0. この記事でわかること
本記事では、ハウメット・エアロスペース(HWM)について以下の情報を提供します:
- なぜ注目されているのか: 商業航空機生産回復(ボーイング737 MAX、エアバスA320neo)、防衛需要増加、データセンター向け電力需要を背景としたIGT市場への進出が成長ドライバーです
- 事業内容と成長戦略: 航空機エンジン部品40%、機体構造部品30%を主力とし、スペア部品ビジネス拡大、防衛航空宇宙強化、産業用ガスタービン市場への進出を推進しています
- 競合との差別化: Precision Castparts、Spirit AeroSystemsが主要競合。チタン・アルミ合金の鋳造・鍛造技術、主要顧客との戦略的パートナーシップが強みです
- 財務・配当の実績: 2025年Q2は売上初の20億ドル突破、調整後EBITDAマージン28.7%、フリーキャッシュフロー四半期記録を達成。配当利回りは約0.5%と低めです
- リスク要因: アナリスト評価の混在、関税・原材料コスト上昇、商業輸送市場の軟調、大口資金流入比率の低水準が懸念材料です
1. なぜハウメット・エアロスペース(HWM)が注目されているのか
ハウメット・エアロスペースは、2016年にアルコア(Alcoa)からスピンオフした航空宇宙・防衛向け先端材料メーカーです。チタン・アルミ合金部品、鋳造・鍛造技術を強みとし、商用航空機の生産回復(ボーイング737 MAX、エアバスA320neo)、防衛需要の増加、データセンター向け電力需要増加を背景に注目を集めています。
(1) 成長戦略の3つのポイント
ハウメット・エアロスペースは、以下の3つの成長戦略を推進しています:
- スペア部品ビジネスの拡大: 2024年にスペア売上高が総売上の約17%を占め、今後20%到達を目指しています。レガシーエンジンプログラムと現行エンジンプログラムの両方で堅調なスペア成長を2025年も見込んでいます。スペア部品は高利益率で安定収益源となるため、収益性向上に寄与します
- 防衛航空宇宙の強化: 2024年の防衛航空宇宙売上高は前年比15%増でした。F-35戦闘機とレガシー戦闘機プログラムの両方で2025年も継続成長を期待しています
- 産業用ガスタービン(IGT)市場への進出: データセンター建設による電力需要増加を背景に、産業その他のエンドマーケットでの成長を期待しています。ミシガン州とケンタッキー州で生産能力拡大中で、2025年後半に稼働予定です
(2) 注目テーマ(軽量材料・垂直統合・データセンター電力需要)
投資家が注目するテーマとして、以下の3点が挙げられます:
- 軽量材料のイノベーション(燃費向上・排出ガス削減): 2024年9カ月間でR&Dに2.7億ドルを投資し、燃費向上・排出ガス削減に貢献する軽量材料の開発を推進しています
- 垂直統合ビジネスモデル(先進製造能力と顧客協業の融合): 差別化されたミッションクリティカル部品の提供と信頼できるサプライヤーとしての地位を確立し、Boeing、Airbusなど主要航空機メーカーとの戦略的パートナーシップを構築しています
- データセンター向け電力需要増加(IGT市場の成長ドライバー): AI・クラウドコンピューティングの普及に伴うデータセンター建設ラッシュが、産業用ガスタービン市場の成長を牽引しています
(3) 投資家の関心・懸念点
投資家の関心は、商業航空宇宙・防衛航空宇宙・産業市場での継続成長にあります。2025年の売上高は78.8-81.8億ドル(前年比約8%成長)、調整後EBITDAは22.25-22.75億ドル(前年比約18%成長)を見込んでいます。アナリストコンセンサスはStrong Buy、平均目標株価206.77ドル(最高225.00ドル、最低189.00ドル)です。
一方で、懸念点としては、アナリスト評価の混在(Barclays、Morgan Stanleyなど4機関が「Underperform」評価)、テクニカル弱さ(大口資金流入比率は0.45-0.49と低水準、株価は直近4.91%下落)、関税と原材料コストの影響(2025年後半にマージン低下が予想される)が挙げられます。
2. ハウメット・エアロスペースの事業内容・成長戦略
(1) 主力事業(航空機エンジン部品40%・機体構造30%)
ハウメット・エアロスペースの事業構成は以下の通りです:
- 航空機エンジン部品(40%): チタン・アルミ合金の鋳造・鍛造技術を活用し、GE Aerospace、Pratt & Whitney、Rolls-Royceなど主要エンジンメーカー向けに供給しています
- 機体構造部品(30%): ボーイング737 MAX、エアバスA320neo等の商用機向けに機体構造部品を提供しています
- 産業・商業用途(20%): 産業用ガスタービン、自動車、商業輸送向けに部品を供給しています
- 防衛(10%): F-35戦闘機、レガシー戦闘機プログラム向けに部品を提供しています
主要顧客は、ボーイング、エアバス、GE Aerospace、Pratt & Whitney、Rolls-Royceです。
(2) セクター・業種の説明(産業・航空宇宙防衛)
ハウメット・エアロスペースは、産業セクター(Industrials)の航空宇宙・防衛業種(Aerospace & Defense)に分類されます。航空宇宙・防衛業種は、商用航空機、防衛装備品、宇宙開発向けに部品・システムを提供する業種で、長期的な需要見通しが安定しているとされています。
(3) ビジネスモデルの特徴(アルコアからスピンオフ・先端材料)
ハウメット・エアロスペースは、2016年にアルコア(Alcoa)からスピンオフした企業です(旧Arconic)。2020年にHowmet Aerospaceへ社名変更しました。アルコアのアルミニウム精錬事業から分離し、高付加価値の航空宇宙・防衛向け先端材料に特化した事業モデルを構築しています。
ビジネスモデルの特徴は、垂直統合型の先進製造能力と顧客協業の融合です。R&Dに積極投資し、差別化されたミッションクリティカル部品を提供することで、信頼できるサプライヤーとしての地位を確立しています。
3. 競合との差別化
(1) 主要競合企業(Precision Castparts・Spirit AeroSystems等)
主要競合企業として、以下が挙げられます:
- Precision Castparts(Berkshire Hathaway傘下): 航空宇宙向け鋳造・鍛造部品の大手メーカー。2016年にBerkshire Hathawayが買収しました
- Spirit AeroSystems: ボーイング向け機体構造部品の大手サプライヤー。2024年にボーイングが買収を発表しました
(2) 競合優位性(チタン・アルミ合金技術・主要顧客との戦略的パートナーシップ)
ハウメット・エアロスペースの競合優位性は、以下の点にあります:
- チタン・アルミ合金の鋳造・鍛造技術: 長年の技術蓄積により、高品質な航空機エンジン部品・機体構造部品を提供しています
- 主要顧客との戦略的パートナーシップ: ボーイング、エアバス、GE Aerospace、Pratt & Whitney、Rolls-Royceなど主要顧客との長期契約により、安定した受注基盤を確保しています
- 軽量材料のR&D: 燃費向上・排出ガス削減に貢献する軽量材料の開発により、次世代航空機向けの需要獲得を目指しています
(3) 市場でのポジショニング(航空宇宙向け先端材料メーカー)
ハウメット・エアロスペースは、航空宇宙向け先端材料メーカーとして、商用航空機・防衛・産業用途向けに高付加価値部品を提供しています。スペア部品ビジネスの拡大により、高利益率・安定収益源を確保する戦略を推進しています。
4. 財務・配当の実績
(1) 売上高・利益の推移(Q2 2025は売上初の20億ドル突破)
2025年Q2(2025年4-6月期)の決算では、以下のハイライトが報告されました:
- 売上高: 25.3億ドル(前年比+9%)で、四半期売上高が初めて20億ドルを突破しました
- 調整後EBITDAマージン: 28.7%(前年比+300bp)で、営業キャッシュフロー創出力が大幅に改善しています
- 調整後EPS: 0.91ドル(前年比+36%)で、1株当たり利益が大幅に増加しました
- フリーキャッシュフロー: 3.44億ドルで四半期記録を更新しました
2025年通期のガイダンスは、売上高78.8-81.8億ドル(前年比約8%成長)、調整後EBITDA 22.25-22.75億ドル(前年比約18%成長)です。
(出典: Howmet Aerospace Inc. Q2 2025 Earnings Release, 2025年7月31日)
(2) 配当履歴(四半期配当25%増額・配当利回り約0.5%)
ハウメット・エアロスペースは、2024年に四半期配当を25%増額しました。ただし、配当利回りは約0.5%前後と低めです(株価により変動)。同社は、配当よりも自社株買いを優先する株主還元方針を採用しており、2024年に5億ドルの自社株買いを実施しました。
配当利回りは低いため、インカムゲイン重視の投資家よりも、キャピタルゲイン重視の投資家に向いている銘柄と言えます。
(3) 財務健全性(フリーキャッシュフロー四半期記録・EBITDAマージン28.7%)
財務健全性の指標として、以下の点が挙げられます:
- フリーキャッシュフロー: 2025年Q2は3.44億ドルで四半期記録を更新し、キャッシュ創出力の高さを示しています
- EBITDAマージン: 28.7%(前年比+300bp)で、業界平均を上回る収益性を維持しています
- 自己資本比率: 詳細は10-Kで確認できますが、Berkshire Hathawayなど機関投資家の信頼を得ており、財務健全性は高いと評価されています
(出典: Howmet Aerospace Inc. Q2 2025 Earnings Release, 2025年7月31日)
※2025年10月時点のデータです。最新情報はHowmet Aerospace Inc.公式IRページをご確認ください。
5. リスク要因
(1) 事業リスク(アナリスト評価混在・商業輸送市場軟調)
事業リスクとして、以下の点が挙げられます:
- アナリスト評価の混在: Barclays、Morgan Stanleyなど4機関が「Underperform」評価を付けており、アナリスト間で評価が分かれています。アナリストコンセンサスはStrong Buyですが、一部の機関は慎重な見方をしています
- 商業輸送市場の軟調: 商業輸送市場(トラック・自動車向け)は2025年後半まで軟調と予想されており、産業・商業用途セグメントの成長鈍化が懸念されます
- テクニカル弱さ: 株価は直近4.91%下落し、大口資金流入比率は0.45-0.49と低水準です。機関投資家の買い意欲が低い状況が続いています
(2) 市場環境リスク(関税・原材料コスト・ボーイング生産問題)
市場環境リスクとして、以下の点が挙げられます:
- 関税と原材料コストの影響: 2025年後半にマージン低下が予想されています。米国の関税政策の変更や原材料コストの上昇が収益性に影響を及ぼす可能性があります
- サプライチェーン混乱: 半導体不足、物流遅延などのサプライチェーン混乱が、生産レート増加の遅れにつながる懸念があります
- ボーイング生産問題: 主要顧客のボーイングが737 MAXの生産問題を抱えており、受注減少のリスクがあります
- 為替リスク: 日本人投資家にとって、円高・円安の為替変動により円ベースの投資リターンが影響を受けます。為替手数料も証券会社により異なるため(SBI証券は1ドルあたり片道25銭など)、コストを考慮する必要があります
(3) 規制・競争リスク(大口資金流入低水準・競合激化)
規制・競争リスクとして、以下の点が挙げられます:
- 大口資金流入比率の低水準: 大口資金流入比率は0.45-0.49と全カテゴリーでマイナスであり、機関投資家の買い意欲が低い状況が続いています
- 競合激化: Precision Castparts(Berkshire Hathaway傘下)、Spirit AeroSystems(ボーイング傘下)など、強力な競合企業との競争が激化する可能性があります
- 航空機生産レートの変動: 航空機メーカーの生産レート増減により、受注が大きく変動するリスクがあります
6. まとめ:投資判断のポイント
(1) この銘柄の強み(航空宇宙需要回復・スペア部品成長・防衛需要増)
ハウメット・エアロスペースの強みとして、以下の3点が挙げられます:
- 商業航空宇宙需要の回復: ボーイング737 MAX、エアバスA320neoの生産回復により、航空機エンジン部品・機体構造部品の需要増加が見込まれます
- スペア部品ビジネスの成長: 高利益率・安定収益源であるスペア部品の売上拡大(総売上の20%到達を目指す)により、収益性向上が期待できます
- 防衛需要の増加: F-35戦闘機、レガシー戦闘機プログラム向けの受注増加により、防衛航空宇宙セグメントの成長が継続すると見込まれます
(2) リスク要因(再掲:アナリスト評価対立・関税影響・株価下落4.91%)
リスク要因として、以下の2点を再掲します:
- アナリスト評価の対立: 4機関が「Underperform」評価を付けており、アナリスト間で評価が分かれています。テクニカル指標も弱く、株価は直近4.91%下落しています
- 関税・原材料コスト上昇: 2025年後半にマージン低下が予想されており、収益性悪化のリスクがあります
(3) 向いている投資家(航空宇宙志向・長期成長期待・成長株志向)
ハウメット・エアロスペースは、以下のような投資家に向いています:
- 航空宇宙セクターの成長に期待する投資家: 商用航空機の生産回復、防衛需要の増加に投資したい方
- スペア部品ビジネスの成長を見込む投資家: 高利益率・安定収益源であるスペア部品の売上拡大に期待する方
- 成長株志向の投資家: 配当利回りは低めですが、キャピタルゲイン重視で長期成長を期待する方
免責事項: 本記事は情報提供を目的としており、個別銘柄の推奨ではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。
Q: ハウメット・エアロスペースの配当利回りは?
A: 約0.5%前後です(株価により変動、2025年10月時点)。2024年に四半期配当を25%増額しましたが、配当利回りは低めです。同社は配当よりも自社株買いを優先する株主還元方針を採用しており、2024年に5億ドルの自社株買いを実施しました。配当利回りは低いため、インカムゲイン重視の投資家よりも、キャピタルゲイン重視の投資家に向いている銘柄と言えます。詳細は本文「4. 財務・配当の実績」を参照してください。
Q: ハウメット・エアロスペースの主な競合は?
A: Precision Castparts(Berkshire Hathaway傘下)、Spirit AeroSystemsが主要競合です。Precision Castpartsは航空宇宙向け鋳造・鍛造部品の大手メーカーで、2016年にBerkshire Hathawayが買収しました。Spirit AeroSystemsはボーイング向け機体構造部品の大手サプライヤーで、2024年にボーイングが買収を発表しました。ハウメット・エアロスペースの差別化ポイントは、チタン・アルミ合金の鋳造・鍛造技術、主要顧客(ボーイング、エアバス、GE Aerospace、Pratt & Whitney、Rolls-Royce)との戦略的パートナーシップ、軽量材料のR&D投資(2024年9カ月間で2.7億ドル)です。詳細は本文「3. 競合との差別化」を参照してください。
Q: ハウメット・エアロスペースのリスク要因は?
A: 主なリスク要因は、アナリスト評価の混在(Barclays、Morgan Stanleyなど4機関がUnderperform評価)、関税・原材料コスト上昇(2025年後半にマージン低下が予想される)、商業輸送市場の軟調(2025年後半まで)、大口資金流入比率0.45-0.49の低水準、ボーイング生産問題、サプライチェーン混乱、為替リスクです。テクニカル指標も弱く、株価は直近4.91%下落しています。詳細は本文「5. リスク要因」を参照してください。
Q: ハウメット・エアロスペースは長期投資に向いている?
A: 以下のような投資家に向いています。(1) 航空宇宙セクターの成長に期待する投資家(商用航空機の生産回復、防衛需要の増加に投資したい方)、(2) スペア部品ビジネスの成長を見込む投資家(高利益率・安定収益源であるスペア部品の売上拡大に期待する方)、(3) 成長株志向の投資家(配当利回りは低めですが、キャピタルゲイン重視で長期成長を期待する方)。ただし、アナリスト評価の対立、関税・原材料コスト上昇のリスクがあるため、投資判断はご自身の責任で行ってください。詳細は本文「6. まとめ:投資判断のポイント」を参照してください。
Q: ハウメット・エアロスペースの主力製品は?
A: 航空機エンジン部品(40%)、機体構造部品(30%)が主力です。チタン・アルミ合金の鋳造・鍛造技術を活用し、GE Aerospace、Pratt & Whitney、Rolls-Royceなど主要エンジンメーカー向けに航空機エンジン部品を、ボーイング737 MAX、エアバスA320neo等の商用機向けに機体構造部品を供給しています。その他、産業・商業用途(20%、産業用ガスタービン・自動車・商業輸送向け)、防衛(10%、F-35戦闘機・レガシー戦闘機プログラム向け)の事業構成となっています。詳細は本文「2. ハウメット・エアロスペースの事業内容・成長戦略」を参照してください。