0. この記事でわかること
本記事では、フォード・モーター(F)について以下の情報を提供します:
- なぜ注目されているのか: 米国自動車ビッグ3の一角として100年以上の歴史を持つ伝統企業。Ford+戦略でEV転換を推進し、配当利回り4.8%の高配当銘柄として投資家の関心を集める
- 事業内容と成長戦略: Ford Blue(内燃機関/ハイブリッド)、Ford Model e(EV)、Ford Pro(商用車)の3部門体制。2030年までにグローバル販売の40%をEVとする目標
- 競合との差別化: F-150ピックアップトラックで圧倒的シェア、商用車事業(Ford Pro)が好調でQ2 2025は収益11%増
- 財務・配当の実績: 2025年Q2調整後EPS 37セント(予想33セント上回る)、配当利回り4.8%、配当性向76.92%
- リスク要因: 2025年に記録的な109件のリコール、EV事業で55億ドルの損失見込み、関税により20億ドルの純EBIT悪化を予想
フォード・モーターは、F-150ピックアップトラックで米国市場トップシェアを誇る伝統的自動車メーカーです。高配当銘柄としての魅力とEV転換期の成長戦略の両面を持ちますが、品質問題(リコール)とEV事業の赤字拡大が短期的な懸念材料となっています。
1. なぜフォード・モーター(F)が注目されているのか
(1) Ford+戦略と電動化への転換
フォード・モーターは、2021年5月にFord+戦略を発表し、電気自動車(EV)、商用車、コネクテッドサービスを成長の3本柱としています。
Ford+戦略の3本柱
①電気自動車(EV):2030年までにグローバル販売の40%をEVとする目標を掲げ、2026年までに500億ドルをEV開発に投資します。主力商品はF-150ライトニング(ピックアップトラックのEV版)、Mustang Mach-E(SUV型EV)、Eトランジット(商用バンのEV版)です。
②商用車:Ford Pro部門として独立させ、商用顧客向けに車両・サービス・デジタルソリューションを統合提供します。Q2 2025で収益11%増と好調な業績を示しています。
③コネクテッドサービス:車両データを活用した付加価値サービス(フリート管理、予知保全、デジタル決済など)で継続的な収益源を構築します。
バッテリー生産の内製化
2025年半ばからケンタッキー州のBlueOval SK合弁工場でEトランジットとF-150ライトニング用セルの製造を開始し、コスト大幅改善とIRA補助金対象化を実現します。Mustang Mach-Eのバッテリー生産も2025年にポーランドからミシガンに移管し、IRA補助金の対象となります。
コスト削減とポートフォリオ最適化
2025年に10億ドルの純コスト削減を目標とし、2026年に新型商用バン、2027年に2種類の先進ピックアップトラック、電動化3列SUVを投入する計画です。
(2) 高配当銘柄としての魅力
フォード・モーターは、配当利回り約4.8%の高配当銘柄として、配当収入を重視する投資家の関心を集めています。
配当の復活
2020年のコロナ危機で配当を一時停止しましたが、2022年に復活させました。配当復活は、業績回復と財務基盤の安定を示すシグナルとして市場から好意的に受け止められました。
配当性向の懸念
配当性向(TTM)は76.92%と高く、持続性に懸念があります。EV投資により短期的には利益が圧迫されるため、配当維持には業績の安定が必要です。
(3) 投資家の関心・懸念点
投資家は、高配当利回りとF-150ピックアップトラックでの圧倒的シェア、商用車事業の好調に注目しています。一方で、以下の懸念点が存在します:
品質問題とリコール
2025年に米国で記録的な109件のリコールを発行し、品質問題が10年来の課題として深刻化しています。次点のステランティスは30件のみであり、フォードのリコール件数は異常に多い水準です。
EV事業の赤字拡大
Ford Model e部門は2024年に51億ドルの損失を計上し、2025年も50~55億ドルの損失を予想しています。競合他社に対して70~80億ドルのコスト劣位があり、EV事業の収益化には時間がかかる見込みです。
関税とサプライチェーンリスク
2025年に約20億ドルの関税影響を見込み、グローバルサプライチェーンが関税の影響を受けています。米国内で組み立てる車両が80%ですが、部品の多くは海外から調達しており、関税による純EBIT悪化が避けられません。
2. フォード・モーターの事業内容・成長戦略
(1) 3部門体制(Ford Blue・Model e・Pro)
フォード・モーターは、2022年3月にEV事業と従来車事業を分離し、以下の3部門体制としました:
Ford Blue(内燃機関/ハイブリッド)
従来型のガソリン車・ディーゼル車・ハイブリッド車を扱う部門です。主力商品はF-150ピックアップトラック(ガソリン版)、エクスプローラー(SUV)、マスタング(スポーツカー)などです。利益率が高く、EV事業の赤字を補う収益源となっています。
Ford Model e(EV)
EV専門部門で、F-150ライトニング、Mustang Mach-E、Eトランジットを展開します。2024年に51億ドルの損失を計上し、2025年も50~55億ドルの損失を予想しています。バッテリーコストの高さと生産規模の不足が赤字の主因です。
Ford Pro(商用車)
商用顧客向けに車両・サービス・デジタルソリューションを統合提供する部門です。Q2 2025で収益11%増と好調な業績を示しており、フリート管理ソフトウェア、予知保全サービス、デジタル決済などの付加価値サービスが収益源となっています。
物件規模
2024年の卸売台数は前年比1.29%増の447万台です。主力ブランド「フォード」と高級車「リンカーン」を展開し、米国市場を中心にグローバルに事業を展開しています。
(2) 米国自動車産業と業種の特徴
フォード・モーターは、消費者セクターの「自動車」業種に分類されます。米国自動車産業の特性として、以下の点が挙げられます:
- 景気敏感性:自動車販売は景気動向に大きく左右され、景気後退局面では販売が急減します
- 資本集約性:工場・設備への投資が巨額で、固定費が高いビジネスモデルです
- 労働組合(UAW)との賃金交渉:定期的に発生し、コスト構造に影響を与えます
- EV転換期の不確実性:バッテリーコスト、充電インフラ、消費者の受容度など不確実性が高い状況です
米国自動車ビッグ3(フォード・GM・ステランティス)は、伝統的に高シェアを維持してきましたが、テスラ等の新興EVメーカーとの競争が激化しています。
(3) ビジネスモデルと成長戦略
フォード・モーターのビジネスモデルは、「ピックアップトラック市場での強み」と「商用車事業での付加価値サービス」という2つの特徴で差別化されています。
ピックアップトラック市場での強み
F-150ピックアップトラックは米国市場で圧倒的シェアを誇り、高い利益率を実現しています。建設業・農業・運送業などの商用利用に加え、個人向けのレジャー用途でも人気が高く、フォードの収益柱となっています。
商用車事業での付加価値サービス
Ford Pro部門では、車両販売に加えてフリート管理ソフトウェア、予知保全サービス、デジタル決済などの付加価値サービスを提供し、継続的な収益源を構築しています。商用顧客のトータルコストオブオーナーシップ(TCO)削減に貢献し、顧客ロイヤルティを高めています。
3. 競合との差別化
(1) 主要競合企業(GM・ステランティス)
フォード・モーターの主要競合企業は、米国自動車ビッグ3の以下2社です:
- GM(ゼネラル・モーターズ):シボレー・GMC・キャデラックなどのブランドを展開。EV戦略ではアルティウムプラットフォームで一本化し、規模の経済を追求
- ステランティス(旧クライスラー):ジープ・ラム・ダッジなどのブランドを展開。2025年のリコール件数は30件とフォードの109件に比べて少ない
これらの競合企業は、いずれも伝統的な自動車メーカーとしてEV転換を進めており、規模の経済と既存ディーラーネットワークを活用した競争を繰り広げています。
(2) ピックアップトラック市場での強み
フォード・モーターの最大の競合優位性は、F-150ピックアップトラックでの圧倒的シェアです。
F-150の市場シェア
米国ピックアップトラック市場でトップシェアを維持し、建設業・農業・運送業などの商用利用に加え、個人向けのレジャー用途でも人気が高い車種です。高い利益率を実現しており、フォードの収益柱となっています。
F-150ライトニング(EV版)
ピックアップトラックのEV版として、従来のF-150ユーザーをEVに移行させる戦略を採用しています。作業現場での電源供給機能など、商用利用を考慮した設計が差別化ポイントです。
(3) 商用車事業での優位性
Ford Pro部門の商用車事業は、競合に対する差別化要因となっています。
フリート管理ソフトウェア
商用顧客向けにフリート管理ソフトウェアを提供し、車両の稼働状況・燃費・メンテナンス時期をリアルタイムで把握できます。これにより商用顧客のトータルコストオブオーナーシップ(TCO)を削減し、顧客ロイヤルティを高めています。
予知保全サービス
車両データを分析し、故障前にメンテナンスを推奨する予知保全サービスを提供します。ダウンタイムの削減により、商用顧客の事業継続性を高めています。
4. 財務・配当の実績
(1) 売上高・利益の推移
フォード・モーターの財務実績は以下の通りです(2025年10月時点で入手可能なデータに基づく):
2025年Q2決算(2025年4-6月期)
- 調整後EPS:37セント(予想33セント上回る)
- 総収益:502億ドル(前年比+5%)
- 調整後EBIT:21.4億ドル(前年27.6億ドルから減少)
- Ford Pro商用事業:収益11%増
Q2は調整後EPSが予想を上回りましたが、調整後EBITは前年比で減少しており、EV事業の赤字が経営を圧迫しています。
2025年通期ガイダンス
- 調整後EBIT:65~75億ドル(関税前は70~85億ドルから下方修正)
- フリーキャッシュフロー:35~45億ドル
- Ford Model e部門の損失:50~55億ドル
関税により約20億ドルの純EBIT悪化を予想し、通期ガイダンスを下方修正しました。
※出典: Ford Motor Company Q2 2025 Earnings Report, Investor Relations
(2) 配当履歴と配当利回り
フォード・モーターは、2022年に配当を復活させ、現在の配当利回りは約4.8%です。
配当復活の経緯
2020年のコロナ危機で配当を一時停止しましたが、2022年に復活させました。配当復活は、業績回復と財務基盤の安定を示すシグナルとして市場から好意的に受け止められました。
配当性向の懸念
配当性向(TTM)は76.92%と高く、持続性に懸念があります。EV投資により短期的には利益が圧迫されるため、配当維持には業績の安定が必要です。
(3) 財務健全性
フォード・モーターの財務健全性は、以下の指標で評価されます:
アルトマンZスコア
1.08と低く、今後2年以内に破綻する可能性を示唆しています。これは高水準の純負債が成長投資や株主配当の制約要因となっていることを反映しています。
投下資本利益率(ROIC)
加重平均資本コストを下回り、資本の非効率利用が問題となっています。EV投資により短期的にはROICが低下する見込みです。
インサイダー保有率
0.85%と低く、機関投資家保有率も29.25%と低水準です。内部関係者はむしろ株を売却する傾向があり、経営陣の自社株保有意欲が低い状況です。
長期見通し
アナリストは、年間EPS成長率22.5%、収益成長率0.9%、3年後のROE 11.1%を予想しています。高水準の純負債が成長投資や配当を制約する可能性があります。
※財務データは最新決算(2025年Q2)で確認してください。リコールと品質問題が株価に悪影響を与える可能性があるため、四半期ごとの最新情報のチェックが重要です。
5. リスク要因
(1) 品質問題とリコール
フォード・モーターの最大のリスクは、品質問題とリコールの多発です。
記録的なリコール件数
2025年に米国で記録的な109件のリコールを発行し、品質問題が10年来の課題として深刻化しています。次点のステランティスは30件のみであり、フォードのリコール件数は異常に多い水準です。
ブランド価値への影響
リコールの多発は、ブランド価値と顧客信頼を損ない、長期的な販売に悪影響を与えるリスクがあります。品質改善には時間とコストがかかり、短期的な収益改善は期待しにくい状況です。
(2) EV事業の赤字拡大
Ford Model e部門の損失
2024年に51億ドルの損失を計上し、2025年も50~55億ドルの損失を予想しています。競合他社に対して70~80億ドルのコスト劣位があり、EV事業の収益化には時間がかかる見込みです。
バッテリーコストの高さ
バッテリーコストが高く、生産規模の不足も赤字の主因となっています。2025年半ばからBlueOval SK合弁工場でバッテリー生産を開始しますが、コスト削減効果が本格化するのは2026年以降と見られています。
(3) 関税・サプライチェーンリスク
関税による純EBIT悪化
2025年に約20億ドルの関税影響を見込み、グローバルサプライチェーンが関税の影響を受けています。米国内で組み立てる車両が80%ですが、部品の多くは海外から調達しており、関税による純EBIT悪化が避けられません。
サプライチェーンの脆弱性
グローバルサプライチェーンの複雑性が、関税リスクを増幅しています。サプライチェーン再編には時間とコストがかかり、短期的な対応は困難です。
為替リスク(日本人投資家向け)
米国株投資では、為替レートの変動により円換算での投資成果が大きく変動します。ドル高・円安局面では為替差益が期待できますが、ドル安・円高局面では為替差損が発生します。ドル建て資産としてのリスク管理が必要です。
6. まとめ:投資判断のポイント
(1) フォード・モーターの強み
フォード・モーターの強みは、以下の3点に集約されます:
F-150ピックアップトラックでの圧倒的シェアと高い利益率:米国市場でトップシェアを誇り、建設業・農業・運送業などの商用利用に加え、個人向けのレジャー用途でも人気。フォードの収益柱として安定した利益を生み出す
商用車事業(Ford Pro)の好調とデジタルサービス展開:Q2 2025で収益11%増。フリート管理ソフトウェア、予知保全サービス、デジタル決済などの付加価値サービスで継続的な収益源を構築
高配当利回り約4.8%と配当復活の実績:2022年に配当を復活させ、配当収入を重視する投資家の関心を集める。ただし配当性向76.92%と高く、持続性に注意が必要
(2) リスク要因(再掲)
リスク要因として、以下の3点を再認識する必要があります:
品質問題とリコールの多発(2025年に109件):次点のステランティス30件に比べて異常に多い水準。ブランド価値と顧客信頼を損ない、長期的な販売に悪影響を与えるリスク
EV事業の赤字拡大(2025年に50~55億ドルの損失予想):競合他社に対して70~80億ドルのコスト劣位。バッテリーコストの高さと生産規模の不足が赤字の主因で、収益化には時間がかかる
関税・サプライチェーンリスク(2025年に20億ドルの純EBIT悪化予想):グローバルサプライチェーンの複雑性が、関税リスクを増幅。サプライチェーン再編には時間とコストがかかる
(3) 向いている投資家
フォード・モーターは、以下のような投資家に向いています:
- 高配当を重視する投資家:配当利回り約4.8%で、配当収入を重視する40代後半〜50代の資産形成層に適している。ただし配当性向76.92%と高く、持続性に注意が必要
- 米国伝統企業への投資を検討する投資家:米国自動車ビッグ3の一角として100年以上の歴史を持つ伝統企業への投資を検討。F-150ピックアップトラックでの圧倒的シェアと商用車事業の好調を評価
- EV転換期の不確実性を許容できる投資家:EV事業の赤字拡大を長期的な成長投資と捉え、短期的な業績悪化を許容できる投資家
一方、以下のような投資家には向いていない可能性があります:
- 品質・リコール問題を懸念する投資家:2025年に109件のリコールを発行し、品質問題が深刻化。ブランド価値への悪影響を懸念する投資家には不向き
- 短期的な収益改善を求める投資家:EV事業の赤字、関税影響により、短期的な業績改善は期待しにくい。調整後EBIT 65~75億ドル(下方修正)と厳しい見通し
免責事項
本記事は情報提供を目的としており、個別銘柄の買い推奨・売り推奨を行うものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。財務データは執筆時点(2025年10月)のものであり、最新情報はFord Motor Company公式IRページおよびSEC EDGARで確認してください。米国株投資には為替リスク・税制(外国税額控除・NISA)が関わるため、詳細は証券会社や税理士にご相談ください。
Q: フォード・モーターの配当利回りは?
A: 約4.8%です(2025年時点)。2022年に配当を復活させましたが、配当性向は76.92%(TTM)と高く、持続性には注意が必要です。EV投資により短期的には利益が圧迫されるため、配当維持には業績の安定が求められます。配当収入を重視する投資家には魅力的ですが、リスク許容度を確認してください。
Q: フォード・モーターの主な競合は?
A: 米国ビッグ3のGM(ゼネラル・モーターズ)とステランティス(旧クライスラー)が主要競合です。ピックアップトラック市場ではF-150で圧倒的シェアを持ち、商用車事業(Ford Pro)ではデジタルサービス展開で差別化を図っています。ただし、2025年のリコール件数109件(ステランティス30件)と品質問題が課題です。
Q: フォード・モーターのリスク要因は?
A: 2025年に記録的な109件のリコール(品質問題の深刻化)、EV事業で50~55億ドルの損失見込み、関税により20億ドルの純EBIT悪化予想などが主なリスクです。アルトマンZスコア1.08(破綻リスク示唆)、高水準の純負債も懸念材料です。詳細は本文「5. リスク要因」を参照してください。
Q: フォード・モーターは長期投資に向いている?
A: 高配当を重視する投資家には魅力的ですが、EV転換期の不確実性(EV事業で50~55億ドル損失)とリコール問題(2025年に109件)により短期的には不安定です。長期投資の場合は、品質改善の進捗とEV事業の収益化を見極める必要があります。リスク許容度を確認し、投資判断はご自身で行ってください。