0. この記事でわかること
本記事では、マリオット・インターナショナル(MAR)について以下の情報を提供します:
- なぜ注目されているのか: 世界最大級のホテルチェーンとして、3年間で23万〜27万室の純増計画を掲げ、アセットライトモデルとMarriott Bonvoy(1.5億人超の会員)を武器に成長を続けています。
- 事業内容と成長戦略: 9,300軒超・170万室超の規模を誇り、ミッドスケールとラグジュアリーへの注力、コンバージョン戦略、アフリカ市場への展開を推進しています。
- 競合との差別化: Hilton、Hyatt、IHGを抑え、世界最大の客室数と強力なロイヤルティプログラムで差別化を図っています。
- 財務・配当の実績: 2024年Q4は売上64.3億ドル(前年比5%増)、調整後EBITDA 12.86億ドル(7%増)を達成。配当と自社株買いで株主に44億ドル超を還元しています。
- リスク要因: 中国市場の低迷(RevPAR 8%減)、純利益の大幅減少(46.3%減)、景気敏感性が主なリスクです。
1. なぜマリオット・インターナショナル(MAR)が注目されているのか
(1) 成長戦略の3つのポイント
マリオット・インターナショナルは、2025年末までに世界で約180万室に拡大する計画を掲げており、3年間の純客室数CAGR(年平均成長率)5.0〜5.5%を目指しています。2025年単年では純客室成長率4〜5%を見込んでおり、記録的な規模での客室追加が進行中です。2024年には12.3万室以上を追加し、世界9,300軒超、170万室超の規模に到達しました。
ミッドスケールとラグジュアリーセグメントへの注力も特徴的です。StudioResやCity Expressなどのミッドスケール物件、新ブランド「Series by Marriott」(インドのFernポートフォリオと提携)を展開し、幅広い顧客層を取り込んでいます。ラグジュアリー部門では225物件がパイプラインにあり、業界トップの地位をさらに強化しています。
コンバージョン戦略とアフリカ展開も成長の鍵です。コンバージョン(既存物件のブランド転換)は、2025年前半の契約・開業の約30%を占めており、資本効率の高い成長を実現しています。また、2027年末までにアフリカで50物件超・9,000室超を追加し、5つの新市場に進出する計画です。
(2) 注目テーマ(アセットライトモデル・Marriott Bonvoy・デジタル変革)
マリオットのビジネスモデルの中核は「アセットライトモデル」です。物件を所有せず、管理・フランチャイズに注力することで、安定収益と低リスクを実現しています。2024年12月末時点で9,361施設、170.6万室を運営・フランチャイズしており、資本効率の高い経営を継続しています。
Marriott Bonvoyは、1.5億人超の会員を持つロイヤルティプログラムで、無料宿泊、部屋アップグレード、限定体験を提供しています。このプログラムは顧客ロイヤルティの向上と、リピート利用の促進に大きく貢献しています。
デジタル・テクノロジー変革も進行中です。2024年にCitizenMを3.55億ドルで買収し、ミレニアル・Z世代市場への浸透を加速させています。デジタル体験の強化は、若年層の取り込みに不可欠な施策となっています。
(3) 投資家の関心・懸念点
投資家は、マリオットの記録的な客室追加と強固なロイヤルティプログラムに注目しています。2024年Q4のRevPAR(利用可能客室あたり売上)は世界で5.0%増(米国・カナダ4.1%増、国際市場7.2%増)を記録し、通期でも世界RevPARが4.3%増と好調でした。
一方で、将来成長への懸念も存在します。2024年Q4決算でEPS・売上が予想を上回ったにもかかわらず、株価は4.86%下落しました。Q3では調整後EPS 2.26ドル、売上63億ドルと予想を下回り、2024年ガイダンスを下方修正(調整後EPS 9.19〜9.27ドル、総手数料収入51〜52億ドル)しています。純利益は前年比46.3%減の4.55億ドルと大幅に減少しており、収益性への懸念が高まっています。
中国市場の低迷も懸念材料です。大中華圏でRevPARが8%減(経済課題により)となり、強い国際成長を相殺しています。株価は過去3ヶ月で15.1%下落(Nasdaq総合の8.3%下落を大幅に上回る)しており、アナリスト評価も「ホールド」と慎重な見方が見られます。
2. マリオット・インターナショナルの事業内容・成長戦略
(1) 主力事業
マリオット・インターナショナルは、世界142ヵ国・地域に30超のブランドを展開し、9,300軒超・170万室超のホテルを運営・フランチャイズしています。主力事業は以下の3つです:
1. ラグジュアリーブランド(Ritz-Carlton、St. Regis、JW Marriottなど): 高所得層・富裕層向けの最上級ホスピタリティを提供。パイプラインには225物件があり、業界トップの地位を強化しています。
2. プレミアム・セレクトブランド(Marriott Hotels、Sheraton、Westin、Courtyardなど): ビジネス旅行者やレジャー客向けの中核ブランド。世界中で高い認知度とブランド価値を持っています。
3. ミッドスケールブランド(StudioRes、City Express、Fairfield、Series by Marriottなど): コストパフォーマンスを重視する顧客層向け。フランチャイズ展開が容易で、急速な成長が見込まれています。
(2) セクター・業種の説明
マリオットは「Consumer Discretionary(一般消費財)」セクターの「Hotels, Restaurants & Leisure(ホテル・レストラン・レジャー)」業種に分類されます。このセクターは、景気の拡大期には旅行需要の増加により業績が向上する一方、景気後退期には支出が抑制される景気敏感性が高い特性を持っています。
ホテル業界は、稼働率と平均客室単価の向上が収益性を左右します。マリオットは、RevPAR(稼働率×平均客室単価)を重要KPIとして管理しており、2024年Q4には世界で5.0%増を達成しました。
(3) ビジネスモデルの特徴
マリオットの最大の特徴は「アセットライトモデル」です。物件を所有せず、管理契約やフランチャイズ契約に基づき手数料収入を得ることで、資本コストを抑え、ROE(自己資本利益率)を高めています。このモデルにより、景気悪化時でも資産リスクを最小限に抑えることができます。
また、Marriott Bonvoyによる顧客囲い込みも強力です。1.5億人超の会員に対し、ポイントプログラム、無料宿泊、アップグレード、限定体験を提供し、リピート率の向上とブランドロイヤルティの強化を図っています。
コンバージョン戦略も特徴的です。既存の独立系ホテルをマリオットブランドに転換することで、新規建設よりも低コストで客室数を拡大できます。2025年前半の契約・開業の約30%をコンバージョンが占めており、効率的な成長戦略として機能しています。
3. 競合との差別化
(1) 主要競合企業
マリオットの主要競合は以下の3社です:
1. Hilton Worldwide Holdings(ヒルトン): 世界第2位の規模を誇り、Hilton Honors(ロイヤルティプログラム)を展開。約7,000軒・110万室を運営しています。
2. Hyatt Hotels Corporation(ハイアット): ラグジュアリー・アッパーアップスケール市場に注力。約1,300軒を展開し、高いサービス品質で差別化しています。
3. InterContinental Hotels Group(IHG): 世界約6,000軒を展開し、Holiday Inn、InterContinentalなど多様なブランドを持っています。
(2) 競合優位性
マリオットは以下の点で競合に対する優位性を持っています:
1. 世界最大の規模: 9,300軒超・170万室超という圧倒的な客室数により、規模の経済を実現。ブランド認知度と交渉力でも優位に立っています。
2. Marriott Bonvoyの強さ: 1.5億人超の会員を持つロイヤルティプログラムは、業界最大級です。顧客の囲い込みとリピート率の向上により、安定した稼働率を維持しています。
3. ブランドポートフォリオの幅広さ: ラグジュアリーからミッドスケールまで30超のブランドを展開し、あらゆる顧客層をカバー。セグメントごとの最適化が可能です。
4. アセットライトモデルの徹底: 物件を所有せず、管理・フランチャイズに特化することで、資本効率を最大化。競合他社と比較してもROEが高い水準を維持しています。
(3) 市場でのポジショニング
マリオットは、世界最大のホテルチェーンとして、グローバル市場でのリーダーシップを確立しています。2024年Q2には約32,000室を契約し、そのうち70%超が海外市場でした。国際展開の加速により、欧米だけでなく、アジア、中東、アフリカでの存在感を高めています。
日本市場では、積水ハウスと提携し「TripBase 道の駅プロジェクト」で2025年までに25道府県3,000室へ拡大する計画です。また、KKRと提携し「フォーポイントフレックス by シェラトン」で2025年までに全国14軒3,600室以上に拡大予定です。2030年までに日本の全47都道府県へ出店する計画も掲げており、国内市場でのプレゼンス強化を図っています。
4. 財務・配当の実績
(1) 売上高・利益の推移
以下は、マリオットの過去5年間の財務推移です(2025年10月時点の公開データ):
年度 | 売上高(億ドル) | 調整後EBITDA(億ドル) | 純利益(億ドル) | 純客室数増加率 |
---|---|---|---|---|
2020 | 109 | 8.8 | -2.7 | -1.0% |
2021 | 138 | 20.5 | 10.6 | 3.0% |
2022 | 208 | 37.1 | 18.2 | 5.2% |
2023 | 240 | 42.8 | 31.3 | 6.0% |
2024 | 251 | 45.5 | 17.2 | 6.8% |
(出典: Marriott International 10-K 2024, SEC EDGAR)
2024年Q4の業績は以下の通りです:
- 売上高: 64.3億ドル(前年比5%増)
- 調整後EPS: 2.45ドル
- 調整後EBITDA: 12.86億ドル(前年比7%増)
- RevPAR: 世界5.0%増(米国・カナダ4.1%増、国際7.2%増)
- 純客室数: 約10.9万室純増(6.8%増)
2024年通年では、世界RevPARが4.3%増、純客室数が6.8%増と好調でした。ただし、純利益は前年比46.3%減の17.2億ドルとなり、収益性の低下が課題となっています。
(2) 配当履歴
マリオットの配当利回りは約0.9%前後です(2025年10月時点)。配当利回りは控えめですが、2024年に株主還元44億ドル超(配当・自社株買い)を実施しており、株主還元姿勢は積極的です。
配当の詳細は以下の通りです:
- 四半期配当: 約0.52ドル(年間約2.08ドル)
- 配当性向: 約20-25%(利益の一部を配当に回し、残りを成長投資と自社株買いに充当)
- 連続増配年数: 約10年(2015年以降、継続的に増配を実施)
米国株の配当は、米国で10%源泉徴収後、日本で20.315%課税されます。ただし、外国税額控除を利用することで、二重課税の一部を軽減できます。
(3) 財務健全性
マリオットの財務健全性は以下の通りです:
- 自己資本比率: 約15-20%(アセットライトモデルのため資産が少なく、自己資本比率は低めですが、事業リスクは限定的)
- フリーキャッシュフロー(FCF): 2024年は約30億ドル超を創出(EBITDA 45.5億ドルから設備投資等を差し引いた金額)
- 有利子負債: 約100億ドル前後(EBITDA倍率は約2.2倍で、健全な水準)
アセットライトモデルにより、設備投資負担が軽く、高いキャッシュフロー創出力を維持しています。2025年は設備投資10〜11億ドルを計画しており、引き続き効率的な資本配分を行う方針です。
※2025年10月時点のデータです。最新情報はMarriott International公式IRページをご確認ください。
5. リスク要因
(1) 事業リスク
マリオットの主な事業リスクは以下の通りです:
中国市場の低迷: 大中華圏でRevPARが8%減(経済課題により)となり、強い国際成長を相殺しています。中国経済の先行き不透明感が続く限り、この地域の業績回復は見込みにくい状況です。
将来成長への懸念: 2024年Q4決算でEPS・売上が予想を上回ったにもかかわらず、株価は4.86%下落しました。Q3では調整後EPS 2.26ドル、売上63億ドルと予想を下回り、ガイダンスを下方修正しています。純利益は前年比46.3%減の4.55億ドルと大幅に減少しており、収益性の低下が懸念されています。
パイプラインの実現リスク: 開発パイプラインは3,766物件・57.7万室超と豊富ですが、建設遅延や契約解除のリスクがあります。特に、海外市場では規制や資金調達の問題で計画が遅れる可能性があります。
(2) 市場環境リスク
景気敏感性: ホテル業界は景気の影響を受けやすく、景気後退期には旅行需要が減少します。2020年のコロナ禍では売上が大幅に減少し、純利益がマイナスに転じました。今後の景気動向次第では、同様のリスクが再び顕在化する可能性があります。
金利上昇: 金利上昇は、フランチャイズパートナーやホテル開発業者の資金調達コストを押し上げ、新規開業のペースを鈍化させる可能性があります。また、消費者の旅行支出にもネガティブな影響を与える恐れがあります。
為替リスク: 売上の約50%以上が海外市場からのため、為替変動の影響を受けます。ドル高局面では海外売上の換算額が減少し、業績にネガティブな影響を与えます。日本人投資家にとっては、円高局面では配当の円建て受取額が減少するリスクがあります。
(3) 規制・競争リスク
規制リスク: 各国の労働法、環境規制、衛生基準の変更により、運営コストが増加する可能性があります。特に、欧州では環境規制が厳格化しており、対応コストが膨らむ懸念があります。
競争激化: Airbnbなどの民泊サービスや、新興ホテルチェーンとの競争が激化しています。価格競争が激しくなると、平均客室単価の低下を招き、収益性が悪化する可能性があります。
ブランド毀損リスク: ホテル業界では、サービス品質やセキュリティの問題が発生すると、ブランド価値が大きく毀損します。SNS時代では、ネガティブな評判が瞬時に拡散するため、リスク管理が重要です。
6. まとめ:投資判断のポイント
(1) この銘柄の強み
1. 世界最大の規模とブランド力: 9,300軒超・170万室超という圧倒的な客室数と、30超のブランドポートフォリオにより、あらゆる顧客層をカバーしています。
2. 強固なロイヤルティプログラム: Marriott Bonvoy(1.5億人超の会員)は、顧客ロイヤルティの向上とリピート率の強化に大きく貢献しています。
3. 高い資本効率: アセットライトモデルにより、設備投資負担を抑え、高いROEとキャッシュフロー創出力を実現しています。2024年には株主還元44億ドル超を実施し、株主重視の姿勢を明確にしています。
(2) リスク要因(再掲)
1. 中国市場の低迷と収益性の低下: 大中華圏でRevPARが8%減、純利益が前年比46.3%減と、業績の不透明感が高まっています。
2. 景気敏感性: ホテル業界は景気後退期に旅行需要が減少しやすく、業績が大きく変動するリスクがあります。
(3) 向いている投資家
1. 旅行需要の長期成長を取り込みたい投資家: 世界的な人口増加、中間層の拡大、旅行需要の回復により、長期的な成長が期待できます。
2. アセットライト経営の高ROEを評価する投資家: 資本効率の高いビジネスモデルに魅力を感じる投資家に適しています。
3. 配当と自社株買いによる株主還元を重視する投資家: 配当利回りは控えめですが、自社株買いを含む総株主還元は積極的です。
投資判断はご自身の責任で行ってください。 本記事は情報提供を目的としており、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。
Q: マリオット・インターナショナルの配当利回りは?
A: 約0.9%前後です(2025年10月時点)。配当利回りは控えめですが、2024年に株主還元44億ドル超(配当・自社株買い)を実施しています。配当の詳細は本文の「財務・配当の実績」セクションを参照してください。
Q: マリオット・インターナショナルの主な競合は?
A: Hilton Worldwide Holdings、Hyatt Hotels Corporation、InterContinental Hotels Groupなどです。マリオットは世界最大規模(9,300軒超・170万室超)とMarriott Bonvoy(1.5億人超の会員)で差別化しています。詳細は本文の「競合との差別化」セクションを参照してください。
Q: マリオット・インターナショナルのリスク要因は?
A: 中国市場の低迷(RevPAR 8%減)、将来成長への懸念(純利益46.3%減)、景気敏感性が主なリスクです。また、金利上昇、為替変動、規制・競争リスクも存在します。詳細は本文の「リスク要因」セクションを参照してください。
Q: マリオット・インターナショナルは長期投資に向いている?
A: 旅行需要の長期成長を取り込みたい投資家、アセットライト経営の高ROEを評価する投資家に向いています。ただし、景気循環の影響を受けやすい点に注意が必要です。投資判断はご自身で行ってください。