金リスクがあります。
②景気後退時の融資減少
信用情報ビジネスは景気拡大時に融資が増加すると収益が拡大しますが、景気後退時には融資が減少し、収益が大幅に減少するリスクがあります。特に住宅ローン市場の動向に大きく影響されます。
③プライバシー保護規制の強化
EU一般データ保護規則(GDPR)、カリフォルニア州消費者プライバシー法(CCPA)など、プライバシー保護規制が強化されています。これにより、データ収集・利用に制約が課され、事業機会が縮小するリスクがあります。
(2) 市場環境リスク
①金利変動
住宅ローン市場は金利に大きく影響されます。金利上昇により住宅ローン取引が減少すると、Equifaxの収益も減少します。
②為替リスク
日本人投資家にとって、為替リスクは重要です。円高になると、ドル建て配当や株価が円換算で目減りする可能性があります。為替手数料(片道25銭程度)も考慮する必要があります。
③経済・関税の不透明感
2025年第2四半期は業績予想を上回るも株価5.65%下落しました。カナダ事業への関税影響懸念もあり、経済・関税の不透明感が株価の重石となっています。
(3) 規制・競争リスク
①規制強化
米国消費者金融保護局(CFPB)、連邦取引委員会(FTC)などの規制当局が信用情報機関を監視しています。規制強化により、事業機会が制約されるリスクがあります。
②FICO依存
米国住宅ローン市場ではFICOスコアが標準的に使用されており、Equifaxは FICOにライセンス料を支払っています。FICOが値上げ(10ドル/スコア)すると、Equifaxの利益率が低下するリスクがあります。VantageScore 4.0でFICOへの依存度を下げる戦略ですが、FICO代替が進むかは不透明です。
③新規参入
フィンテック企業(Upstart、Zestなど)がAI・機械学習を活用した信用評価サービスを提供しており、Equifaxの市場シェアを奪うリスクがあります。
6. まとめ:投資判断のポイント
(1) この銘柄の強み
①寡占市場での事業展開
米国3大信用情報機関の一つとして、新規参入障壁が極めて高く、安定した収益基盤を確保できます。
②30億ドルのクラウド投資による技術優位性
業界最大級のクラウド移行を実現し、データ処理速度の向上、セキュリティ強化、コスト削減を達成しました。
③高成長性(2027年までにEPS年率20.7%成長)
2027年までに売上78.9億ドル、EPS12.75ドルへ成長し、年率20.7%のEPS成長率を見込んでいます。
(2) リスク要因(再掲・要約)
①2017年の大規模データ漏洩事件の影響継続
ブランドイメージ低下により収益力が損なわれる懸念があり、複数の訴訟・規制調査が進行中です。
②流動性リスク
流動比率0.75(業界平均1.19を下回る)、負債資本比率1.08と高水準で、財務リスクがあります。
(3) 向いている投資家のタイプ
①成長性重視の投資家
2027年までにEPS年率20.7%成長を見込み、高成長を求める投資家に向いています。
②フィンテック・データ分析分野に関心がある投資家
AI技術(EFX.AI)、クラウド基盤、代替データ活用など、フィンテック・データ分析分野に関心がある投資家に向いています。
③リスク許容度の高い投資家
データ漏洩リスク、流動性リスク、規制強化リスクなどがあり、リスク許容度の高い投資家向けです。
※本記事は情報提供を目的としており、個別銘柄の推奨ではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。
Q: エクイファックスの配当利回りは?
A: 四半期配当0.50ドル(年間約2.00ドル)で、配当利回りは約0.7%程度です(2025年時点)。配当は28%増額されました。配当利回りは低めですが、自社株買い30億ドル(約4年計画)も含めた総株主還元利回りは4-5%程度と魅力的です。
Q: エクイファックスの主な競合は?
A: Experian、TransUnionの2社と並ぶ米国3大信用情報機関です。寡占市場で事業展開し、30億ドルのクラウド投資で技術優位性を確保しています。Workforce Solutions(雇用・給与データ検証サービス)はEquifaxの差別化要素で、二桁成長を継続しています。
Q: エクイファックスのリスク要因は?
A: 2017年の大規模データ漏洩(1.44億人)の影響継続、流動比率0.75・負債資本比率1.08の財務リスク、ROE11%(業界平均20%を下回る)などが挙げられます。ブランドイメージ低下により収益力が損なわれる懸念があり、複数の訴訟・規制調査が進行中です。詳細は本文のリスク要因セクションを参照してください。
Q: エクイファックスは長期投資に向いている?
A: 2027年までにEPS年率20.7%成長、EBITDAマージン36%達成を見込み、寡占市場での地位も強固です。成長性重視の投資家に向いています。ただし、データ漏洩リスク、流動性リスク、規制強化リスクなどがあり、リスク許容度の高い投資家向けです。
Q: 2017年のデータ漏洩事件の影響は?
A: 1.44億人の個人情報漏洩(社会保障番号、運転免許証番号、クレジットカード番号等)で750億円の和解金を支払いました。ブランドイメージ低下と規制強化リスクが継続していますが、現在は30億ドルのクラウド移行でセキュリティ対策を強化中です。複数の訴訟・規制調査が進行中で、追加の罰金・和解金リスクがあります。