0. この記事でわかること
本記事では、ノースロップ・グラマン(NOC)について以下の情報を提供します:
- なぜ注目されているのか: 防衛大手5社の一角としての地位、B-21ステルス爆撃機等の先端兵器システム、連続増配と受注残高928億ドル
- 事業内容と成長戦略: 4つの事業セグメント、国際事業の2桁成長と厳選入札戦略、固体ロケットモーター生産倍増計画
- 競合との差別化: 主要競合企業との比較、次世代防衛技術とステルス分野の優位性、M&A戦略による製品ポートフォリオ拡大
- 財務・配当の実績: 売上高・利益の推移と最新業績、連続増配の配当履歴、セグメント別業績と受注状況
- リスク要因: B-21レイダーの累計20億ドル超損失、Sentinel ICBM計画の不確実性、政府予算削減リスクと倫理的懸念
ノースロップ・グラマンは、1939年創業の防衛・航空宇宙大手で、バージニア州に本社を置きます。B-2ステルス爆撃機の開発で有名で、主要顧客は米国政府(売上の85%超)です。日本人投資家には馴染みが薄いですが、安定配当目的では選択肢となります。
1. なぜノースロップ・グラマン(NOC)が注目されているのか
(1) 防衛大手5社の一角としての地位
ノースロップ・グラマンは、米国の防衛・航空宇宙大手5社(Lockheed Martin、Raytheon Technologies、Boeing、General Dynamics、Northrop Grumman)の一角を占めています。防衛産業は、政府契約による安定収益モデルを持ち、景気変動に強い特性があります。
地政学リスクが高まる中、防衛費増額トレンドが世界的に広がっています。米国だけでなく、NATO加盟国、アジア太平洋諸国も防衛予算を増加させており、ノースロップ・グラマンはこの需要増加の恩恵を受けています。
(2) B-21ステルス爆撃機等の先端兵器システム
ノースロップ・グラマンは、B-2ステルス爆撃機の開発で有名です。現在、次世代ステルス爆撃機B-21レイダーの量産移行を進めています。B-21は、ステルス性、長距離飛行能力、核・通常爆撃の両対応など、最先端技術を結集した兵器システムです。
ただし、B-21は累計20億ドル超の損失を計上しており、低率初期生産(LRIP)段階での製造・材料コスト超過が課題となっています(後述のリスク要因で詳述)。
(3) 連続増配と受注残高928億ドル
ノースロップ・グラマンは、連続増配20年超の実績を持ちます。配当利回りは1.5-2%程度で、2025年第2四半期には配当12%増を発表しました。株主還元100%方針を堅持しており、配当と自社株買いを組み合わせた総還元利回りは魅力的です。
受注残高(Backlog)は928億ドルに達し、過去最高を更新しました。これは複数年分の売上を確保していることを意味し、長期的な収益の安定性を示しています。
2. ノースロップ・グラマンの事業内容・成長戦略
(1) 4つの事業セグメント
ノースロップ・グラマンは、4つの事業セグメントで構成されています:
- 航空システム(Aeronautics Systems): B-21レイダーステルス爆撃機、無人機など
- 防衛システム(Defense Systems): ミサイル防衛、兵器システム、固体ロケットモーター、弾薬など
- ミッションシステム(Mission Systems): レーダー、センサー、電子戦システム、サイバーセキュリティなど
- 宇宙システム(Space Systems): 衛星、宇宙打ち上げシステム、戦略通信など
これらのセグメントは、高度に専門化された技術先進製品・サービスを提供しており、米国政府だけでなく国際同盟国向けにも価値を創造しています。
(2) 国際事業の2桁成長と厳選入札戦略
2025年、国際事業が成長ドライバーとなっています。海外売上は2桁成長を続けており、Q2で前年比18%増、年初来14%増を達成しました。ミサイル防衛・核3本柱・兵器システムの世界需要拡大を取り込んでいます。
厳選入札戦略により、財務リターンを最大化しています。GPS衛星・次世代F-35 DAS(分散開口システム)などの入札には参加しない判断を下し、収益性の高いプロジェクトに集中しています。
(3) 固体ロケットモーター生産倍増計画
固体ロケットモーター(ミサイルの推進システム)の生産を、2029年までに現在の年13,000基から25,000基へ倍増させる投資を進めています。世界的なミサイル需要の高まりに対応するもので、防衛システムセグメントの成長を牽引します。
宇宙システムは、2025年後半から成長再開が見込まれています。戦略通信・制限宇宙・推進システムが牽引役となります。
3. 競合との差別化
(1) 主要競合企業(Lockheed Martin等)との比較
ノースロップ・グラマンの主要競合は、Lockheed Martin、Raytheon Technologies、Boeing、General Dynamicsなどです。
- Lockheed Martin: F-35戦闘機、ミサイル防衛システムで業界トップ。売上規模はノースロップ・グラマンの約1.5倍
- Raytheon Technologies: ミサイル・レーダー・電子戦システムに強み。商業航空エンジンも手掛ける
- Boeing: 商業航空機と防衛事業の両輪。防衛部門ではP-8哨戒機、KC-46空中給油機など
- General Dynamics: 潜水艦・戦闘車両・通信システムに強み
(2) 次世代防衛技術とステルス分野の優位性
ノースロップ・グラマンの差別化ポイントは、ステルス技術・自律システム・宇宙システムです。B-2ステルス爆撃機、B-21レイダーなど、ステルス分野での技術蓄積は他社を圧倒しています。
次世代防衛技術では、自律プラットフォームBEACON(Battle Management, Command and Control, Autonomous Systems)を開発しています。AIを活用した戦場管理システムで、将来の戦闘において重要な役割を果たします。
(3) M&A戦略による製品ポートフォリオ拡大
M&Aを成長戦略として活用し、技術・専門性・資源を獲得しています。2018年にはオービタルATKを92億ドルで買収し、固体ロケットモーター事業とミサイル防衛技術を獲得しました。これにより、製品ポートフォリオが大幅に拡大し、事業の多角化が進みました。
4. 財務・配当の実績
(1) 売上高・利益の推移と最新業績
以下は、ノースロップ・グラマンの過去数年間の財務実績です(単位:十億ドル):
年度 | 売上高 | 前年比 | 純利益 | EPS | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
2024 | $41.0B | +4% | $4.2B | $28.34 | 通期実績 |
2025(予想) | $41.3-41.8B | +3-4% | - | - | ガイダンス |
Q2 2025 | - | +9% (Q1比) | - | - | 全4セグメント増収 |
※2025年10月時点のデータです。最新情報はNorthrop Grumman Corporation公式IRページをご確認ください。 (出典: Northrop Grumman Corporation Q2 2025 Earnings Release, SEC EDGAR)
2024年通期の売上は410億ドル(前年比4%増)、純利益は42億ドル、希薄化後EPS 28.34ドルでした。2025年は売上413-418億ドル(前年比3-4%増)、粗利率10bp拡大、フリーキャッシュフロー20%超成長を見込んでいます。
(2) 連続増配の配当履歴
ノースロップ・グラマンは、連続増配20年超の実績を持ちます。配当利回りは1.5-2%程度で、2025年第2四半期には配当12%増を発表しました。株主還元100%方針を堅持しており、配当と自社株買いを組み合わせた総還元利回りは魅力的です。
配当性向は適切な水準に維持されており、今後も増配が期待できます。ただし、配当利回りは2%程度と高配当とは言えず、株価成長との組み合わせで総合リターンを期待する必要があります。
(3) セグメント別業績と受注状況
Q2 2025では、全4セグメントで連続増収を達成しました。セグメント営業利益率は11.8%で、Mission Systems利益率は14.5%(50bp改善)を目標としています。
受注状況は好調で、受注残高(Backlog)は928億ドルに達し、過去最高を更新しました。国際受注が特に好調で、受注倍率(Book-to-Bill Ratio)は1.45倍でした。これは、受注額が売上を45%上回っていることを意味し、将来の成長を示唆しています。
5. リスク要因
(1) B-21レイダーの累計20億ドル超損失
ノースロップ・グラマン最大のリスクは、B-21レイダーの損失です。Q1 2025で4.77億ドルの損失を追加計上し、累計20億ドル超となりました。低率初期生産(LRIP)段階での製造・材料コスト超過が主因です。
この損失により、航空事業は1.83億ドルの赤字となり、営業利益は46%減となりました。Q1決算ミス発表後、株価は11.3%急落し、投資家の信頼が低下しました。
ただし、アナリストの一部は、B-21の利益トレンドが明確化すれば評価懸念は緩和されると見ています。UBSは、B-21の進捗を好評価し、強気レポートを発表しました。
(2) Sentinel ICBM計画の不確実性
Sentinel ICBM(大陸間弾道ミサイル)計画が、重大なNunn-McCurdy違反(開発コストが承認額の25%超過)に該当しました。これにより、計画の再編・中止リスクが高まっています。
300億ドル規模の契約失注の可能性もあり、投資家の不確実性が増大しています。Nunn-McCurdy違反は、米国防調達法で規定された報告義務で、計画の見直しが求められます。
(3) 政府予算削減リスクと倫理的懸念
防衛産業は、政府予算に大きく依存しています。米国の財政赤字が拡大する中、防衛予算の削減リスクは常に存在します。大型契約が延期・縮小・中止される可能性があります。
倫理的懸念も見逃せません。ノースロップ・グラマンは武器製造企業であり、ESG投資では除外されることがあります。防衛産業への投資は、個人の価値観による判断が必要です。
為替リスクも見逃せません。米ドル建ての株式であるため、円高局面では円建て評価額が減少します。SBI証券や楽天証券では為替手数料(1ドルあたり片道25銭が一般的)がかかるため、売買時のコストも考慮する必要があります。
6. まとめ:投資判断のポイント
(1) この銘柄の強み
ノースロップ・グラマンの強みは以下の3点です:
- 防衛大手5社の一角としての安定収益モデル: 米国政府との長期契約、受注残高928億ドル(過去最高)で複数年の売上を確保
- 国際事業の2桁成長: 海外売上Q2で前年比18%増、受注倍率1.45倍で将来の成長を示唆
- 連続増配20年超と株主還元100%方針: 配当12%増発表、フリーキャッシュフロー20%超成長見込み
(2) リスク要因(再掲)
一方で、以下のリスク要因も存在します:
- B-21レイダーの累計20億ドル超損失: Q1 2025で4.77億ドル追加、航空事業1.83億ドル赤字、営業利益46%減
- Sentinel ICBM計画の不確実性: 重大Nunn-McCurdy違反で再編・中止リスク、300億ドル契約失注の可能性
(3) 向いている投資家
ノースロップ・グラマンは、以下のような投資家に向いています:
- 地政学リスク高まりでの防衛需要増加を期待する投資家: 防衛費増額トレンドと国際事業の成長に期待する方
- 安定配当とディフェンシブ性を重視する投資家: 連続増配20年超の実績と政府契約による安定収益を評価する方
- 長期保有を前提とした投資家: NISA枠での保有も検討でき、配当成長と株価成長の両方を期待する方
逆に、倫理的投資の観点で武器製造企業への投資を避けたい投資家には向きません。また、B-21損失やSentinel ICBM計画の不確実性など、短期的なリスク要因を許容できない投資家にも不向きです。
※本記事は情報提供を目的としており、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。
Q: ノースロップ・グラマンはどんな企業ですか?
A: 米国の防衛・航空宇宙大手5社の一角で、1939年創業のバージニア州企業です。B-2ステルス爆撃機やB-21レイダーの開発で有名です。主要顧客は米国政府(売上の85%超)で、4セグメント(航空・防衛・ミッション・宇宙)で事業展開しています。先端材料・デジタル変革・データ分析を統合し、国防総省・情報機関・国際同盟国向けに高度専門化された製品・サービスを提供しています。
Q: ノースロップ・グラマンはなぜ安定収益なのですか?
A: 米国政府との長期契約による安定収益モデルを持ちます。受注残高(Backlog)は928億ドルに達し、過去最高を更新しました。これは複数年分の売上を確保していることを意味し、長期的な収益の安定性を示しています。また、防衛費増額トレンドが世界的に広がっており、米国だけでなくNATO加盟国、アジア太平洋諸国も防衛予算を増加させているため、需要増加が期待されます。
Q: ノースロップ・グラマンの配当の魅力は?
A: 連続増配20年超の実績があり、配当利回りは1.5-2%程度です。2025年第2四半期には配当12%増を発表し、株主還元100%方針を堅持しています。配当と自社株買いを組み合わせた総還元利回りは魅力的です。フリーキャッシュフロー20%超成長が見込まれており、今後も増配が期待できます。ただし、配当利回りは2%程度と高配当とは言えず、株価成長との組み合わせで総合リターンを期待する必要があります。
Q: ノースロップ・グラマンと競合の違いは?
A: 主要競合は以下の通りです:
- Lockheed Martin: F-35戦闘機、ミサイル防衛システムで業界トップ。売上規模はノースロップ・グラマンの約1.5倍
- Raytheon Technologies: ミサイル・レーダー・電子戦システムに強み
- Boeing: 商業航空機と防衛事業の両輪
ノースロップ・グラマンは、ステルス技術・自律システム・宇宙システムで差別化しています。B-2ステルス爆撃機、B-21レイダーなど、ステルス分野での技術蓄積は他社を圧倒しています。
Q: ノースロップ・グラマンの倫理的投資の観点は?
A: 武器製造企業として、ESG投資では除外されることがあります。防衛産業は、国家の安全保障に貢献する一方、武器の製造・販売に対する倫理的懸念も存在します。投資家によって、防衛産業への投資を避ける方もいれば、国家安全保障への貢献を評価する方もいます。防衛産業への投資は、個人の価値観による判断が必要です。投資判断はご自身で行ってください。