0. この記事でわかること
本記事では、L3ハリス・テクノロジーズ(LHX)について以下の情報を提供します:
- なぜ注目されているのか: 2019年にL3 TechnologiesとHarris Corporationが合併した防衛・航空宇宙大手で、通信システム、センサー、電子戦、宇宙システムが主力。地政学リスクの高まりを背景に、米国防総省予算増加と同盟国への武器輸出拡大が成長ドライバーとして注目されています。
- 事業内容と成長戦略: 宇宙・航空システム(30%)、統合ミッションシステム(30%)、通信システム(25%)、Aerojet Rocketdyne(ロケット推進、15%)の4事業セグメントを展開。LHX NeXtコスト削減プログラムで2025年末までに12億ドル削減を目指しています。
- 競合との差別化: ロッキード・マーチン、ノースロップ・グラマン、レイセオン・テクノロジーズ、BAEシステムズが主要競合ですが、L3ハリスは通信システム・センサー・電子戦に強みがあります。
- 財務・配当の実績: 2025年Q2は売上54億ドル(前年比2%増、有機6%増)、EPS 2.78ドル(前年比16%増)と好調。配当利回りは約2%前後で、24年連続増配の実績があります。
- リスク要因: 防衛予算削減懸念(新政権の効率化重視)、売上ガイダンス下方修正(2026年目標230億ドルから2025年ガイダンス214~217億ドルに引き下げ)、政府契約依存度約80%が主なリスクです。
※本記事は情報提供を目的としており、個別銘柄の投資推奨ではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。
1. なぜL3ハリス・テクノロジーズ(LHX)が注目されているのか
(1) 成長戦略の3つのポイント
L3ハリス・テクノロジーズは、2019年にL3 TechnologiesとHarris Corporationが合併して誕生した防衛・航空宇宙大手です。通信システム、センサー、電子戦、宇宙システムが主力で、米国防総省予算増加と同盟国への武器輸出拡大が成長ドライバーとして投資家から注目を集めています。
同社の成長戦略は以下の3つのポイントに集約されます:
LHX NeXtコスト削減プログラム: 2024年に8億ドルの目標を達成し、2025年末までに12億ドル削減(当初計画より1年前倒し)を目指しています。営業利益率を290bp(ベーシスポイント)改善し10.2%に到達しました。
Trusted Disruptor戦略: 商業モデルを活用し、防衛能力を高速・機敏に提供しています。売上の20%を商業条件で契約し、内部投資で新技術を開発。プライム、サブ、マーチャント供給のいずれでも勝利できるビジネスモデルを構築しています。
ポートフォリオ最適化: Commercial Aviation Solutions(CAS)事業とAerojet Ordnance Tennessee(AOT)部門を売却し、年間売上5.25億ドル減少も、高利益率セグメント(通信システム4%成長、Aerojet Rocketdyne 9%成長)に注力しています。
(2) 注目テーマ(宇宙プログラム・F-35・Aerojet Rocketdyne)
L3ハリスの注目テーマは、以下の3つです:
宇宙プログラム・F-35アップグレード: 宇宙システム(衛星ペイロード、地上システム)とF-35戦闘機向けの電子戦システム・センサーのアップグレードが成長ドライバーです。米国防総省の宇宙予算増加と、F-35の近代化プログラムが追い風となっています。
Aerojet Rocketdyne(2028年に売上40億ドル目標): 2023年にAerojet Rocketdyne(ロケット推進大手)を約45億ドルで買収し、ロケット推進領域に進出しました。2028年に売上40億ドル(現在約30億ドル)を目標としており、宇宙・ミサイル防衛市場での存在感を高めています。
Golden Dome、ミサイル、造船、自律性、レジリエント通信: これらの5つの優先領域で技術開発を加速しています。Golden Dome(衛星防衛システム)、ミサイル防衛、造船向け通信システム、自律性(自律システム)、レジリエント通信(耐障害性の高い通信)に注力しています。
(3) 投資家の関心・懸念点
投資家は、L3ハリスの成長戦略と米国防総省予算増加に期待を寄せる一方で、以下の懸念点も抱えています:
防衛予算削減懸念: 新政権の効率化重視で防衛支出減少の可能性があります。売上の約80%が連邦政府契約に依存しており、政府予算削減や政策転換のリスクがあります。
売上ガイダンス下方修正: 2026年目標230億ドルから、2025年ガイダンスを214~217億ドルに引き下げました(CAS売却影響)。当初の成長期待が後退し、投資家心理が慎重になっています。
アナリストコンセンサスは「Moderate Buy」で目標株価267.50ドル(買い11、ホールド4)と、慎重な見方が広がっています。
2. L3ハリス・テクノロジーズの事業内容・成長戦略
(1) 主力事業
L3ハリス・テクノロジーズは、以下の4つの事業セグメントで構成されています:
Space & Airborne Systems(宇宙・航空システム、売上の約30%):
- 衛星ペイロード、地上システム、航空機搭載センサー、電子戦システムを提供。
- F-35戦闘機向けの電子戦システム、宇宙監視システム、衛星通信が主力です。
Integrated Mission Systems(統合ミッションシステム、売上の約30%):
- 夜間視覚装置(Night Vision Devices)、海洋システム、電子戦装置、センサーを提供。
- 米軍向けの夜間視覚装置で高いシェアを持ちます。
Communication Systems(通信システム、売上の約25%):
- 戦術無線、衛星通信端末、ネットワークインフラを提供。
- 米軍・同盟国向けの戦術無線通信で強みがあります。
Aerojet Rocketdyne(ロケット推進、売上の約15%):
- 2023年に約45億ドルで買収したロケット推進大手。
- 宇宙ロケット、ミサイル推進システムを提供し、2028年に売上40億ドルを目標としています。
(2) セクター・業種の説明
L3ハリスは、Industrials(資本財)セクターのAerospace & Defense(航空宇宙・防衛)業種に属します。防衛大手としては、ロッキード・マーチン、ノースロップ・グラマン、レイセオン・テクノロジーズ、BAEシステムズと並ぶ規模です。
2019年のL3 TechnologiesとHarris Corporationの合併により、世界第6位の防衛コントラクター(Defense Contractor)に成長しました。
(3) ビジネスモデルの特徴
L3ハリスのビジネスモデルは、以下の3つの特徴があります:
政府契約依存度が高い:
- 売上の約80%が連邦政府契約(主に米国防総省)です。
- 長期契約(5-10年)が基本で、予算の安定性が高い一方、政府予算削減リスクもあります。
Trusted Disruptor戦略:
- 商業モデル(Commercial Model)を活用し、防衛能力を高速・機敏に提供します。
- 売上の20%を商業条件で契約し、内部投資で新技術を開発。従来の防衛契約よりも迅速に新技術を提供できます。
ポートフォリオ最適化:
- 非中核事業(CAS、AOT)を売却し、高利益率セグメント(通信システム、Aerojet Rocketdyne)に注力しています。
- これにより、営業利益率を改善し、株主価値向上を図っています。
3. 競合との差別化
(1) 主要競合企業
L3ハリスの主要競合企業は、以下の4社です:
- Lockheed Martin(ロッキード・マーチン): 防衛大手の最大手。F-35戦闘機、ミサイル防衛システムが主力。
- Northrop Grumman(ノースロップ・グラマン): 航空宇宙・防衛大手。B-21爆撃機、宇宙システムが主力。
- Raytheon Technologies(レイセオン・テクノロジーズ): ミサイル・防空システム大手。現在はRTX Corporationに社名変更。
- BAE Systems(BAEシステムズ): 英国の防衛大手。航空機、艦船、電子戦システムが主力。
L3ハリスは、これらの競合と比べて通信システム・センサー・電子戦に強みがあります。
(2) 競合優位性
L3ハリスの競合優位性は、以下の3点です:
2019年の合併による規模拡大:
- L3 TechnologiesとHarris Corporationの合併により、世界第6位の防衛コントラクターに成長しました。
- 合併により、通信システム、センサー、電子戦、宇宙システムの各領域で補完関係を構築しました。
LHX NeXtコスト削減プログラム:
- 2025年末までに12億ドル削減(当初計画より1年前倒し)を目指しています。
- 営業利益率を290bp改善し10.2%に到達し、競合他社との収益性で優位に立っています。
Aerojet Rocketdyne買収によるロケット推進領域進出:
- 2023年に約45億ドルでAerojet Rocketdyneを買収し、ロケット推進領域に進出しました。
- 宇宙ロケット、ミサイル推進システムで高いシェアを持ち、2028年に売上40億ドルを目標としています。
(3) 市場でのポジショニング
L3ハリスは、防衛・航空宇宙市場で以下のポジショニングを確立しています:
- 通信システム・センサー・電子戦のリーダー: 米軍向けの戦術無線通信、夜間視覚装置、電子戦システムで高いシェアを持ちます。
- 宇宙システムの成長: 衛星ペイロード、地上システム、衛星通信で存在感を高めています。米国防総省の宇宙予算増加が追い風です。
- Aerojet Rocketdyneによるロケット推進: 宇宙ロケット、ミサイル推進システムで競合他社と差別化しています。
4. 財務・配当の実績
(1) 売上高・利益の推移
L3ハリスの財務実績は以下の通りです(2025年度は通期ガイダンス):
年度 | 売上高(億ドル) | Non-GAAP EPS(ドル) | フリーキャッシュフロー(億ドル) |
---|---|---|---|
2021 | 181.9 | 10.20 | 20.5 |
2022 | 170.8 | 11.32 | 18.2 |
2023 | 194.2 | 12.55 | 22.1 |
2024 | 213.0 | 13.84 | 23.8 |
2025 | 214-217(予想) | 16.00(予想) | 26.5(予想) |
(出典: L3Harris Technologies Inc 10-K Annual Report 2024, SEC EDGAR)
2024年通期は、売上高213億ドル(前年比10%成長)、Non-GAAP EPS 13.84ドル(前年比10%増)を達成しました。2025年Q2は売上54億ドル(前年比2%増、有機6%増)、EPS 2.78ドル(前年比16%増)と好調です。
2025年通期は売上214~217億ドル、フリーキャッシュフロー26.5億ドル(Q2に2億ドル引き上げ)、Non-GAAP EPS成長16%を見込んでいます。受注83億ドルでbook-to-bill比率1.5倍(過去最高)と、受注も好調です。
(2) 配当履歴
L3ハリスの配当履歴は以下の通りです:
年度 | 年間配当(ドル) | 配当利回り(%) |
---|---|---|
2020 | 3.40 | 1.9 |
2021 | 4.00 | 2.0 |
2022 | 4.40 | 2.2 |
2023 | 4.84 | 2.4 |
2024 | 5.32 | 2.5 |
(出典: Yahoo Finance - LHX, 2025年10月時点)
配当利回りは約2%前後で、24年連続増配の実績があります。L3ハリスは配当貴族銘柄(25年以上連続増配)ではありませんが、安定した増配実績が魅力です。
(3) 財務健全性
財務健全性については、以下の指標に注目です:
- フリーキャッシュフロー: 2024年度は約23.8億ドル、2025年は26.5億ドル(Q2に2億ドル引き上げ)を見込みます。
- 株主還元: 2025年Q1に7.99億ドルの株主還元(自社株買い5.69億ドル、配当2.30億ドル)を実施しました。
- LHX NeXtコスト削減: 2025年末までに12億ドル削減目標。営業利益率を290bp改善し10.2%に到達しました。
2026年に売上230億ドル、営業利益率16%以上を目指しており、財務健全性と成長性を両立しています。
5. リスク要因
(1) 事業リスク
L3ハリスの主な事業リスクは以下の2点です:
防衛予算削減懸念:
- 新政権の効率化重視で防衛支出減少の可能性があります。2024年Q4に、政府効率化重視による防衛支出削減懸念が浮上し、株価が圧迫されました。
- 売上の約80%が連邦政府契約に依存しており、政府予算削減や政策転換のリスクがあります。
プログラム遅延・開発リスク:
- 防衛プログラムは開発期間が長く(5-10年)、技術的課題や予算超過により遅延するリスクがあります。
- プログラムの遅延・キャンセルにより、収益が計画を下回る可能性があります。
(2) 市場環境リスク
市場環境リスクとしては、以下の2点が挙げられます:
サプライチェーン問題・インフレ:
- 原材料価格の上昇、サプライチェーンの混乱により、製造コストが増加するリスクがあります。
- インフレにより、労働コスト・原材料コストが上昇し、収益性が低下する可能性があります。
為替リスク:
- 米ドル建ての株価・配当は、円高局面では円ベースのリターンが減少します。
- 為替レート(USD/JPY)の変動により、円ベースのリターンが大きく変動するリスクがあります。
(3) 規制・競争リスク
規制・競争リスクとしては、以下の2点が挙げられます:
競合との受注競争:
- ロッキード・マーチン、ノースロップ・グラマン、レイセオン・テクノロジーズ、BAEシステムズなどの大手との受注競争が激しい。
- 新規契約の受注競争で敗れた場合、成長が鈍化するリスクがあります。
輸出規制:
- 防衛製品は輸出規制(ITAR: International Traffic in Arms Regulations)の対象で、同盟国への輸出にも制限があります。
- 輸出規制の強化により、国際市場での売上が制約される可能性があります。
6. まとめ:投資判断のポイント
(1) この銘柄の強み
L3ハリス・テクノロジーズの主な強みは以下の3点です:
- 通信システム・センサー・電子戦での強み: 米軍向けの戦術無線通信、夜間視覚装置、電子戦システムで高いシェアを持ちます。
- LHX NeXtコスト削減プログラム: 2025年末までに12億ドル削減目標。営業利益率を290bp改善し10.2%に到達し、競合他社との収益性で優位に立っています。
- 24年連続増配の実績: 配当利回りは約2%前後で、安定した増配実績が魅力です。
(2) リスク要因(再掲)
主なリスク要因は以下の2点です:
- 防衛予算削減懸念: 新政権の効率化重視で防衛支出減少の可能性。売上の約80%が連邦政府契約に依存しています。
- 売上ガイダンス下方修正: 2026年目標230億ドルから、2025年ガイダンスを214~217億ドルに引き下げました(CAS売却影響)。
(3) 向いている投資家
L3ハリス・テクノロジーズは、以下のような投資家に向いています:
- 防衛セクターの安定性を求める投資家: 米国防総省予算増加と、同盟国への武器輸出拡大が成長ドライバーです。
- 地政学リスク高まりによる防衛予算増加に期待する投資家: 宇宙プログラム、F-35アップグレード、Aerojet Rocketdyneの成長に期待できます。
- 安定増配を重視する投資家: 24年連続増配の実績があり、配当利回りは約2%前後です。
ただし、政府予算削減リスクやプログラム遅延を理解した上で、投資判断は最新の財務データ(10-K、10-Q)やアナリストレポートを確認し、ご自身の投資方針に基づいて慎重に行ってください。
※本記事は情報提供を目的としており、個別銘柄の投資推奨ではありません。投資はご自身の判断と責任で行ってください。最新の財務データは、L3Harris公式IRページ(https://investors.l3harris.com/)をご確認ください。
Q: L3ハリス・テクノロジーズの配当利回りは?
A: 約2%前後です(2025年時点)。24年連続増配の実績があり、安定した株主還元を継続しています。2024年度の年間配当は5.32ドル/株です。配当貴族銘柄(25年以上連続増配)ではありませんが、増配実績が魅力です。2025年Q1に7.99億ドルの株主還元(自社株買い5.69億ドル、配当2.30億ドル)を実施しています。
Q: L3ハリス・テクノロジーズの主な競合は?
A: ロッキード・マーチン(F-35戦闘機、ミサイル防衛システム)、ノースロップ・グラマン(B-21爆撃機、宇宙システム)、レイセオン・テクノロジーズ(ミサイル・防空システム)、BAEシステムズ(航空機、艦船、電子戦システム)などが主要競合です。L3ハリスは通信システム、センサー、電子戦、宇宙システムに強みがあり、2019年の合併で規模拡大しました(世界第6位の防衛コントラクター)。詳細は「競合との差別化」を参照してください。
Q: L3ハリス・テクノロジーズのリスク要因は?
A: 防衛予算削減懸念(新政権の効率化重視、売上の約80%が連邦政府契約に依存)、売上ガイダンス下方修正(2026年目標230億ドルから2025年ガイダンス214~217億ドルに引き下げ、CAS売却影響)、サプライチェーン問題・インフレ(原材料価格上昇、労働コスト増加)、プログラム遅延・開発リスクなどがあります。詳細は本文のリスク要因セクションを参照してください。
Q: L3ハリス・テクノロジーズは長期投資に向いている?
A: 防衛セクターの安定性を求める投資家、地政学リスク高まりによる防衛予算増加に期待する投資家に向いています。米国防総省の宇宙予算増加、F-35の近代化プログラム、Aerojet Rocketdyne(2028年に売上40億ドル目標)の成長に期待できます。24年連続増配の実績(配当利回り約2%前後)もあります。ただし、政府予算削減リスクやプログラム遅延を理解した上で、投資判断はご自身で慎重に行ってください。